和希のベッドに並び座って二人は甘く口唇を重ねていた。啓太の腰を抱く和希の左手には微かな震えがはっきりと伝わってくる。まさに今、一つ大人になった恋人が自分の腕の中で艶やかに花開こうとしていた。しかし、それが快感のせいか、歓びのためかは和希には良くわからなかった。胸の想いを素直に言葉に乗せて指に口づけた和希の心を酌み取れないほど、啓太は機微に疎くないから。
「愛している、啓太……」
 口唇が離れた僅かの隙に、また和希は囁いた。頬を赤く染めた啓太が見たくて薄く目を開ける。案の定、啓太は伏せた目に綺麗な涙を湛え、嬉しさと情欲の入り混じった色彩(いろ)を浮かべていた。その表情があまりに愛しくて、思わず、和希は啓太を胸元に抱き寄せた。
「好きだよ」
「……うん、俺も和希が好き」
 啓太が和希の服をキュッと掴んだ。
「でも……少し怖い」
「どうして?」
「だって、今、凄く幸せだから。これから、何か悪いことが起こりそうな気がする……」
 不安そうに声を萎ませる啓太の顎を和希は軽く持ち上げ、啄ばむ様に口づけた。
「そんなことある訳ないだろう? 俺が傍にいるんだよ。何があっても、絶対に啓太は俺が護るから」
「……うん……」
 それでも、まだ啓太の顔は憂いを帯びていた。仕方ないな、と和希は微笑んだ。
「ねえ、啓太、代わりの誕生日プレゼントを今から渡したいんだけど、受け取ってくれる?」
「和希、俺、プレゼントなんて――……」
 そう言い掛けて啓太は急に口を噤んだ。和希の言うプレゼントが何か……その瞳を見て気づいてしまった。ポンッと身体が沸騰する。
「嫌?」
「……い、嫌な訳……ない、だろう……」
「なら、良い?」
「……うん……」
 もごもごと啓太は呟いた。
(俺が和希を拒むはずないのに。和希はいつも優しいけど、こういうときは……ちょっと困る。こんなこと、態々改まって訊かなくても良い……)
 恥ずかしそうに俯く啓太に和希が低く囁いた。
「今夜は啓太を一杯、感じさせてあげる」
「そ、そんなこと――……」
 その言葉の続きは和希の口唇に吸い取られてしまった。覆い被さってくる恋人の重みに啓太は大人しく目を閉じた……胸の奥で密かに期待しながら。

「あっ、和希……和、希っ……」
 啓太が切ない声で恋人を呼んだ。何、と和希が耳元で問う。
「そこじゃなっ……んっ……」
 腰だけ上げた格好でベッドに突っ伏した啓太は途中で言葉に詰まってシーツを強く握り締めた。身体の中を緩慢に動く和希の指がもどかしくて堪らない。すると、後ろから覆い被さっている和希が小さく笑った。
「ここでないなら、どこ? 教えて、啓太」
「……っ……もっと……奥……」
「ここ?」
「あっ……ああっ……!」
 しなやかに反り返る背に和希が優しく口唇を落とした。
「好きだよ、啓太」
 顔が見えないせいか、今夜の啓太の声は普段以上に甘く艶やかだった。聞いているだけで背筋がざわめき、腰に響く。
「啓太、気持ち良い?」
「う、んっ……あっ……はあ、んっ……」
 和希の指に合わせて収縮する内壁から、じわじわと快感が広がっていった。華奢な身体が小刻みに震え、濡れそぼった中心から溢れた蜜が淫らに腿を伝ってゆく。啓太はシーツにしがみつくと、更に強い刺激を強請る様に大きく腰を揺らした。
「あ……ああっ……和、希っ……」
「……啓太……」
 白い肌から匂い立つ色香に、そろそろ和希も欲望を抑えるのが辛くなってきた。右手の動きはそのままに左肘で自分を支えながら、啓太の身体を抱え込む様に腕を回した。指先に触れた実を軽く摘んで捏ねると、啓太がピクンと跳ねた。
「あっ、和希……和、希っ……もうっ……!」
 啓太が必死に身を捻って和希を振り返った。その熟れた口唇に和希は宥める様に口づけた。
「わかった」
 すっと指が抜かれた。はあ、と熱い吐息をついて喪失感に震える啓太を和希が優しく抱き起こす。
「な、何……?」
 和希の片足を跨いで膝立ちになった啓太が、不安げな視線を後ろに投げた。大丈夫だから、と和希が微笑んだ。
「俺が支えているから……そのまま、腰を落として」
「でも……あっ……!」
 入口に宛がわれた艶めかしい感触に、思わず、啓太は前に倒れそうになった。しかし、和希の両腕が啓太をしっかりと捉えた。背中越しに伝わる確かな温もりに啓太の緊張が自然と和らぐ。和希が見えないのは少し怖いけど、これなら……
「……和希」
 意を決した啓太は和希の腕をキュッと掴んだ。深く息を吐きながら、逸る心と身体を抑えて慎重に腰を沈めてゆく。既に指で充分なほど解されていた内壁は悦んで和希を迎え入れた。緩々と内を押し開く、指とは比べ物にならない質感に眩暈がする。
「あっ……っ……ああっ……」
 啓太の口から、途切れ途切れに切ない声が零れた。幾度となく触れて知った和希の大きさや形に怯えているのか、殊更、ゆっくり事を進める啓太に和希が密かに苦笑した。
(この初々しさがどれほど俺を煽るか、啓太は全く気づいてないだろうな)
「可愛いよ、啓太」
 そう言うと、和希は右手で啓太の内腿をするりと撫でた。
「あっ……は、ああっ……!」
 不意に身体から力が抜け、啓太は自重で一気に最奥まで貫かれた。
「……っ……啓太っ……」
 眩うほど熱く蕩けた内壁が和希に絡みついた。
 一瞬で溺れそうになるのを辛うじて踏み止まり、和希は啓太の快感を引き出すべく丸く腰を回した。波間を漂う様に緩やかに身体を揺すられ、啓太の中で荒れ狂っていた熱が再び凪いでくる。啓太が右腕を上げて和希の頭を自分の方へ引き寄せた。
「……っ……和希……もう、平気だから……もっと、強く……」
「ああ」
 和希は啓太の身体が逃げない様に左腕をしっかりと掴んだ。力強く腰を突き上げ、同時に胸に咲く飾りに右手を這わせる。啓太が白い喉を仰け反らせ、艶めかしい嬌声を上げた。
「ん、ああっ……あっ……ああっ……和、希っ……!」
 求めるままに大胆に腰をくねらせる啓太に、和希も直ぐ理性を手放した。名前を呼びながら、自らの快楽を追って激しく啓太を貫く。二人の身体が溶けて一つになるまで、そう時間は掛からなかった……

 翌朝、気がつくと、啓太は和希の腕の中にいた。いつの間にか、眠ってしまったらしい……というより、意識を失ってしまったのだろう。昨夜の自分の嬌態を思い出し、啓太は頬を赤らめた。しかし、今、胸には無上の安らぎが満ちていた。たとえ、どんな大きな嵐に襲われようとも、一緒に生を歩んでくれる人が……和希がいるから。
(まだ寝てるのかな……?)
 啓太は、そっと指を伸ばして和希の頬を突いた。すると、和希がクスクスと笑った。
「あっ、起きてた」
「駄目だよ、啓太、こういうときはキスしないと。折角、期待して待っていたんだから」
「朝から変なこと言うなよ、和希」
「俺はしたよ。気づかなかった?」
「……!」
 パッと啓太は口元を押さえた。言われてみれば、朧な意識の底で仄かな温もりを感じた気がする……口唇に。てっきり夢だと思ってたけど……
 和希が嬉しそうに言った。
「眠っているのに啓太が応えてくるから理性を保つのが大変だったよ。俺とキスする夢でも見ていた?」
「そ、そんなことある訳ないだろう」
 啓太の視線が宙を泳いだ。
「本当?」
「うん」
 追ってくる瞳を避けて啓太はキュッと目を瞑った。和希がクスッと笑った。
「なら、今度は啓太が本当に夢に見たくなる様なキスをしてあげるよ」
「……!」
 慌てて逃げようとした啓太を和希の腕が優しく包み込んだ。あっと言う間に奪われた口唇から和希の熱い想いが伝わってくる。愛している、啓太……愛している……
「……っ……和希……」
 啓太は半身を起こしていた恋人を抱き寄せ、自ら深く舌を絡めた。別に和希と張り合おうとしている訳ではなく、拙いなりにでも自分の気持ちをきちんと伝えたかった。ただ、言葉では恥ずかしいので今は和希のくれた無言の使者に応えることで。でも、いつか必ず和希の想いに勝るとも劣らない心を返すから……いつか必ず。
 それは啓太の小さな願いになった。
「……啓太……」
「あ……う、んっ……和希……」
 二人の奏でる透明な響きが清涼な空気を次第に濃密なものに変えた。やがて――……



2009.4.24
’09 啓太BD記念作品 和希ver.です。
時間軸的に『この日に懸けて』の続編になっています。
互いの顔が見えないと、
結構、本性が出る気がします。
可愛く、淫らな啓太へ……Happy Birthday.

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Café Grace
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