Mine be thy love
(貴方の愛は私の歓び)

  漸く……わかった。思考と欲望に塗れながら、啓太は思った。
  何度も和希に貫かれ、揺さぶられた身体はもう自分では動かせないほど疲労していた。それでも、和希に触れられれば反応してしまう。今夜は抑えられないかもしれない、と少し躊躇う様な口振りで告げた和希の背中を最後に押したのは自分だから出来る限りその熱を受け止めたかった。
「ん、ああっ……!」
  背がしなって後ろへ倒れそうになった啓太を和希の腕が抱き留めた。喉から押し出される様に声が溢れる。
「……あっ……ああっ……」
  突き上げる勢いで浮きそうになる身体を和希は力で押さえつけ、まるで奪う様に啓太の身も心も暴いてゆく。内壁を擦られる熱く眩う快感の中で朧に目を開けると、焦燥にも似た渇望を湛えた瞳とぶつかった。
「もっと俺を感じて、啓太」
「あ、ああっ……!」
  散々嬲られ、弾けそうなほどに熟れた実をまた和希に食まれた。舌で押し潰されて背中が仰け反ると同時に和希が奥を穿つ。もう快感かどうかもわからない刺激に涙が零れたが、和希に胸を差し出す様な姿は自らそれを強請っているとしか思えなかった。
  際限なく淫らになってゆく自分に、啓太が小さく震えた。
(こんなの……俺は知らない)
「あ、んっ……ああっ……」
  縋る力のない啓太を和希が自分の方へ強く抱き寄せた。大きく開かれた脚が痙攣し、その身を深く貫いている和希をきつく締めつける。
「……っ……」
  啓太は限界を訴える様に和希の肩を掴んだ。すると、和希が上目遣いに囁いた。
「愛している、啓太」
「……和、希……」
  自分の戸惑いに気づかれたのを感じて、啓太は和希の頭をキュッと抱え込んだ。
  二人で迎える初めての誕生日の夜に、そんな顔を見せたくなかった。いつもと違う和希が怖い訳ではない。ただ、激しく乱れる自分に羞恥心の強い啓太の一部がついていけないだけだった。理性では決して抑えられない愛と欲望。今まで、そんな激しい感情が自分にもあるとは知らなかったから。
(……和希が、俺を……目醒めさせたんだ……)

A man in hue all hues in his controlling
(総ての人の規範となる美を内包する人)

  どうか俺を受け止めて欲しい、そのしなやかな心で。思考と欲望に塗れながら、和希は思った。
  もう啓太は限界だとわかっているが、どうしても自分を抑えられなかった。啓太に触れると、まるで泉の様に想いが溢れてくる。そして、性別を越えた色香を湛えたこの肌をもっと深い情欲で満たしたくなった。
「ん、ああっ……!」
  身を仰け反らせた啓太を和希は抱き留め、下から強く突き上げた。啓太の喉から掠れた声が押し出されてゆく。
「……あっ……ああっ……」
  和希の動きに合わせて、啓太が無意識に身をくねらせた。甘い吐息を零しながら、和希から更なる快感を引き出そうと内壁が熱く絡みつく。和希は激しくかき混ぜたい衝動を僅かに抑えて啓太を見つめた。すると、半ば意識を飛ばしているにもかかわらず、総ての色彩(いろ)を従えた蕩けた蒼穹がそこにあった。
(凄く……綺麗だ)
「もっと俺を感じて、啓太」
  だから、胸に色づく小さな飾りを和希は舌で丸くなぞった。軽く食んで押し潰すと、反射的に背がしなって啓太の腰が浮いた。それを捉えて和希が奥を穿つ。
「あ、ああっ……!」
  腕の中の啓太が悲鳴の様な声を上げた。過ぎた感覚に全身が小刻みに震えている。
「あ、んっ……ああっ……」
(まだだよ、啓太)
  華奢な身体を強く引き寄せると、啓太が内に抱く和希をきつく締めつけた。
「……っ……」
  思わず、息を詰めた和希の肩に啓太が爪を立てた。その痛みに和希は啓太の胸に縋りつき、今夜、もう何度目かわからない触れるための許しを請う。
「愛している、啓太」
「……和、希……」
  白い手が和希の頭をキュッと抱え込んだ。自然と和希も腕に力を入れる、この想いを見失わない様に……互いに見つけ合える様に。
(……そうして俺に……ただ一つの微笑を……)

The master mistress of my passion
(我が情念を司るもの)

「あっ……ああっ……」
  和希の舌が鎖骨の線をなぞり、首筋を這い上がってきた。啓太が殆ど音にならない声を発する。
「和、希……もっと……」
「ああ、啓太っ……」
  啓太の身体をベッドに横たえ、和希が腰を大きく動かした。思い切り退いて直ぐにまた最奥まで貫く。欲望のままに内壁を擦り、抉って遥かな高みを目指した。啓太も自ら足を和希に絡め、何度もその熱を強請る。理性を溶かす甘い嬌声を上げて、身体の境界がどこかわからないほど和希に溺れた。互いに抱いて、抱き締めて……ここに歓びがある、我が情念を司る君よ。
「あ、ああっ……和、希っ……!」
「啓、太っ……!」
  そして、二人は同時に開放のときを迎えた。

Gilding the object whereupon it gazeth
(見つめる相手を金色に染めて)

  翌朝、気がつくと、啓太は和希の胸の中にいた。あの後、意識を飛ばしてしまったらしい。散々和希に愛された身体は少し動かすだけで、まるで軋む様な音を立てた。おはよう、と耳元で和希の声が聞こえた。
「お、はよう……」
  啓太は小さく返して顔を上げた。
  そこにいる和希は昨夜の激しさなど微塵も感じられなかった。寝乱れた明るい鳶色の髪もそのままに半身を起こして、真っ直ぐな眼差しを自分へと注いでいる。いつもの穏やかで優しい恋人の顔だった。啓太は困った様に呟いた。
「和希……眩しい」
  そうか、と和希は啓太の額に掛かる髪をかき上げた。その掌を、すっと頬へ添える。
「啓太は寝起きだからな。まだカーテンは開けないから、暫くこうして目を慣らそうか」
「……そういう意味じゃなくて」
  クスクスと啓太が笑った。
「和希が、そんなに輝く瞳で見てるから眩しいんだよ」
「……!」
  一瞬、和希は驚いた様に目を瞠った。しかし、直ぐに嬉しそうな微笑を浮かべた。
「啓太が傍にいて、俺が目を逸らせるはずないだろう?」
「うん」
  コクンと啓太は頷いた。和希が甘い声で囁いた。
「愛している、啓太……愛している」
「俺も愛してるよ、和希」
  啓太は頬にある和希の手に自分の掌を重ねた。どちらからともなく近づく口唇。それは、やがて深い口づけになって……


2009.6.8
’09 和希BD記念作品です。
時間軸的に『今夜は二人で』の続編になっています。
シェークスピアの『ソネット集』二十番よりの抜粋です。
詩の内容とは意味合いが異なりますが、
恋人達の夜に終わりはありません。
和希へ……Happy Birthday.

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Café Grace
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