「これは……ここ、かな」」
 最後のボールを啓太は慎重にクリスマス・ツリーの枝に掛けた。
 そのオーナメントは和希の祖父の代から伝わる白い硝子製で、表面には金と銀で繊細な模様が描かれていた。ずっと大切にされてきたのか、時間を経てもなお元の輝きを失っていない。こんなに綺麗なものは見たことがなかった。だから、それを扱う啓太の手も落として割らないよう自然と遅くなってしまった。
「出来た」
「有難う、啓太」
 少し離れた場所にいる和希が、おいで、と啓太を呼んだ。うん、と啓太は頷いた。完成したクリスマス・ツリーを和希と一緒に眺める。
「わあ……」
 ほんのり雪を被った様な人工樹に、幻想的な色合いに凍りついた薔薇が咲いていた。和希が丁寧に飾りつけたベルベットのリボンは小さく波打ち、啓太の掛けたオーナメント・ボールはその波間で輝いている。啓太は和希を見上げて嬉しそうに言った。
「綺麗に出来たな」
「ああ……気に入った?」
「うん」
「……良かった」
 和希は、ほっと胸を撫で下ろした。
「実は少し心配だったんだ」
「えっ!? どうして?」
 コクンと啓太は首を傾げた。和希が気まずそうに頬を掻いた。
「本物のモミの木ではないからな」
 すると、啓太はクスクスと笑った。
「相変わらず、和希は心配性だな。でも、俺、これが本物でなくて安心してたんだよ」
「そうなのか?」
 今度は和希が驚く番だった。
 海外ではクリスマス・ツリーに生木を使う家が多いが、日本はそうではないだろう。だから、啓太を喜ばせるためなら……とは思うものの、どうしても和希はそれが出来なかった。
 留学していた頃、年が明けると、枯れてボロボロになったモミの木が無残に捨てられているのを何度も目にした。クリスマスの華やかさが記憶にまだ新しい和希に、それはとても哀れに映った。啓太にそんな光景を見せたくなかった。そのくらいなら、少々期待を裏切ることになっても永遠に枯れない木の方が遥かに良い……
「啓太は本物のモミの木に憧れなかったのか?」
「ううん、別に。確かに本物があったら、凄いなって思うよ。でも、たった一時期、俺達を楽しませるためだけに、どこかの木を切るんだろう? 切ったら枯れるじゃないか。折角、何年も掛けて大きく成長したのに、それじゃあ木が可哀相だよ。今は本物そっくりのツリーがあるんだから、俺はそれで充分、満足だよ」
「そうか」
 和希は小さく微笑んだ。胸の奥で、この澄んだ心と瞳に感謝する。
「愛しているよ、啓太」
「俺も……愛してるよ、和希」
 ふわりと口唇を重ねる啓太の向こうで、青銀色の葉が優しく揺れていた。



2009.12.22
’09 クリスマス記念作品 和希ver.です。
時間軸的に『誘う瞳』の続編になっています。
和希と啓太はツリーを飾っている間もラヴラヴしていそうです。
優しい二人へ……Merry Christmas.

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