「好きだよ、啓太ハム」
「うん、俺も……」
  温かい浴室の中で和希ハムを見つめながら、俺はうっとりと呟いた。
  俺達ハムは水に弱いから、お風呂に入るときはいつも人の姿になる。でも、俺は人型は恥ずかしいから少し苦手。もう大人で、きちんと人になれる和希ハムと違って、俺にはまだハムの耳と尻尾が残ってる。人にそれがついてるのは、やっぱり変だと思う。だから、後から一人で……と思ってたら、和希ハムに一緒に入ろうと誘われた。どうしようって少し悩んでると、和希ハムが促す様に俺の瞳を覗き込んだ。だから、俺は……つい、うんって言ってしまった……
「あっ……ん……ふっ……」
  和希ハムと蕩けるほど甘いキスをしてると、何だか身体がもそもそしてきた。ああ、人になるんだ……と俺は頭の片隅で思った。殆ど何も感じないハムもいるらしいけど、俺はいつもくすぐったくなる。和希ハムが言うには、俺は敏感らしい。だから、無意識に身を捩った。すると、急に和希ハムが俺を強く抱き締めた。先刻までよりも、深く深く口唇を重ねて俺の舌を輪郭から先端まで丹念に舐めて絡め取る。たまに強弱をつけて吸われると、痛い様な、痺れる様な感じがして……凄く気持ち良い。でも、全身から力がふわふわ抜けてくのを感じて、俺は和希ハムの胸をポコッと叩いた。だって、これ以上してると……その……お風呂に入れなくなりそうだから。和希ハムはキスを解くと、俺の耳元で低く囁いた。
「可愛いよ、啓太」
「あ……」
  静かに目を開けると、いつの間に人になったのか、俺の前には明るい鳶色の髪をした和希がいた。和希は凄く格好良いけど、目のやり場にちょっと困る。だって、人の身体は……滑々してるから。ハムのときは平気で抱きついたり出来るけど、人型は慣れてないせいか、胸がドキドキして落ち着かない。それに、和希の瞳には茶色の癖毛にハムの耳がついた俺が映ってる。そんなにじっくり見ないで欲しい。やっぱり恥ずかしい……!
「……っ……」
  俺はキュッと目を瞑った。
「啓太、目を閉じていたら洗えないよ」
「だって……」
  それはわかってるけど……恥ずかしいんだもん! 真っ赤になって俺が俯いてると、和希が楽しそうに言った。
「なら、今日は俺が洗ってあげる。啓太、耳を押さえて」
「あっ、うん」
  その言葉に俺は素直に従った。何だか子供みたいだけど、これなら和希を見なくて済む。俺は頭にある耳を両手でしっかり塞いだ。和希がアーチ状のハンドルを押し下げる音が聞こえて、壁に設置してあるシャワー・ヘッドから丁度良い温度のお湯が降ってきた。
「んっ……」
  肌を伝う水の感覚はハムのときと違って何だかぞくぞくする。まるで全身を優しく撫でられてる様な……口唇を噛み締めてないと、つい声が出そうになる。俺はじ~っと動かないで、ただひたすらそれに堪えた。その間に和希は手際良く俺と自分を洗った。でも……ちょっと丁寧過ぎる気がする。だって、尻尾は敏感って知ってるはずなのに、あの器用な手で全体を緩く掴んで揉んだり、つけ根の部分を指でくすぐる様に掻く。それから、ゆっくり扱いたり、不意にキュッと握り締めたり……そんなことされると、俺はどうしても腰が落ち着かなくなってしまう。なのに、和希は――……
「啓太、じっとして」
「……っ……うん……」
  意地悪だ。
  いつも優しいのに、お風呂では絶対に手を緩めてくれない。確かにハムは綺麗好きだけど……正直、ここまでしなくて良い。水の刺激だけでも俺は本当に堪らないのに、そんなふうに触られたら、どうしても声が抑えられなくなる。
「あっ……ああ……やめっ、和希……ああっ……」
  二人でお風呂に入ってるだけなのに、浴室に響く俺の声は凄く甘くて恥ずかしい。もうやめて欲しくて、俺は腰を振って逃げようとした。それでも和希が追ってくるから、思い余った俺は両手を耳から離して和希の胸を押しやった。
「……っ……!」
  でも、いつもと違う肌のせいで、手が滑って俺は和希に抱きついてしまった。
「今日は大胆だね、啓太」
「違っ……」
「そう?」
  和希が俺の脚を右膝で割って二人の熱を絡ませた。
「ああっ……!」
  俺の身体がピクッと跳ねた。馴染みのある感覚が背筋を駆け抜けてく。それは尻尾を弄られるより気持ち良くて……でも、足が震えてくるから俺は必死に和希にしがみついた。そうしたら、自然に腰が揺れて俺からも和希に一杯、擦りつけてた。
  いつの間にか、シャワーが止まってる。そのせいか、ちゅくちゅくといやらしい音がはっきり聞こえる。それが恥ずかしくて仕方ないのに、俺は動くのを止められない……
「あっ……はあ、ん……ああ……」
「啓太……」
  すると、不意に和希の指が一本……俺の中に入って来た。
「あ、ああっ……!」
  和希とこんなことするのは初めてじゃないけど、最初はやっぱり緊張する。それに、中が引きつる様な感じがして……ちょっと痛い。怖くて、苦しくて……だけど、和希が欲しくて。だから、俺は夢中で和希の名前を呼んだ。
「ん、ああっ……和希……あっ……和、希……」
  一度、根元まで収めた指を引き出し、和希は入口の辺りで緩々とスライドさせてる。そんなことをされると、俺は奥の方が堪らなく疼いてくる。俺より俺のことを良く知ってる和希がそれに気づかないはずがない。二本、三本……と更に指を増やして俺の中をかき混ぜる。
「あっ……ああっ……ああっ……」
「啓太、気持ち良い?」
「んっ……ああっ……良い、和希……もっ、と……もっと、来て……ああっ、奥まで……」
  俺は全身を擦りつけて和希に強請った。
「わかった……」
  和希は優しく俺の耳を食むと、一気に指を抜いた。
「ああっ……っ……!」
  失った質量の切なさに俺は胸が締めつけられた。和希は直ぐ来てくれるってわかってる……けど、やっぱりやだ! 俺を一人にしないで、和希……!
  そうしたら、俺の左足を誰かが大きく抱え上げた。そっと目を開けると、涙で滲む視界の向こうで和希が微笑んでた。
「和希……」
  俺は本当にほっとした。良かった。和希が傍にいる。和希の瞳に映ってる俺の顔も何だか嬉しそう。
「啓太……良い?」
  和希が訊いてきた。勿論、良いに決まってる。俺は、うんって頷いた。その瞬間、和希が下から力強く俺を貫いた。
「あっ……は、ああっ……!」
「……っ……啓太……!」
「あっ……ああっ……和希っ……あ、ああっ……」
  そうして二人の身体が完全に一つになるまで、俺の奥の奥まで和希で満たされるまで……甘い嬌声が浴室に響き続けた。

  一時間後、ベッドに座って俺がぽ~っとしてると、和希ハムが苺ミルクをグラスに入れて持って来た。
「はい、啓太ハム」
「あ……有難う」
  喉が渇いてたから丁度良かった。やっぱり和希ハムは俺のことは何でもわかる凄いハムだと思う。でも、どうしてだろう? 和希ハムと一緒だと、いつもちゃんとお風呂に入れない。俺が変に意識するからかな。結局、あの後、俺は頭の中が真っ白になって……気がついたら、ここにいた。もうハムに戻ってるけど、まだ身体の芯が熱い。どうしよう……俺、もっと和希が欲しい……
「……っ……」
  そんな自分が恥ずかしくて、俺はコクコクと苺ミルクを飲んだ。ふう……やっぱり苺は美味しい。
「そんなに一気に飲まなくても良いよ、啓太」
「だって、喉渇い、て……」
  うん、と俺は瞬いた。今、和希ハム、啓太って言わなかった?
「……」
  恐る恐る自分の頭に手をやると……わっ、髪がある! お、俺、また人になってる~!
「啓太はあれだけでは満足出来なかったみたいだね」
「か、和希!?」
  いつの間にか、和希ハムもしっかり人になってた。
  俺達ハムが人になるのはお風呂に入るとき……それと、欲情したとき。ど、どうしよう、俺……!
「あ、あの……和希、これは違うから! 俺、全然、そんなこと感じてないから!」
「う~ん、その言葉を信じてあげたい気持ちは山々だけど、なら、どうして啓太ハムは人になっているんだ?」
  和希は俺の手からグラスを抜き取ると、ナイト・テーブルに置いた。
「そ、それは……」
  説明出来ない俺を見て、和希がクスッと笑った。
「大丈夫。夜は長いから、啓太を満足させる時間は充分にあるよ。それに、俺もまだ啓太が足りない。やはり浴室ではなく、ベッドの上で乱れる啓太が見たい」
  和希が隣に腰を下ろしたので、ベッドが小さく軋んだ。そっと俺の頬に手を当てる。
「愛しているよ、啓太」
「……っ……」
  そう言われると、俺の答えは一つしかない。だから、静かに瞳を閉じた。
「俺も……愛してる、和希」
  それから後は俺達だけの秘密の時間……♪


2010.2.26
終に明らかになった秘密の時間。
和希ハムと啓太ハムはハムスター妖精です……多分。
和希ハムは確信犯ですが、
それに気づかないで、
毎回、啓太ハムはお風呂に入ってしまいそうです。

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Café Grace
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