啓太はドアの前で大きく深呼吸をした。
 丹羽の企画したクリスマス・パーティも終わって漸く辺りは静かになったが、クリスマス・イヴはもう殆ど終わろうとしていた。そのパーティの最中、啓太は中嶋に尋ねた。
『……あの……今日は中嶋さんの部屋に行っても良いですか……』
『……ああ……』
 啓太は中嶋に是非とも渡したいものがあった。クリスマス・プレゼントというほどではないが……白いクリスマス・カード。先週、偶然、立ち寄った文具店で見掛けたもので、綺麗な模様が型押しされたそのカードを啓太は一目で気に入ってしまった。思えば、いつも顔を合わす中嶋に啓太は何かを書いたことがなかった。
(中嶋さんにクリスマス・プレゼントなんて訊くだけあれだし……まあ、わかってるから自分で出向いたんだけど……これじゃあ、誕生日のときと大して変わらないよ。俺って本当、芸がない……)
 ガックリと肩を落とし、それから、啓太は躊躇いがちにドアをノックした。
「……」
 中嶋は無言で啓太を部屋に招き入れた。背後でカチッと鍵の閉まる音が聞こえる。その意味を知っている啓太は急に恥ずかしさが込み上げてきた。何だか自分がとても大胆なことをしている気がした。すると、中嶋が耳元で低く囁いた。
「自分から俺を誘っておいて、何をそんなに恥ずかしがる?」
「わっ!!」
 啓太は飛び上がった。パタパタと部屋の中ほどまで逃げ、さっと恋人を振り返る。
「中嶋、さん……」
 危うく言葉を失いそうになったが、啓太は何とか踏み止まった。駄目だ。これを渡すまでは……!
 キュッと目を閉じると、啓太は大切に持っていたクリスマス・カードを差し出した。
「プレゼント……色々考えたんですけど……」
「そうか」
 短くそう答えると、中嶋はそのカードを受け取った。
「……」
 啓太は恐る恐る瞼を開いた。本当は書きたいことが一杯あった。啓太の中嶋への想いは、こんな小さなカードに収まるものではない。しかし、実際にペンを持った瞬間、頭に浮かんだのはこの一言だけだった。

愛してます K


 それはベッドの中で、外で、もう何度も告げている言葉だった。やっぱり今更だよな。啓太は密かにため息をつき、上目遣いにそっと中嶋を窺った。
「……!」
 思わず、啓太は目を疑った。
 カードを見た中嶋が穏やかに微笑んでいた。肌を合わせているとき、そんな表情を朧に見た気もするが、こうしてはっきり確認したのは今が初めてだった。もしかして、喜んでる……?
「啓太」
「は、はい」
「貰うだけという訳にはいかないだろう。だから、まず最初にお前が最も欲しいものをやる。どれが良い?」
(えっ!? どれがって……?)
 啓太は首を傾げた。
 中嶋は顎で啓太の横にある机を指した。そこには赤いリボンのついた小さな箱が載っていた。俺にプレゼント……中嶋さんが! 啓太は嬉しさで舞い上がりそうになった……が、はたと思い留まると、じっと中嶋を見つめた。
(でも……俺が一番欲しいものは……)
「どうやら決まった様だな」
 中嶋が意味ありげに口の端を上げた。はい、と啓太は恥ずかしそうに瞳を伏せた。
「……中嶋さんが欲しいです」
 それを聞いた中嶋は喉の奥で低く笑った。静かに啓太へと歩み寄ってゆく……
”Merry Christmas,Keita.”
 そして、二人の楽しいクリスマスが始まった。



2007.12.21
’07 クリスマス記念作品 中嶋ver.です。
中嶋さんはどんな顔でプレゼントを買ったのかな。
それとも、お取り寄せ?

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Café Grace
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