――天国――


(全く……しつこい連中だ)
 校舎裏で中嶋は最後の一人を蹴り倒すと、軽く眼鏡を押し上げた。
『第十一回ウキウキ鬼ごっこ大会』が始まって既に二時間。個々の力は大したことないが、行く先々で襲われ続けるとさすがにうんざりしてきた。ましてや、空手の有段者たる中嶋が素人相手に本気を出す訳にもいかない。寸止めか、軽い当て身程度に力を加減しなければならないので余計、疲れた。
 中嶋は忌々しげに監視カメラを見やった。七条ほどの腕はなくともハッキングの心得のある生徒は学園内に何人かいた。彼らがセキュリティ・システムを通して中嶋の現在位置を随時、味方へと流しているらしい。こうしている間にも、また中嶋を捕まえようとする者達が遠巻きに取り囲み始めていた。普段なら、その程度の者達が易々と侵入出来るシステムではなかった。しかし、今日は何者かが――和希が――態と一部のシステム・レベルを低く抑えていた。
(諦めの悪い奴だ)
 これは和希からの宣戦布告でもあった。つまり、中嶋と啓太の関係を受け入れはするが、認めた訳ではない。啓太は絶対に渡さない、と。勿論、中嶋も啓太を共有する気はなかった……が、二人の絆を引き裂こうとは思わなかった。成瀬が未だに啓太を追い掛け回すのも容認した。占有しようと無理に束縛すれば、その曙光(ひかり)を殺いでしまう。啓太が啓太のままでいること……それが最も重要だった。たとえ、そのためにこの胸が悩みに苛まれようとも、結局、心を歓びで満たすのはそんなありのままの啓太だけだから。
 決して両立し得ない二つの感情。そのどちらもが真とは……人の想いは奥が深いな。そう思って、中嶋は苦笑した。また丹羽に傍観者面していると言われるな……
「中嶋!」
 背後で丹羽が叫んだ。ゆっくりと中嶋は振り返った。クッと口の端が上がる。
「案外、早かったな」
「お前……あんな姑息な手を使いやがって!」
「希望者全員に参加資格があると言ったのはお前だ、丹羽」
「だからって、何もあれを使うことはねえだろう!」
 丹羽の拳がぶるぶると震えた。
 中嶋から今日のイベントのことを聞いて面白そうと海野も飛び入り参加してきた。海野はトノサマと二手に分かれて捜索を開始したが、案の定、トノサマは直ぐ丹羽を追い掛け始めた。そのため丹羽は中嶋を捕まえるどころか、逆に逃げ回るのに必死だった。そして、とうとう思い余って七条に助けを求めた。向こう一ヶ月、真面目に仕事をする。そんな投げやりにも等しい条件をつけて。もう優勝賞品など、どうでも良かった。中嶋に一矢報いる。それが今の丹羽の目標となっていた。
「頭にきたぜ! 今日こそ決着をつけてやる!」
「良いだろう。そろそろ俺もこの茶番を終わらせたいと思っていたところだ。相手をしてやる」
 慎重に間合いを計りながら、中嶋はじりじりと横へ足を滑らせた。丹羽が大きく両手を構えた。
「おい、マジかよ!?」
 誰かが叫んだ。
 かつての二人の大喧嘩を学園内で知らない者はいなかった。教室は全壊、巻き込まれて負傷した者は数知れず……そんな尾ひれのついた噂が今でも真しやかに囁かれている。まさにそれが再現されようとしている現状に、付近にいた生徒達はさっと蒼ざめた。
「じょ、冗談じゃない……」
 恐れをなした一人が後ずさった。こんなとこに暢気にいられるか。そう捨て台詞を吐くと、彼は脱兎の如くそこから逃げ出した。すると、それを見た他の者達も堰を切った様に一斉に四方八方へ散り始めた。
「わっ!!」
「何や!?」
 少し離れた石畳で啓太と滝の声が上がった。押し寄せて来た生徒達の波に一人逆流している啓太は肩を弾かれ、小突かれ、ふらふらとよろめいた。
「あかん! 見つかってもうた! ほな、俺も行くで! じゃあな、啓太!」
 滝も大慌てでどこかへ行ってしまった。通話口の向こうで和希が叫んだ。
『啓太! 大丈夫か、啓太!』
「……っ……あ……うん、大丈夫だよ、和希」
 校舎の壁に手をつくと、啓太は携帯電話を左耳に押し当てた。向こうから安堵に続いて怒りの響きが伝わってくる。
『そうか。良かった……啓太、今のシーンはしっかり証拠として録画してあるから安心しろ。既に名前もわかっている。構内における暴力行為の禁止を定めたBL学園(ベル・リバティ・スクール)規則第八条に違反した罪で、全員、一週間の停学処分だ!』
「暴力行為って……和希、それはオーバーだよ。そういうのは職権乱用って言うんだぞ」
『そのくらい当然だろう! 啓太を突き飛ばしたんだ! 石塚、直ぐに手続きを――……』
「なら、もう和希とは口きかない。俺、そういう人、嫌い」
『け、啓太!?』
 先刻までの勢いはどこへやら、明らかに動揺した声色で和希が呼んだ……が、啓太からの返事はない。すると、植え込みに設置されていた監視カメラが、お~いと言う様に首をカシャカシャと左右に振った。しかし、啓太はプイッと顔を背けてしまった。
『啓太~、わかった。俺が悪かった。だから、こっち向いて? ねっ? 停学にはしないから。寮内とその周辺の清掃、一週間で我慢するからさ~』
 情けないほど必死に和希が懇願すると、機嫌を直した啓太が漸くレンズ越しに微笑み掛けた。すると、その間に中嶋が割り込んで来た。
「こんな処で何をしている?」
「あっ、中嶋さん」
 その声に啓太の表情がパッと華やいだ。
 まだサングラスは手放せないが、中嶋と話をした途端、眩暈は嘘の様に消えた。啓太は真っ直ぐ中嶋へ手を伸ばすと、指先に掛かったジャケットをしっかりと掴んだ。
「捕まえた」
「……」
『良かったな、啓太』
「有難う、和希が案内してくれたお陰だよ」
 啓太が嬉しそうに言った。
 中嶋は小さなため息をついた。こいつだからと油断して、つい不用意に近づいてしまった……
「あ~、何か呆気ない幕切れだな。まあ、こんなオチだろうとは思ってたけどな」
 二人から少し離れた場所で、ガシガシと丹羽が頭を掻いた。別に結果に不満がある訳ではないが、中嶋と決着をつけ損ねたのは少し惜しい気がした。
(だが、いつかの楽しみに取って置くってのも……悪くねえか)
 丹羽にとっては目標へ到達する瞬間こそが最も色鮮やかであり、今、ここでその一つが永遠に失われてしまうのはあまりに惜しかった。丹羽も中嶋と同様、やはり退屈には堪えられない人種だった。
「やったな、啓太」
 さっと頭を切り替えると、丹羽は啓太に声を掛けた。啓太が丹羽の方を向いて、ふわりと微笑んだ。
「はい、王様」
「……!」
 思わず、丹羽は啓太に魅入ってしまった。
(参った……今のは結構、キタな)
 いつ頃、そのことに気づいたのかはわからない。恐らく知っているのは丹羽だけだろう。いや、似た属性の丹羽だからこそ感じ取れたのかもしれない。純粋で、それ故に何よりも危険な……啓太の特異性に。
 啓太は曙光(ひかり)……希望の光だった。人の心に寄り添い、励まし、より良い未来へと導いてゆく。しかし、それはまた同時に泡沫の夢に人を眩ませ、惑わし、貶める、諸刃の剣でもあった。邪気が全くないだけに質が悪い。総てはそれを手にした者の心掛け次第だから。
「中嶋……お前、本当に凄いな」
 ポツリと丹羽が呟いた。何がだ、と中嶋が怪訝そうに尋ねた。
「いつかお前にもわかる。俺は……多分、駄目だ」
「気になる言い方だな」
「おっ、良い傾向だな。その積極性が大切だぞ。今回の件でお前も少しは成長したじゃねえか」
 感無量といった様子で、うんうんと丹羽は頷いた。中嶋の眉間にきつい皺が寄った。
「どうやらお前とは今直ぐ決着をつけた方が良さそうだ」
「いや、勝負はお預けだ。優勝者も決まったしな。啓太なら、お前も文句はねえだろう?」
「……」
 中嶋は何も答えなかった。その沈黙を丹羽は了承と受け止めた。そして、密かに忠告する。
(気をつけろよ、中嶋……神話では、希望は災いを詰めたパンドラの箱に入ってたんだからな。油断してると、お前でも地の底まで堕とされるぜ)
「……どうした?」
「いや、別に。それじゃ、俺は皆にゲーム終了を伝えに行くとするか。啓太のことは頼んだぜ、中嶋」
 丹羽はニカッと大きく笑うと、猛烈な勢いで走り去って行った。勝手な奴だ、と中嶋は呟いた。啓太は恐る恐る中嶋を見上げた。すると、中嶋の厳しい声が降ってきた。
「啓太、大人しくしていろと言わなかったか?」
「はい……でも、中嶋さんが誰かに捕まったらって思ったら……」
 啓太は小さく俯いた。すると、携帯電話の向こうから和希の大音声が飛んだ。
『中嶋さん! 啓太にその口のきき方は何です! 啓太は貴方を心配して態々ここまで来たんですよ!』
「俺があんな連中に捕まる訳がないだろう」
「そうです、けど……でも……」
 微かに揺れた啓太の声に、最早、和希の理性は崩壊寸前だった。
『ああ、啓太、泣くな。泣かないで……中嶋さん! 啓太を泣かせたら、只では済みませんよ!』
「だ、大丈夫だよ、和希」
 啓太はキュッと口唇を噛んだ。一週間も和希に甘やかされていたせいか、中嶋に少し強く言われただけで涙が出そうになった。
(駄目だ。もっとしっかりしないと、中嶋さんの足手纏いになってしまう……!)
 それを必死に堪える啓太の上から中嶋の声が降ってくる。
「今日は学園内の動きが慌しい。誰かにぶつかって怪我でもしたら、どうするつもりだ?」
「えっ!? それって……もしかして、俺を心配して?」
 ハッと啓太は顔を上げた。ああ、と中嶋は言った。
「お前が怪我をしたら、それも俺の責任にされるからな」
『当然です! 啓太は貴方を探しに来たんですから!』
 和希がはっきり言い切った。すると、中嶋が監視カメラに向かって冷たく目を眇めた。
「なら、なぜ、こいつを外に出した? 最低でも滝ではなく、お前が付き添うべきではなかったのか?」
『それは……くっ……!』
「中嶋さん! 俺が勝手に俊介に連れてってと頼んだんです! 和希に電話したのはその後で……今、和希はシステムの調整で忙しいから……」
『一体、誰のお陰で、こんなことになったと思っているんですか?』
「お前のせいだろう。たかが生徒二人に侵入される様な脆弱なシステムを作ったお前が悪い。しかも、日頃はこいつを護ると言いながら、肝心なときに傍にいないのでは意味がない」
「中嶋さん……!」
 それはちょっと言い過ぎでは、と啓太が口を挟んだ。和希は携帯電話の向こうで押し黙っている。
「和希、俺は一人で大丈夫だから! 中嶋さんは、ただ俺を心配して――……」
『いや、中嶋さんの言う通りだ。俺が間違っていた。システムの調整に感(かま)けて啓太を人に託すべきではなかった。今から俺もそこへ行く!』
「でも、和希には仕事が……」
「今更、遅い。お前はそこで後悔という言葉の意味を学べ」
『無駄ですよ。俺は幼い啓太と別れたとき、既に一生分の後悔をしましたから』
「ふっ……」
 中嶋が小さな微笑を浮かべた。
 それは嘲笑でも冷笑でもなかった。同じ者を、同じ想いで違う立場から見つめる者に対しての友愛……恐らく今、和希も似た様な表情をしているだろう。ただ一人、中心にいるはずの啓太だけが不思議そうに首を傾げていた。
(てっきり鼻で笑うと思ったのに……中嶋さん、少し変わった?)
「あの、中嶋さ――……」
 言い掛けて啓太の足がふらついた。咄嗟に中嶋が腕を掴んで自分の胸元へ引き寄せなければ、後ろへ倒れてしまうところだった。和希が悲痛な声で叫んだ。
『啓太! 大丈夫か、啓太! 中嶋さん、啓太を直ぐ医務室へ――……』
「黙れ、遠藤」
 中嶋がピシャリと和希を制した。そして、静かに啓太に顔を寄せた。
「何だ? もう一度、言え」
「……お腹……空いた……」
『えっ!?』
「もう目が回りそう……何か食べたい……」
『良かった! 食欲が戻って来たのか! なら、何が食べたい、啓太? 俺が直ぐそこへ――……』
「あっ!!」
「今度は何だ?」
 呆れた様子で中嶋が尋ねた。啓太は中嶋を振り解こうとしたが、その腕はビクともしなかった。
「は、離して下さい、中嶋さん! 今日は大勢の人がカメラ映像を見てるんですよ」
『啓太、それなら大丈夫だよ。啓太が中嶋さんを捕まえた時点で、不法侵入者は総て排除した。ゲーム終了後も彼らをシステム内に留めておく理由はないからね。もう誰も見ていないよ』
 しかし、その『誰も』の中に和希自身が入ってないのは明らかだった。啓太はそれに気づいているのか、いないのか。ただ、大きく息を吐いた。
「良かった……でも、安心したら益々お腹が減ってきた……」
『わかった! 待ってろ、啓太!』
 唐突にプツッと電話が切れた。
 啓太は力なく中嶋にもたれ掛かった。本当に、色々な意味で空腹で堪らなかった。
「中嶋さん……お腹が減りました」
「俺がここに食料を持っていると思うか?」
「だから、中嶋さんを下さい」
「……ふっ」
 その意味を察して中嶋が面白そうに口の端を上げた。
「お前は空腹ではなかったのか?」
「だから、中嶋さんに満たして欲しいんです。ほら、歌にもあるでしょう?」
 啓太は小さく口ずさんだ……甘いラヴ・ソングを。

 Oh,my love,my darling,I’ve hungered for your touch a long,lonely time.
 (ああ、恋人よ。愛しい人よ。私はずっと貴方の肌に餓えていました。長い間、一人きりで)
 Time goes by so slowly and time can do so much,Are You Still Mine?
 (時間は何とも遅く歩みつつも、とても大きなことを成し遂げる。貴方はまだ私のものですか?)


 すっと啓太は中嶋を見上げた。サングラスの奥から伏せた二つの蒼穹がじっと中嶋の瞳を窺っている。
「そんな古い歌をどこで覚えた?」
「……午前中の暇潰し用に和希が持って来たCDに入ってました。朗読のもあるんですけど、それだと眠くなりそうで……だから、バラード集ばかり聞いてました」
 啓太は恥ずかしそうに笑った。
「お前が好きそうな歌だ」
「はい……でも、曲名がわからないから後で和希に教えて貰わないと」
「Unchained Melodyだ」
「Unchained Melody……解放されたメロディですか。おかしな曲名ですね。Unchainedか……」
「なら、お前は何とつける? 巧く出来たら、お前の望むものをやろう」
 声に僅かの甘さを響かせながら、中嶋が言った。啓太は中嶋の腕の中で少し考えた。
「俺なら……Unchained Melodyというより……Spellbound」
「Spellbound……魅せられて、か。全く逆だな」
「でも、そんな気がしませんか? どんなに遠く離れてても惹かれて求めてしまう。その想いを疑ってる訳では決してないけど、時間と共に確かに不安も募っていって……だから、見えない恋人に向かって問い掛けるんです。Are you still mineって」
「……良い答えだ」
 中嶋は静かに呟いた。すると、今度は逆に啓太が尋ねた。
「中嶋さん、訊かれたその恋人はどう答えると思いますか?」
「何も。そこにいないのに声が届く訳がない」
「そう、ですね」
「……だが、戻って来たら」
 中嶋はすっと眼鏡を外すと、片手で畳んでジャケットの胸ポケットにしまった。
「そいつが最も欲しているものをやるだろう」
「それって――……」
 言い終わる前に啓太の口唇は中嶋によって塞がれていた。
(……中嶋、さん……)
 一週間振りの感覚に、思わず、啓太は我を忘れそうになった。餓(かつ)えていた胸が急激に満たされ、心が歓びに震える……が、気持ちに身体がついていけなかった。眩暈がする……
「……っ……」
 意識が遠のきそうになり、啓太は必死に中嶋の胸にしがみついた。すると、小さな音と共に口づけが解かれた。
「まずは何か食べろ。続きはそれからだ」
「……はい……」
 コクンと啓太は頷いた。そのとき、指先に何かが触れた。あっ、これ……!
「どうした?」
「中嶋さん、中嶋さんはもう持ってますよ」
「……?」
 中嶋には啓太の意図が全くわからなかった。一体、何のことを言っているのだろう。
「昨日、中嶋さん、言いましたよね? 天国がどうとかって……」
「……聞いていたのか?」
「いえ、はっきりとは……ただ夢現に中嶋さんが喋ってるなって思っただけで、内容までは良く覚えてません。でも、天国なら、ほら……ここにあります」
 啓太は中嶋の胸元を指でトンッと軽く突いた。
「どういう意味だ?」
「前に和希から聞いたんですけど、三年生のネクタイは天青石の色をイメージしてるそうです。天青石は別名『天国の青』って言うんですよ」
「……そうか」
 ふっ、と中嶋は微笑んだ。
(道理で、答えが見つからないはずだ。既に出ていたのだから。俺はもう天国でお前に逢っていた。そして、お前は俺に気づいた……)
「中嶋さん……?」
 啓太は中嶋を見上げた。すると、少し冷たい手が頬に触れた。
「褒美がまだだったな」
「えっ!? だって、もう……」
「あれは余禄だ。お前が巧く答えられたからな。これは俺を捕まえ、優勝したお前への褒美だ、啓太」
 そう言うと、中嶋は先刻よりも遥かに強い力で啓太を抱き締めた。待って、と啓太は慌てた。
(もう一度、あんなキスされたら、俺、今度こそ本当に……せめてもっと優しく――……)
 しかし、中嶋は啓太の耳元で一言……小さく囁いただけだった。啓太は僅かに息を呑んだ。やがて口唇がふわりと花の様に綻ぶ。
「……俺もです」
「……」
 中嶋は暫し沈黙し、それから、喉の奥で微かに笑った。啓太は態とそれが聞こえない振りをした。今まで散々待たされた分、今度は俺の方が言わないんだ。そんな子供じみた意地を張ろうとしたが、中嶋に耳元で低く名前を呼ばれると、その決心は脆くも崩れ去ってしまった。俺がこうされると弱いの知っててやるんだから……ずるいな。心の片隅で、啓太はそう思った。でも、そんなところも含めて、俺は――……
 両手を中嶋の背中に回し、軽く口唇を重ねて啓太は呟いた。
「愛してます、中嶋さん」

 爽やかな初夏の風が二人を撫ぜていった。一つに重なった影はいつまでも離れることなく、時間も僅かばかり歩みを止めた……が、やがて総ては再び動き出すだろう。ここは歓びと悩みに彩られた天国だから。



2008.8.1
漸く二人を纏められました。
これで、少しは中嶋さんも素直になれたかな。
最後に二人が何をしているかは、
皆さんの想像にお任せします。

r  m

Café Grace
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