「はあ、疲れた……」
  啓太は自分の部屋に戻るなり、大きく肩を落とした。
  今日は啓太の誕生日ということもあって生徒会と会計部の合同主催による『伊藤啓太誕生日パーティ』なるものが開かれていた。主役の啓太は色々な人達にあちこちへと引っ張り回され、漸く会がお開きになる頃には日もとっぷりと暮れていた。皆のその心遣いはとても嬉しかった……が、お陰で、啓太は未だ中嶋と満足に会話も出来ないでいた。今日が終わる前に一言で良い、恋人の声を聞きたかった。
(日付が変わる前に来てくれるかな、中嶋さん……)
  そんなことを考えながら、壁際のスイッチに手を伸ばした啓太はふと仄かな香りに気がついた。何だろう。そう思って明かりを点けると、机の上にピンクの花が一輪……置いてあった。
「……?」
  啓太はそれを手に取った。今にも蕾が綻びそうな瑞々しい薔薇。啓太は花には詳しくないが、この品種には見覚えがあった。先日、会計室で同じものを見た。綺麗に咲いていたので少し分けて貰ったんです、と七条が言っていた。そのとき、西園寺から色々とうんちくを聞かされた。
(これはメイドゥン・ブラッシュ・ローズ……確か花言葉は……!)
  慌てて啓太は部屋を飛び出した。一分、一秒でも早く中嶋の元へ行きたかった。ノックもそこそこにドアを開ける。
「中嶋さん!」
  中嶋は窓辺にもたれて月を眺めていた。ゆっくりと振り向く。僅かに口の端が上がった。啓太はパタパタと駆け寄ると、その胸に抱きついた。
「俺……嬉しいです」
「そうか」
  静かに、穏やかに中嶋は微笑んだ。
  ピンクの薔薇――メイドゥン・ブラッシュ・ローズ――の花言葉。それは……我が心、君のみぞ知る。しかし、そこには啓太の知らないもう一つの意味が籠められていた。花言葉は国によっても色々と異なる。フランスでは棘のない蕾の薔薇にある想いを託していた。私は貴方を愛する……
  中嶋が口唇を寄せて囁いた。
”Happy Birthday,Keita.”
  恋人達の夜が深まってゆくのは……多分、これから……


2008.4.25
’08 啓太BD記念作品 中嶋ver.です。
赤い薔薇ではあまりに直接的なので、
少し捻りを加えてみました。

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