中嶋の腕の中で啓太は歓びに震えながら、深く浅く口唇を重ねていた。
  ときに冷たい言葉や態度とは裏腹の優しい口づけ……そこに秘めた想いを中嶋は花に籠めて伝えてきた。それを汲み取れないほど機微に疎い訳ではない啓太は、自分からも気持ちを伝えたくて中嶋の胸にしがみついた。すると、啓太の腰を抱く中嶋の右手に力が入った。舌の動きが情欲を引き出す様な熱い愛撫に変わる。狭い口腔内で二人は何度も縺れて絡み合った。時折、新鮮な空気を求める啓太から吐息混じりの湿った声が零れる。
「……ん……ふっ……あっ……」
  伏せた目から綺麗な涙が溢れた。微かな音と共に口唇が離れた。
「なぜ、泣く?」
  中嶋が啓太の頬を指ですっと拭った。
「嬉しいから……」
  啓太は手に持っている薔薇に視線を落とした。
  中嶋との口づけに意識の総てを奪われそうになっても、この花だけは握り潰さない様に気をつけた。これは中嶋がくれた心だから。啓太はそれを瞳で聞くことを知っていた。そうか、と中嶋が呟いた。
「では、今度は別の涙を見せて貰おうか」
「……?」
  涙に種類なんて……と啓太は思った。その瞬間、中嶋に白い首筋を撫でられた。
「あっ……!」
  背筋を走った甘い痺れに、思わず、啓太は反応してしまった。中嶋が小さく口の端を上げたのを見て、ポンッと身体が沸騰する。
「中嶋さん……」
「お前はプレゼントが花だけでは物足りないだろう?」
「そんなこと、ないです」
「なら、要らないのか」
「別に、俺……要らないとは……」
  もごもごと啓太は口籠もった。中嶋が啓太の顎を軽く捉えて囁いた。
「俺はどちらでも良い……お前はどうする、啓太?」
「……っ……」
(態々俺に訊かなくても、中嶋さんにはわかってるはずなのに……)
  しかし、答えなければ何も与えては貰えない。それは、これまでの経験で良く知っていた。啓太は恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら、ベッドへそっと瞳を流した。中嶋の喉が低く鳴った。
「お前の誕生日に相応しい夜にしてやろう」
「あ……」
  再び間近に迫ってくる恋人に啓太は大人しく目を閉じた……胸の奥で密かに期待しながら。

「あっ……あ……んっ……」
  恋人の胸に背中を預け、啓太は湧き上がる喜悦に震えていた。その細い身体を背後から抱き締めている中嶋は啓太の白く滑らかな肌の感触を楽しみながら、右の掌で緩々と内腿を撫でている。左手では戯れに胸元の飾りを弄っていた。それはとても気持ち良いが、そろそろ別の場所にも触れて欲しかった。正直、もうこれだけでは物足りない。啓太は、もじもじと身を捩った。
「……っ……あっ……中嶋さん……」
  腰の辺りに濡れた熱を感じて肌が粟立った。啓太は誘う様に中嶋の腕を撫でた。
「どうした?」
  中嶋が啓太の耳元で楽しそうに囁いた。
「んっ……!」
  啓太はキュッと中嶋の手を掴んだ。まだ触れられてもいないのに、入口が中嶋を求めて疼くのがわかった。恍惚と中嶋へ瞳を流す。
「もっと……ちゃんと、触って……」
「触っているだろう?」
「違っ……そこじゃ、ない……」
  弱々しく啓太は首を振った。そして、中嶋に大きく寄り掛かって腰を前へ突き出した。
「もっと、奥……」
  啓太は中嶋の足を跨いで自ら両膝を立てた。
  今夜の啓太は目の前に中嶋がいないせいか、いつもより羞恥心が抑えられていた。しかも、まだ初々しい反応ながら、既に男を惑わす匂い立つ様な色香を放っている。求めに応じて中嶋が右手を下へ滑らすと、啓太の身体がピクンと跳ねた。
「あ、んっ……っ……中嶋、さん……」
「もっと脚を広げろ、啓太」
「んっ……」
  その言葉に啓太は素直に従った。
  中嶋が指を中へ潜り込ませると、異物感に内壁がキュッと締まった。啓太が小さく息を詰める。しかし、中嶋が啓太の顎を捉えて軽く口づけると、直ぐに力が抜けた。今度は逆に内に取り込もうとする様に蠢き始める。
「……あっ……ああ……んっ……」
  啓太から溢れた蜜を纏って粘着質な水音を奏でながら、中嶋は緩慢に内壁をかき分けた。その動きに合わせ、啓太は更に強い刺激を得ようと腰をくねらせている。中嶋が低く笑った。
「やはりお前は淫乱だな」
「違っ……中嶋さん、が……んっ……焦らす、からっ……」
「焦らしてはいない。お前がいやらしく腰を揺らすから場所がわからなくなっただけだ」
「そんな、の……嘘っ……あっ……ああ……」
  頼りない指での刺激に深く男を知っている身体が激しく疼いた。啓太は僅かに上体を捻って濡れた瞳で中嶋を見つめた。
「はあ、んっ……中嶋、さ……んっ……」
「……っ……」
  欲望を煽る様な甘い嬌声に、そろそろ中嶋も自分を抑えられなくなってきた。熱を孕む鋭い視線で啓太を捉え、言葉を促す。
「なら、どうして欲しい……啓太?」
「んっ……」
  啓太は熱い吐息で乾いた口腔を軽く噤んで湿らせた。そして、艶めかしく熟れた口唇を開き、ゆっくりと中嶋の望みを口にした。
「……下さい……中嶋さんが……欲しい……」
「ふっ……」
  中嶋が満足そうに口元を歪めた。良いだろう、と囁き、静かに指を抜く。喪失感に啓太はふるりと震えた。すると、その腰を中嶋がグッと掴んだ。
「……?」
  ベッドに横たわるものとばかり思っていた啓太は不安そうに中嶋へ目を走らせた。中嶋が小さく口の端を上げた。
「あ……」
  中嶋の意図を悟って、啓太の肌が一気に粟立った。中嶋の姿が見えないのは確かに少し怖い……が、背後から包み込む様に伝わる温もりや自分に添えられる力強い腕に自然と緊張が和らいでいった。啓太は大きく息を吸った。大丈夫、中嶋さんだから……
「……中嶋さん」
  啓太は立てていた膝を寝かせ、ベッドに両手をついた。そっと腰を浮かせると、入口に中嶋の先端が触れるのを感じた。あっ、と思った瞬間……中嶋が啓太を突き上げた。
「あっ……はあっ……!」
  無意識に怯えて逃げようとする細い腰を中嶋がきつく捉える。
「……っ……啓太っ……」
「あっ……ああ……中嶋さん……」
  恍惚と啓太が呟いた。しかし、中嶋は啓太がまだ辛うじて自分の身体を支えていることに気づいた。その身の総てを、啓太……俺に委ねろ。
  中嶋は脚で啓太の両膝を浮かせて左右に大きく割り開いた。
「あっ、やあっ……は、ああっ……!」
  自重で最奥まで貫かれた啓太が悲鳴の様な声を上げた。宥める様に中嶋が耳元で名前を呼んだ。
「……っ……あっ……中嶋、さんっ……」
  啓太が後ろ手に中嶋の頭を抱き寄せた。眩うほどに熱く蕩けた内壁が中嶋を更に奥へと誘(いざな)う。ふっ、と中嶋が微笑を浮かべた。
「あっ……ああ……ああっ……!」
  中嶋は強く腰を動かしながら、左手で啓太の胸に咲く小さな飾りを捏ねた。同時に右手で濡れた中心を捉え、柔らかく扱く。瞬間的に啓太は意識の底まで中嶋に侵蝕されてしまった。
「はあ、んっ……あっ……中嶋、さっ……んっ……ああっ……!」
  艶やかな喜悦の声を発して身悶える啓太に、やがて中嶋の理性も瓦解していった。自らの快楽を追って激しく啓太を貫く。二人の身体が溶けて一つになるまで、そう時間は掛からなかった……

  翌朝、中嶋が目を醒ましたとき、啓太はまだ夢の中にいた。いつもの様に中嶋の方を向いて身体を丸め、穏やかな微笑を浮かべている。中嶋は不思議だった。想いを告げる言葉一つ満足に持たない自分の傍で、なぜ、啓太はこうも安らかな顔でいられるのか。いつか言おうとは思っている……愛している、と。しかし、いざそれを口にしようとすると、どうしても気持ちが挫けてしまった。こうして……逃げてしまう。
「……っ……」
  そっと中嶋が口づけると、まるで条件反射の様に啓太が薄く口唇を開いた。まだ眠っているので反応が酷く鈍い。そんな啓太を中嶋はいとも簡単に捉えた。緩急をつけて舌を吸いながら、口腔を思うがままに貪る。すると、不意に啓太の瞼がふるりと震えた。
「あ、ふっ……あ……中嶋、さん?」
「ふっ、漸く起きたか」
「……はい……」
  啓太は朧な表情で頷いた。
  相変わらずの寝起きの悪さに中嶋は密かに苦笑した。想いを告げるには絶好の機会だったのに、また逸してしまった。まあ、焦ることはないが……
  中嶋は啓太の濡れた口唇を優しく指で撫でた。啓太がうっとりと恋人を見つめていると、中嶋が面白そうに言った。
「まだ物足りないのか?」
「……!」
  ハッと啓太は我に返った。慌てて中嶋の手を振り払う。
「お、俺は別にそんなこと……!」
  啓太は真っ赤になって起き上がろうとした。しかし、中嶋が啓太の腕を掴んで直ぐにベッドへ引き戻した。あっ、と小さな声を上げた口唇を再び中嶋が奪う。
「……あ……中嶋さ……んっ……」
  中嶋は啓太に覆い被さり、深く舌を絡めた。今の自分では、この方が言葉より遥かに多くを伝えられるとわかっていた。だから、無言の使者に想いを託して沈黙の愛を囁く。愛している、啓太……愛している……
「あっ……んっ……」
  啓太が中嶋の背にしがみついた。
「……啓太……」
「ふっ……っ……中嶋、さん……」
  二人の奏でる透明な響きが清涼な空気を次第に濃密なものに変えた。やがて――……


2009.5.1
’09 啓太BD記念作品 中希ver.です。
時間軸的に『薔薇』の続編になっています。
この二人は顔が見えなくても、
あまり変わらない気がします。
中嶋さんの前で羞恥心は存在出来ませんから。
可愛く、淫らな啓太へ……Happy Birthday.

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Café Grace
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