「……」
  寮の廊下を歩く中嶋を啓太はもの問いたげに見上げた。こうして一緒にいられるのは嬉しいが、まだ陽も高い内から外出するとは……正直、意外だった。いつも夕方か、夜なのに……
  視線を感じて中嶋が怪訝そうに言った。
「何だ?」
「いえ、別に……あっ、そうだ。中嶋さん、知ってました?」
  話を逸らそうと、啓太は階段の手摺りから少し身を乗り出して下を指差した。
  吹き抜けになっている一階のホールには大きなクリスマス・ツリーがあった。青銀色の人工樹の枝に金のリボンと陶器のオーナメント・ボールが掛けてある。先日、それを皆で飾りつけたとき、啓太はあることに気がついた。
「あのオーナメント、鈴になってるんですよ。俺、そんなの初めて見ました。オーナメント・ボールは知恵の実の象徴だから林檎ならわかるけど、ここは鈴菱系列だか、らっ……!」
  説明しながら、中嶋を振り返った瞬間、つるっと手が滑った。しかし――……
「気をつけろ」
  力強い腕が素早く啓太の身体を抱き寄せた。
「あ……有難うございます」
  啓太は柔らかく微笑んだ。そして、少し考えてから……羽根の様に軽く口唇を重ねた。中嶋が僅かに目を瞠った。
「どうしたんですか、中嶋さん?」
  コクンと啓太は首を傾げた。すると、中嶋が面白そうに口の端を上げた。
「いつになく積極的だな、啓太……ベッドの中と錯覚したか?」
「えっ!? あっ、ち、違います……!」
  その言葉に、ポンッと身体が沸騰した。慌てて中嶋の胸を押しやると、恥ずかしそうに玄関ドアの上に飾られた宿木のリースを指差す。
「ただ、俺はクリスマスに宿木の傍でキスすると幸せになるって聞いたから、ここでも良いかなって……」
「それを言うなら、宿木の下に立っている人とだ。だが、お前はこのくらい素直な方が良い」
「……中嶋さん」
「行くぞ」
  階段を下りようとした中嶋に啓太が囁いた。
「好きです」
「ああ、知っている」
  ふわりと啓太の髪を撫でる中嶋の向こうで、青緑色の聖なる木が待っていた。


2009.12.25
’09 クリスマス記念作品 中嶋ver.です。
時間軸的に『饗宴』の続編になっています。
この後、中嶋さんと啓太は改めてキスしそうです。
幸せな二人へ……Merry Christmas.

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