夕闇の迫る生徒会室で啓太は自分を机の上に組み敷く中嶋をうっとり見つめていた。怜悧な雰囲気の中にも情欲の色彩(いろ)をはっきりと浮かべている中嶋に意識が次第に蕩けてゆく……が、背中に感じる硬い感触が辛うじて啓太を踏み止まらせていた。こんなところ誰かに見られたら……
  すると、中嶋が小さく口の端を上げた。
「今更、何を戸惑う? 望んだのはお前だろう」
「俺、何もここまで……」
  啓太は言葉を濁した。
  珍しく中嶋が仕事振りを褒めてくれたので飛び上がるほど嬉しかったが、押し倒されたいとまでは思わなかった。こういうことは帰寮してから、ゆっくり……その……ベッドの中でしたい。
(キスくらいして欲しいな、とは……ちょっと思ったけど……)
「なら、やめて帰るか?」
  素っ気無く中嶋が言った。ほんのり頬を赤らめて啓太は恋人を睨んだ。それこそ今更だってわかってるはずなのに……
  恥ずかしくて言葉に出来ない気持ちを心の中で零していると、おもむろに中嶋が眼鏡を外した。
「あ……」
  硝子越しでない蒼い瞳に啓太の胸が大きく跳ねた。中嶋に男を深く教えられた身体が妖しくざわめき始める。
「中嶋、さん……」
  無意識に啓太は中嶋を引き寄せた。しっとりと口唇を重ねる。その瞬間、恋人の重みと熱い感触以外は何もわからなくなってしまった……

「ふ、あっ……ああっ……」
  啓太は中嶋のジャケットにしがみついて艶めかしく身悶えた。下半身は脱がされているが、まだシャツを纏っているせいか、熱が内に籠もって沸騰しそうだった。そんな啓太を更に煽る様に中嶋の手がゆっくりと身体の線を撫で上げる。
「中嶋さっ……ん、ああっ……」
  緩い感覚に甘く喘ぐ啓太を中嶋は楽しそうに見やった。
  こうして焦らせば焦らすほど、啓太の肌は色香を孕んで敏感になっていった。殆ど触れてもいない胸の飾りは既に赤く熟れ、腰は下肢へ中嶋を誘(いざな)おうと小さく揺らめいている。中嶋の動きが止まると、啓太は自ら脚を広げて強く擦りつけてきた。
「自分から強請るとは、いやらしい子だ」
  中嶋が耳元で囁いた。
「だっ、て……あ、ああっ……」
  まだネクタイを緩めただけの中嶋を啓太は切なそうに見上げた。
「だが、それで良い。お前は、いつもそうして俺だけを見ていろ」
「んっ……」
  コクコクと啓太は頷いた。
  その反応に満足した中嶋は漸く啓太の太腿へ掌を滑らせた……が、そのとき、不意にジャケットのポケットの中で携帯電話が震えた。
「あっ……」
  さっと啓太が蒼ざめた。振動の長さから、それはメールではなく電話だった。そういえば、と思い出す。先刻、王様が中嶋さんに後で連絡するって言ってた。何で、こんなときに……
  中途半端に昂ぶった身体を抱えて啓太は涙ぐんだ。すると、中嶋が啓太の頬に手を添えて尋ねた。
「今でもうつ伏せでするのか、啓太?」
「……っ……!」
  真っ赤になって啓太は首を振った。
  MVP戦の頃に一度、火照る肌をどうしても持て余して密かに自分を慰めたことはある……が、それ以来、啓太に触れたのは中嶋だけだった。幾ら性に目醒めたとはいえ、欲しいのは中嶋がもたらす快楽だけだから。散々熱を煽られ、焦らされ、啼かされても、好きな人に満たされた瞬間、身も心も歓びに震えた。だから、身体だけの刺激ならもう要らなかった。そんなの俺には虚しいだけ……
「なら、今度は仰向けでしてみろ」
「な、中嶋さん……!」
「安心しろ。お前の良い声を丹羽に聞かせるのは惜しいからな。少し離れてやる。だから、お前が自分の手によがる姿を見せてみろ……俺がする代わりに」
  ふわりと中嶋は啓太に口づけた。
「んっ……中嶋、さん……」
  啓太の意識が鈍く痺れた。中嶋の代わりにするという甘美な誘惑に腰の奥から淫らな熱が湧き上がり、下肢の狭間へと集まってゆく。中嶋は恍惚とする啓太から静かに離れると、ポケットから携帯電話を取り出した。瞳は啓太に注いだまま、壁に寄り掛かって通話ボタンを押す。何だ? ……ああ、その件なら知っている。恐らく明日にでも会計から――……
「……」
  有能な副会長の声を遠くに聞きながら、啓太は右手をそっと中心へ這わせた。軽く握り締めた途端、一気に肌が粟立った。咄嗟に手の甲で声を押し殺す。
「ふっ……んっ……」
  直ぐに先端から蜜が溢れて指に絡みついた。それを全体に満遍なく塗り込めて扱くと、腰が悦び、ぬめった水音が聞こえた。背筋を駆け抜ける快感に脚が自然に大きく開いてゆく。啓太は解放を求めて張り詰める中心を掌で計りながら、朧に瞼を開けた。
「あ、んっ……っ……ああっ……」
  中嶋の蒼い視線に炙られ、身体の芯が強く疼いた。内壁を擦られる度に下肢から滲み出るあの熱い痺れが記憶に蘇ってくる。
(中嶋、さん……中嶋さんっ……)
  啓太は敏感な先端を指で丸く擦り、きつく右手を動かした。自分を貫く恋人を思い浮かべて淫らな頂きへ夢中で駆け上る。太腿が小刻みに痙攣し、やがてドクンと腰の奥が熱くうねった。
「あ、ああっ……!」
  その瞬間、身体が弾けた。啓太は嬌声を発しながら、自分の掌の中で達してしまった。
「……あっ……っ……」
  啓太の左手が何かを探す様に宙へ伸びた。再び中嶋が伸し掛かってくると、背中にしがみついて艶やかに喘ぐ。
「はあ、んっ……」
「ふっ……相変わらず、お前は淫乱だな。手だけでは物足りなかったのか?」
  中嶋が入口を軽くなぞった。
「ああっ……」
「しかも、電話中に……俺がさっさと切らなければ、丹羽に総て聞こえていたぞ」
「あ……やだあ……」
  啓太は小さく首を振った。
  最初は声を抑えていたが、中嶋の視線を意識した途端、歯止めが利かなくなってしまった。本当に抱かれている様な錯覚に陥り、逸る心のままに中嶋を求めた。今もまだ……
「んっ……あっ……ああっ……」
  緩々と出入りを繰り返す中嶋の指を啓太は何度も締めつけた。身体が中嶋を内に取り込もうと必死に蠢くのが自分でも良くわかった。甘く零れる吐息が中嶋を誘う。
「そんなに俺が欲しいのか、啓太?」
「んっ……欲し、いっ……中嶋、さんっ……中嶋さんっ……」
  啓太は右脚を中嶋の腰に絡めて更なる快楽を強請った。ふっ、と中嶋が微笑んだ。
「良い子だ」
「中嶋さん……あっ……はあ、あっ……!」
  そんな二人に中(あ)てられたのか、今宵の三日月はいつもより仄かに赤みを帯びていた。


2010.7.2
中嶋さんは啓太が声を抑えられないとわかっていたので、
直ぐに電話を切ったに違いないです。
啓太の嬌態を楽しく観賞して、
仕事の疲れも消えてしまいました。

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Café Grace
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