「全く……お前はまだつまらないことを考えているのか?」
  シャワーのお湯の温度を確かめながら、中嶋さんが振り返って言った。
「だって……」
  浴室に入ろうにも、まだハムの俺は小さく言葉を濁した。
  俺達ハムは水に弱いから、お風呂に入るときはいつも人の姿になる。大人になれば完全な人になれるけど、それまでは普通、ハムの耳と尻尾がついてる。でも、中嶋さんハムにそんなものはない。もうちゃんと人になってる。確かに中嶋さんハムは俺と違って考え方なども大人でしっかりしてる……けど、年は俺と二つしか違わない。正確には二年と半年と二週間。なのに、この差はずるい。絶対、ずるい。どう考えても納得いかない!
「俺、ハムのままで良いです」
  ぷうっと頬を膨らませると、俺は中嶋さんの横を通ってテチテチと浴槽へ向かった。温かいお風呂にちょこっと浸かるくらいなら平気だもん……多分。そうしたら、中嶋さんにむぎゅっと首根っこを捕まえられてしまった。
「痛っ……痛いです、中嶋さん!」
「その姿で入ったら湯船が毛だらけになる。さっさと人になれ」
「やだあ……やあっ……!」
  ハムの手足をパタパタ振って俺は必死に抵抗した。すると、中嶋さんは俺の顎を捉えて強引に口唇を重ねてきた。
「や、んっ……」
  僅かな隙間から俺の口腔内に侵入すると、中嶋さんはすぐさま舌を絡めて宥める様に愛撫した。俺は逃げようとしたけど、中嶋さんの力が強くて身動き一つ出来ない。それに、徐々に足も震えてきて……だって、中嶋さんのキスは身体が蕩けそうなほど気持ち良いから。いつしか俺は夢中で中嶋さんを追ってた……
「漸く大人しくなったな」
  キスを解いた中嶋さんが俺の口唇を優しく指で撫でた。余韻に浸りながら、俺はうっとりと目を開けた。何だか巧く誤魔化された気がするけど、中嶋さんが好きって気持ちには逆らえない。でも、その瞬間、中嶋さんの瞳にハムの耳がついた茶色い癖毛が映ってるのが見えた……!
「……っ……」
  俺は恥ずかしくてキュッと目を瞑った。
  こんな中途半端な姿、中嶋さんに見られたくない。中嶋さんは凄く格好良いから、ハムでも人でもない俺はどこからどう見ても釣り合わない。このままじゃあ、いつか中嶋さんに嫌われてしまうかもしれない。そんなの、やだっ……
  不安が俺の中でどんどん膨らんで、何だか胸が苦しくなってきた。じわっと涙が滲んでくる。すると、不意に中嶋さんが俺の尻尾を軽く掴んだ。
「ああっ……!」
  背筋がぞくっとして、思わず、俺は中嶋さんの胸に縋りついた。むにむにと柔らかく揉まれて腰が砕けそうになる。尻尾は駄目……! やだ、やだ、と俺は頭を振った。でも、中嶋さんは手を離してくれない。それどころか、逆に楽しそうに俺の耳元で低く笑った。
「これが、あと数年でなくなってしまうとは惜しいな。お前のこの姿は結構、気に入っているのにな」
「……っ……本当、ですか……?」
  俺はそっと中嶋さんを見上げた。本当に、そう思ってるんですか……?
「ああ、人型はいずれ幾らでも見られるが、この姿は一過性……今しかない貴重なものだ。だから、啓太、つまらないことは考えるな。お前は、ただ感じるままに俺の前で乱れて啼けば良い」
「……中嶋さん……」
  ポロッと零れた俺の涙を中嶋さんが優しく口唇で拭った。そのまま、首筋へ舌を滑らせる。
「はあ、んっ……ああ……」
  小さく喘いだだけなのに、思いの外、浴室では大きく響いた。それはお風呂で聞く声ではなくて凄く恥ずかしいけど、中嶋さんはこの姿を気に入ってるって言ってくれたから……良い。
「あっ……中嶋、さんっ……ああっ……」
  中嶋さんの触れる肌が粟立つ。ただ身体を撫でられてるだけなのに、自然に吐息が熱くなって……欲情する。俺だって、もう子供じゃないからそれくらいわかる。
「中嶋さん……ちゃんと……して、下さい……」
「何を?」
  俺の胸に掌を這わせながら、中嶋さんが囁いた。俺は、むうっと中嶋さんを睨んだ。中嶋さんは誰よりも優しくて、俺のことを本当に良くわかってる。でも――……
「啓太、黙っていては何もわからない」
「……っ……」
  意地悪だ。
  先刻から身体の芯が熱くて溜まらないのに、まだ俺を焦らそうとする。だから、俺は答える代わりに中嶋さんに抱きついて思い切り二人の熱を絡ませた。
「ああっ……!」
  反射的に俺は大きく仰け反った。背筋を駆け抜ける快感に、無意識にしがみつく腕に力を籠める。俺にはこれが限界。口でなんて恥ずかしくて、とても言えない……!
「ふっ……」
  中嶋さんが小さく口の端を上げた。そして、俺の中に指を一本……入れてきた。
「ん、ああっ……!」
  引きつる様な痛みに驚いて逃げようとする俺を中嶋さんは片手で押さえ込んだ。中嶋さんとこんなことするのは初めてじゃないけど、いつまで経っても俺は慣れない。中を触られるのは苦しいし……やっぱり怖い。中嶋さんのこと信じてない訳じゃないけど、どうしても緊張してしまう。だから、俺は意識をそこから切り離して、ひたすら腰を揺らして中嶋さんの身体に擦りつけた。
「……っ……あっ……ああっ……」
  手と違って凄く大雑把だけど、ぬるっと二人が絡むと気持ち良い。そのまま、ゆっくり腰を回してると、入口を緩々とスライドしてた中嶋さんの指が中を緩くかき混ぜ始めた。それは何かくすぐったい様な……不思議な感じ。暫く浅い呼吸を繰り返してると、指が増えて動きがもっと複雑になった。どこからか聞こえるちゅくちゅくとした音がいやらしいけど、その度に身体の奥が疼いて堪らない。俺は、この先にあるもっと凄い快感を知ってるから……
「ああっ……んっ……中嶋、さんっ……」
  俺は強請る様に大きく腰を振った。中嶋さんが促す様に囁いた。
「そんなに俺が欲しいのか?」
「はあ、んっ……あっ……はい……」
  熱を帯びた眼差しで、俺は真っ直ぐ中嶋さんを見つめた。欲しい……中嶋さんが、欲しい……
「良いだろう……」
  中嶋さんの怜悧な瞳が嬉しそうに微笑んだ。一気に指を抜く。
「ああっ……っ……!」
  虚空に震える俺を、中嶋さんはくるっと壁の方に向かせた。あっ、やだっ……! それはあまりに切なくて慌てて振り返ろうとしたら、中嶋さんが俺に覆い被さってきた。
「あっ……」
  余すところなく全身を抱き締められて心が満たされる。顔が見えなくても、中嶋さんが俺を求めてるのがはっきりとわかるから。ふわふわしたハムと違って人の身体は滑々してるので体温が直に伝わる。中嶋さんも、こんなに熱くなってる……
「中嶋さん……っ……」
  耳を軽く食まれ、身体を支えようと俺は目の前の壁に両手をついた。その瞬間、中嶋さんが後ろから力強く俺を貫いた。
「あっ……はあ、あっ……!」
「……っ……」
「ああっ……中嶋さ、んっ……あっ……ああっ……」
  そうして二人の身体が完全に一つになるまで、俺の奥の奥まで中嶋さんで満たされるまで……甘い嬌声が浴室に響き続けた。

  一時間後、俺はベッドに横たわって更に中嶋さんに抱かれてた。
  俺達ハムが人になるのはお風呂に入るときと……欲情したとき。俺、あれだけじゃ足りなかったみたいで……ハムに戻れなかった。いや、ちょっとは戻ったんだけど、中嶋さんハムを見たら……また人になってた。そんな俺を見た中嶋さんハムがいやらしい子だって言って――……
「あ、ああっ……中嶋さんっ……や、だっ……ああっ……!」
「嫌なのか? だが、お前はもうこんなに濡れている」
  中嶋さんの指が丁寧に輪郭をなぞる様に撫で、先端の縁を軽く擦り上げた。
「ふ、あっ……ああっ……中嶋、さんっ……そこっ、良い……もっ、と……」
  腰を緩く振って俺は中嶋さんを強請った。凄く恥ずかしいけど、中嶋さんが欲しいって気持ちは誤魔化せない……誤魔化したくない。そうしたら、中嶋さんが耳元で俺に囁いた。
「良い子だ」
「ああ……」
  その吐息混じりの甘い声に俺は恍惚となった。
「……愛してます、中嶋さん……」
  それから後は俺達だけの秘密の時間……♪


2010.3.12
中嶋さんハムでなくとも、
啓太ハムの耳と尻尾は気に入るはずです。
でも、中嶋さんハムがそんな可愛い姿を他人に見せるとは思えません。
永遠に啓太ハムを独り占めです。

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Café Grace
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