楽しい夏休みも、残り半分。宿題も終わったし、今日は久しぶりにお兄ちゃんと買い物にきた。欲しいものは特になかったけど、寮暮らしのお兄ちゃんには楽しかったみたい。色々なお店に引っ張り込まれて、少し疲れちゃった。あ~あ、どこか涼しい処で休憩したいな。そんな私の瞳に、ふと小洒落たウッド・デッキが飛び込んできた。遠目だけど、結構、綺麗なお店で雰囲気も良さそう。私は一目で気に入ってしまった。
「お兄ちゃん、あそこのカフェで少し休もうよ」
  白い帽子を片手で押さえながら、可愛い仕草で私は振り返った。お兄ちゃんと同じ蒼い瞳を輝かせ、ほんのり甘えた表情を浮かべる。これで堕ちない人はいない。
「良いよ」
  直ぐに心地良い澄んだ声が聞こえてきた。ほらね!
  私はお兄ちゃんの腕に手を掛けて、にっこり笑った。ねえ、こんな可愛い子とデート出来て嬉しいでしょう? 男子校って、むさ苦しい人ばっかりだから……えっ!? そんなことないって? ふ~ん、まあ、そういうことにしておいてあげても良いけど、あのケーキ・セット食べさせてくれたら、信じてあげる。そう言ったら、頭をコツンと小突かれちゃった。でも、朋子には感謝してるから今日は奢ってやるよって。優しいお兄ちゃん、大好き! ご満悦な私を見て、お兄ちゃんはふわりと微笑んだ。
  あれ? お兄ちゃん……いつから、こんな表情する様になったのかな。
  どこがどうっていう訳じゃないけど、前はもっとこう、何て言うか……そう、可愛かった。でも、今は綺麗? 気のせいかな。まあ、別に良いけど。
  私達が店に入ると、丁度、テラス席が空いた。やっぱりお兄ちゃんといるついてる。そこに腰掛けて、私はアイス・ティとチョコレート・ケーキ、お兄ちゃんはカフェ・オ・レと苺のタルトを頼んだ。一瞬、自分の耳が信じられなかった。嘘でしょう。甘党のお兄ちゃんがコーヒー!?
  その視線に気がついて、お兄ちゃんは恥ずかしそうに頬を染めた。
  ……カチャン!
  後ろの席の男の人がスプーンを落とした。私が振り向くと、その人は慌てて新聞を読んでる振りをした。変な人……
「朋子」
  呼ばれて、私は前を見た。失礼だろ、と瞳で怒られちゃった。は~い。そのとき、ウェイターがタイムリーに注文を運んで来た。テーブルに並べられてゆく美味しそうなケーキ。その匂いに誘われて、まだ飲み物がないのに、私はフォークを持った。お兄ちゃんがクスクスと笑いながら、ウェイターに有難うと言った。
  ……カシャン!
  トレイが落ちた。
「失礼致しました」
  ウェイターは恥ずかしそうにそれを拾うと、そそくさと店の中へ引き下がった。後ろの人も新聞のことなんか忘れてお兄ちゃんを凝視してる。やっぱりお兄ちゃん……綺麗になった。
  でも、どうして? あっ、もしかして、彼女でも出来たのかなあ。そうだよね。天下のBL学園(ベル・リバティ・スクール)だもん。周りが放っておかないか。ちょっと華奢だけど、顔も性格も良いし、将来性だってバッチリだもんね。そういえば、最近、お兄さん家にいるってよく訊かれるなあ。普段は寮に入ってるの知ってるはずなのに、どうしてそんなこと知りたがるのか不思議だったけど、あれはお兄ちゃんを狙ってたんだ。私としたことが迂闊だった。しっかりしなきゃ、朋子!
  あ~、一体、どんな人なのかな。全然、想像出来ない。お兄ちゃん、こういうことは私以上に鈍そうだからなあ。告白でもされたのかな。まっ、付き合ってるんだから、お兄ちゃんも好きなんだろうけど。もしかして、お兄ちゃんから告白したのかな。でもねえ、う~ん、あり得なくはないけど、何か違う気がする。やっぱり最初のアプローチは相手からでしょう。間違いない!
「ねえ、お兄ちゃん、好きな人いるでしょう?」
  うわっ、耳まで真っ赤になっちゃった。素直だねえ、こういうとこ。本当、わかり易い。ほら、水でも飲んで落ち着いて。私まで恥ずかしくなるじゃない。やっぱり相思相愛? ふ~ん、良いなあ。それで、どんな人?
  はあ? 良い人って……そんなの当たり前じゃない。あっ、お兄ちゃん、言いたくないんだ。お母さん達に知られたら、大騒ぎになるから。わかった。良いよ。内緒にしてあげる。ケーキ奢ってくれたからね。でもさ、一つだけ教えて。どっちから告白したの?
「……」
  あ~、訊くんじゃなかった。私を差し置いて、お兄ちゃん、どっかの誰かさんと勝手に二人の世界を作っちゃってる。何か腹が立つから、お兄ちゃんのケーキも食べちゃえ。後から文句を言っても知らないから。
  でもねえ、お兄ちゃん、気がついてる? 道行く人が皆、お兄ちゃんを見てるよ。後ろのあの人なんか、もう新聞を落として見惚れてる。先刻のウェイターも、仕事が全く手についてない。だって、綺麗だから。妹の私でさえ瞳が離せないくらい、本当に、本当に綺麗だよ。恋の力って凄いんだね。私もそんな人と出逢ったら、綺麗になれるかな。今から磨けば、五年後にはお兄ちゃんとでなく、素敵な彼氏と一緒にいるのかな。皆の視線を一身に浴びて微笑んでる私。良いな~、それ。
  決めた! 今日から頑張ろう! まず、あのお店に戻って入浴剤を買おう。美しさの基本はストレスを溜めないことだって何かのCMで見た。最近、シャワーばっかりだったから今日は湯船に浸かって思い切りリラックスしよう。後は良くわからないけど、いつか必ず綺麗になってお兄ちゃんをビックリさせてやるんだから!
  ……でも、一つ疑問が。恋して綺麗になるのって、女の子じゃなかった?


2007.8.10
ちょっとオシャマな朋子です。
小悪魔的な性格の片鱗を見せつつあります。
啓太が素直過ぎるので、
逆にこんな感じになってしまいました。
でも、根は良い子です、多分。

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Café Grace
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