可愛い俺の啓太。今日まで一日たりとも、お前を忘れたことはなかった。あのウィルスの一件で自分の無力さを思い知った俺は、まだ熱に浮かされているお前に誓った。たとえ、離れ離れになろうとも、お前を守れるだけの力をつけたら必ず戻って来ると。それまでは耐え難きを耐え、忍び難きを忍び、俺は陰からお前の成長を見守ることにした。
  祖父は事あるごとにお前の写真やビデオを送ってきた。遠い異国の地で俺が頑張れたのは、お前の思い出とそれがあったからだ。お前の笑顔はいつも俺の心を癒してくれた。毎晩、俺は願った。いつまでも、お前が幸せであります様にと。だが、お前が小学三年生のとき、麻疹が大流行した。日本は麻疹のワクチン接種率が低いので、恐らく病院は患者で溢れ返っているだろう。そんな状況で、もし、お前が罹ってしまったら、満足な治療が出来るのだろうか。不安と恐怖で俺は夜も眠れなかった。お前の苦しむ姿は、もう見たくない……が、今はまだ何も出来ない。俺の中で歯がゆさばかりが募っていった。
  そんな俺の心を察したのか、祖父が系列の製薬会社に手を回し、学校にワクチンを寄贈してくれた。これでお前は麻疹に怯えることはない。ああ、本当に良かった。俺は久しぶりに安らかな夜を迎えた。
  お前が小学五年生になった、ある雪の降った朝のことだった。いつもの様に学校へ向かったお前は、足元のアスファルトの陥没に嵌って足首を捻挫した。全治二週間。それを知った俺は怒りに我を忘れた。役所には道路整備もまともに出来ない無能な奴しかいないのか! 怪我が治っても、あの道をお前が通る度にいつまた同じことが起こるとも限らない。そんな穴は、さっさと塞いでしまえ!
  祖父もそう思ったのだろう。国交省に圧力を掛け、付近一帯の道路を綺麗な石畳に作り変えてしまった。お前を育む学校への道なら、そのくらい当然だ。ああ、お前が元気に走っている姿が目に浮かぶ。漸く俺は溜飲を下げた。
  それから暫く穏やかな日々が続いた。お前は中学二年生になり、また少し大きくなった。周囲は高校受験の話題で騒がしくなってきたが、お前の笑顔は昔と全く変わらない。俺はお前にはBL学園(ベル・リバティ・スクール)こそ相応しいと確信していた。だが、どうすればそれを理事会に認めさせられるか。説明しようにも、俺のいる場所はあまりにも遠かった。そんなとき、祖父から連絡がきた。お前をBL学園(ベル・リバティ・スクール)に入れる、と。
  俺に代わって、ずっとお前を見守ってきた祖父はお前の稀有な才能にしっかりと気づいていた。それは最も尊く、穢れなきその魂。祖父も俺同様、お前に魅せられていたんだ。
  高校は決まった。だが、勉強しておくのは良いことだ。丁度、お前の家と駅の中ほどにあった議員宿舎跡地を鈴菱が取得していた。そこに文化施設を造る計画書を提出したら、あっさり許可が下りた。祖父は最優先で図書館を造った。自ら蔵書を寄贈して、時折、お前がそこを訪れるのを遠くから眺めて楽しんでいたらしい。そして、その年の終わりに……祖父は死んだ。
  俺は日本に帰って来た。
  死に物狂いで努力を重ね、望んだだけの力は手に入れた。多少の問題はあったが、今、お前はこの学園にいる。俺の傍に。まあ、彼に恋するのは予想外だったが……お前が幸せなら、それで良い。だが、これだけはあいつに言っておこう!
  もし、啓太を泣かせたら、どんな手を使っても必ず生まれてきたことを後悔させてやる。そして、もし……もしも、ただ悪戯に穢したのなら、最早、この地上に貴様の安らぐ場所はない。地の果てまでも探し出し、死すらも生温い永遠の責め苦をこの手で味あわせてやる。そう、何人たりとも、お前を傷つけることは絶対に許さない!
  ああ、可愛い俺の啓太。怖がらないで。まだ話していないけれど、実は祖父の遺言により、お前には鈴菱の財産が贈与されている。それは、お前を苦しめ続けるだろうあのウィルス感染に対しての祖父なりの罪滅ぼしだ。成人するまでは俺が管理し、二十歳の誕生日に総て渡すことになっている。そうしたら、お前は俺と同等の財力を手にする。お前にはそれ以上の輝きがあるが、金に群がる奴は多い。だから、お前が傷つかない様に俺は今以上に目を光らせるつもりだ。まずは手始めに養子縁組をしよう。既に父の了承は得ている。あっ、俺の子になるんじゃないよ。俺の弟になるんだ。初めて逢ったあの日から、可愛くて、可愛くて、可愛くて、可愛くて、可愛くて……ずっと護ってやりたかった。その気持ちは今も日増しに強くなっている。もう決して離さない。俺は全身全霊を懸けてお前を護ろう。そして、永遠にお前の傍にいる。だから、安心してお休み。可愛い俺の啓太……


2007.8.10
保護欲全開の和希は誰にも止められない。
啓太の恋人になった誰かさんにとっては嫌でしょうね。
おちおちデートも出来なかったりして。
時間軸のズレは愛嬌ということでお願いします……

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Café Grace
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