道ならぬ恋をしました。
 私は貴方の教えに反し、自分とは一回り以上も違う同性に対して禁断の想いを抱いてしまいました。今までの私は決して貴方の熱心な信者ではありませんでしたが、それでも、この内を苛む恐ろしい獣を消し去るために、どうか貴方の力をお貸し下さい。
 その子を初めて見たときから私は心惹かれていました。癖のある明るい髪色、大きく澄んだ蒼穹の瞳、子犬の様に愛らしい仕草。まだ幼さの残る外見とは裏腹に、時折、発するあの強い意思の煌き。恐らく貴方の目にも留まっているのでしょう。あの子は貴方からの贈り物を、幸運を誰よりも多く授かっていますから。この凡そ穢れを知らぬ無垢な魂を、私は愛してしまいました。
 しかし、私は自らの想いを告げることはしませんでした。やがて……あの子はある事件を切っ掛けにある人と結ばれました。今、あの子はとても幸せに日々を過ごしています。私の判断は間違ってはいませんでした。私ではあの子をあそこまで幸せには出来なかったでしょう。あの子が幸せであること。それが私には最も重要なのです。そのはずでした……
 私の胸に湧き上がるこの黒い感情に気づいたのは、いつ頃のことでしょうか。最初は、あの子の隣で微笑むあの人への羨望にも似た嫉妬でした。なぜ、そこに立つのが私ではないのでしょう。確かに私は自ら進んでこの道を選びました。にもかかわらず、未だあの子への想いは断ち難く、その姿を目にする度に胸が痛みました。焦がれて、焦がれて……それでも振り向いてくれないあの子へ、いつしか酷く邪な怒りが芽生えていました。
 夢の中で、私は何度もあの子を陵辱しました。服を裂き、嫌がる身体を押さえつけ、強引に口づけるのです。私の下であの子は涙を流して愛しい人の名を呼びます。それが私を更に駆り立て、私は狂った獣の様にあの子を蹂躙しました。
 ああ、私はあの子を愛しているはずなのに、あの子の幸せを遠くから眺めているだけで満足なはずなのに、どうしてあんな浅ましくも恐ろしい夢を見てしまうのでしょうか。しかも、それは毎晩の様に続きます。私は自らを嫌悪しました。しかし、同時に密かにそのことを悦んでいるのも事実でした。あの子は私を選んではくれませんでしたから。想いを告げなかった私に、異を唱える資格がないことはわかっています。それでも、私はあの子を諦め切れないのです。行き場のない私の想いは現実では決して触れられないあの子の肌を求めて悪夢で無理やりその白い身体を開くのです。このままでは、いつの日か私は夢と現の境を踏み越えてしまうでしょう。私はあの子の幸福を願っているはずなのに、同時にあの子の柔肌を貪り、その尊厳を無性に踏みにじりたくなるのです。もう私にはあの子を愛しているのか、憎んでいるのか、それすらもわかりません。ただ、自らの罪に怯えながら、また夜に堕ちてゆくのです。
 主よ。どうか私に光をお与え下さい。この仄暗い欲望から、私を解放して下さい。そのためならば、どの様なことも決して厭いません。この先、私の未来が闇に閉ざされたとしても、あの子が光の中を行けるのならば、私はそれで満足です。さもなくば、いっそ私を召し上げて下さい。これ以上、あの子の姿を見ることは堪えられません。それとも、これは罪深い想いを抱いた私に対する貴方の下した罰なのですか。悔い改めなさい、と……?
「……」
 ああ、鐘の音が聞こえます。もう時間がきた様です。主よ。今日はこれでお暇致します。どうか私を正しい方向へお導き下さい、私が貴方の愛し子を本当に傷つけてしまう前に。それまで、私は貴方へ祈りを捧げ続けます。願わくば、私の魂に一日も早い救済が訪れんことを。そして、あの子に永久の幸せがもたらされんことを……父と子と聖霊の御名において……アーメン……



2007.11.9
かなり妄想が入ってますが、
石塚さんの危険な片想いです。
報われない愛に壊れゆくところに萌えました。

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Café Grace
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