伊藤 :ところでさ、和希、やっぱり楽しんでただろう?
遠藤 :俺に縋りつく啓太があまりに可愛いから、つい……ごめん! もう二度としないと約束す
る!
伊藤 :俺を散々怖がらせた責任は取って貰うぞ、和希。
遠藤 :何でも言って良いよ、啓太、どんな願いも俺が必ず叶えてあげるから。
伊藤 :なら、俺、苺が食べたいな。
遠藤 :わかった。直ぐ手配するよ。
伊藤 :駄目だよ、それじゃ。俺は和希が買ってきた苺が食べたいんだ。他にもケーキやタルト、ミ
ルフィーユ、ムースにアイスにチョコレート・フォンデュ! 明日の夕食は全部、苺尽くしにす
るって決めたんだ!
遠藤 :それを全部、俺が買ってくるのか!?
伊藤 :うん!
遠藤 :仕方ない。啓太の頼みだからな。
伊藤 :わ~い、有難う、和希!
丹羽 :……ある意味、恐ろしい光景だな。
西園寺:ああ、天下の鈴菱が顎で使われるなど滅多に見られるものではないからな。
丹羽 :殺気!
トノサマ:ぶにゃ――……
中嶋 :そう何度も同じ手が通用するものか。
丹羽 :良いぞ、ヒデ! そのまま、外へ摘み出せ!
七条 :まさに極悪人ですね。この寒空にトノサマを放り出すなど動物愛護精神の欠片も感じられ
ません。もう一度、初めから教育をやり直した方が良いですね。
中嶋 :俺はまだ何もしていない。
七条 :これからしようとしているんですから同じことです。
中嶋 :貴様こそ一から学び直すべきではないのか? 未だ行われていない事実に基づいて結論
を出す者が、将来に渡って的確な判断を下せるとは、到底、思えないからな。
七条 :ご心配には及びません。僕は貴方と違って良識をきちんと弁(わきま)えていますから。
中嶋 :ふっ、どうだかな。
丹羽 :どうする、郁ちゃん? こっちはマジで恐ろしい光景だぜ。
西園寺:もう私は知らん。後はお前が何とかしろ、丹羽。
丹羽 :あっ、待ってくれよ、郁ちゃ~ん!
丹羽 :だ~っ!! お前ら、一体、いつまでやってる気だっ!!
遠藤 :邪魔しないで下さい、王様! 今、啓太との別れを惜しんでいるんですから!
伊藤 :そうですよ! もう二度と和希に逢えなくなるかもしれないのに!
遠藤 :啓太!
伊藤 :和希!
丹羽 :んな訳あるか~っ!!
中嶋 :お前達、まだやっていたのか。仕方ない……啓太、早く帰って来たら褒美をやる。
伊藤 :えっ!? 本当ですか、中嶋さん?
中嶋 :ああ、先日、お前が受け取り損ねたものだ……ふっ。
伊藤 :もしかして、ケーキですか? わ~い!
遠藤 :啓太、中嶋さんがそんな可愛いものをくれる訳ないだろう? あの顔は絶対、別のことを
考えているよ。いや、もしかしたら……逆に啓太から貰う気なのかもしれない! そうに決
まっている!
伊藤 :和希、中嶋さんは和希が思うほど酷い人じゃないよ。少しは自分の生徒を信用しろよ。
中嶋 :啓太の言う通りだ、理事長。
遠藤 :くっ……そうだ! ケーキなら先刻、ここで食べただろう。あれをまた買って――……
伊藤 :いいよ。あれは石塚さんが買ってきたんだろう? 一日に何度も行かせたら悪いよ。
石塚 :構いませんよ。伊藤君のためなら、私は何度でも買いに行きます。では、早速……
伊藤 :ああ、石塚さん、何て優しい人なんだろう……!
遠藤 :石塚~、ここぞとばかりに啓太に売り込んでいるな。なら、俺も負けてはいられない! 啓
太、これから俺が直ぐケーキを買ってきてやる! 待ってろ!
伊藤 :あっ、和希~
中嶋 :二人とも行ったか……啓太、俺のは待つ必要がないぞ。
伊藤 :えっ!? 本当ですか、中嶋さん?
中嶋 :ああ……来い、啓太。
丹羽 :中嶋、からかうのはよせ。さあ、行くぜ、啓太!
伊藤 :あっ、はい、王様。
中嶋 :……後でお仕置きだな、哲ちゃん。
遠藤 :啓太、迎えに来たよ。一緒に帰ろう?
伊藤 :ごめん、和希……まだ仕事、終わってないんだ。
遠藤 :それは王様の分だろう。啓太はもう充分、働いたよ。だから、啓太は連れて帰りますよ、
中嶋さん。
中嶋 :駄目だ。
遠藤 :貴方に啓太を引き止める権利はありません。
中嶋 :幼妻。
遠藤 :……!
中嶋 :俺はそれでも一向に構わないがな、遠藤。
伊藤 :……? 幼妻って何ですか、中嶋さん?
中嶋 :主に十代で結婚――……
遠藤 :わ~っ!! 啓太はまだ知らなくて良い言葉だよっ!!
伊藤 :和希?
中嶋 :ふっ、啓太、こいつも手伝いたいそうだ。
伊藤 :本当!? 有難う、和希! 三人でやれば、きっと直ぐ終わるよ!
遠藤 :ああ、そうだね、啓太……くっ……!
伊藤 :あっ、待って、和希。
遠藤 :駄目。待てない。
伊藤 :だって、和希、まだ濡れてるだろう? 風邪、引いたら……
遠藤 :大丈夫。直ぐに熱くなるから。
伊藤 :……! お前、そんなこと――……
遠藤 :もう黙って、啓太……集中して……
伊藤 :あ……和希……っ……和、希……
中嶋 :行くぞ。
伊藤 :あっ、待って下さい!
中嶋 :……何をしている?
伊藤 :煙草のポイ捨ては駄目ですよ、中嶋さん。吸殻はきちんと灰皿に。喫煙者のマナーです。
中嶋 :悪かった。
伊藤 :中嶋さんが素直に謝るなんて……俺、何か感動です! やっぱり良いことはするもんです
ね!
中嶋 :そうか。なら、俺もお前に良いことをしてやろう。
伊藤 :えっ!? 中嶋さん、そんなに腕を引っ張ってどこへ……ま、まさかここで……っ……ま、
待って……んっ……駄、目……あっ……中嶋、さん……
伊藤 :有難う、和希……俺、最高の誕生日プレゼントを貰ったよ。
遠藤 :良かった。なら、俺も三つ星ディナーをふいにした価値はあったな。
伊藤 :えっ!? それ本当、和希?
遠藤 :ああ、啓太の誕生日ならそのくらい当然だろう……って、啓太?
伊藤 :三つ星ディナー……和希の言葉はとても嬉しかった、けど……でも、俺の三つ星ディナー
が……
遠藤 :ふふっ、安心したよ。
伊藤 :和希?
遠藤 :今からこんな高いものをプレゼントしていたら、将来、渡すものがなくなってしまうからな。
店には改めて予約を入れておくよ。
伊藤 :わ~い、有難う、和希!
伊藤 :それにしても、中嶋さんが花言葉なんて良く知ってましたね。こういうのには、あまり興味
ないと思ってました。
中嶋 :ああ、これはただ綺麗に咲いていたからお前にやっただけだ。
伊藤 :そうなんですか!? 何だ……俺、てっきり中嶋さんが……
中嶋 :ふっ、冗談だ。
2008.5.9
中嶋さんと七条さんが揃うと、
どうしても会話が長くなってしまします。
そして、さり気なく石塚さんをひいきしています。
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