七条 :失礼します。
伊藤 :あっ、七条さん、どうしたんですか?
七条 :理事会に提出する前に予算案の最終確認に伺いました。
中嶋 :ほう? それは良い心掛けだな。今から追加訂正分を持って行こうとしたところだ。
七条 :この期に及んであり得ないですね。
中嶋 :ふっ、無能な奴には荷が勝ち過ぎるか?
七条 :自らの怠慢を棚に上げて人に責任を擦りつけるとは、いかにも貴方らしい卑怯な物言い
です。
中嶋 :口だけは達者だな。
伊藤 :王様~、また始まってしまいましたよ。どうするんですか?
丹羽 :俺に振るなよ、啓太……くっ、凄い冷気だ。
西園寺:臣、いい加減にしろ。
七条 :おや、郁、どうしてここへ?
西園寺:海野先生の付き添いだ。
海野 :ねえねえ、七条君……うわっ、ここ寒いね。ツンドラ地帯みたい。
丹羽 :げっ、海野!
七条 :海野先生、どうかしましたか?
海野 :あっ、七条君、入力しようとしたら、何か変な画面が出て来たんだ。ちょっと見てくれない
かな。
七条 :わかりました。では、一緒に行きましょう。
海野 :うん。
丹羽 :ま、待て、海野! 今、ドアを開けるなっ!!
海野 :えっ!? 丹羽君、何? あっ……!
トノサマ:ぶにゃ~ん。
丹羽 :どわわわっっっ……!!!
伊藤 :ああ、折角、片づけたのに……
伊藤 :あっ、駄目、和希……そんなことしたら、俺……ああっ……和、希……
遠藤 :啓太……もっと一杯、俺に見せて……啓太の乱れるところ……
伊藤 :……うん……和希……好き……
遠藤 :ああ、俺も愛しているよ、啓太……
遠藤 :さあ、行こうか、啓太?
伊藤 :……うん……
丹羽 :よう、啓太……って、お前、傘はどうしたんだ?
遠藤 :壊れてしまったんです。ねっ、啓太?
伊藤 :あ……うん……
丹羽 :なら、俺のを貸してやるよ。まだ持ってるからな。
伊藤 :良いんですか、王様? 有難うござ――……
遠藤 :丹羽君、今から停学三日。
丹羽 :はあ? 一体、俺が何やったってんだよ!
遠藤 :俺と啓太の相合傘の邪魔をした。俺より先に啓太と相合傘をした。以上。
丹羽 :職権乱用だ! そんなことが許されると思ってるのか!
遠藤 :勿論。俺が理事長ですから。
伊藤 :和希……幾ら何でも、それは横暴過ぎるよ。
遠藤 :なら、啓太、俺と相合傘をしてくれる?
伊藤 :……だって……その傘、小さいし……
遠藤 :大丈夫。二人でくっついていればぎりぎり濡れない大きさだから。ねっ?
中嶋 :諦めろ、啓太、こいつの嫉妬を消すには他に手がない。
遠藤 :おいで、啓太。
伊藤 :……うん……
遠藤 :ああ、終に啓太と夢の相合傘……! 一杯、皆に見せびらかしてやる!
中嶋 :それは良い考えだな。俺達も目の保養になる。
遠藤 :えっ!? それはどういう意味ですか?
中嶋 :お前が傍にいるお陰で、ほんのり薄紅に染まった頬に初々しい艶が浮かんでいる。それ
が雨の湿度で濡れた白磁の肌と合わさり、酷く想像力をかき立てる。夜に乱れた啓太の淫
らな姿態が目に見える様だ。羞恥と喜悦に全身を甘く色づかせ、切なげに啼きながらも官
能的に腰を揺らして男を貪る――……
伊藤 :な、中嶋さん!
遠藤 :……王様、やはり傘を貸して下さい。さあ、行こう、啓太。
伊藤 :うん!
丹羽 :……さすがだな、中嶋。
中嶋 :目には目を。嫉妬には嫉妬だ。
伊藤 :あっ、西園寺さん、七条さん、おはようございます。
西園寺:ああ、おはよう、啓太。
七条 :おはようございます、伊藤くん、どうやら昨夜はきちんと眠れた様ですね。
伊藤 :はい……って、どうしてわかったんですか?
西園寺:ふっ、ついているぞ。
七条 :ええ、はっきりと。
伊藤 :……!
遠藤 :あれ? まだ朝食を選んでいないのか、啓太?
伊藤 :……和希……左手、貸して。
遠藤 :ああ、良いよ。
伊藤 :右手だけじゃ足りなかった。左手にもつけてやる……!
遠藤 :啓太! 今直ぐ部屋へ戻るぞ!
伊藤 :えっ!? いきなりどうしたんだよ、和希!
遠藤 :今直ぐ啓太にお礼がしたくなった!
伊藤 :お礼? 一体、何のことだよ? ちょ、ちょっと和希~!
中嶋 :全く……朝から騒々しい奴らだ。
伊藤 :……和希……
遠藤 :気がついた、啓太?
伊藤 :うん……和希、いつも有難う……
遠藤 :どうしたんだ、啓太、いきなり……?
伊藤 :いつも……ずっと俺を見てるから……
遠藤 :これは、俺が勝手にやっているだけだよ。
伊藤 :でも、気がついたとき、和希がそこにいると……俺、凄く嬉しいから。だから、有難う。
遠藤 :俺こそ、啓太にそう言って貰えて嬉しいよ。有難う、啓太。
遠藤 :……
伊藤 :どうしたんだ、和希?
遠藤 :石塚に巧く嵌められた。石塚はこうなるとわかっていて、態と俺を焚きつけたんだ。
伊藤 :こうなるって?
遠藤 :……啓太に怒られた。
伊藤 :怒られたって……それ、逆恨みに近いぞ。良い人だろう、石塚さん。俺は好きだよ。
遠藤 :まさか……石塚に気があるのか、啓太!?
伊藤 :何、言ってんだよ、和希。
遠藤 :どんなことがあっても、俺は絶対に啓太を離さないからな!
伊藤 :わっ!! ちょっと、また……ん……っ……
石塚 :今頃、和希様は伊藤君に怒られているでしょうね。しかし、これも仕事の能率を上げるた
めにはやむを得ないことですから……それにしても遅いですね、和希様。