中嶋 :啓太、どのコースにするか決まったか?
伊藤 :はい……あっ、いえ……その……中嶋さんが決めて下さい。
中嶋 :決められなかったのか?
伊藤 :そういう訳じゃ……ただ、俺、中嶋さんが一番喜ぶことをしようって決めたんです。
中嶋 :お前が一番悦ぶことをして欲しいの間違いだろう?
伊藤 :はい。
中嶋 :ほう? 珍しく今日は素直だな。
伊藤 :だって、本当のことだから……
中嶋 :そうか。なら、お前の期待にたっぷりと応えてやる、啓太。
伊藤 :あ……何か凄く嫌な予感……あの……お手柔らかにお願いします、中嶋さん。
中嶋 :ふっ、楽しい夜になりそうだ。
伊藤 :あっ、明かりが……中嶋さん、有難うございます。良かった。俺、暗いと何か落ち着かなく
て……
中嶋 :なら、今夜はお前のためにずっと明かりをつけておいてやる。
伊藤 :はい……って、えっ!? 今夜!? あの……それって、まさか……
中嶋 :明るい方が俺も見易いからな。
伊藤 :そ、そんなの、やだ~っ!!
遠藤 :どうした、啓太?
伊藤 :……和希って着痩せする質だな。
遠藤 :そうか? 気づかなかったな。
伊藤 :そうだよ。腕も胸も触ると結構、しっかりしてる。体力測定の数値は俺と大差ないのに
……あっ、和希、本気でやらなかっただろう?
遠藤 :ああ、成人の俺が混ざったら正しい統計にならないからな。啓太を目安にしたんだ。
伊藤 :そっか……でも、何かずるい。俺、何か納得いかない。
遠藤 :なら、今から啓太にだけ俺の本気を見せてあげるよ。
伊藤 :えっ!? どうやって?
遠藤 :決まっているだろう? こうやって……
伊藤 :あっ、和希、どこ触っ……っ……あっ……ああっ……!
伊藤 :……っ……あっ……中嶋、さん……
中嶋 :……相変わらず、俺の手に良く馴染む。
伊藤 :何、言って……んっ……あっ、やだ……中嶋さん、ちゃんと俺を見て……
中嶋 :ふっ……褒めているだけだ。男を知って、お前の肌は益々密度が濃くなった。自分でもわ
かるだろう、啓太?
伊藤 :そんなの、わかんない……だって、俺には……中嶋さんだけ……中嶋さんだけ、だから
……ああっ……!
中嶋 :可愛いことを言う。お前はずっとそのままでいろ。
伊藤 :は、い……中嶋さん……中嶋、さん……
伊藤 :……中嶋さんは、やっぱり意地悪です。
中嶋 :ふっ、今まで散々よがっていてよく言う。それとも、まだ教え方が足りなかったか?
伊藤 :そ、そういうところが意地悪だって言ってるんです、俺は。
中嶋 :湯飲みで恋人を試すお前の方が余程、意地悪だろう。
伊藤 :えっ!? 恋人って……中嶋さん、俺のこと、ちゃんと恋人って思ってくれてたんですね!
中嶋 :お前は違うのか、啓太?
伊藤 :そんなことありません! 俺は中嶋さんのこと、ちゃんと恋人って思ってます! でも、俺、
いつも中嶋さんに振り回されてばかりだから……もしかしたら、中嶋さんはもう違うのかもっ
て不安で、自信がなくて……
中嶋 :お前は焦らした方が良い反応をするからな。
伊藤 :……っ……中嶋さんの馬鹿。たまには素直に言ってくれても良いじゃないですか。
中嶋 :馬鹿はお前だ。きちんと俺を見ていればわかるはずだ。お前なら、な。
伊藤 :それって……俺のこと認めてるってことですか、中嶋さん?
中嶋 :ああ。
伊藤 :中嶋さん! 俺、嬉しいです!
中嶋 :そうか……
伊藤 :……? 中嶋さん、どうして伸し掛かってくるんですか?
中嶋 :俺に馬鹿などと言う悪い子にはお仕置きが必要だろう、啓太。
伊藤 :あっ、やめ……俺、まだ先刻の……っ……な、中嶋さんの馬鹿~
伊藤 :どうしたんだ、和希? 最近、何か元気ないけど。
遠藤 :……啓太、一つ訊いても良いか?
伊藤 :うん。
遠藤 :啓太は苺より俺が好きだよな?
伊藤 :そんなの当たり前だろう。和希は苺を買えるけど、苺は和希を買えないじゃないか。だか
ら、和希の方が好きに決まってる。好きだよ、和希……大好き。
遠藤 :ああ、啓太! 俺も大好きだ!
伊藤 :もしかして、今までそんなことでずっと悩んでたのか? 馬鹿だな、和希は。俺に訊けば済
む話だろう? ちょっと心配してたんだからな。
遠藤 :ごめん、啓太……ああ、本当に俺は啓太がいないと駄目だな。啓太が苺にずっと夢中
だったから、今の返事次第では世界中の苺を直ぐにでも買い占めて二度と啓太の目に触れ
ないよう隔離しようかと思ったよ。あっ、冗談だよ、勿論。
伊藤 :そのくらい俺でもわかるよ、和希。
遠藤 :ははっ、そうだな。
丹羽 :冗談? どう見ても、あの瞳は間違いなく本気だろう。
中嶋 :ああ。
西園寺:全く……あれがこの学園の理事長とはな。私は時折、奴は分別を海に捨ててきたのでは
ないかと疑いたくなるときがある。
七条 :ええ、本当に。でも、伊藤君もさらっと凄いことを言いましたね。
西園寺:ああ、鈴菱の次期当主と苺を比べられる者など他にいないだろう。
丹羽 :啓太にとって苺と遠藤は同じ重さってことか。さすが啓太……って言うか、逆に考えると情
けねえな、遠藤の奴。
中嶋 :だからこそ、あいつは面白い。やはり遠藤にやるには少々惜しいな。
全員 :全くだ。
遠藤 :……? 何か急に寒気が……風邪かな。
伊藤 :大丈夫、和希? あまり無理するなよ。
遠藤 :有難う、啓太、愛しているよ。
伊藤 :あの……中嶋さん、今夜はどこで寝るんですか?
中嶋 :ここにベッドがあるだろう?
伊藤 :えっ!? だ、駄目です! ここ、病院ですよ! そんなの絶対、駄目!
中嶋 :なら、お前は俺に床で寝ろと言うのか?
伊藤 :そんなことは……
中嶋 :このベッドはセミ・ダブルだな。少し狭いが、まあ良い。
伊藤 :狭いって……何もしなかったら狭くないです。
中嶋 :ほう? 期待している様な口振りだな。
伊藤 :違っ……んっ……っ……あ……中嶋、さん……
中嶋 :ふっ、そんな顔をするな。ここは病院だぞ、啓太。
伊藤 :……わかってます。
中嶋 :さあ、もう寝ろ。入院患者の就寝は九時だ。
伊藤 :子供じゃないのに、俺、こんな時間から眠れません。
中嶋 :安心しろ。お前はまだ充分に子供だ。
伊藤 :酷いです、中嶋さん……あっ、なら、中嶋さんの手を握っても良いですか? 俺、まだ子供
だから一人は嫌なんです。今夜は、ずっと俺の傍にいて下さい。
中嶋 :良いだろう。
伊藤 :ふふっ、中嶋さん……大好き。
中嶋 :ああ、知っている。
2009.3.6
中嶋さんは言葉より行動で示す人なので、
啓太は昼夜を問わずに可愛がられています。
結構、中嶋さんも甘党です。
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