伊藤 :……和、希……?
遠藤 :ごめん……起こしたか?
伊藤 :……ううん。
遠藤 :良かった……おはよう、啓太。
伊藤 :あ……おはよう……和希、もう行くんだ……頑張ってね。
遠藤 :有難う。啓太はまだ寝ていても大丈夫だよ。起こしてはあげられないけれど、目覚ましを
セットしておいたから。
伊藤 :うん……そうする……
遠藤 :でも、その前に……おはようと行ってきますのキスを……っ……
伊藤 :……あっ……和希……んっ……
中嶋 :起きろ、啓太……いつまで寝ているつもりだ?
伊藤 :う、ん……あと五分……
中嶋 :遅刻する気か? さっさと起きろ。
伊藤 :……もう、少し……
中嶋 :置いて行くぞ。
伊藤 :……うん……俺のことは放っといて、和希……
中嶋 :……
伊藤 :わっ!! いきなり何するんだよ、和希……って、あれ? 中嶋さん?
中嶋 :俺のベッドで他の男の名前を二度も出すとはな。
伊藤 :えっ!? あっ、それは……俺、ちょっと寝ぼけてたから……ごめんなさい、中嶋さん。
中嶋 :なら、その寝起きの頭に改めて叩き込んでやろう……啓太、一体、お前が誰のものか。
伊藤 :そ、そんなことしたら授業が……あっ、やだ、中嶋さっ……んっ……あ、ああっ……!
遠藤 :啓太、今になって漸く昨夜の啓太の気持ちがわかったよ。俺も少し不安になってきた。
伊藤 :大丈夫だよ、和希……俺達なら、きっと。
遠藤 :いや、大丈夫なはずがない! 啓太は来年はもっと可愛くなるだろう。再来年はもっと、
もっと可愛くなる。その翌年はもっと、もっと、ずっと可愛くなって……そうして、いつか俺は
啓太を見る総ての人に嫉妬してしまうんだ!
伊藤 :はあ……いつも言ってるだろう、それは和希の欲目だって。
遠藤 :そんなことはない! 現に学園内には啓太を狙ってる奴がまだ大勢いる。昨日の『伊藤啓
太誕生日パーティ』に、どれほど人が集まったのか知っているだろう? 生徒主催なのに石
塚や岡田、加賀見までいたんだ。全く……油断も隙もない!
伊藤 :単に連休だから暇だっただけと思うけど。
遠藤 :素直なのは啓太の美徳だけど、あまりに素直過ぎるのも心配だよ、俺は。
伊藤 :なら、和希は自分を一番嫉妬することになるよ。だって、俺はいつも和希の傍にいたいか
ら。俺の瞳には和希しか映ってないから。
遠藤 :ああ、啓太……!
伊藤 :か、和希、これ以上はもう駄目だからな。授業に遅刻するだろう?
遠藤 :わかっているよ……ねえ、啓太、週末に改めて誕生日を祝おう? 今度は、二人だけで。
外泊届けを出して。
伊藤 :……っ……うん……
遠藤 :愛しているよ、啓太。
伊藤 :俺も愛してるよ、和希。
石塚 :失礼します。
伊藤 :あっ、石塚さん、こんにちは。
石塚 :こんにちは、伊藤君、飲み物をお持ちしました。どうぞ。
伊藤 :有難うございます。あっ、オレンジ・ジュース。珍しいですね……すいません、何か余計な
気を使わせたみたいで。
石塚 :いえ、そうではありません。ただ、あの花を見ていたら、ふと飲みたくなりましたので、ミモ
ザを。
伊藤 :何ですか、それ?
石塚 :この世で最も美味しくて贅沢なオレンジ・ジュースと言われるシャンパン・ベースのカクテ
ルです。シャンパン・ロ・ランジュとも呼ばれます。フルート・グラスにシャンパンを注ぎ、同量
のオレンジ・ジュースを加えるだけですが、食前酒には最適です。いつか和希様と一緒に飲
んでみてはいかがですか?
伊藤 :はい、そうします。
石塚 :……伊藤君、和希様はもうじき戻られますから、ゆっくりしていって下さいね。
伊藤 :有難うございます、石塚さん。
石塚 :それでは、失礼します。
伊藤 :……本当、石塚さんって良い人だよな。ミモザか……うん、覚えておこう。
伊藤 :あ~っ!!
中嶋 :……っ……いきなり耳元で大声を出すな。
伊藤 :だって、中嶋さん……俺、薔薇をあのままにしてたから。どうしよう……もう枯れてるかも
……折角、中嶋さんから貰ったのに……
中嶋 :机を見ろ、啓太。
伊藤 :あっ、薔薇を挿したグラス……中嶋さんが水をあげてくれたんですね。有難うございます。
でも、いつ、そんなことをしたんですか? 俺が部屋に来てからは直ぐベッドに……
中嶋 :昨夜、お前が意識を飛ばした後だ。
伊藤 :そ、それは中嶋さんが、あんなにするから……
中嶋 :お前が積極的だったからな。
伊藤 :……っ……だって、漸く二人きりになれたから。あっ、勿論、皆が祝ってくれたのはとても
嬉しかったです。でも、俺、もっと中嶋さんと一緒に……
中嶋 :なら、週末は改めてお前の誕生日を祝ってやろう。今度は、二人だけで。外泊届けを出し
て。
伊藤 :中嶋さん……!
中嶋 :ふっ、もう期待に満ちた顔をしているな。昨夜のあれでは、やはり物足りなかったか?
伊藤 :……っ……そんなこと……
中嶋 :冗談だ。
伊藤 :もう……また俺をからかったんですか。でも、良いです。愛してます、中嶋さん。
中嶋 :ああ、知っている。
伊藤 :……っ……そんなに見るなよ、和希……恥ずかしいだろう。
遠藤 :でも、綺麗だよ、啓太……まるで金色に輝いている様に見える。
伊藤 :和希……
遠藤 :啓太、来年もこうして祝ってくれる?
伊藤 :……ロゼ・シャンパーニュ付きで?
遠藤 :勿論。
伊藤 :……っ……良い、けど……
遠藤 :有難う、啓太……愛しているよ。
伊藤 :うん……俺も。
丹羽 :う~ん、今日も良い天気だ。絶好の釣日和だな。よし! 行くとするか! 道具、道具……
伊藤 :王様。
丹羽 :よう、啓太、昨日は助かったぜ。サンキュー。
伊藤 :……今日も、また釣ですか?
丹羽 :おう! あのルアーは凄く調子良いからな。見たか、あの魚拓? 今日は、あれ以上の大
物を釣ってくるからな。
伊藤 :駄目です。今日こそ、あの書類を全部、片づけて貰います。
丹羽 :そんな硬いこと言うなよ、啓太、中嶋みたいになっちまうぞ。
伊藤 :王様のせいで、昨日、俺は酷い目に遭ったんです。だから、きっちり責任を取って貰いま
す。
丹羽 :あ~、結果的に啓太を利用したのは悪かったと思ってる。すまねえ。中嶋のことだから、ど
んな目に遭ったかなんて訊かなくてもわかる。凄かったんだろう? いや、激しかったと言う
べきか?
伊藤 :えっ!? べ、別にそんなこと……そ、そもそも、生徒会室で何かする訳ないじゃないです
か!
丹羽 :どうしたんだ、啓太? 顔が真っ赤だぜ。中嶋のせいで、風邪でも引いたか?
伊藤 :そ、そんなことないです!
丹羽 :本当か? 何なら俺から中嶋に言ってやるぜ? もう少し啓太に優しくしろって。少しは啓
太の身体も考えて――……
伊藤 :お、王様! そんなこと言ったら、俺、一週間は登校出来ません! やめて下さい!
丹羽 :だが、俺にも少しは責任あるしな。遠慮しなくても良いぜ、啓太、どうせ乗り掛かった船
だ。この際、俺がはっきり中嶋に言ってやる。
伊藤 :結構です! 俺のことはもう良いから、王様は早く釣に行って下さい!
丹羽 :いや、そういう訳には……
伊藤 :昨日以上の大物、俺、楽しみにしてますから!
丹羽 :そうか? 啓太にそこまで期待されたら、俺も俄然やる気が湧いてきたぜ! じゃあ後は
頼んだぜ、啓太!
伊藤 :はあ……昨日のことは思い出すだけでも恥ずかしいのに。目を塞がれると次に何がくる
かわからないから、俺、いつも以上に敏感になって……しかも、中嶋さん、一々それを言葉
にして……俺、当分、あの机で仕事出来ないよ……ああ、もう! 王様と中嶋さんの馬鹿~
中嶋 :馬鹿はお前だ。
伊藤 :中嶋さん!?
中嶋 :何度も同じ手にやられるな。昨日、丹羽が思わせぶりなことを言ってお前を引っ掛けたの
をもう忘れたのか?
伊藤 :あっ……!
中嶋 :どうせ丹羽に訊けば、俺の怒りが激しくてお前が冷たくされたと思った、とでも言うつもり
だろう。
伊藤 :そんな……昨日のは俺の一方的な勘違いだと思ってたけど、態とそういう話し方してたん
ですか……王様の馬鹿。
中嶋 :だから、先刻から言っているだろう。馬鹿はお前だ。
伊藤 :中嶋さんも見てたなら捕まえれば良かったじゃないですか。
中嶋 :お前の反応が面白かったからな。
伊藤 :なら、これは俺だけの責任じゃないと思うんですけど……
中嶋 :丹羽に行って良いと言ったのは誰だ?
伊藤 :……!
中嶋 :そんな許可を与えたのは総ての責任を負う覚悟があるからだろう、啓太?
伊藤 :だ、だって、それは……俺だけじゃなく、中嶋さんだって……
中嶋 :お仕置きだ。
伊藤 :わ~ん、王様に優しくしろって言って貰えば良かった~
2009.6.26
さり気なく知能犯の王様。
猫は苦手でも、やるときはやります。
でも、あまり啓太をだしにすると可哀相かも。
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