快感の余韻に震える啓太は目元をほんのり桜色に染め、濡れた口唇で艶めかしい吐息をついていた。夜に浮かぶ白磁の肌は男を知って更に輝きを増している。中嶋は啓太が敏感なのは知っていたが、まさかこれほど見事に咲くとは思わなかった。やはり気持ちを伴っているからだろう。正直、それはかなり妬けた。しかし、遠い日に交わした約束だけを胸に生きるなど自分には出来なかった。その想いの強さは認めても良いと思った。だから……受け入れる。
「中嶋さん……」
 啓太が瞳で口唇を強請った。中嶋は直ぐに応えて深く舌を絡めた。
「ふ、あっ……んっ……あ……」
 その熱く眩う感覚を堪える様に啓太が小刻みに震えた。身体の奥がざわつき、和希の熱を感じた場所が妖しく疼く。甘い声が零れて……が、突然、啓太は中嶋を突き放した。
「……っ……」
 怪訝そうに眉を上げる中嶋の前で、啓太は真っ赤になって俯いた。すると、背後から和希が顔を寄せて低く囁いた。
「どうしたの、啓太?」
「和、希……」
 啓太は恥ずかしそうに呟いた。和希の舌が耳を嬲る。
「もしかして、これ……?」
 するりと和希の掌が内腿を撫で上げた。
「やあっ……!」
 啓太が大きく仰け反った。身を起こしたら和希の放った熱が逆流してきたのに、そんなふうに触らないで欲しい。溢れてしまうから……!
「んっ……」
 入口を緩々となぞられ、腰が砕けそうな快感に粟立つ肌をとろりと何かが伝った。居た堪れなくなった啓太は中嶋の胸にしがみついた。じわっと涙が滲んでくる……
「あまりこいつを苛めるな、遠藤」
 中嶋が啓太の髪を優しく梳いた。
「貴方に言われたくはありません、中嶋さん」
 和希が僅かに目を眇めた。
 啓太の縋る相手が自分でないのは、正直、かなり妬けた。しかし、和希には自ら偽悪者となって啓太に同性への恋心を自覚させることは出来なかった。中嶋のやったことを総て肯定する訳ではない……が、その想いの強さは認めても良いと思った。だから……受け入れる。
「……ごめん、啓太」
 和希は啓太の肩に小さく口づけた。
「啓太の初々しさが可愛くて、つい苛めたくなった」
「……っ……馬鹿……」
 殆ど聞き取れない声で啓太は呟いた。和希がクスッと笑った。
「啓太は本当に恥ずかしがり屋だね」
「だって……」
 顔を上げて、啓太は和希を振り返った。すると、中嶋が言った。
「なら、俺がそんなことなど考えられなくしてやろう」
「えっ!?」
 その言葉を理解するよりも早く、身体がくるっと反転させられた。入口に熱を宛がわれ、啓太の中に先ほどの快感が蘇る。
「はあ、ん……」
 思わず、零れた甘やかな吐息に中嶋が口の端を上げた。
「もう期待しているのか?」
「そ、んな……こと……」
 否定したものの、啓太の腰は無意識に揺れて濡れた先端を緩々と擦りつけていた。和希が啓太の両手を取って自分の肩へ導いた。
「啓太、俺に掴まって」
「あ……うん」
 しかし、啓太はその意味がわからないのか、軽く目を瞬いた。掴まって、どうするんだろう……? そう思った瞬間――……
「あ、ああっ……!」
 下から一気に貫かれた。
 既に開いた身体は痛みこそあまりなかったが、喉まで込み上げる圧迫感はやはり苦しくて涙が零れた。それなのに、嬉しくて胸が震える。中嶋の冷たい言葉や態度の裏にある密かな優しさに気づいて以来、ずっと惹かれていたから。俺は、中嶋さんを愛してる……
「あっ……ふっ……」
 ゆっくりと浅い呼吸を繰り返しながら、啓太は自ら腰を下ろしていった。もっと、もっと……と急く心を抑え、和希の肩に掴まって揺らぐ身体を支える。そうして更に深くまで中嶋を迎え入れた。背筋が痺れる様な快感に下肢から力が抜けてゆく。
「……あっ……はあ、んっ……」
 漸く総てを収めた啓太は上体を軽く捻って中嶋へ瞳を流した。
「好き……中嶋さん……」
「そうか……」
 中嶋は穏やかな微笑を浮かべると、緩急をつけて動き始めた。蠢く内壁をかき分け、啓太の敏感な部分を何度か擦る。すると、啓太が大きく痙攣した。
「駄目っ、そこっ……や、ああっ……!」
 一度、達した身体が性急に高みへ駆け上ろうとした。中嶋が啓太の脚を左右に大きく割り開いた。
「遠藤……っ……抑えろ」
 今にも弾けそうな中心にすぐさま和希の指が絡みついた。
「い、嫌っ……!」
 逃げようとした細腰を中嶋が掴んで引き寄せた。少し息を乱して熱く囁く。
「まだ、だっ……啓太っ……」
 奥まで強く穿たれ、啓太が声を張り上げた。
「あ、ああっ……!」
 中嶋は心の求めるまま、まるで総てを奪い尽くすかの様に容赦なく啓太の身の内をかき混ぜた。時折、胸に咲く小さな飾りをきつく摘んで捏ねる。そのピリッとした刺激が啓太の意識を甘く痺れさした。
「あっ……ああっ……良い、中嶋さんっ……ああっ……」
 艶めかしく悶える身体に和希の口唇が降ってきた。利き手で啓太を戒めながら、白い柔肌を舐(ねぶ)って追い上げる。眩う様な快感に翻弄され、もう啓太には二人の区別がつかなかった。ただ、好きな人に抱かれる歓びだけが満ちてゆく……
「好、き……和希……中嶋、さんっ……好きっ……」
「俺も好きだよ、啓太……愛している」
「お前は……っ……俺のものだ、啓太……」
 啓太は嬉しそうに頷くと、右手を上げて中嶋の頭を抱き寄せた。左手では和希を。二人がそれぞれ首筋に己が愛を誓う。同時に中嶋が最奥を強く抉り、和希が啓太を手で大きく扱き上げた。
「はあ、ああっ……!」
 一際、高い嬌声が夜のしじまに響き渡った。そして、中嶋の熱い迸りを感じながら、啓太は終に意識を手放した。

 身支度を整えた和希は泥の様に眠る啓太を心配そうに見つめた。中嶋は窓辺にもたれて蒼ざめた月を眺めていたが、やがて呆れた様に小さく息を吐いた。
「疲れて眠っているだけだ。明日は辛いかもしれないが、直ぐに慣れる。こいつには素質がある。まさに男に抱かれるためにある身体だからな」
「まさか啓太があんなにも感じ易いとは……今でもまだ少し信じられません」
「なら、もう一度、抱いてみるか? 俺は先刻、抑えたからな。今度は本気で――……」
「冗談はやめて下さい」
 ピシャリと和希が言った。中嶋が低く喉を鳴らした。
「う、ん……」
 啓太が小さく寝返りを打った。和希は少し乱れた布団を直そうとベッドへ寄った。すると、白い首筋に二つの小さな赤い印があるのが目に留まった。思わず、顔を綻ばせ、嬉しそうにそれに触れる。
「明日は成瀬が大騒ぎだな」
 いつの間にか、隣に中嶋が立っていた。そうですね、と和希は頷いた。
「俺はいつものことで慣れていますが、貴方はどうするんですか、中嶋さん? 成瀬さんは貴方のことも知っていますよ」
「問題ない。だが、成瀬には感謝している」
「俺もです。迷っていた啓太は俺達を避けていました。その間、啓太をずっと支えてくれたのは成瀬さんでした……」
「……」
 中嶋は静かに啓太を見つめた。そして、昨日、生徒会室で成瀬に言われたことを思い出した。啓太が間違った決断をしようとしてます……
『……もし、啓太が俺を選んだら……それが貴方達から逃げるためだとわかってても、俺は啓太を拒めません。啓太を愛してるから。それに、啓太が少なからず俺のことも想ってると知ってますから。その気持ちを二人でゆっくり育んでいこうと思います。でも……悔しいけど、それは貴方達に向ける想いを越えるほど大きくはならない。啓太の心には永遠に貴方達がいる。俺では駄目なんです。俺では啓太を幸せに出来ない。だから、副会長、啓太がどちらも選べないなら、貴方達が決断してくれませんか? 三人で生きる路を……』
「成瀬さんには大きな借りが出来きました」
 啓太の額に掛かる髪を和希が優しく払った。わかっている、と中嶋は呟いた。
 成瀬には本当に辛い思いをさせてしまった。それでも、今夜は愛する者を手に入れたこの歓びに浸りたい……ずっと待ち望んでいたのだから。これからのことは後で考えれば良い。そう……明日にでも。
 二人の瞳が小さく笑った。
「中嶋さん、もう戻りませんか? 名残惜しいけれど、少しは寝ないと明日に障ります」
 和希がドアへ促す様に頭を振った。
「そうだな。明日に備えて、そろそろ休んだ方が良いだろう」
「……」
 やけにあっさりした物言いに和希は不穏な気配を感じた。まさか……明日の晩も啓太を……
「中嶋さん、啓太の身体はまだ成長途中なんです。過度の負担を掛ける行為は謹んで下さい」
「なら、俺達だけで楽しむとしよう」
「そんなことは絶対に許さない」
 急に和希の表情が大人びたものに変わった。ふっ……と中嶋が口の端を上げた。
「どうやらお前とは話し合うべきことがまだ色々ありそうだな。明日の放課後、生徒会室へ来い」
「こういう場合、君が理事長室へ来るべきだろう」
「俺はそれでも構わない。だが、明日は生徒総会の資料編集で忙しい。俺がいなければ、こいつは丹羽に良い様に使われるだろう。それでも、良いのか?」
「くっ……」
 和希は拳を握り締めた。
 真面目な啓太は体調を隠して普段通りに振舞おうとするだろう……生徒会が忙しいと知ったら、なおさら。つまらない意地で、啓太にそんな無理はさせられなかった。しかし、生徒会室に行ったら、間違いなく自分も仕事を手伝わされることになる。やられた……!
「わかりました。俺が生徒会室へ行きます」
 苦々しく呟く和希を見て中嶋が眼鏡を軽く指で押し上げた。すると、小さな笑い声が聞こえた。
「和希、負けちゃったね」
 ベッドの中から啓太が楽しそうに二人を見上げた。和希は軽く頬を掻いた。
「ごめん。煩かったよな。もう俺達も部屋に戻るから」
「うん……」
 啓太は少し寂しそうに頷いた。三人で寝るにはこのベッドは小さ過ぎる……
「そんな顔をするな」
 中嶋の手がくしゃっと啓太の髪を撫でた。和希がふわりと微笑んだ。
「啓太、夢で待っていて。二人で直ぐ逢いに行くから」
「うん」
 二人は交互に啓太の瞼に口づけた。まだ疲れていた啓太はその温もりに導かれ、再び眠りへ誘(いざな)われてゆく。二人は無言でドアへと向かった。あまり長く啓太を待たせては可哀相だから。そして、夢で逢ったら……もう一度、言おう。お前を愛している、と……



2010.3.19
You belong to me.
貴方は私のもの。貴方達は私のもの。
そして、ただひたすら啓太が愛される。

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Café Grace
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