昼下がりの静かな浜辺に、寄せては返す波の音に混じって艶めかしい声が響いていた。
「あ、あっ……中嶋さっ……ん、ああっ……」
 下肢を露わに中嶋に跨る啓太の身体が無意識に逃げを打った……が、深く貫かれているので殆ど動けない。寧ろ、逆に中嶋を強く意識してしまい、中心から新たな蜜が溢れた。それをすかさず和希の指がすくい取る。
「凄く感じているね、啓太」
「そ、んなこと……ああっ……!」
 ピクンと啓太が跳ねた。中嶋が小さく口の端を上げた。
「やはりお前は淫乱だな。そんなはしたない声を……っ……外で、上げて……」
「違っ……あ、ああっ……」
 しかし、否定する言葉は直ぐ甘やかな嬌声に代わってしまった。肌を撫でる潮風に今の自分の姿を思い知らされて堪らなく恥ずかしいのに、中嶋が突き上げる度に痛みにも似た快感が腰の奥から湧いてきた。それがもっと欲しくて……もっと、もっと……
 その心に反応して内壁が熱く中嶋に絡みついた。すると、不意に横から和希が啓太を抱き締めた。耳元で低く囁く。
「啓太はいつも可愛いけれど、そんなに気持ち良さそうだと……少し妬けるな」
 ねっとりと首筋に舌を這わせながら、和希が啓太を大きく包み込んだ。きつく掌を上下に滑らせ、時折、敏感な先端を丸く撫でる。啓太の肌が一気に粟立った。
「やあっ……和、希っ……!」
 身体の奥がキュッと収縮し、一瞬、中嶋が微かに息を詰めた。
 性に目醒めたばかりにもかかわらず、啓太は既に男を誘う術を知っていた。慎ましく恥じらいながらも快楽を求めて艶(あで)やかに咲き乱れる白い花……これも一種の才能だな、と中嶋は密かに感嘆した。
「もっと腰を動かせ、啓太……」
「……駄、目っ……んっ……中嶋、さんっ……ああっ……」
 ふるふると啓太は首を横に振った。圧倒的な中嶋の存在感に下肢に全く力が入らなかった。大丈夫、と和希が言った。
「俺が手伝ってあげるよ、啓太……」
「何、和希っ……あっ……は、ああっ……!」
 和希に持ち上げられた身体が自重で再び中嶋の上に沈み込んだ。つま先まで満たされる悦びに啓太は大きく仰け反った。その感覚を煽る様に和希が啓太を強く擦り始めた。中嶋が激しく身の内をかき混ぜる。
「あ、あっ……ああ……ああっ……」
 二人に合わせて自然に啓太の腰が揺らめいた。下肢の狭間に熱が集まり、太腿が小刻みに痙攣した。やがて――……
「はあ、ああっ……!」
 和希の手の中で啓太が弾けた。同時に最奥に中嶋の迸りを感じ、身に過ぎた快感に僅かに意識が飛んだ。中嶋の胸に両手をついて啓太は崩れそうな身体を何とか支えた。しかし、休む間もなく、中嶋が項を掴んで口づけてきた。それに応えようとすると、今度は和希に腰を持ち上げられ、啓太は小さく喘いだ。敏感な身体は中嶋との繋がりが解ける微かな刺激にさえも感じてしまう。失った形を惜しむ様に身体の奥が収縮するのがわかり、啓太は頬を赤らめた。
「あ……っ……」
 そこに再び別の熱が宛がわれた。
 中嶋の上に四つ這いになったまま、啓太がそっと振り返ると、情欲を秘めた和希の瞳がそこにあった。良い、と訊く和希に啓太はコクンと頷いた。
「あ、ああっ……」
 ゆっくりと貫く和希に、中嶋とはまた違う質量を感じて腰が悦んだ。潤った身体は嬉しそうに和希を迎え入れる。
「……っ……好きだよ、啓太……」
「んっ……俺、も……好き……和希、和希っ……ああっ……!」
 動き出した和希に啓太の背が大きくしなった。熱く眩う様な快感に啓太の眼差しが蕩けてゆく。それを見た中嶋が、はだけたシャツの隙間から胸に咲く実を指できつく摘み上げた。輪郭を爪の先でなぞって押し潰され、思わず、啓太が声を張り上げた。
「ふっ……相変わらず、ここが弱いな、お前は」
「ああっ……中嶋、さんっ……中嶋、さっ……ん、ああっ……」
 うわ言の様に名前を呼ぶ啓太の髪を誰かが優しく撫でた。啓太は幸せそうに微笑み、そして、二人が呼ぶ自分の名前以外は何もわからなくなってしまった……

 一時間後、和希と中嶋はまだ足元の覚束ない啓太を間にして寮へ向かって歩いていた。和希が啓太の髪についていた砂を軽く払って言った。
「帰ったら、まずは風呂だな。俺が洗ってあげるよ、啓太」
「そ、それくらい……自分で出来る」
(和希の過保護は今更だけど……俺、もう大丈夫なのに……)
 恥ずかしそうに啓太は俯いた。はあ、と中嶋がため息をついた。
「あまりこいつを甘やかすな、遠藤」
「俺は別に甘やかしていません。ただ、啓太を疲れさせたのは俺達ですから、その責任を取りたいだけです。また啓太が湯船で寝てしまったら、どうするんですか」
「ほう? そんなことがあったのか、啓太?」
 中嶋が僅かに柳眉を吊り上げた。
「えっ!? あ……はい、一度だけですけど」
 それに気づかない啓太は素直に頷いた。
 まだ二人と付き合ってなかった頃、生徒会の仕事で酷く疲れた啓太は大浴場の湯船で寝入ってしまったことがあった。のぼせる前に和希が気づいて部屋まで運んでくれたから良かったものの、先例があるだけに、啓太も入浴に関しては和希をあまり強く拒めなかった。
 成程、と中嶋が呟いた。
「お前は既に遠藤に抱かれていたのか」
「だ、抱かれてって……!」
 ポンッと啓太が沸騰した。だって、あの頃はまだ……
「裸で男に抱かれたことに違いはない」
 眼鏡の奥で中嶋の瞳が鋭く光った。その視線を遮って和希が中嶋を睨みつけた。
「俺は貴方とは違います」
「そうは思えないな」
 ふっ、と中嶋が鼻で笑った。険悪になりそうな雰囲気に啓太が慌てて口を挟んだ。
「そういえば、和希、まだ大浴場は開いてないけど、どうするんだ? それまでこの格好で待つつもりなのか?」
 そのくらいなら部屋の浴室を使った方が良い、と啓太は思った。ただ、そこはあまり広くないので三人で入るのは無理だった。一旦、分かれて、それぞれ自室でシャワーを浴びることになる……が、肌を合わせた直後のせいか、それはとても切なかった。まだ……離れたくない……
 まさか、と和希が言った。そして、表情を曇らせている啓太を覗き込み、ふわりと微笑んだ。
「そんなことをしたら、啓太は風邪を引くだろう。実は、こんなこともあろうかと思って今日は特別に三時から大浴場に入れるよう手配しておいたんだ。でも、一般生徒は通常通りだから安心して、啓太」
「……? うん……」
 和希の言葉に啓太は密かに首を傾げた。何で他の人が通常通りだと安心なんだろう……?
 そんな啓太を見て中嶋が小さく口の端を上げた。
「ふっ……そんな顔をして……本当は期待しているのだろう、啓太」
「えっ!? 何をですか?」
「誰も来ないなら丁度良い。濡れた身体が温まるまで、これからゆっくり……楽しませて貰うとしよう」
「……っ……!」
 幾ら性に疎い啓太でも、そこまで言われて悟れないほど鈍くはなかった。予め大浴場に手を回していたということは、和希は三人で入浴するつもりだったと漸く啓太は気がついた。
(だったら、あんな処でしなくても……俺だけ殆ど脱がされて凄く恥ずかしかったのに……)
 しかし、好きな人に求められ、自分を与える歓びは何物にも代えられなかった。二人を愛しているから。たとえ、それが人気のない浜辺でも、大浴場でも……嬉しかった。
 少し気まずそうに頬を掻く和希と眼鏡を軽く押し上げる中嶋を啓太は真っ直ぐ見つめた。それぞれの手をそっと静かに握り締める。
「……じゃあ、早く行こう」
 小さくそう呟いた啓太の顔は、まるでのぼせた様に真っ赤になっていた。



2010.10.1
Call my name.
名前を呼んで。
時間軸的に『Beyond the sea』の続編になっています。
人気のない大浴場に響く啓太の嬌声に、
今度は和希と中嶋さんがのぼせそうです。

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Café Grace
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