”So Mr.Jones.”
 日本の治療を終えて医者が立ち上がった。アメリカは握手をしながら、抑えた声量で礼を言った。
”Yeah,thank you for your cooperation.”
”Not at all.”
 医者は短くそう答えて去って行った。アメリカはベッドの枕元に静かに腰を下ろした。
 日本の傷は化身の持つ高い治癒力で既に治り始めていたが、深い部分は何針か縫わなければならなかった。暫くは痛むので、日本は処方された鎮痛剤を飲んで今は眠っている。黒髪から覗く白い包帯があの大戦後に会った、いつかの傷だらけの日本を思い起こさせてアメリカの表情が暗く沈んだ。君のこんな姿は、もう二度と見たくなかったのに……
 イギリスが慰める様に優しく肩に手を置いた。
「そんなに気を落とすな、アメリカ、頭部損傷による一時的な記憶障害だって医者も言ってただろう。直ぐに思い出すさ」
「でも、俺のことは全部、忘れてるんだぞ……君のことは覚えてるのに」
「覚えてるって言うより、ここ数百年分の記憶が飛んでるんだ。あの頃、お前はまだいなかったんだから仕方ねえだろう」
「……」
 確かにその通りだが、まるで自分だけ日本の記憶から抜け落ちてしまった様でアメリカは納得出来なかった。日本が知っているイギリスに対して嫉妬にも似た怒りすら感じてしまう。君は日本が覚えてるからそんなことが言えるんだ、と子供染みた八つ当たりをしないようアメリカは固く口を閉ざした。
「全く……」
 イギリスは短く嘆息した。アメリカの気持ちはわからなくはないものの、今は落ち込んでいる場合ではなかった。しっかりしろ、とイギリスは語気を強めた。
「やることが山積みなんだ。今後の対応をきちんと考えねえと、記憶が戻ったときに日本が困るだろう。取り敢えず、お前は議長国だから早く議場へ行って日本と俺は欠席すると各国に伝えろ。日本の怪我のことはまだ伏せておけ。俺は日本の部下へ現状を伝えに行く。恐らく日本の上司に判断を――……」
「駄目だ。日本の部下には伝えなくて良いんだぞ」
 アメリカが急に言葉を遮った。イギリスは眉をひそめた。
「そういう訳にはいかねえだろう。幾ら化身に政治的権力はねえって言っても、心理的影響力はあるんだ。俺達は現状を日本の部下に伝える義務がある」
「そんなことをしたら、彼らは日本を国に連れ帰ってしまうんだぞ。日本がまた鎖国したら、どうするんだい! 今の日本は、あの頃まで記憶が戻ってるんだ!」
「もう昔の様にはいかねえよ。それは日本も直ぐ理解するはずだ」
「そんなことわからないだろう。確かに政策としての鎖国はもうあり得ないけど、日本が引き籠もってしまう可能性は高いんだ。現に先刻だって念のためにレントゲンを撮りに病院へ連れて行こうとしたら、日本は部屋から出るのを凄く嫌がったじゃないか。あの様子では国に返したら、記憶が戻るまで二度と外には出て来なくなる。だから、日本はここで療養させるんだ。君には俺の言葉に従って貰う。勝手な行動は許さない」
「アメリカ!」
 高圧的な物言いにカチンときてイギリスが声を荒げた。アメリカはプイッと顔を背けた。その表情に、一瞬、イギリスはどこか見覚えがある気がした。小さく頬を膨らませて怒っているのに、なぜか泣きそうに見える。ああ、そうか……とイギリスは思い出した。
(アメリカがまだ幼かった頃、国に帰ろうとする俺に精一杯の虚勢を張ってたときと同じ顔なんだ)
 日本に忘れられて不安と寂しさで一杯の今のアメリカの姿が、イギリスの中で遠い日の記憶と重なった。強がってるけど、こいつは日本に傍にいて欲しいんだ……
「……」
 袂を分かったとはいえ、イギリスにとってアメリカは未だに弟の様な存在だった。その願いを無下に断ることは兄としてどうしても出来なかった。気づいてしまったのなら、なおさら。
(本当……甘いよな、俺も)
 イギリスは密かに自嘲した。そして、言った。
「だが、まあ、お前の考えにも……そう、一理あるかもしれねえな。明日にでも記憶が戻る可能性を考えずに、日本の部下に知らせて事を大きくするのは確かに得策じゃねえ。だから、暫くは俺達で様子を見る……ということなら、協力してやっても良い」
「有難う、イギリス」
 アメリカが嬉しそうに振り返った。
「別にお前のためじゃねえ。日本に引き籠もられたら俺も困るからだ。それに、今、日本を帰国させるのは……実は俺も反対だ」
 少し間を置いて、イギリスはポケットから例の拳銃を取り出した。アメリカの怪訝そうな表情で一縷(いちる)の望みが絶たれたのを悟ったが、一応、訊いてみる。
「この銃に見覚えはねえか?」
「何だい、それは? そんな銃、見たことないんだぞ」
「これは日本が持って物だ」
「……!」
「お前が護身用に渡したのかと思ったが、違うなら日本はこれをどこで入手したんだ? もしかしたら、今回の件と関連があるのかもしれねえ」
「貸して」
 アメリカが大きく掌を広げた。イギリスから拳銃を受け取ると、すぐさま銃口に鼻を寄せる。
「……最近、発砲してる」
 硝煙の匂いにアメリカの中でカチリと何かのスイッチが入った。
(この銃の持ち主が日本を襲って記憶を奪った犯人なら……たとえ、それが俺の国民であろうとも、許さない)
 アメリカは無言で立ち上がった。イギリスの翠玉の眼差しが鋭く光った。
「どこへ行くつもりだ?」
「NYPD(ニューヨーク市警)で調べてくる」
 足早に寝室から出て行くアメリカを見送ってイギリスが低い声で呟いた。
「本気で怒ってるな、あれは」
 でも、まあ、人間相手に手加減する理性くらいはあるだろう……と放っておくことにした。自国民でもない者がどうなろうと知ったことではなかった。煮るなり、焼くなりアメリカの好きにすれば良い。寧ろ、そいつはイギリス人でなかったことに感謝すべきだ、とさえ酷薄に思った。
(お陰で、俺の呪いを受けなくて済むからな)
 一度でも懐に入れた者には情に厚いイギリスの怒りは、ある意味、アメリカよりも深かった。
「全く……災難だったな、日本」
 何とはなしにイギリスは日本に話し掛けた。
 かつて同盟を組んでいた日本はイギリスには数少ない友人だった。アメリカには悪いと思うが、日本が自分を覚えていたのは――たとえ、それが出逢った時間の違いに過ぎなくとも――頼りにされている気がして嬉しかった。
「そうだ。日本が起きたら喉が渇いてるだろうし、お茶の用意でもしておくか。丁度ここに良い茶葉もあるしな」
 日本のために持って来た紅茶の包みをイギリスは手に取った。約束の紅茶は記憶が戻ったら改めて渡せば良いだろう。その方が逢いに行く口実にもなる。取り敢えず、今は日本と一緒に美味しい紅茶が飲みたかった。
「あとはスコーンがあれば完璧なんだが……」
 我知らず、イギリスは心が弾んできた。焼いてこなかったのは失敗だったな、とつくづく後悔する。
「仕方ねえ。少し味は劣るが、ルーム・サービスで何か頼むか」
 そして、ナイト・テーブルにある受話器を静かに持ち上げた。

 アメリカが日本の部屋に戻って来たのは夜の十時をかなり過ぎた頃だった。イギリスはベッドで微睡む日本の傍に椅子を寄せて本を読んでいたが、その音に気づいてゆっくり目線を上げた。
「遅かったな、アメリカ」
「あ……アメリカさん、おかえりなさい」
 慌てて身を起こそうとする日本をイギリスが止めた。
「寝ていろ、日本、まだ傷が痛むんだろう」
「……はい」
 その言葉に甘えて日本は再び横になった。アメリカがベッドの足元にそっと腰を下ろした。
「記憶は?」
「……申し訳ありません」
 日本は小さく首を振った。そうか、とアメリカは呟いた。
「まあ、直に思い出すから問題ないんだぞ、日本」
「はい、イギリスさんから私の身に起こったことを聞きました。少々記憶が飛んでいるとか……あまり実感がないので、何だか不思議な気分です」
「暫くはここで療養すれば良いさ。俺の部屋は一つ上の階だから遠慮しなくて良いんだぞ」
「有難うございます」
 微かに日本が頭を下げた。イギリスが小さく咳払いをした。
「あ~、日本、実は俺もこっちに宿泊先を移したんだ」
「本当ですか、イギリスさん!? 有難うございます。とても心強いです」
 自分のときとは違って明らかに嬉しそうな日本の声にアメリカは不機嫌に呟いた。
「別にイギリスは移らなくても良かったんだぞ。俺がここにいるんだし」
「知ってる奴が一緒の方が日本も安心だろう。それに、今、お前は議長国として何かと……あっ、そういえば、今日の会議に行かなかっただろう、アメリカ。あの後、フランスとドイツから電話が掛かってきたぞ。俺から三ヶ国の欠席を伝えたから良い様なものの、お前がしっかりしないと俺まで文句を言われるんだ。明日はちゃんと出席しろよな」
 主要国会議どころではなかったアメリカはイギリスの言葉に大きく頬を膨らませた。
 国の化身同士の会議は懸案事項を議論する場というより、利害が対立しがちな各国の精神的な緩衝の意味合いが強かった。極端な話、出席しようがしまいが大した問題ではない。それでも、アメリカは超大国の化身として国益に沿うべく仕事はきちんと熟(こな)していた。だから、たかが一回の欠席で――しかも、何もこんなときに――イギリスに兄の様な顔をして文句を言われたくなかった。
「色々あったんだから仕方ないだろう。明日だって行けるかどうか……」
「それはどういう意味だ?」
 イギリスの声が硬くなった。アメリカは少し逡巡して日本へと視線を移した。
「日本……明日、君が持ってた銃のことで話を聞きたいという人がここに来る」
「えっ!?」
 いきなり話を振られて日本が狼狽した色彩(いろ)を浮かべた。ちょっと待て、とイギリスが素早く口を挟んだ。
「そいつは警察だろう? 日本は頭を負傷して何も覚えてねえって説明しなかったのか?」
「勿論、言ったさ。それでも、事情を聴きたいと言われたら断れないじゃないか。あの銃は……殺人事件の凶器だったんだ」
「……!」
 二人が同時に息を呑んだ。アメリカは膝の上できつく両手を握り締めた。
「昨夜、ここから二ブロックほど先の路上で男性の射殺体が発見された。どうやら犯人は車上荒らしの最中に戻って来た持ち主と鉢合わせしたらしい。その遺体から取り出された弾丸の線条痕が日本の持ってた銃と一致したんだ。警察はすぐさま日本を参考人として連行しようとした。俺は出来るだけそれを抑えたけど、物的証拠がある以上、明日まで時間を引き延ばすのが精一杯だった」
「……」
 日本が無言で上体を起こした。いつも寝るときに纏っている長襦袢(じゅばん)の襟から覗く肌が艶めかしいというより寒々しく見えて、イギリスは手近にあった自分のコートを肩に掛けてやった。しかし、日本は礼を言うことすら忘れてアメリカを凝視していた。
「私が、殺したんですか?」
「いや、君ではないよ。車上荒らしなんて君はやらないし、第一、銃は使わないじゃないか」
「でも……」
 確かに普通なら刀を使うが、記憶のない今は数百年後もそうだと断言出来なかった。頭の中に見知らぬ男に向かって引き金を引く自分の姿が浮かび、日本は微かに身を震わせた。
 イギリスが小さく腕を組んで言った。
「日本が犯人じゃねえのは確かだが、アリバイを証明するのは難しいな」
「ああ、身元を明かせば日本の容疑は直ぐに晴れるけど、国の化身が存在することを公には出来ない。だから、取り敢えず、日本には日系アメリカ人、本田 菊という身分を用意した。出生証明書と社会保障番号はどちらも正規に発行した物だから、ここから辿ることは絶対に不可能だ。
 いいかい、日本。明日、警察が来たら、何を訊かれても記憶がないで押し通すんだ。その間に俺が必ず犯人を見つける。この付近を縄張りにしてる車上荒らしを捕まえれば、きっと何かわかるはずだ」
「国の化身ということを明かせない以上、それしか手はねえだろうな」
 イギリスもアメリカの案に同意した。
 二人が自分をじっと見つめるので、日本は小さく頷いた。しかし、実は話の内容が殆ど理解出来ていなかった。車上荒らし? 線条痕? 社会保障番号? 何が何だか全くわからない。それに、アメリカとイギリスがどうしてこんなに親身になってくれるのかも疑問だった。アメリカのことは記憶にないし、日本の知るイギリスはもっと抜き身の刀の様に鋭くて油断ならない相手だった。僅か数百年で国とはこうも変わってしまうものなのだろうか。なら、自分も……例外とは思えなかった。
「あの……その銃を見せて貰えませんか?」
 思い切って日本は口を開いた。アメリカが首を横に振った。
「あれは証拠として警察が押収したから今は手元にないんだ」
「そうですか。実際に手に取ったら、何か思い出せる気がしたんですが……」
 日本は残念そうに呟いた。すると、アメリカが懐から一丁の拳銃を取り出した。
「これは俺が国内で護身用に使用してる物だけど、あの銃と殆ど同じ大きさだから持ってみるかい?」
「あ……はい」
 恐る恐る両手を広げた日本にアメリカは自分の銃を渡した。刀とはまた違う重さに少し戸惑ったものの、日本は銃把(グリップ)をそっと握り締めた。その瞬間――……
「……!」
 逃げる誰かの後ろ姿とその背に銃口を向ける自分の手が脳裏に浮かんだ。
(そうだ! あのとき、私はあの人と争いになって……)
「痛っ……!」
 しかし、続いて頭が割れる様な激しい痛みに襲われた。目の前が真っ暗になり、手から拳銃が滑り落ちる。
「日本!」
 アメリカとイギリスが同時に叫んだ。ふらりと傾ぐ身体にアメリカは慌てて腕を伸ばした……が、より近くにいたイギリスが先に日本を抱き留めた。
「大丈夫か、日本!? 取り敢えず、もう横になれ。これ以上は傷に障る」
 完全に色彩(いろ)を失った日本をイギリスは優しくベッドに横たえた。日本は弱々しく微笑み、直ぐ意識を手放してしまった。アメリカは行き場をなくした手をキュッと握り締めた。
(……何だか胸の奥がもやもやするんだぞ)
 日本が記憶を失ってからというもの、アメリカはずっと疎外感を抱いていた。日本は周囲を薄い膜で包んで決して自分をその中に立ち入らせないのに、イギリスは恋人の様に平然と傍に寄り添っていた。そこは君じゃなくて俺の場所なんだ、とアメリカは微かな苛立ちを覚えた。
「イギリス、君はもう部屋に戻っ――……」
 そう言い掛けたとき、ジャケットのポケットの中でスマートフォンが鳴り始めた。アメリカは渋い顔でそれに出ると、短い会話を交わして切った。無意識にため息が零れる。
「こんな時間に仕事か?」
「いや、頼んでた本田 菊のIDが出来たという知らせだった。外部に漏れないよう俺直属の部下が上の部屋まで持って来たそうだ。現在までの捜査報告もあるから、ちょっと行って来る」
「そうか……悪いな、アメリカ」
「別に君のためじゃないんだぞ。日本は俺の――……」
 恋人という言葉をアメリカは無理やり呑み込んだ。
 今の日本はアメリカとの過去を何も覚えていなかった。殺人容疑が掛かって不安な心に自分とのことまで明かせば、更に混乱してしまうだろう。普段、日本は感情の揺れを殆ど見せないが、負荷が限界を超えると極端から極端へ走ることをアメリカは嫌と言うほど知っていた。あの大戦で緋色に狂瀾した姿は今でも記憶にまざまざと焼き付いている。だから、この件が片づくまでは二人の過去や関係は黙っていることにした。しかし、それが結果的にイギリスと日本の仲を深めてしまっている様で、アメリカの胸にはやり場のない憤りがかなり溜まっていた。
「イギリス、間違っても日本に手を出したら許さないんだぞ」
「くだらねえ嫉妬なんかしてんじゃねえよ、馬鹿、さっさと行け」
 イギリスが不機嫌に手を振った。アメリカはベッドに落ちている自分の銃をしまうと、静かに踵を返した。
 ……パタン。
 やがて遠くで扉の閉まる音が聞こえた。イギリスは無言で日本に目をやった。
 開国後、久しぶりに逢った日本は既にアメリカへ仄かな想いを寄せていた。自分が日本に惹かれていると気づいたのは英日同盟を締結した頃。そして、その同盟が失効したとき、アメリカの日本への気持ちを知った。
「……」
 それまで欲しいものは総て無理やりにでも奪ってきたイギリスだったが、この恋の勝者になることだけは躊躇ってしまった。自分にとっては、どちらも大切な存在だから。二人が想い合っているなら、取るべき路は一つしか思い浮かばなかった。イギリスは胸の奥で何度も繰り返した。別に大したことじゃねえ。今なら、俺はまだ戻れる、と……
  あれから随分と月日が流れ、もう心の整理は出来たはずだった。しかし……間違っていた。それは単に嫌なことから目を背けていただけで、イギリス自身の想いはあの頃と少しも変わっていなかった。いや、寧ろ、ずっと抑えつけていた分だけ強くなっているかもしれない。
(嫉妬したいのは俺の方だ、全く)
 イギリスは膝の上できつく拳を握り締めた。耳元で妖精の心配そうな声が聞こえた。
『大丈夫、イギリス?』
「うん? ああ、俺なら大丈夫だ」
『私達に出来ることがあったら、何でも言ってね』
「わかってる。そのときは遠慮なく頼むからな」
『うん』
 鈴の様な音を響かせて妖精達はイギリスの周囲を飛び回った。中にはどさくさに紛れて髪にじゃれつく者もいる。おい、とイギリスが優しく怒った。
「日本が眠ってるんだぞ。騒ぐと迷惑だろう」
『なら、イギリスの部屋へ行こうよ。何だかハワードさんが電話しそうだって向こうにいる子が言ってるよ』
「あ~、今日の会議に行かなかったから恐らくその件だな。ここで話すのは……さすがにまずいか」
 イギリスは日本を覗き込んだ。呼吸は安定し、先刻より顔色も良くなっている。この分なら暫くは問題ないだろう、とイギリスは立ち上がった。すると、直ぐに妖精の一人が尋ねた。
『部屋に戻るの、イギリス?』
「電話の間だけな」
『わ~い』
 その言葉に妖精達は嬉しそうに小さな羽根を鳴らした。
「遊びに行く訳じゃねえからな」
 そう言いながら、イギリスは妖精達を引き連れて部屋から出て行った。だから、気づかなかった……眠っている日本の顔が苦しそうに歪んだことに。やがて……ゆっくり瞼が開いた。日本は震える両手を持ち上げて恐ろしそうにそれを見つめた。低い声で呟く。私、が……
「殺したんですね……」



初出 2013.11.10
『Annexe Café』より転載。

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Café Grace
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