「慧っ……慧っ……あっ、俺っ……もうっ……!」
  素肌にシャツを羽織っただけの明日叶は、ベッドの上に座って自ら両膝を左右に大きく開いていた。先端から溢れる蜜で自分の指を淫らに濡らして小さく腰を揺らしている。手を動かす度に耳に届くぬめった水音が、今、自分がしていることを明日叶にはっきりと伝えていた。少し離れた椅子から、まだ服を着たままの慧が静かな声で言った。
「まだだ、明日叶……もう少し我慢しろ」
「駄目っ……!」
  ピクッと手の中で震えた中心を明日叶は反射的に強く握り締めた。途端に、つま先まで駆け抜ける鮮やかな快感。それを追って夢中で手を動かした。
「はっ……くっ……ああっ……」
「明日叶、きちんと膝を立てて脚を開かないと良く見えない」
「あっ……無、理っ……慧っ……あ、ああっ……」
  敏感な肌は慧の視線を意識するだけで粟立ち、熱いうねりが腰の奥から込み上げてきた。明日叶は両の掌を上下にきつく滑らせた。更なる快楽を引き出す様に先端の縁を指で丸く擦る。もう先が見えていた。ここで、やめたくないっ……!
「明日叶は総て俺のものにしたはずだ。違うか?」
  慧が低く囁いた。
「そう……だ、けどっ……慧っ……!」
「なら、出来るはずだ。手を離せ、明日叶……俺は、お前の総てが見たい」
「……っ……!」
  明日叶はキュッと目を瞑った。
  慧の愛し方は純粋で不器用だから、ときに苦しいこともある……が、どんなものでも総て受け入れると明日叶は心に誓っていた。慧のくれる傷なら、それさえ嬉しいと思えるほど……愛しているから。
「慧……」
  未練がましく張り付く右手を、明日叶は意思の力で無理やり引き剥がした。恥らう脚に、そっと両手を掛ける。
「こ、これで……良い……?」
  淡い月の光の中に、白い太腿を艶めかしく濡らした明日叶の姿態が浮かび上がった。ああ、と慧が満足げに呟いた。
「凄く綺麗だ……」
  明日叶は慧が信じる唯一無二の存在だった。どんなときも明日叶だけが一度も慧を疑わなかった。ただ自分を信じ、愛してくれた。癒えない傷を深く抱えて一人苦しんでいた慧にとって、それは最も意義のある重要なことだった。だから、時折、明日叶の心が今でも同じかどうか無性に確かめたくなる……特に、こんな欠けた赤い月の掛かっている夜は。
「……」
  音もなく慧は立ち上がると、ゆっくり明日叶へと近づいていった。
  それが自分の弱さなのは充分、わかっていた。こうして明日叶を試すのは卑怯だと言うことも。それでも、受け入れて欲しいと思う。真実を視るその瞳に、真っ直ぐ俺だけを映して……
  慧は左手で明日叶の項を掴むと、少し身を屈めて口唇を奪った。同時に右手を伸ばし、明日叶を扱く。
「ふ、あっ……っ……慧っ……」
  中断された刺激を再び与えられ、明日叶の太腿が悦びに震えた。ふるりと零れる新しい蜜。それを慧は何度も指ですくい取った。態と音を立てながら、全体に満遍なく塗り込めてゆくと、明日叶の脚が慧を更に奥へ誘う様に自然と大きく広がった。
「んっ……ふっ……う、んっ……」
  重ねた口唇の隙間から明日叶が苦しそうに呻いた。慧が根元から先端まで激しく掌を動かし、解放を強く促す。やがて――……
「ん、ああっ……!」
  小刻みに身体を痙攣させて明日叶が慧の手の中で達した。その余韻を引き伸ばす様に慧が軽く扱くと、明日叶が腕を伸ばして首にしがみついてきた。
「慧……慧っ……」
  切ない声で明日叶は恋人を求めた。男を深く知った身体が疼いて堪らなかった。これでは、もう満足出来ない……
「俺が欲しいのか、明日叶?」
  慧が明日叶の耳元で尋ねた。
「うんっ……慧が、慧が欲しい……」
  すると、ベッドが微かに軋み、慧は明日叶を優しくシーツの上に押し倒した。すぐさま明日叶は左足を絡ませ、強請る様に慧に腰を擦りつけた。
  ふっ、と慧が微笑んだ。
「明日叶……っ……」
  情欲に染まった白い肌に慧はねっとりと口唇を這わせた。細い首筋をきつく吸われて明日叶の意識が甘く蕩ける。
「あ、んっ……慧……」
「本当に明日叶はここが弱いな」
  付いたばかりの赤い印を慧が嬉しそうに舌先でなぞった。同時に右手を入口へ滑らせる。静かに指を沈めてゆくと、明日叶は艶やかに喘ぎながら、慧の右肩にある大きな傷跡に服の上から口づけた。
「……っ……!」
  一瞬、慧が何かを堪える様に眉を寄せた。
「明日叶……あまり俺を煽るな」
「……して、なっ……あ、ああっ……!」
  慧の指がまだ完全には開いてない明日叶の身体を広げようと内壁を激しく擦り上げた。腰を痺れさす痛みにも似た感覚に明日叶は無意識に逃げを打った……が、慧がそれを許さなかった。何度も指を抜き差し、更に事を推し進めてゆく。いつもと違う性急な愛撫に怯えて、明日叶は夢中で慧の頭をかき抱いた。
「慧っ……あっ……慧っ……!」
「……っ……もう良いか、明日叶?」
  熱で掠れた声で慧が囁いた。
  明日叶に負担は掛けたくないが、正直、もう欲望を抑えられなかった。コクコクと明日叶が頷いた。
「良い、からっ……だ、からっ……慧っ……」
「……わかった」
  すぐさま慧は指の代わりに熱い質量を宛がった。
「明日叶、きつかったら俺に爪を立てろ」
「う、ん……」
「愛してる、明日叶」
「俺、も……俺も、愛し――……」
  言い終わる前に、明日叶は一気に最奥まで貫かれた。息が詰まりそうな圧迫感と、それを遥かに上回る歓びに綺麗な紫の瞳から涙が零れる。
「あ、ああっ……ああっ……!」
  明日叶は慧に強くしがみついた。
「くっ……!」
  背中に走る鋭い痛みに慧が小さく呻いた。しかし、それさえ愛しくて慧は明日叶の頬を伝う雫をそっと口唇で拭った。すると、明日叶が濡れた瞳で嬉しそうに微笑んだ。
  もう二人に言葉は要らなかった。後はただ、心と身体を一つに重ねるだけ。そうして夜を越えてゆく恋人達を照らして、月は静かに満ちていった。


20106.18
静一郎さんの下で育った慧は
未だに不安も色々抱えていそうです。
強い独占欲はそのせいかも。
明日叶には、そんな慧の心を癒して貰いたいです。

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Café Grace
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