Ⅲ


遠藤 :手紙には以下の様なことが書かれていました。


拝啓
  突然のお手紙を差し上げる非礼をお許し下さい。
  私は、貴方様の祖父君と交友のございました、杉山早苗の孫で杉山奈緒美と申します。
  この度、お手紙を差し上げましたのは、祖母の残した書類を整理しておりましたところ、祖父君のご遺品を当家にてお預りしていることが判明いたしました。素人目ながらもとても価値のあるものに見受けられましたので、私の判断だけではどうすることも出来ず、こうして筆を取った次第です。
  このご遺品は、当時の貴方様の祖父君、私の祖母である杉山早苗、そして他のご友人の方々と共同所有をしていたもので、一時的に当家にて保管させて頂いていた様です。
  ご遺品はとても古い時代の木製のレリーフで、素朴ながらも、時代を経てきた味わいのあるものです。日本の品ではなく、どこか外国のものの様ですが、知人の話では恐らく数百年は経っているということでした。保存状態は大変良く、当時の製作者の息吹が感じられます。
  折角の品ですので、このまま時間に埋もらせるのは勿体なく思い、七十年近く経った今ですが、再びこの件にて所縁の方にお集まり頂き、皆様とご相談をさせて頂きたいのですが、いかがでしょうか?
 ご多忙のところお手を煩わせて誠に恐縮ですが、ご連絡をお待ちしております。

かしこ
杉山奈緒美


 それを聞いた啓太は困った様に眉を寄せた。和希が尋ねた。
「あまり気乗りがしないみたいだね、啓太?」
 うん、と啓太は力なく頷いた。
「だって、俺は遠い親戚に育てられたから祖父の顔もきっと知らないだろうし、遺品があるって急に言われても俺が貰って良いのかなって……」
「そうか。なら、誰かに相談したら良いと思うよ……たとえば、知り合いの私立探偵とかに」
 おう、と丹羽が元気良く唸った。
「探索者は早めに合流した方がKP(キーパー)の負担も少なくなるからな。よし! 俺と啓太は大学で仲の良かった先輩と後輩にしよう。ついでに、中嶋も一緒だ。同い年だしな」
「あっ、宜しくお願いします」
 ペコリと啓太は頭を下げた。和希が先を促す。
「なら、啓太は急いで王様に連絡を取らないとね。大学の先輩なら電話番号は知っていそうだから、ダイスなしでRP(ロール・プレイ)に入って良いよ」
 うん、と啓太は頷いた。

伊藤 :なら、電話するよ。お久しぶりです、王様。
丹羽 :おう、啓太か。久しぶりだな。どうしたんだ、いきなり?
伊藤 :実はちょっと相談したいことがあって……そう言って俺は王様に手紙のことを話しました。
丹羽 :遺品か……共同所有とは厄介だな。啓太はどうしたいんだ?
伊藤 :俺、祖父のことは殆ど何も知らないので杉山さんから少し話を聞いてみたいです。でも、遺
    品をどうするかまでは……
丹羽 :物が物だし、売って皆で均等に分ければ良いんじゃねえか? だが、祖父の代からなら相
    続人は少なくとも十人は越えそうだな。それだけの数で分けたら、残念だが、一人当たりの
    取り分はそう多くはねえだろうな。
伊藤 :なら、無理に売らなくても……あっ、でも、他の人達の考えは違うかもしれないのか。本当
    にどうしよう……
遠藤 :啓太、別紙に屋敷までの地図と同行者二名までなら交通費も出すと書いてあるよ。
丹羽 :おっ、破格の待遇だな。
伊藤 :きっと親切な人なんですね。黙ってれば遺品を自分の物に出来たのに、しなかったんだか
    ら。
丹羽 :そうかもな……で、どうする、啓太?
伊藤 :そこまで言ってくれるなら俺も杉山さんに会ってみたいです。祖父の話をちょっと聞いてみ
    たい。
遠藤 :なら、啓太と王様が行くで良いですね。
丹羽 :待てよ、KP(キーパー)、同行者二名ってことはあと一人誘えるよな。なら、俺は郁ちゃん
    に電話するぜ。以前、依頼を受けて知り合いになったってことで。手紙の話をして古美術の
    専門家として同行してくれと頼むぜ。
西園寺:厚かましい男だ、と私は思いつつ、丹羽の話には興味を引かれる。だが、一緒には行か
    ない。私は自分の車で現地へと向かう。
丹羽 :ゲーム内くらい一緒でも良いだろう、郁ちゃん。
西園寺:断る。さっさと中嶋を誘え。どうせ声を掛けるつもりなのだろう。
丹羽 :まあ、な。それじゃあ、郁ちゃんに振られたことだし、今度は中嶋に電話を掛けるぜ。中嶋、
    ちょっと頼みがあるんだが。
中嶋 :またか。俺はそこまで暇ではない。そう言って電話を――……
丹羽 :わ~っ、ちょっと待て、中嶋! これは啓太に関わる重要なことなんだ……と言って、俺は
    急いで手紙の話をするぜ。
中嶋 :……俺は切るのをやめて丹羽の話を聞く。
丹羽 :啓太は親切な人って言ったが、価値のはっきりしねえ遺品の相談のために同行者の交通
    費まで出すのは話が旨過ぎると思わねえか?
中嶋 :確かに……その女は是が非でもあいつを屋敷に呼び寄せたい気がするな。何か裏がある
    のかもしれない。
丹羽 :だろう。だから、行く前にお前の方でこの杉山奈緒美と屋敷について調べてくれ。そして、
    当日は俺達が啓太に同行する。郁ちゃんとは現地で合流だ。
中嶋 :良いだろう。俺は丹羽の提案を受け入れて電話を切った。
遠藤 :(予想通り二人は杉山奈緒美に疑問を感じたか)
    残るは七条さんですが、どうしますか? 合流しますか?
七条 :いえ、僕はまだ控えています。これ以上、ここで誰かと接点を作るのは少し強引ですし、初
    めて行く家にいきなり五人で押し掛けるのも不自然です。
遠藤 :わかりました。では、啓太は杉山奈緒美に電話をして四人で行くと伝えます。すると、奈緒
    美は明後日までに来て欲しいと言いました。処分するなら出来るだけ早くしたいので、と奈
    緒美は申し訳なさそうに謝り、それではお待ちしております、と言って電話を切りました。特
    に何もなければ、これで中嶋さん以外は二日後まで話を進めます。良いですか?
丹羽 :ああ、良いぜ。
西園寺:問題ない。
伊藤 :俺も大丈夫。
遠藤 :では、啓太が手紙を貰った翌日……一通り仕事を終えた中嶋さんは杉山奈緒美について
    調べることにしました。時計は午後三時を少し過ぎたところです。
中嶋 :取り敢えず、俺は知人の警官と連絡を取る。ジャーナリストなら警察関係者にコネの一つ
    や二つはあるだろう。
遠藤 :そうですね。では、『法律』でどうぞ。


中嶋 :法律(5)→01 クリティカル


「いきなりクリティカルかよ!」
 驚いた丹羽の声が一際、大きくなった。ふっ、と中嶋は小さく口の端を上げた。
「実力だな」
「こんなところで運を使って後で後悔しないと良いですね」
 七条がやんわり不吉なことを言った。う~ん、と和希は密かに唸った。
(ここではまだ情報が……仕方ない。『図書館』も成功した場合の情報を出しておこう)

遠藤 :杉山奈緒美には目立った犯罪歴もなく、有益な情報は得られませんでした。ですが、以
    前、空き巣に入られた記録が見つかりました。そのときの調書から屋敷の名義人が杉山芳
    子という人物だとわかります。
中嶋 :その人物について詳しく調べられるか?
遠藤 :いえ、警察ではこれ以上のことはわかりません。役所なら何かわかったかもしれません
    が、もう閉まっています。
中嶋 :時間切れか。なら、俺は帰宅して明日の荷造りをする。
遠藤 :では、王様から順に持ち物を……七条さんはまだ登場していませんが、ここで一緒にお願
    いします。着替えや携帯、身分証、財布は常備ということで良いです。それ以外に持って行
    く品があったら、あげて下さい。今、出なかった物は後で幸運判定になります。
丹羽 :俺は鍵開け用のキーピックとペン・ライト、デジカメ、手帳、筆記具……それと皮の手袋だ。
    壁を登ったりするときに便利だからな。
中嶋 :俺はICレコーダー、手帳、筆記具、煙草とライターだ。
丹羽 :お前、ゲームでも吸うのかよ。少しは禁煙しろよ。
中嶋 :……ふん。
伊藤 :俺は杉山さんへのお土産として自分で調合したアロマ・オイルを持って行く。
遠藤 :手紙はどうするんだ、啓太?
伊藤 :あっ、そうか。一応、王様達に見せた方が良いよな。なら、杉山さんからの手紙を上着のポ
    ケットに入れるよ。有難う、和希。
遠藤 :どういたしまして。
丹羽 :……甘過ぎるだろう、それ。
    (あの手紙にあれ以上の意味があるとは思えねえが、遠藤が態々指摘したのは怪しいな。
    俺達に奈緒美を疑わせようとしてるのか……?)
七条 :僕は手帳、筆記具、ダーツの矢を五本、お気に入りのチョコレート……は移動中に溶けて
    しまうので、チョコチップ・クッキーにします。
伊藤 :あっ、美味しそうですね。
七条 :ふふっ、後で伊藤君にも分けてあげますね。
伊藤 :有難うございます、七条さん。
西園寺:これは遠足ではないぞ、臣……私は携帯用のミニ・ルーペ、手帳、筆記具、近郊の地図、
    それと車のダッシュボードにナイフを隠しておく。


「えっ!? ナイフって……」
 初めて出て来た武器らしい物に啓太が少し蒼ざめた。大丈夫ですよ、と七条が言った。
「これは、あくまでゲームの話ですから。名前は同じでも、実際の郁とは似て非なる存在……PL(プレイヤー)とPC(プレイヤー・キャラクター)は別人格です」
「あっ、そうですね。なら、俺も持って行った方が良いんでしょうか?」
「啓太に武器は似合わないよ」
 即座に和希が否定した。
「でも、西園寺さんも持ってるのに……」
 啓太は言葉を濁した。すると、丹羽がニカッと笑った。
「俺よりSTR(力)の低い啓太は戦闘向きじゃねえだろう。無理して戦うより、回復役に徹してくれた方が助かる」
「回復役?」
「ああ、クトゥルフ(CoC)で神話生物と戦うのはかなり危険な状況なんだ。もし、神格が現れたら、そこで詰んだと思って良い。悔しいが、ただの人間にあれを倒すのは不可能だ」
 七条がその先を続けた。
「だから、そうなる前に召喚を阻止するか、そこから脱出しなければなりません。しかし、それまでの間、僕達は何度も恐ろしい出来事に遭遇して徐々にSAN値を失います。恐怖に心が耐えられなくなるという感じです。そして、一度に多量のSAN値が減ると発狂します」
「発狂……何か怖いですね」
「他にも少々条件がありますが、発狂は誰もが経験することです。発狂のRP(ロール・プレイ)も結構、楽しいですよ」
 臣、と西園寺が窘めた。ふふっ、と七条は笑った。
「まあ、それは置いておいて……発狂した者を正気に戻すのが伊藤君の持っている『精神分析』なんです」
「あっ、それで……!」
 ポンッと啓太は手を打った。西園寺が後を受ける。
「総てはダイス次第だが、荒事は丹羽達に任せておけば良い。私達には向いていない上に、発狂した際に武器を持っていると周囲に危害を及ぼす可能性がある。それに、日本で武器を携帯している者は少ない。だから、私はナイフを手元には置かず、車の中に隠している。それならば自然で、いつでも必要なときに取り出せるからな」
「わかりました。俺、回復役を頑張ります」
 気を取り直した啓太は元気良く頷いた。
「では、いよいよ四人が杉山奈緒美の屋敷へと向かいます」
 和希はシナリオを再開した。


2014.8.19
まだ導入部なのに展開が遅いです。
ダイス・ロールは一回しかなかったけれど、
お陰で、啓太への説明は殆ど終わりました。

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Café Grace
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