遠藤 :応接間に入ると、テーブルに置いた大型のサイフォンから香ばしい香りが漂ってきました。
    金谷と佐藤は暖炉の傍の肘掛け椅子に腰を下ろしました。奈緒美は綺羅子に手伝って貰
    いながら、コーヒーの準備を始めます。王様達も好きな場所に座って良いですよ。
丹羽 :なら、この時間を使って三人が浅浮彫りを見たときの様子や郁ちゃんの話を聞いたことに
    するか。まだ気分の悪い郁ちゃんはソファで、俺達はその近くの肘掛け椅子に適当に座れ
    ば良いだろう。
伊藤 :王様、俺、手紙を見せても良いですか?
丹羽 :そうだな。話しながら、皆で手紙も見るぜ。
遠藤 :では、それで話を進めます。王様達は金谷と佐藤から少し離れたソファの近くに纏まって
    座ると、コーヒーを待つことにしました。三人の相続人達が浅浮彫りを見たときの様子や西
    園寺さんが見つけた未知の言語について少し声を落として話した後、啓太は上着のポケッ
    トから奈緒美の手紙を取り出して皆に見せました。それは品の良い和紙の封筒と、それに
    合わせた夏草の透かしの入った便箋に青の万年筆で書かれていました。柔らかな女性の
    手で、かなりの達筆です。手紙の最後と封筒の裏書には差出人の住所と署名があり、それ
    は手紙の内容通り杉山奈緒美になっています。


 丹羽が腕を組んで唸った。
「特に怪しい点はねえが、何か郁ちゃんみたいな感じだな」
「どういう意味だ?」
 声に不快感を漂わせて西園寺が丹羽を見やった。
「いや、上品って言うか、古臭いって言うか……」
「古臭いとは何だ。だから、お前はいつも品がないと言われる」
 園寺の眉が鋭く吊り上がった。すると、中嶋が言った。
「丹羽に品がないのは認めるが――……」
「中嶋、お前まで郁ちゃんの味方かよ」
「事実だろう、それは。だが、丹羽の言うこともわからなくはない。KP(キーパー)、手紙を文字で見ることは出来るか?」
「今、送ります」
 和希はキーを幾つか叩いて全員のタブレット型パソコンに手紙の文面を送信した。中嶋は直ぐにそれを画面に出した。
「……こうして見ると更にはっきりするな。この手紙は言葉遣いは丁寧だが、若さが感じられない。夕食のとき、奈緒美と綺羅子は年が近いと言っていたが、俺にはこれが二十代の女が書く文章とは思えない」
「代筆……いえ、もしかしたら、存在自体が違うのかもしれませんね」
 七条がそう呟くと、西園寺は小さく頷いた。
「私達はこの屋敷に来て初めて彼女に会い、杉山奈緒美と名乗ったから無条件にそれを信じてしまった。だが、彼女が本当に杉山奈緒美であるかを知る術はここにはない」
「そういえば、この屋敷は杉山芳子の名義だったな。遺品目当てに二人が入れ替わってるとかはねえか?」
 疑問だけ投げて丹羽はマグカップを口に運んだ。隣で中嶋が煙草を吸いながら、律儀に答える。
「それは芳子が奈緒美を騙る理由にはならない。この屋敷を所有しているなら資産もかなりあるだろう。自分で買い取れば良いだけの話だ。態々相続人達を集めてこんな面倒な相談をする必要がない」
「ああ、金銭の問題ではなさそうだ」
 西園寺もそれに同意した。黙って話を聞いていた啓太は丹羽達の推理に感心はしつつも、奈緒美を疑い切れずにいた。王様達の考えは説得力があるけど……
(俺には杉山さんがそんなに悪い人とは思えない)
 そして、和希はそんな丹羽達を複雑な思いで静観していた。
(事は計画通りに進んでいる……が、王様達は啓太の素直さを少し見習うべきだな。こんなに疑り深いと、将来、まともな大人にならない)
 自分のことは完全に棚に上げて和希は密かにため息をついた。

遠藤 :奈緒美と綺羅子は手分けしてコーヒーとジンジャー・クッキーを配り終えると、思い思いの
    場所に座りました。奈緒美は暖炉の前にある絨毯の上でクッションに寄り掛かって足を伸ば
    しています。どうやらここがお気に入りの様です。綺羅子はその傍の肘掛け椅子に腰を下ろ
    すと、クッキーを食べて目を輝かせました。
藤田 :わあ、このクッキー、凄く美味しいですね! 奈緒美さんが作ったんですか?
杉山 :ええ、久しぶりに作ったのですが、お口に合って何よりですわ。
金谷 :そんなに謙遜なさらず。このコーヒーといい、クッキーといい、まさに極上の味わいですよ。
佐藤 :……懐かしい味だ。
杉山 :元は母から教わりましたの。母はそのまた母から教わって……これは、そうして代々受け
    継がれてきた味ですのよ。
佐藤 :その母とは早苗さんですか? だが、早苗さんには子供はいなかったはずだ。
杉山 :ええ、私の祖母は杉山早苗の妹です。だから、正確には私は姪になりますわ。祖母は早
    苗が行方不明になってもずっと生存を信じていました。私の母が幼い頃から、早苗が戻って
    来たらもう一人の母親と思って接して欲しいと言い聞かせていたそうですの。だから、私も
    早苗を祖母と思っていますわ。
丹羽 :奈緒美に『心理学』を振るぜ。
中嶋 :俺は佐藤に『心理学』だ。
七条 :では、僕は奈緒美さんにお願いします。
伊藤 :……
遠藤 :啓太は振らないのか?
伊藤 :うん、今回はやめておく。俺は両親を早くに亡くしてるから早苗さんの妹さんの気持ちが良
    くわかって、今の話できっと自分の親のことを思い出してるよ。
遠藤 :わかった。なら、三人の『心理学』を振ります。


丹羽 :心理学(80)→??
中嶋 :心理学(80)→??
七条 :心理学(75)→??


遠藤 :(くっ、こんなところで……!)
    王様は奈緒美の話に嘘はないと思いました。七条さんは奈緒美が会ったことのない早苗を
    大切にしていると感じました。中嶋さんは佐藤がその話に納得はしたものの、未だに奈緒
    美に怯えた瞳を向けていることに気づきました。そして、それは奈緒美に早苗の面影を見て
    いるからではないかと考えました。
丹羽 :どうやら全員、成功だな。しかも、中嶋はクリティカルっぽいな。
七条 :奈緒美さんの話に不自然な点はありませんが、佐藤さんの反応が謎です。血縁なら容姿
    が似ていても不思議ではありません。何をそんなに怯えているんでしょう。
遠藤 :(今、そこに触れられては……)
    祖母の話が出たので、奈緒美が佐藤に尋ねました。
杉山 :佐藤さんは祖母のことを実際に知っていらっしゃるのでしたわね。早苗がどういう人か教
    えて頂けませんか?
金谷 :ああ、私も父がお世話になったらしいので気になりますな。是非、お願いします。
遠藤 :佐藤は少し躊躇っていましたが、二人に頼まれて重い口を開きました。
佐藤 :私達がこの屋敷に集まって交友を深めたのは今から七十年ほど前……昭和の初め頃の
    ことです。当時、私達は親の金やコネを利用して世界中の珍しい物を集めたり、新しい芸術
    や文学を楽しむなど先駆的文化人を気取っていました。メンバーは杉山早苗さん、金谷幸
    治さん、藤田佐和子さん、伊藤さんの祖父の鈴菱鈴吉さん……そして、私です。
伊藤 :和希、それって和希のお祖父さんの名前だろう。
遠藤 :啓太のお祖父さんの名前は知らないからゲスト出演して貰ったんだ。きちんと設定も考え
    てあるよ。鈴吉には二人の子供――女の子と男の子――がいて、姉は結婚して伊藤姓に
    なったんだ。俺は啓太より四つ年上の従兄だよ。幼い頃に一緒に遊んだ啓太を探すために
    公務員になって漸く見つけたけれど、今は出張で海外に――……
丹羽 :KP(キーパー)、お前の設定なんて良いから早く進めろよ。
    (TRPGの中でも、こいつは職権乱用かよ)
遠藤 :設定は大事なのに仕方ないですね。メンバー紹介の後から話を続けます。佐藤は昔と変
    わらない応接間の雰囲気に徐々に饒舌になってきました。
    (巧く話を誤魔化せたな)
佐藤 :その頃はまだ私の家も相当な資産があり、杉山さんの様な名家ともお付き合いがありまし
    た。思えば、私の人生の中であの頃が一番楽しいものだった……けれど、早苗さんが行方
    不明になり、その数年後……後を追う様に佐和子さんも姿を消してしまうと、自然と付き合
    いも少なくなってしまいました。やがて戦争が始まり、私も否応なくそれに巻き込まれまし
    た。苦しい時代でした。そして、気がつくと私は幸治さんとも連絡が取れなくなっていました。
    仕事の都合で住所が定まらない時期もあったので、そのせいかもしれません。あれから何
    十年も経って、再び彼らの身内の方にこうして会えるとは……本当に、何とも不思議な縁を
    感じます。


「綺羅子の祖母・佐和子も行方不明とは……浅浮彫りに関わる者が二名も消えたとなると、偶然とは考え難いな」
 西園寺は考えながら、紅茶に手を伸ばした。隣で七条が小さく頷く。
「もしかしたら、金谷さんの父・幸治さんも連絡が取れなくなったのではなく、行方不明になったのかもしれませんね」
「鈴菱鈴吉は孫の啓太がいるから無事だったんだな」
 丹羽が少し嫌な顔をして和希を見やった。何か腹の立つ名前だぜ……
「佐藤が奈緒美と綺羅子に怯えた瞳を向けていたのは二人が行方不明になった女達の面影を残していたせいか」
 中嶋は煙草を消してコーヒーに手を伸ばした。啓太が感心した様に呟いた。
「そっか。何十年も前に行方不明になった人とそっくりな人がいたら怖くもなりますよね」
「……!」
 一瞬、和希は息が詰まった。啓太がいきなり核心を……!
 しかし、それは欠片も表に出さなかった。ノート・パソコンを見る振りをしながら、そっと丹羽達を窺う。
「……」
 皆、飲み物を飲んだり、自分なりに推理をしている様に見えた。誰も啓太の発言に注意を払っていない……
(このまま、シナリオを続けて早く話題を替えよう)

遠藤 :佐藤の話を聞き、しんみりとした空気が室内に流れました。それを感じた奈緒美が……
杉山 :皆様、今日はお疲れの様ですわね。今夜はこんな雨で気分も憂鬱になりますし、遺品に
    ついては明日、改めてご相談するのではいかがでしょうか?
金谷 :それが良いですな。私達はあの浅浮彫りの価値がまだ良くわかっていませんから、そう急
    いで処分を決める必要はないでしょう。
藤田 :そうですね。まずは西園寺さんの意見をじっくり聞いて、それから考えても遅くはないと思
    います。
佐藤 :私は皆さんの意見に従います。では、今日は疲れたので、これで……
遠藤 :今夜は遺品についての話し合いがないと知ると、佐藤は長居は無用とばかりにさっさと自
    分の部屋へ戻るべく席を立ちました。
丹羽 :(これはチャンスだな)
    KP(キーパー)、俺は佐藤に部屋まで送ると声を掛けるぜ。
中嶋 :右端の部屋を調べるのか、丹羽?
丹羽 :ああ、施錠されてるのがどうも気になる。ついでに奈緒美の部屋も見てくるぜ。お前はここ
    にいるだろう、ヒデ?
中嶋 :ああ、俺はここを動けない。俺が行けば綺羅子もついて来る可能性がある。
西園寺:だが、単独行動は危険だな……臣、頼む。
七条 :では、僕はお気に入りのチョコチップ・クッキーを取りに一度、部屋に戻ることにします。
遠藤 :わかりました。それでは、王様と七条さんから話を進めます。一緒に佐藤を部屋まで送り
    届けた二人は応接間へ戻る前に少し寄り道をすることにしました。廊下の左端まで来ると、
    そっと辺りを窺います。まずどちらの部屋から調べますか?
丹羽 :施錠された方からにする。奈緒美の部屋には浅浮彫りがあるから何かあるとまずい。ドア
    に『目星』だ。
遠藤 :必要ありません。鍵は他の一人部屋と同じで簡単な作りと王様には一目でわかります。
丹羽 :なら、『鍵開け』を振るぜ。


丹羽 :鍵開け(81)→87 失敗


「くそっ、こんなときに失敗かよ」
 丹羽が悔しそうにダイスを握り締めた。中嶋が冷たく呼ぶ。
「丹羽」
「わかってる。次は必ず成功させる!」
 その声を丹羽は片手で制した。はあ、と中嶋はため息をついた。和希は怒りを忘れて、ほんの少しだけ中嶋に同情した。
(王様、キーピックを持っていることを完全に忘れているな。あれの補正が入ったら成功なのに……中嶋さんが色々苦労する訳だ)
 七条が上辺だけは優しく丹羽を慰めた。
「仕方ありません。機会があれば、後ほど再挑戦ですね」
(丹羽会長はキーピックを持っていましたが……まあ、もう遅いですね)
「和希、もう一度、試せないのか?」
 啓太が尋ねと、和希は首を横に振った。
「一度、失敗すると、状況が変わるまでそこに同じ技能は使えないんだ」
「そっか」
「大丈夫だ、啓太……KP(キーパー)、今度は奈緒美の部屋に『鍵開け』を使うぜ」
 意気込む丹羽に、どうぞ、と和希はロールを促した。
(まだ気づかない……この少し抜けているところが王様の長所であり、短所でもある、か)

丹羽 :鍵開け(81)→26 成功


丹羽 :今度は巧くいったな。
    (はあ、何とか一安心だな。こっちも失敗したら、中嶋に散々嫌味を言われるからな)
遠藤 :静かに鍵を開けた王様と七条さんは奈緒美の部屋に滑り込みました。先ほどと様子は殆
    ど変りません。ベッドと小さな書き物机、ドレッサーしかなく、壁の浅浮彫りはカーテンで覆わ
    れていました。七条さんはドレッサーの鏡の横に細長いクローゼットがあることに気がつき
    ました。そっと中を覗きますが、洋服の一枚も掛かっていません。王様は机の引き出しを開
    けてみました。すると、そこには古びた小さな鍵と万年筆、和紙の封筒、夏草の透かしの
    入った便箋……そして、一冊の本が入っていました。
丹羽 :封筒と便箋は啓太が貰った手紙と同じだな。
七条 :本は怪しいですね。KP(キーパー)、どんな本ですか?
遠藤 :『オカルト』、または『その他言語(英語)』でロールをどうぞ。
丹羽 :『オカルト』が出た時点でもう魔導書決定だろう、それ。
    (奈緒美は黒確定だな)
七条 :では、数値の高い『オカルト』で振ります。


七条 :オカルト(85)→53 成功


遠藤 :七条さんは、これは『ボナベ経典』の英語版だとわかりました。
七条 :やはり魔導書でしたか。
伊藤 :和希、『ボナベ経典』って?
遠藤 :クトゥルフ(CoC)の有名な魔導書の一つだよ。
西園寺:奈緒美が持っているのは原典を英語に翻訳したものだ。
    (だが、これに呪文は載っていない。今回は召喚なしか……いや、そう決めつけるにはまだ
    早い)
七条 :これを僕が流し読みしたらどのくらい時間が掛かりますか?
遠藤 :二時間です。
西園寺:読むのか、臣? これはPL(プレイヤー)とPC(プレイヤー・キャラクター)間の知識の溝
    を埋める役には立つが、あの浅浮彫りについては恐らく何も書かれていない。
七条 :わかっています。ですが、ここにあるということは、あの浅浮彫りを連想させる何かが載っ
    ているはずです。二時間の睡眠を犠牲にする価値は充分にあります……KP(キーパー)、
    僕は奈緒美さんの机からこっそり本を持ち出します。今夜中に読んで、明日、隙を見て返せ
    ば大丈夫でしょう。
丹羽 :俺も鍵をポケットに入れるぜ。部屋の鍵にしては古びてるのが気になるが、他に施錠され
    た部屋はねえし、一応、確かめてみる。
遠藤 :それでは王様は部屋を出たら奈緒美の部屋に施錠します。『鍵開け』を振って下さい。
丹羽 :開けられたなら閉められるってことか。


丹羽 :鍵開け(81)→3 クリティカル


丹羽 :何もこんなとこでクリティカルの無駄遣いをしなくても……って、あ~っ!! キーピックが
    あったじゃねえか! それを使ってたら、先刻のロールは成功だろう!
遠藤 :そういえば、王様、持っていましたね。俺も忘れていました。
    (今更、思い出さなくても良かったのに)
丹羽 :……遠藤、お前、気づいて黙ってただろう。
    (やっぱりこいつは絶対、いつか殴る!)
遠藤 :本当に忘れていたんですよ……それでは、王様は奈緒美の部屋を人類史上、最も静かに
    完璧に施錠しました。それから真向いの部屋に鍵を差し込みますが、全く合いません。仕方
    なく王様と七条さんは応接間へ戻りました。二人が二階にいたのは十分くらいだったので、
    奈緒美は気にもしていません。綺羅子と一緒に金谷の話を楽しそうに聞いています。
丹羽 :俺はそれを横目に見ながら、元の椅子に座るぜ。二階でのことはまだ話せねえから黙って
    コーヒーを飲む。
七条 :僕も腰を下ろすと、持って来たチョコチップ・クッキーを伊藤君に渡します。どうぞ、伊藤君。
    奈緒美さんのクッキーも美味しいですが、これもなかなかの味ですよ。
伊藤 :有難うございます、七条さん。そう言って俺はクッキーを貰うよ。
西園寺:私はまだ気分が優れないので、そんな啓太を眺めている。
中嶋 :俺も静かにコーヒーを飲む。
遠藤 :では、全くやむ気配のない雨にふと綺羅子が呟きました。
藤田 :外は酷い嵐なのに、まるでここは別世界ですね。
杉山 :ええ、私もこんな時間を過ごすのは久しぶりですわ。祖母達もこんなふうにして夜を過ごし
    ていたのかしら。図書室で調べものをした後、ここにあの浅浮彫りを飾って……あそこに描
    かれた遠い地の不思議な光景を眺めて空想に耽るのはとても楽しかったでしょうね。
藤田 :ですね。
金谷 :きっと素晴らしい時間だったでしょうな。
丹羽 :奈緒美に『心理学』を振るぜ。
中嶋 :俺は綺羅子に『心理学』だ。
七条 :では、僕は金谷にします。
伊藤 :俺は……
    (良い話だなって思ったけど、それじゃ駄目なのかな)
西園寺:啓太、『心理学』を取っているからと無理に使う必要はない。今の話に裏があるなどお前
    は考えもしないだろう。なら、素直に聞いているだけで良い。それがTRPGというものだ。
伊藤 :有難うございます、西園寺さん……俺はロールしないよ、和希。
遠藤 :わかった。では、三人の『心理学』を振ります。
    (啓太は優しいから奈緒美達に感情移入して『心理学』は使い難そうだな。このシナリオは
    少し酷だったか)


丹羽 :心理学(80)→??
中嶋 :心理学(80)→??
七条 :心理学(75)→??


遠藤 :(……もう奈緒美への疑惑は充分に集まった。そろそろ始めるか)
    中嶋さんには綺羅子が楽しかった追憶に浸っている様に見えました。七条さんは金谷が昔
    を懐かしむ老人の顔をしていると思いました。王様は奈緒美の様子を窺おうとしてふとこち
    らを向いた彼女と目が合いました。すると、その瞳の奥に昏く淀んだ狂気を感じて一瞬、背
    筋が寒くなります。
丹羽 :げっ、まさか……!
遠藤 :はい、SAN(正気度)チェックの時間です。0/1D2でお願いします。
丹羽 :先刻より厳しいのかよ。
遠藤 :王様は奈緒美に二度も『心理学』を使っているから心象が悪いんですよ。
伊藤 :あっ、好感度ってこのことか。
丹羽 :くそっ、ロールするぜ。


丹羽 :SAN(65)→87 失敗 1D2→1
    :SAN(65)→64


「何とか最少ダメージで済んだな」
 ほっと丹羽は胸を撫で下ろした。しかし、五人の中で最もSAN値が低くなってしまった。
(遠藤がKP(キーパー)の卓で絶対に発狂はしたくねえ……!)
 丹羽はきつく拳を握り締めた。その気迫を感じて中嶋が喉の奥で低く笑った。
「ふっ……真っ先に発狂するなよ、哲っちゃん」

遠藤 :その後、奈緒美と三人の相続人、啓太達は色々なこと話しました。金谷と西園寺さん、七
    条さんは応接間に飾られた品々を一つずつ見ながら、オカルトや学術的な話題で盛り上
    がっています。奈緒美は啓太にアロマのことを尋ねてきました。流行には疎くて、とはにか
    む彼女に啓太は使い方や効用を丁寧に教えます。綺羅子は王様と中嶋さんの仕事に興味
    があるらしく、二人で解決した事件の話を熱心に聞いていました。しかし、屋敷までの長旅
    で疲れたのか、やがて誰もが自然と口数が少なくなってきました。奈緒美がマントルピース
    の上に飾られている置時計を見て言いました。
杉山 :あら、もう十時を過ぎていましたのね。皆様、話は尽きませんが、そろそろお開きにしませ
    んか?
藤田 :そうですね。私も少し眠くなってきました。
金谷 :名残惜しいですが、女性を遅くまで引き留めておくのは失礼ですな。私もこれで休むことに
    します。
丹羽 :俺達も部屋へ引き上げるか。
伊藤 :はい、王様……杉山さん、皆さん、今夜は有難うございました。おやすみなさい。
杉山 :おやすみなさいませ、伊藤さん。
遠藤 :そんな挨拶を互いに交わすと、各自、部屋へ引き上げて行きました。七条さんは『ボナベ
    経典』を読みますか?
七条 :いえ、今夜はやめておきます。明かりは隣で休む郁の邪魔になりますし、僕も疲れていま
    すから。明日の朝、早起きをして読むことにします。
遠藤 :他に何か今夜中にしたいことのある人はいますか?
丹羽 :もう一度、施錠された部屋を調べることは出来るか?
遠藤 :まだ無理です。
丹羽 :なら、することがねえから俺は寝るぜ。
中嶋 :俺も煙草を吸ってから眠る。
西園寺:私も今夜は早々に休むことにする。
伊藤 :俺も直ぐ寝るよ、和希。
遠藤 :では、皆、ベッドに入ると深い眠りへ落ちてゆきました。外の嵐も夢の中までは届きませ
    ん。平穏で安らかな時間です。そうして誰もが寝静まった真夜中を少し過ぎた頃……
伊藤 :……
    (何か嫌な間だな)
遠藤 :突然、夜のしじまに男の大きな悲鳴と硝子の割れる音が響き渡りました。


2014.9.8
終に和希が牙を向けてきました。
KP(キーパー)は善人だけど、
悪趣味な人が多いらしいです。

r  n

Café Grace
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