遠藤 :翌朝の七時……奈緒美と綺羅子は朝食を作りにキッチンへと向かいました。一晩で落ち
    着いた金谷も暫く部屋へ戻ろうと後に続くと、入れ違いに西園寺さんと七条さんが応接間に
    来ます。二人は昨夜と同じ椅子とソファに腰を下ろしました。すると、既に王様と中嶋さん、
    啓太も起きていました。啓太は良く眠れなかったのか目の下に薄く隈が出来ています。
伊藤 :ふあ~っと俺は欠伸をするよ。


「……応接間には俺達だけか」
 丹羽がコーヒーを片手に呟いた。
「なら、ここで昨夜からの情報を交換してPC(プレイヤー・キャラクター)の共通認識にしておくか。別行動が多かったから結構、溜まってるだろう。確か俺は奈緒美の部屋で見つけた鍵のことはまだ言ってねえな」
「アルバムの写真のこともある」
 中嶋が指摘した。西園寺と七条、啓太が口々に言った。
「私は佐藤の死を知ったときの奈緒美の呟きと私にしか見えなかった触手のことだ」
「僕は『ボナベ経典』で知ったことを皆のSAN値が減らない程度に話します」
「俺も昨夜の奇妙な体験を王様達に話します。西園寺さん、俺達が見たのは同じものなんでしょうか?」
「ああ、状況は違うが、同一の存在と考えて間違いないだろう」
「あれは、一体、何なんですか?」
「現時点では不明だ。だが、啓太、あの浅浮彫りには不用意に近づくな」
「えっ!? どうしてですか?」
 啓太は不思議そうに首を傾げた。すると、七条が代わりに答えた。
「あの浅浮彫りには似た様なものが彫られていたでしょう、伊藤君」
「似た様なものって……」
 その言葉に啓太は少し考えた。あれには海中遺跡とタコのお化けしか……あっ、タコの足!
 ポンッと啓太は手を打った。啓太が納得したのを見て丹羽が話を続けた。
「だが、まだPC(プレイヤー・キャラクター)が奈緒美を問い詰めるには証拠が足りねえな」
「ええ、召喚呪文の載っている魔導書ならまだしも、『ボナベ経典』では微妙ですね。単に浅浮彫りのことを調べていただけと言い逃れる可能性があります」
 すると、中嶋が小さく鼻で笑った。
「やはり犬の浅知恵だな。それを置いても、まだ二人目という言葉がある。奈緒美が鍵を握っているのは間違いない」
「……」
 中嶋の指摘に七条からすうっと表情が消えた。二人が険悪になる前に丹羽が急いで話題を替える。
「中嶋、朝食を済ませたら昨夜の雨の影響を調べると言って外に出てみようぜ。屋敷の裏手に地下への階段があっただろう。あそこに魔法陣でもあれば奈緒美に黒打ち出来る」
「わかった」
「では、その間、狙われている可能性の高い啓太と私は応接間にいる」
「僕は二人の護衛に付きますね」
「有難うございます、七条さん」
 啓太は不安そうに頭を下げた。その怯えた子犬の様な様子に和希は今直ぐ傍に駆け寄って抱き締めたい衝動に駆られた……が、必死にそれを堪えた。
(KP(キーパー)は中立を保たないと公平な判定が出来ない……くっ……ごめん、啓太)
 和希は自分の不甲斐なさに苦悩しながら、断腸の思いでシナリオを再開した。

遠藤 :一時間ほどそんな話をしていると、キッチンの方から何やら美味しそうな匂いが漂ってきま
    した。奈緒美と綺羅子の料理の腕は確かなので誰もが空腹を覚え、落ち着かなくなります。
    ここで啓太と西園寺さんは『目星』をお願いします。
伊藤 :……うん。


伊藤 :目星(65)→28 成功
西園寺:目星(80)→37 成功


遠藤 :二人は床から奇妙な泡が湧いてくることに気がつきました。やがてそれは透明な触手を形
    作り、地を這う様にこちらへと伸びてきます。
伊藤 :西園寺さん! そう言って俺は慌てて床を指差して立ち上がる。
西園寺:私も触手を避けて急いで立ち上る。またか……!
丹羽 :俺は床に目を凝らすぜ……駄目だ。何も見えねえ!
中嶋 :だが、二人には見えている……!
七条 :郁、伊藤君、避けて下さい!
遠藤 :二人が気づくと、謎の触手は直ぐに床の中へと消えました。啓太はまた自分に『精神分
    析』、成功なら『アイデア』も振って。
伊藤 :わかった……
    (何か凄く嫌な予感がする……)


伊藤 :精神分析(86)→24 成功
    :アイデア(75)→18 成功


伊藤 :どうしよう。成功しちゃった……
遠藤 :(啓太……)
    今までの度重なる経験から啓太の頭に、これは単なる幻覚ではなく別の次元から何かが実
    体化しようとしていたのではという神話的恐怖に満ちた推測が浮かびました。この驚くべき
    事実に思い至った啓太は0/1D4、西園寺さんは0/1D2のSAN値を失います。
伊藤 :ううっ……
西園寺:私達にしか見えないとはっきり確認したことで恐怖が増したのか。


伊藤 :SAN(70)→73 失敗 1D4→1
    :SAN(70)→69
西園寺:SAN(85)→13 成功


「終に啓太に土が……」
 丹羽が低い声で呟いた。やっぱりもうあまり時間はねえな。
「そうなんですか!?」
 啓太は微かに蒼ざめた。ああ、と西園寺は頷いた。
「恐らく私達は今後も随時、SAN(正気度)チェックが入る。一種のカウント・ダウンだな」
「そんな……」
(これまで俺は運の良さで辛うじて助かってただけなのに……)
 SAN(正気度)チェックは失敗すればするほど、成功の確率が低くなる負の連鎖だった。このままでは為す術もなく発狂するか、触手に囚われてしまう結末しかない。そこに救いがあるとは思えなかった。
 啓太は漸くクトゥルフ(CoC)の恐ろしさがわかった気がした。ゲームとはいえ、そんなのって……
 項垂れる啓太を丹羽が力強く励ました。
「大丈夫だ、啓太、二人のSAN値が持ってる間に必ず俺が敵を片づける」
「ふっ、最も発狂要員に近いお前が、か」
 中嶋が揶揄する様に言った。
「俺は発狂しねえ」
 丹羽はきつく拳を握り締めた。すると、西園寺が小さく口の端を上げた。
「臣、丹羽が発狂したら気絶させろ」
「はい、郁」
「それはねえだろう、郁ちゃん」
「煩い。発狂したSIZ(体格)18などただの目障りだ」
「そうですね。では、遠慮なく気絶させます」
「なっ……七条、お前のSTR(力)は17だろう。俺を殺す気か!?」
 本気で焦る丹羽を見て啓太がクスクスと笑った。
「ちゃんと俺が『精神分析』しますから安心して下さい、王様」

遠藤 :では、そうして啓太達が色々な話をしていると、奈緒美が朝食の用意が出来たと呼びに来
    ました。一緒に食堂へ行くと、金谷と綺羅子は既に昨夜と同じ場所に座っていました。佐藤
    の椅子には誰もいません。それを見た王様達は自然と同じ席に着きました。やがて静かに
    食べ始めます。メニューはトマトのジュレと胡瓜の冷菜、ベーコン、スクランブル・エッグ、イ
    タリアン・サラダ、トースト、コンソメ・スープです。悲惨な出来事があったばかりですが、どれ
    も品の良い味付けで食が進みます。ここで七条さんは『目星』の半分でロールをどうぞ。
七条 :半分ですか。厳しいですね。


七条 :目星(50/2)→86 失敗


遠藤 :冷菜を食べた七条さんは農薬の様な強い刺激臭を感じました。しかし、寝不足のために反
    応が遅れて飲み込んでしまいます。CON(体力)対抗ロールです。成功率は65%です。
七条 :どうやら敵は実力排除に出た様ですね。


CON(体力)対抗ロール(65)→45 成功


遠藤 :(成功か。まあ、これで七条さんの動きはある程度、封じられる)
    幸い、量が少なかったので生命に別状はありませんでした。しかし、時折、七条さんは不意
    の吐き気や眩暈に襲われることになります。この症状は数日で治まります。
七条 :ランダムですか。
    (布石を打たれました)
西園寺:KP(キーパー)、何かが入っていたのは臣の食事だけか?
遠藤 :はい、他の人は普通に食べています。
七条 :では、僕はそっと席を立って応接間へ戻ります。
西園寺:臣の異変に気づいた私も後を追う。
遠藤 :王様達はどうしますか?
丹羽 :ぞろぞろついて行くのも変だし、俺は七条のことを気にしながら、ここに残るぜ。
中嶋 :俺も警戒しつつ、食事を続ける。
伊藤 :俺は昨夜から色々あって食欲があまりないし、七条さんの顔色が気になるから応接間へ
    行くよ。
遠藤 :なら、また進行を二つに分けます。最初は王様達です。
丹羽 :KP(キーパー)、今、雨はどうなってる?
遠藤 :まだ強く降っています。
丹羽 :そうしたら、俺は食事が終わった頃を見計らって奈緒美にこう言う。昨夜からの雨で屋敷
    のどこかが壊れてないか、中嶋とちょっと外を調べてきます。
杉山 :まあ、お客様にそんなことは頼めませんわ。それに、この屋敷は古くても頑丈なのでご心
    配には及びません。
丹羽 :いや、この雨はまだやみそうもないので油断は出来ません。何かあってからでは遅いです
    から。そうして俺は奈緒美の制止を強引に振り払って席を立つ。そして、『心理学』だ。
中嶋 :俺も奈緒美に何か言われる前に丹羽の後に続く。それから同じく『心理学』を振る。
遠藤 :わかりました。


丹羽 :心理学(80)→??
中嶋 :心理学(80)→??


遠藤 :(くっ、1足りないとは……!)
    王様は奈緒美の瞳に潜む狂気を思い出して表情を窺えませんでした。中嶋さんは奈緒美
    がとても迷惑がっている様に感じます。
中嶋 :奈緒美は屋敷を探索して欲しくないらしい。
丹羽 :ああ、ここにはまだ何かあるぜ。やっぱりあの地下室が怪しいな。
遠藤 :二人は奈緒美から傘を借りて外に出ました。朝なのに空は薄暗く、ススキの野原やその間
    を縫う道はまだ深く冠水しています。しかし、屋敷の周囲は水捌けが違うらしく地面はぬか
    るんでいるものの、歩けないほど酷くはありません。二人は直ぐに屋敷の裏手へと回りまし
    た。すると、キッチンの外側に地下への階段を見つけました。その先には鉄の閂が付いた
    他とは明らかに違う頑丈な扉があります。
丹羽 :よし! 階段を下りて扉を調べる。
中嶋 :俺は階段の上で周囲を警戒しつつ、丹羽の様子を窺う。
遠藤 :(用心深いな……やはり簡単には引っ掛からないか)
    では、王様は階段を下りると、閂を外してポケットから鍵を取り出しました。それはピッタリと
    合い、やがて扉が鈍い音を立ててゆっくり外側へと開きました。
丹羽 :念のため中に入る前に『目星』を振る。


丹羽 :目星(75)→63 成功


遠藤 :天井の低い地下室は真っ暗で大きなボイラーと生活用品らしき物が雑然と置かれていま
    した。何とか壁際に明かりのスイッチを見つけましたが、その光は弱く今にも消えそうです。
中嶋 :丹羽一人では調べるのにどのくらい掛かる?
遠藤 :薄暗いので一時間です。
丹羽 :二人ならその半分か……どうする、中嶋? あまり時間を掛けると、奈緒美に怪しまれる。
中嶋 :二人で手分けするしかないな。俺も中へ入る。
遠藤 :では、もう一度、二人で『目星』をどうぞ。


丹羽 :目星(75)→65 成功
中嶋 :目星(75)→67 成功


遠藤 :三十分ほど地下室を調べていると、ボイラーの陰に隠す様にダンボール箱が置かれてい
    るのを発見しました。それはかなり重いので、二人で明かりの真下まで引きずって蓋を開け
    てみます。すると、そこには透明なビニール袋に密閉された老婦人の死体が入っていまし
    た。その表情は恐怖に歪み、とても無残です。0/1D3のSAN(正気度)チェックです。
丹羽 :うっ……先刻、ダイスを替えたから大丈夫だよな……多分。


丹羽 :SAN(59)→11 成功
中嶋 :SAN(62)→19 成功


丹羽 :よし! このダイスならいける!
遠藤 :(くっ……七条さんといい、肝心なところで俺の手を擦り抜けてゆく。殺すのは無理なのか)
    では、二人は『アイデア』を振って下さい。


丹羽 :アイデア(75)→39 成功
中嶋 :アイデア(70)→02 クリティカル


遠藤 :(いや、このクリティカルを巧く使えば……)
    昨夜の佐藤の死に様を見ていた二人は取り乱すことなく冷静に事実を受け止めました。そ
    して、中嶋さんはこの老婦人は施錠された部屋のアルバムに貼ってあった写真の人物だと
    気づきます。
中嶋 :死因はわかるか?
遠藤 :それには『医学』が必要です。
中嶋 :だが、俺はジャーナリストだ。不審死はそれなりに経験している。正確にはわからずとも、
    大まかな特徴は捉えられるはずだ。それに、写真の人物と同一というだけではクリティカル
    情報としては不十分だ。
丹羽 :……だな。それなら俺でもわかるぜ。
    (なぜ、遠藤は死因を出さなかったんだ? まるで中嶋の指摘を待ってた様な……)
遠藤 :(掛かった)
    わかりました。では、中嶋さんはビニール越しに老婦人の首に指の痕を見つけ、絞殺された
    と気づきました。箱の中には他にも古い肖像画が一つ入っています。取り出して見ると、そ
    こには奈緒美と良く似た女性が描かれていました。サインは無名の画家のものですが、日
    付は昭和三年と記されています。
丹羽 :この肖像画は奈緒美だな。
中嶋 :ああ、遺体は恐らく杉山芳子だ。
伊藤 :でも、それだと年が合いません。
七条 :時間を超越するなどクトゥルフ(CoC)では普通に起こることですよ、伊藤君。
伊藤 :そうなんですか!?
西園寺:ああ、この肖像画が証拠だ。昭和三年、奈緒美はこの屋敷に住んでいた……杉山早苗と
    して。
伊藤 :えっ!?
遠藤 :ここで、王様と中嶋さんは『聞き耳』をどうぞ。
丹羽 :まずい! 中嶋、失敗するなよ!
    (このための時間稼ぎか!)
中嶋 :わかっている。


丹羽 :聞き耳(25)→12 成功
中嶋 :聞き耳(75)→47 成功


遠藤 :二人は背後で微かな音を聞きつけました。慌てて振り返ると、誰かが外から扉を閉めよう
    としています。DEX(敏捷)対抗ロールです。
丹羽 :俺が行く!
遠藤 :成功率は70%です。


丹羽 :DEX(70)→79 失敗


丹羽 :なっ……!
遠藤 :(貰った!)
    王様は素早く扉を押さえました……が、半年前に骨折した利き腕にまだ上手く力が入りま
    せん。少し遅れて中嶋さんも駆け寄りましたが、無情にも扉は二人の目の前で閉まってしま
    いました。外から鉄の閂の擦れる嫌な音がします。
丹羽 :くそっ!! 俺は扉を思い切り拳で叩く。
中嶋 :落ち着け、丹羽、酸素を無駄にするな。俺達が戻らなければ、直ぐに西園寺達が気づく。
丹羽 :わかってる。だが、それまではここで足止めだ。郁ちゃん、啓太、無事でいてくれ……!
遠藤 :では、王様達は暫く動けないので場面を応接間に移します。啓太と西園寺さんはまずは
    『目星』をどうぞ。
伊藤 :ううっ、また……和希の、和希の意地悪~
遠藤 :け、啓太!?
    (まさか啓太に嫌われた!?)


伊藤 :目星(65)→89 失敗
西園寺:目星(80)→27 成功


遠藤 :……
    (そんな……啓太のSAN(正気度)チェックが多いのはシナリオの都合上であって俺のせい
    では……いや、だが、これを選んだのは俺だから……でも、まさかそんな……)
丹羽 :おい、KP(キーパー)、しっかりしろよ。
    (遠藤のリアルSAN値が確実に削れたな、今)
遠藤 :あ……すいません。では、寝不足もあってぼんやりしていた啓太は西園寺さんの鋭い声に
    ハッと我に返りました。見ると、壁や床から例の触手が二人へと伸びてきています。その内
    の一本が啓太の背後から足首を捉えようとしました。しかし、啓太は気づいていません。
西園寺:啓太! 私は咄嗟に啓太を突き飛ばす。
伊藤 :わっ……!
七条 :何も見えない僕は為す術もなく、ただ二人を不安げに見つめています。郁、伊藤君……!
遠藤 :触手は二人を求めて暫く辺りを蠢いていましたが、突然、ふっと壁や床の中に消えてゆき
    ました。二人は1/1D2のSAN値を失います。


伊藤 :SAN(69)→98 ファンブル 1D2→1
    :SAN(69)→68
西園寺:SAN(85)→29 成功
    :SAN(85)→84


伊藤 :和希、俺、ファンブルだけど良いのか?
遠藤 :SAN(正気度)チェックは成功か失敗かの判定しかないからファンブルは関係ないんだ。
伊藤 :そっか。
    (でも、俺のSAN値がだんだん減ってる……)
遠藤 :度重なる襲撃に啓太は少し蒼ざめた顔で再び肘掛け椅子に腰を下ろしました。西園寺さ
    んも無言でソファに座ります。そんな二人を心配した七条さんが優しく声を掛けました。
七条 :大丈夫ですか、伊藤君? 少し精神的に参っている様に見えます。
伊藤 :あ……はい、有難うございます。あの触手は怖いけど、気づいたら直ぐ消えるから……
西園寺:いや、啓太、もうそうとは限らない。現に今回は直ぐには消えなかった。しかも、明らかに
    攻撃性が増している。壁から始まり、床、壁と床……なら、次は天井か。
伊藤 :そんな……俺は怖そうに天井を見た。
西園寺:……私の車にナイフがある。あの触手にナイフが効くかはわからないが、一応、護身用に
    持って来よう。
伊藤 :あっ、俺も行きます。一人は危ないですよ、西園寺さん。
七条 :僕も行きましょう。そう言って僕は立ち上がります。
遠藤 :では、このとき、西園寺さんは王様達がまだ戻らないことにふと気がつきます。
西園寺:そういえば、丹羽達は遅いな。
伊藤 :確か地下室を調べに行きましたよね。まさか……王様達に何かあったんでしょうか?
西園寺:あいつは品がなくて厚かましいが、そう簡単にやられはしない。だが、少し気になるな。つ
    いでに様子を見に行くか。
遠藤 :西園寺さん達が玄関ホールに行くと、ドアの傍に昨日はなかった陶器の傘立てがありまし
    た。量販品の傘が三本ほど入っています。雨の中、それを手に外へ出た三人は車からナイ
    フを取った後、屋敷の裏手へと回りました。地下への階段を見つけて上から覗くと、少し下り
    た処に鉄の閂の掛かった頑丈そうな扉があります。RP(ロール・プレイ)で開けて下さい。
伊藤 :閂が……ということは王様達はもう屋敷に戻ったのかな。
西園寺:それならば、なぜ、応接間に顔を出さない。私達があそこにいると丹羽達は知っている。
    汚れたから先にシャワーを浴びるにしても、戻ったと一言くらいはあって良いはずだ。
七条 :郁、ここで考えていても仕方ありません。取り敢えず、あの扉を開けて中を確かめてみませ
    んか?
西園寺:そうだな。
遠藤 :では、三人は階段を下りると、七条さんが閂を外しました。金属の擦れる重く鈍い音が辺り
    に響きます。そして、音が止まった瞬間、扉が内側からゆっくり押し開けられました。中から
    王様と中嶋さんが出て来ます。二人とも、頭痛がするらしく軽くこめかみを押さえています。
丹羽 :はあ……助かったぜ……
中嶋 :……酷い天気だが……っ……遥かにましだな。
伊藤 :大丈夫ですか、王様、中嶋さん。どこか怪我でも?
丹羽 :いや……痛っ……くそっ……
七条 :二人とも、どうやら軽度の二酸化炭素中毒の様ですね。
伊藤 :二酸化炭素中毒……?
七条 :空気中の二酸化炭素の濃度が高くなると、頭痛や眩暈などの症状が出て、やがて死に至
    ります。だから、密閉された空間では呼吸すればするほど、自分の首を絞めてしまいます。
伊藤 :そんな……大丈夫なんですか、王様、中嶋さん!?
中嶋 :ああ、呼吸を抑えるために中では話すらしなかったからな。
伊藤 :さすがですね。もし、この中に閉じ込められたのが俺だったら、とてもそんな――……
丹羽 :覗くな、啓太! そう叫んで、俺は啓太の腕を強く引っ張る。
中嶋 :俺は背中で扉を閉めて簡単に言う。中に死体がある。恐らく杉山芳子だ。
伊藤 :……っ……!
丹羽 :それと、奈緒美そっくりの肖像画を見つけた。描かれた日付は昭和三年。多分、奈緒美と
    早苗は同一人物だ。奈緒美はどこだ!?
西園寺:朝食後は見掛けていない。
遠藤 :奈緒美の正体に気づいた五人は急いで屋敷へ駆け戻ります。すると、玄関ホールで金谷
    と綺羅子がおろおろしていました。
藤田 :あっ、皆さん、大変です。奈緒美さんが急にいなくなってしまったんです!
金谷 :綺羅子さんからそう聞いて私も屋敷中を探してみましたが、どこにもいません。一体、奈緒
    美さんはどこへ……
丹羽 :『心理学』を振るか? いや、今は時間が惜しいか。
中嶋 :ああ、その間に逃げられる可能性がある。
西園寺:KP(キーパー)、二人は奈緒美の部屋は調べたのか?
遠藤 :施錠されているので中までは見ていません。金谷がノックをしたけれど、返事がなかったと
    だけ伝えます。
丹羽 :なら、俺と中嶋が奈緒美の部屋、郁ちゃん達は向かいの芳子の部屋を調べてくれ!
西園寺:丹羽、二階には一つ空き部屋があったはずだ。
丹羽 :ああ、俺の部屋の隣だ。金谷さん、そこは調べたのか?
金谷 :いえ、他の部屋までは……
遠藤 :金谷は言葉を濁しました。佐藤の遺体があるので、二階には近づきたくない様です。綺羅
    子は二階と聞いただけで小さく震えました。
丹羽 :全部で三つか……仕方ねえ。中嶋、空き部屋の方を頼む。郁ちゃん達は離れるなよ。
中嶋 :ああ。
西園寺:わかっている。
遠藤 :では、王様は奈緒美の部屋、中嶋さんは右の空き部屋、西園寺さんと七条さん、啓太の三
    人が芳子の部屋を調べます。


 ノート・パソコンに和希はシナリオの最終章を出した。冷めたコーヒーをゆっくり口へと運ぶ。
(思う様にSAN値は削れなかったが、最後に隙が出来た……)
 丹羽達は先を急ぐあまり、PL(プレイヤー)とPC(プレイヤー・キャラクター)間の情報に溝を作ってしまった。故にPC(プレイヤー・キャラクター)が知り得ない事柄に基づく不自然な行動は取れない。それを利用して……殺す。このシナリオに――啓太に――英雄は必要ないから……俺以外の。
(全員、死んで貰います……啓太は、誰にも渡さない)
 和希の中で、啓太以外への殺意が強く激しく燃え上がった。


2014.9.26
終に実力行使に出た和希です。
和希の思惑通りに事が運ぶのか……
総てはダイスの女神の気分次第です。

r  n

Café Grace
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