Ⅰ


「よし! 全員、揃ったな」
 放課後の生徒会室に丹羽の大きな声が響いた。
 先週と同じ面々が机を取り囲んで腰を下ろしているが、和希のいた上座には丹羽が座っていた。今回は丹羽がKP(キーパー)で、和希はPL(プレイヤー)として参加すべく啓太の左隣りにいる。それ以外は前回と何も変わっていなかった。丹羽に向かって右側では中嶋が一人、退屈そうに煙草を吸っていた。左側に並ぶ会計部の二人は態々持参した紅茶を優雅に飲んでいる。
「和希、仕事は大丈夫なのか?」
 啓太が何となく声を潜めて尋ねた。ああ、と和希は頷いた。
「今はあまり忙しくないから大丈夫だよ。それよりも啓太といる方が遥かに大切だよ、俺にとっては」
 最後が意味ありげに少し強調されたが、啓太は全く気づかなかった。有難う、と素直に喜ぶ様に和希は小さく苦笑する。丹羽がコホンと咳払いをした。
「それじゃあ始めるぜ」
 丹羽はタブレット型パソコンを各自に配った。その画面を指差して説明する。
「そこに全員のPC(プレイヤー・キャラクター)のデータが入ってる。ミスはねえはずだが、一応、自分でも確認してくれ。何度も同じPC(プレイヤー・キャラクター)を使うと、キャラクター・シートが訂正だらけになるからな。これでかなり見易くなるはずだ」
「お前にしては良い考えだな、丹羽」
 珍しく西園寺が褒めた。七条も小さく頷く。
「僕はこの方が慣れているので嬉しいですね」
「今回も前回と同じPC(プレイヤー・キャラクター)を使うのか?」
 中嶋がデータを確認しながら、丹羽に尋ねた。
「ああ、今回から遠藤もPL(プレイヤー)として加わるから最初は同じ条件でPC(プレイヤー・キャラクター)を作った方が良いだろう。これを使い続けるか、新キャラを作るかは次回以降のKP(キーパー)の判断に任せる。遠藤のは既に出来てるから取り敢えずはその紹介と前回のメンバーのSAN値回復、及び技能値の成長から始めるぜ」
「えっ!? SAN値って回復するんですか、王様?」
 黙って話を聞いていた啓太が少し驚いた顔で言った。俺、SAN値は減ったら、ずっとそのままだと思ってた……
 ああ、と丹羽は頷いた。
「生還したらSAN値は回復することが多いな。前回のシナリオの生還者は1D10回復するぜ。それから技能値の成長だが、皆、甘い設定で作ったから高スペックだろう。だから、クリティカルと初期値成功だけ1D6成長することにした。『心理学』のクリティカルは中嶋だけだな」
「あのときのだな……わかった」
 中嶋が短く答えた。えっ、と啓太がまた声を上げた。
「俺、そんなの覚えてない……」
「大丈夫だよ、啓太、俺がチェックしていたから」
 和希が柔らかく微笑んだ。
「良かった。有難う、和希」
 ほっと啓太は胸を撫で下ろした。ただ……と和希が少し表情を曇らせる。
「その条件だと啓太は技能値の成長がないんだよな」
「そういえば、俺、クリティカルとか出た記憶ないかも……」
「うん? 啓太はねえのか?」
 丹羽は自分の前にあるノート・パソコンのキーを幾つか叩いた。KP(キーパー)用の資料として和希が記録した前回のダイスの出目を調べる。
「……ああ、確かにこの条件だと啓太と七条は成長なしになるのか。折角、生還したのにそれもな……なら、皆、成功した技能から更に一つだけ好きなやつを1D6成長させて良いぜ。それと、HP(耐久力)は全回復だ。今回はあれから三ヶ月後の設定だからな」
 そうしてまずは各自のPC(プレイヤー・キャラクター)を成長させることから今回のクトゥルフ(CoC)は始まった。
 ……三十分後、丹羽が全員を見回して言った。
「そろそろ出来た頃だろう。時計回りに中嶋から発表といきたいが、その前に俺のを出すぜ。新しいNPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)を作るより楽だからな」
 そして、丹羽は更新したデータを全員に送った。

探索者名 丹羽哲也(25)

母国語:日本語 職業:私立探偵 HP(耐久力):17 MP(マジック・ポイント):13
STR(力):10 CON(体力):15 POW(精神力):13 DEX(敏捷):16 APP(容姿):15
SIZ(体格):18 INT(知力):15 EDU(教育):19 SAN(正気度)48→52 アイデア:75
幸運:65 知識:95 ダメージ・ボーナス:1D4

技能

組みつき:65% こぶし:85% マーシャルアーツ:81% 聞き耳:25%→31%
鍵開け:81%→83% 写真術:20% 登攀(とうはん):45% 目星:75% 言いくるめ:80%
値切り:75% 心理学:80%→85% 法律:15%


「ふっ……相変わらず、SAN値が危ないな、丹羽」
 中嶋が面白そうに呟いた。丹羽は不満そうに掌を握り締めた。
「あれだけガッツリ減っておきながら、4しか回復しねえなんてあり得ねえだろう」
「引き続き、丹羽は発狂要員ということか」
 西園寺が小さく口の端を上げた。啓太が不思議そうに尋ねた。
「王様、技能値の成長にどうして戦闘系を選ばなかったんですか?」
「ああ、それはな、啓太……『心理学』で、色々痛い目に遭ったからだ」
 丹羽が、じと~っと和希を睨んだ。和希は小さく頬を掻いた。ははっ、と啓太は乾いた声で笑った。まだ根に持ってるよ、王様……
「次は俺だな」
 中嶋が煙草を消しながら、静かな声で言った。

探索者名 中嶋英明(25)

母国語:日本語 職業:ジャーナリスト HP(耐久力):15 MP(マジック・ポイント):13
STR(力):12 CON(体力):15 POW(精神力):13 DEX(敏捷):13 APP(容姿):18
SIZ(体格):15 INT(知力):14 EDU(教育):17 SAN(正気度)53→63 アイデア:70
幸運:65 知識:85 ダメージ・ボーナス:1D4

技能

キック:65%→69% マーシャルアーツ:75% 聞き耳:75% 図書館:85%
目星:75%→79% 言いくるめ:75% 説得:75% 心理学:80%→85% 法律:5%→6%
母国語(日本語):86% クトゥルフ神話:3%


「SAN値が10回復ってフルじゃねえか」
 丹羽が悔しそうに中嶋を見やった。
「ふっ、俺はダイスの女神に気に入られているからな」
「……」
 邪神の間違いだろう、と喉元まで出掛った言葉を丹羽はグッと堪えた。西園寺が独り言の様に言った。
「戦闘技能を伸ばしたのか」
「ああ、丹羽がKP(キーパー)では戦闘要員が少ないからな」
「それは助かるが……また発狂するなよ、中嶋」
 前回の丹羽との戦闘を思い出し、西園寺は顔を顰めた。七条が冷たく中嶋を見やった。
「ええ、最大ダメージ16を受けたら堪ったものではありません。一体、誰を殺す気なんでしょうか」
「ふっ……」
 中嶋は軽く眼鏡を押し上げた。その様子に七条が表情を凍らせる。不穏な気配を感じた啓太は素早く自分のを発表した。
「えっと、俺はこんな感じになりました」

探索者名 伊藤啓太(22)

母国語:日本語 職業:大学生/メンタル・セラピスト
HP(耐久力):10 MP(マジック・ポイント):14
STR(力):9 CON(体力):9 POW(精神力):14 DEX(敏捷):12 APP(容姿):14
SIZ(体格):10 INT(知力):15 EDU(教育):16 SAN(正気度)56→63 アイデア:75
幸運:70 知識:80

技能

回避:54% 応急手当:75% 聞き耳:60% 精神分析:86%→88% 目星:65% 信用:85%
説得:40% 芸術(アロマ):65% 心理学:85% クトゥルフ神話:3%


「SAN値はそこそこ回復したんですけど、技能値が2しか……だから、いざってときに失敗しないよう『精神分析』を成長させました」
 啓太の口調は少し不安げだった。
(やっぱり良く使う『聞き耳』や『目星』を成長させた方が良かったかな。でも、2増えても焼け石に水って気がするし……)
 頭の中でぐるぐる考えていると、ふわりと和希が微笑んだ。
「それで良いと思うよ、啓太」
「妥当な判断だな」
 中嶋も小さく頷いた。
「良かった」
 啓太は、ほっと胸を撫で下ろした。丹羽が和希に言った。
「次は遠藤だが、新しいPC(プレイヤー・キャラクター)だから最後にして良いか?」
「わかりました」
「なら、今度は僕の番ですね」
 七条の背後で黒い翼がはためいた。

探索者名 七条 臣(29)

母国語:日本語 職業:作家 HP(耐久力):14 MP(マジック・ポイント):15
STR(力):17 CON(体力):11 POW(精神力):15 DEX(敏捷):14 APP(容姿):13
SIZ(体格):16 INT(知力):12 EDU(教育):17 SAN(正気度)71→76 アイデア:60
幸運:75 知識:85 ダメージ・ボーナス:1D6

技能

投擲(とうてき):40% 聞き耳:75% 忍び歩き:40% 図書館:85% 目星:50%
医学:60%→65% オカルト:85% 心理学:75% 母国語(日本語):86%
その他言語:英語75% クトゥルフ神話:5%


 七条のデータを見た瞬間、丹羽が声を張り上げた。
「お前、最初よりSAN(正気度)が増えてるじゃねえか!」
 ずるいぞ。卑怯だ、と喚く丹羽を横目に七条は小さく笑った。
「ふふっ、お陰で、更に魔導書が読める様になりました。今回は是非、呪文を習得したいですね」
「期待を裏切って悪いが、七条、今回のシナリオに魔導書は出て来ねえぜ」
 丹羽が得意げに明かした。おや、と七条は呟いた。
「それは残念ですね」
 しかし、なぜかその声はとても楽しそうだった。
(魔導書がないのに丹羽会長のキャラが必要になるなら、今回は本体が出て来るかもしれませんね。前回は旧支配者とはいえ、水で覆うことでSAN(正気度)チェックを緩くして直葬を回避しましたからね)
 微笑を浮かべる七条に啓太は密かに蒼ざめた。七条さん、何か怖い……
「臣、言葉と表情が一致していないから啓太が怖がっているぞ」
 西園寺が呆れた声で七条を窘めた。
「ああ、すみません。伊藤君を怖がらせるつもりはなかったのですが、色々考えていたら、つい楽しくてなってしまって……」
「怖がりなのは昔も今も本当に変わらないよな、啓太は」
 和希が懐かしそうに呟いた。それを耳にした啓太が不満そうに和希を睨んだ。
「また俺を子供扱いして。あの頃よりは成長してるぞ、和希」
「ああ、わかっているよ、啓太」
「……っ……」
 少し大人びたその声に、思わず、啓太はドキッとした。それを悟られないよう直ぐに俯いて顔を隠したが、和希がクスッと小さく笑ったのが聞こえた。
「次は西園寺さんですよ」
 機嫌良く和希は先を促した。
「わかっている」
 そう言いながら、西園寺は密かにため息をついた。嫌な予感が胸を苛む。今回は私が疲れそうだ……

探索者名 西園寺 郁(28)

母国語:日本語 職業:古物研究家 HP(耐久力):12 MP(マジック・ポイント):17
STR(力):13 CON(体力):9 POW(精神力):17 DEX(敏捷):13 APP(容姿):16
SIZ(体格):14 INT(知力):15 EDU(教育):17 SAN(正気度)83→85 アイデア:75
幸運:85 知識:85 ダメージ・ボーナス:1D4

技能

回避:56% こぶし:55% 応急手当:70% 聞き耳:75%→79% 図書館:85%
目星:80%→85% 運転:45% 水泳:30% 製作(骨董)80% 芸術(骨董):80%
博物学:45% 歴史:55%


「可もなく不可もないな」
 中嶋の言葉に西園寺は淡々と答えた。
「前回はロールにことごとく失敗した上に戦闘にも参加出来ず、他に成長させられる技能がなかった。今回はもう少し活躍出来るだろう。では、最後に遠藤のを見せて貰おうか」
「わかりました。王様、お願いします」
 おう、と丹羽は応じて全員のタブレット型パソコンにデータを送った。
「これが遠藤のPC(プレイヤー・キャラクター)だ。俺もこのくらいのダイス運が欲しかったぜ……くそっ」

探索者名 鈴菱(遠藤)和希(26)

母国語:日本語 職業:警察官 HP(耐久力):17 MP(マジック・ポイント):12
STR(力):15 CON(体力):18 POW(精神力):12 DEX(敏捷):15 APP(容姿):13
SIZ(体格):16 INT(知力):15 EDU(教育):16 SAN(正気度)60 アイデア:75
幸運:60 知識:80 ダメージ・ボーナス:1D4

技能

回避:80% 拳銃:80% 応急手当:80% 図書館:65% 目星:85% 言いくるめ:45%
オカルト:55% 心理学:80% 法律:50%


「本名だな」
 技能値について何か言う前に、まず誰の目をも引いただろう点を西園寺が最初に指摘した。大丈夫か……?
 それは当然の疑問だった。
 この場にいる者は和希が理事長と知っているが、サーバー棟以外で鈴菱の名を出すのは躊躇われた。啓太は心配そうに和希を見つめた。すると、和希は小さく頷いた。
「前回のセッションで祖父の名前を出したので整合性を取るためには仕方ありません。しかし、RP(ロール・プレイ)は遠藤和希でいこうと思います。俺の設定はこうです。俺は子供の頃に両親が離婚してずっと母の元で育ちました。その母が俺の成人する少し前に亡くなり、今度は父に引き取られました。それに伴って父方の姓になったものの、遠藤の方が馴染みが深くて今でも通称として使っています」
「まあ、それなら問題ねえな」
 丹羽がその設定を許可した。すると、今度は中嶋が別のことを尋ねた。
「なぜ、『オカルト』を取った?」
 それには和希に代わって丹羽が答えた。
「ああ、それは遠藤は警察官とは言っても、主に神話生物に関する事件を専門に扱う部署に所属してるからだ。こんな世界なら、警察にそういうのがあっても不思議じゃねえだろう。だから、今回、遠藤は他のPC(プレイヤー・キャラクター)が知り得ねえ事前情報を幾つか持ってる。前回のセッションでKP(キーパー)をやったから、謂わばそのご褒美ってところだな。どう使うかは本人に任せるぜ」
「わかりました。有難うございます、王様、それを巧く使って啓太と生還を目指します」
「うん、頑張ろう、和希」
 啓太が嬉しそうに和希に言った。総ての紹介を終えて、よし、と丹羽が掌に拳をぶつけて気合を入れた。
「これで準備は整ったな。そろそろシナリオに入るか。先に断っておくが、導入に関する文句は聞かねえからな。適当に合わせてくれ。季節は晩秋だ。とある企業の設立記念パーティで郁ちゃんと七条、中嶋の三人が久しぶりに顔を合わせたところからいくぜ」
 そして、一人の少女を救済する物語が始まった。


2014.11.18
戦闘要員が和希と中嶋さんだけなので、
念のため王様に待機して貰うことにしました。
シナリオは『ひきだしの中身』よりお借りしました。

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Café Grace
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