丹羽 :風呂や散歩から戻った郁ちゃん達は真ん中にある啓太と遠藤の部屋に集まって夕食まで
    過ごすことにした。和室だから椅子はねえが、大きな机と座布団は充分にある。飲み物は
    ペットボトル程度なら判定なしで良いぜ。
西園寺:では、私は座布団に座って皆が落ち着くのを待つ。
七条 :僕は郁の隣に座って持参したチョコレートを机の中央に置きます。良かったら、皆さんもど
    うぞ。
伊藤 :俺は座ってペットボトルのお茶を飲んでたけど、甘いものが欲しかったので喜んでチョコ
    レートを貰います。有難うございます、七条さん。
遠藤 :俺は啓太の傍で静かに座っています。
中嶋 :俺は少し開けた窓の近くで煙草を吸う。
西園寺:頃合いを見て私から話を切り出そう。先刻、少し気になることを耳にした。どうやら火垂祭
    では過去に事件があったらしい。
伊藤 :えっ!? そうなんですか?
遠藤 :……
西園寺:ああ、概要は不明だが、村人が懸念するからには相当なことが起きたのだろう。秀人を預
    かるときに何か聞いていないか、臣?
七条 :いえ、特に何も……でも、それを聞いて一つ納得しました。
西園寺:何をだ?
七条 :幾ら急な仕事が入ったとはいえ、坂井さんが秀人君を預ける人を今まで見つけられなかっ
    たことです。交通費にお礼も出すと言えば誰かしら行く人はいるはずです。でも、坂井さん
    は奥さんを事故で亡くしているので信用出来る人でないと不安だったのかもしれません。秀
    人君は奥さんの唯一の忘れ形見ですから。
伊藤 :そうですね……気持ちは何となくわかります。
中嶋 :その事故が気になるな。
七条 :さり気なく村の人に訊いてみましょうか?
西園寺:いや、それは無理だろう。あまり他所者には聞かれたくなさそうだった。
七条 :そうですか……KP(キーパー)、坂井さんに電話出来ますか?
丹羽 :坂井は会議中で携帯の電源を切ってるぜ。
七条 :わかりました。
伊藤 :……
    (明日、細川さんに訊いたら何か教えてくれないかな)
中嶋 :……随分、静かだな。そう言って俺は遠藤を意味ありげに見やる。
遠藤 :俺は軽く肩を竦めて言います。俺は皆の話を聞いていただけです。特に話すことはありま
    せんから。
    (最悪、智子が今でも神話生物に憑かれているなら、接触する者は極力抑えたい)
中嶋 :ほう?
    (ここで智子のことを話す気はないのか)
伊藤 :……!?
    (和希、智子ちゃんのことを西園寺さん達には黙ってるつもりなのか? てっきり自分で何か
    RP(ロール・プレイ)をしたいからだと思ってたのに……)
西園寺:(散歩先で何があったか話さないのか。だが、三人の総意ではなく、遠藤の独断だな。そ
    れに気づいた中嶋は様子見、啓太は予め口止めされた様だが、明らかに戸惑っている。崩
    すなら、やはり啓太か)
    どうした、啓太? 何か私達に言いたいことがあるのか?
伊藤 :えっ!? あっ、いえ……そうだ! お腹空きましたね。そろそろ夕食かな。そう言って俺は
    立ち上がって廊下側の襖を開けてみます。
    (西園寺さん、俺から聞こうとしてる!? どうしよう。俺、隠し事は苦手なのに……!)
丹羽 :(う~ん、遠藤の考えはわかるが、郁ちゃんが本格的に追及すると啓太が可哀相だな。助
    け舟を出すか)
    啓太が廊下に出ると、左側の部屋から坂井が出て来た。坂井は啓太を見てニコッと笑った。
坂井 :丁度良かった。夕食が出来ましたので、皆さん、どうぞこちらへ。
丹羽 :その声は室内の郁ちゃん達にもはっきり聞こえた。皆、昼に車内で食べた駅弁が最後だか
    ら途端に腹が減ってきた。話を中断して左の部屋へ向かうことにするぜ。
遠藤 :KP(キーパー)、夕食に行かなかったら家を探索出来ますか?
丹羽 :探索って言っても廊下の左右に大部屋が一つずつしかねえぜ。どちらも造りは同じで襖で
    三つに仕切れる和室だ。押入れは左右の一番奥の部屋で、布団類はそこに纏めて入って
    る。他に部屋は一切ねえ。クトゥルフ(CoC)にありがちな屋根裏や地下室、隠し部屋とかは
    探すだけ無駄だ。それでも探索したいなら止めはしねえが、まあ、腹が減るだけだな。
七条 :その場合、夜中に何かあったら技能値にマイナス修正が掛かりそうですね。
丹羽 :当然。ちなみに、コンビニはねえからな。
遠藤 :わかりました。夕食に行きます。
丹羽 :(よし! これで明日の朝が省略出来た!)
    なら、夕食の場面に移るぜ。右側の部屋には真ん中に机が縦に幾つも並べられ、その上に
    大皿に盛った揚げ物や重箱に入った家庭料理が色々置かれてた。その傍にはビールや一
    升瓶もある。完全に宴会の雰囲気だな。それを十数人の村人が取り囲んで座り、始まるの
    を今か今かと待ち構えてた。郁ちゃん達が空いてる一辺に適当に腰を下ろすと、すぐさまビ
    ールの栓が抜かれた。お疲れ様でした、という声があちこちから上がり、村人達は互いにビ
    ールを注ぎ合った。郁ちゃん達も両隣や正面の村人から勧められてグラスを手に取るぜ。
遠藤 :KP(キーパー)、啓太は――……
丹羽 :普通、最初くらいは付き合うよな、遠藤。
遠藤 :……わかりました。
丹羽 :坂井は郁ちゃん達とは反対側のやや右寄りの処に座ってた。その左隣には須藤がちゃっ
    かり腰を下ろしてる。やがて夕食というか宴会が始まり、食べたい奴は食べて飲みたい奴
    は飲み始めた。酒の入った村人は機嫌が良いから殆ど何でも答えてくれるぜ。それじゃ質
    問タイムだ。RP(ロール・プレイ)なしで、ざ~っと上げてくれ。


「殆ど、か……過去の事件に関しては口が重そうだな」
 西園寺の言葉に、ああ、と丹羽は頷いた。
「その件に関しては酒で口が軽くなったかどうか『幸運』で判定した後、『言いくるめ』か『説得』が必要になる。だが、坂井はその程度じゃ口を割らねえぜ。どうしても聞きたいなら、魔術か自白剤を飲ませて拷問でもするしかしねえな」
「拷問って……」
 啓太は微かに蒼ざめた。そういうことも出来るんですか!?
「ああ、PC(プレイヤー・キャラクター)がそういうスタンスなら俺は許可するぜ」
(その場合、そいつは火垂祭の真相を知ることなく逮捕エンドだけどな)
「そんな……」
 不安そうに啓太は全員を見回した。瞳が少し怯えている。
「大丈夫だよ、啓太、俺の職業を忘れたのか? 警察官の俺がそんな違法行為を許す訳ないだろう」
 ふわりと和希は微笑んだ。啓太はほっと胸を撫で下ろした。
「良かった。坂井さんは親切だから、俺、そんなことになったらどうしようと思った」
「そういうことを平気でしそうな人が一人いますからね」
 七条は言外に中嶋を指した。中嶋の口の端が小さく上がった。
「否定はしないが、今の俺には坂井の持つ情報をそこまでして欲しがる理由がない」
「理由があればするんですね」
「おい、そんなくだらねえこと話してるなら質問タイム終了するぞ」
 言い合いが酷くなる前に丹羽が割って入った。二人が大人しくなったので改めて尋ねる。
「……で、どうする? 村人に訊いてみるか?」
 いや、と西園寺は呟いた。
「恐らくこれは遠藤の持つ情報と被っているから無理に聞き出す必要はない。それよりも火垂祭の由来を知りたい」
「祭りの手順も知りたいですね」
 七条がそれに続いた。少し躊躇いながら、啓太が言った。
「あの……過去の事件とは全く関係ないんですけど、俺は観光で来てるので祭りの見どころとか聞きたいです。そういうのは駄目ですか?」
「別に良いぜ。何もこれから尋問する訳じゃねえしな。中嶋と遠藤はねえのか?」
 丹羽は二人を交互に見やった。和希は首を横に振った。
「今は特にないですね。俺が訊きたいことはもう西園寺さん達が言っています」
「中嶋もか?」
 ない、と中嶋は短く答え……
「今、須藤は何をしている?」
「日本酒を飲みながら、火垂祭について坂井に色々尋ねてるぜ。だが、坂井の反応は傍目からも曖昧であまり良くねえな」
「坂井が何を話しているか『聞き耳』でわかるか?」
「ロールは要らねえ。祭りについては昔から続いてると言葉を変えて繰り返してるだけで内容は全然ねえ。さすがの須藤もそれにはお手上げで、あまり突っ込んだことは聞けてねえ感じだな」
 なら、良い……と中嶋はコーヒーに手を伸ばした。

丹羽 :よし! これで質問受付は終了するぜ。飲み食いしながら、郁ちゃん達は火垂祭について
    村人から幾つか情報を仕入れた。まずは由来だが、名前の語源は蛍袋という花だ。相賀村
    の山に大量に自生し、初夏に細長い釣り鐘のような白い花を咲かせる。それが『火を垂らす
    袋』である提灯に形が似てるから昔は蛍袋の花が咲き始めると祭りの準備を始めた。大量
    の提灯がいるから、かなり時間が掛かったんだろう。祭りでは山の神に産出された鉱物を感
    謝して御緒鍵(おおかぎ)と呼ばれる鉄の棒を奉納する。それを行うのが緒締役で、今回は
    秀人と戸田純子という女の子だ。子供の手で執り行うのは大人と違って穢れがなく、神に近
    づくことが出来るからだと言われてる。
西園寺:……確かにそういう考えは珍しくはない。だが、鉄というのが少し気になるな。
    (神に奉納するのならば、もっと価値のある物にすると思うが……この地では鉄が多く産出
    されたからか?)
七条 :KP(キーパー)、御緒鍵(おおかぎ)は六歳前後の子供に持てる重さなんですか?
丹羽 :まあ、持てるんじゃねえかな。実物を見たいなら、部屋の奥にある神棚に御緒鍵(おおか
    ぎ)が置かれてると村人が教えてくれるぜ。だが、手に取るのは大人の穢れが移ると止めら
    れるな。
西園寺:ならば、私は神棚を見に行って『目星』を振る。
七条 :僕も振ります。
遠藤 :俺達も行こう、啓太。
伊藤 :うん。
中嶋 :俺も御緒鍵(おおかぎ)を見に行く。
丹羽 :郁ちゃん達が神棚を見に行ったのに気づいて須藤もやって来た。一緒に『目星』を振るぜ。
七条 :須藤さんは『目星』持ちですか。
    (もしかして、お助けNPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)なんでしょうか)


西園寺:目星(85)→73 成功
七条 :目星(50)→01 クリティカル
遠藤 :目星(85)→34 成功
伊藤 :目星(65)→38 成功
中嶋 :目星(79)→62 成功
須藤 :目星(40)→95 失敗


西園寺:ふっ、須藤だけ失敗したな。
七条 :ダイスの女神も須藤さんはあまり好きではない様ですね。
丹羽 :須藤以外は成功だから結果は纏めて出すぜ。御緒鍵(おおかぎ)は表面は黒鉄色で、あ
    まり綺麗な感じはしねえな。長さ約七十センチ、断面は五センチ角の四角い鉄の棒だ。その
    真ん中に二十センチぐらいの丸い円盤が溶接され、花の様な模様が刻まれてる。七条はそ
    の材質が何の変哲もない鉄だとわかるぜ。須藤は御緒鍵(おおかぎ)を軽く一瞥して直ぐ自
    分の席に戻ってしまった。そして、また坂井相手に虚しい押し問答を始めた。
遠藤 :その花の様な模様というのは家紋ですか?
丹羽 :さあ、どうかな。何せ御緒鍵(おおかぎ)は真っ黒だから実際に手に取らねえとそれ以上は
    わからねえな。
伊藤 :でも、取ったら坂井さんにきっと怒られますよね。
西園寺:ああ、明日、坂井の不在時に改めて調べるしかない。
中嶋 :ほう? お前が泥棒の様な真似とは珍しいな。
西園寺:私はこの御緒鍵(おおかぎ)はもっと良く調べるべきだと思う。
七条 :どうしてですか、郁?
西園寺:神に奉納するにしてはこれはあまりにお粗末だからだ。火垂祭は三年に一度しかないも
    のだ。鉄を奉納するならば、もっと精度を上げたり、飾りを付ける時間は充分にあったはず。
    だが、この御緒鍵(おおかぎ)はそんな手間を掛けた様には見えない。提灯と同じだ。
遠藤 :重要なのは色ではないが、赤い提灯には意味がある。
西園寺:そうだ。
丹羽 :(そこから来たか。まあ、郁ちゃんらしい着眼点だな)
    御緒鍵(おおかぎ)のことは一旦、横へ置いて残りの質問に答えるぜ。祭りの手順と見どこ
    ろだったな。祭りが始まると、まず子供が祝詞を読み上げる。それから皆で食事をして最後
    に祭司が御緒鍵(おおかぎ)を持った緒締役の子を連れて山へと向かう。他の子供達はお
    菓子やジュースを貰って解散だ。親や大人はそれを広場の外れから眺めるって感じだな。
中嶋 :まるで学芸会だな。
丹羽 :子供が仕切ってるからな。
七条 :KP(キーパー)、提灯が出て来ませんが、何に使うんですか?
丹羽 :(し、しまった! 設置の場面を忘れてた! どうする!?)
    あ~、それは山に飾るんだ。明日の昼頃から坂井や村の男達が総出で山へ向かうぜ。前
    日に提灯を設置すると当日に点かなくなる可能性があるからな。
西園寺:成程……その間に御緒鍵(おおかぎ)を調べられそうだな。
七条 :そうですね。
丹羽 :……
    (はあ……何とか巧く辻褄を合わせられた)
遠藤 :なら、明日は二手に分かれませんか? 御緒鍵(おおかぎ)については西園寺さん達の方
    が詳しく調べられそうなので、中嶋さんと啓太と俺は提灯についてもう少し聞き込みをして
    みます。
伊藤 :あっ、それが良いかも。
    (明日、俺達は細川さんの家に行かないといけないし)
西園寺:悪くない考えだが、私は遠藤を素直に信じられないので少し躊躇う。
七条 :僕は遠藤君に『心理学』を振ります。
丹羽 :(終に郁ちゃん達まで参戦かよ)
    はいはいっと。


七条 :心理学(75)→??


丹羽 :(おい、今回、『心理学』のクリティカル多過ぎだろう)
    七条は遠藤が意図的に自分達を遠ざけようとしてると感じた。だが、同時にその行動や考
    えが警察官の様だとも思った。
七条 :では、僕は遠藤君こう言います。失礼ですが、もしかして、警察関係の方ですか?
遠藤 :はい、今は休暇中ですが。
七条 :道理で……手慣れていると思いました。
中嶋 :休暇中の警官にしては随分と捜査紛いなことをしているがな。
遠藤 :身に着いた性なので。
伊藤 :和希は真面目なんです、中嶋さん。
西園寺:(良い機会だ。ここで切っ掛けを作る)
    私達は秀人を連れて来ただけだが、あの子を危険な目には遭わせたくない。何か隠してい
    ることがあるのならば、今、正直に話して欲しい。
遠藤 :そう言われても、俺も火垂祭については殆ど何も知らないんです。
    (西園寺さん、押してきたな。だが、まだ話すのは早いか)
西園寺:……そうか。私は少し失望した顔をする。
七条 :それを見て僕は言います。郁、警察官には職務上の秘密があります。だから、言い方を変
    えましょう。僕達は火垂祭がただの祭りでないことは薄々知っています。だから、もし、何か
    が起こったら、そのときは総てを話してくれますか? そして、初期値ですが、『説得』を振り
    ます。
丹羽 :なら、『信用』の初期値を補正として足して良いぜ。
    (探索者に振る技能じゃねえが、良い流れだしな)


七条 :説得(15+15)→11 成功


遠藤 :……わかりました。そのときは正直に総て話すと約束します。
七条 :有難うございます。でも、僕はこの祭りが何事もなく無事に終われば良いと思っています。
遠藤 :俺もです。
伊藤 :……和希……
丹羽 :……
    (やっぱりあれをするのは七条か遠藤か。なら、死なねえだろう……多分、な)


 五人のRP(ロール・プレイ)を眺めながら、丹羽はKP(キーパー)としての仄暗い歓びに密かに微笑を噛み殺した。


2015.1.18
取り敢えず、前夜祭は終了です。
RP(ロール・プレイ)の境が少し曖昧ですが、
勢いで押し切ってしまいました。

r  n

Café Grace
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