丹羽はコーヒーで喉を軽く湿らせながら、頭の中で少し考えた。
(智子の瞳を治す方向で漸く纏まってきたが……一応、保険を掛けとくか)

丹羽 :中嶋が須藤と話してると、不意にポケットの中で携帯が震え始めた。取り出して相手を確
     認すると、画面には丹羽と表示されてる。
中嶋 :(ここでNPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)……布石か)
    俺は須藤から少し離れて電話に出る。何だ、丹羽?
丹羽 :いや、ちょっと訊きたいことがあってよ。お前達、まだ岐阜にいるのか?
中嶋 :ああ。
丹羽 :そうか。俺は今、京都にいるんだ。あと数日で依頼の件が片づきそうだから、そっちに合流
    しようかと思ってよ。一応、詳しい場所を教えてくれ。
中嶋 :お前が来るまで俺達がこの村にいるとは限らない。
丹羽 :わかってるって。だから、一応って言っただろう。俺も確約は出来ねえしな。まあ、すれ違っ
    たらすれ違ったで久しぶりに田舎でのんびりするさ。
中嶋 :わかった。そう言って俺は相賀村までの詳しい行き方を教える。
丹羽 :結構、辺鄙な場所だな。これは車の方が良いのか……まあ、後で考えるか。了解。また
    な、中嶋。
中嶋 :ああ。
丹羽 :中嶋は通話を終え、郁ちゃん達の処へ戻った。須藤も既に合流してるぜ。そうして小一時
    間ほど広場を眺めてると、徐々に辺りが静かになってきた。いよいよ奉納の儀式が始まるら
    しく、先刻まで騒いでた子供は自発的に大人しくなり、大人達も飲むのをやめて急に神妙な
    面持ちになった。やがて奥のテントから音もなく坂井が出て来た。その少し後ろには緒締役
    の秀人と戸田純子がいた。二人は一緒に御緒鍵(おおかぎ)を大事そうに抱えてる。秀人は
    更に右手に赤い提灯を持ってた。
伊藤 :赤い提灯……!
西園寺:KP(キーパー)、赤い提灯を持っているのは秀人だけか?
丹羽 :ああ、女の子に御緒鍵(おおかぎ)と提灯の両方は持てねえからな。
中嶋 :二人の様子はどうだ?
丹羽 :純子は皆がじっと見守る重々しい雰囲気に脅えて泣きそうな顔をしてるな。秀人はこれか
    ら何が起きるのか楽しみでニコニコしてる。そのまま、三人は広場を通り過ぎて提灯に照ら
    された山の中へ入って行った。村人はそれを黙って見送った。これで火垂祭は終了だ。三
    人の姿が見えなくなると、シートに座ってた子供達は小さい順に机に残った菓子やジュース
    を貰って嬉しそうに親の処へ戻った。そして、広場の端で酒を飲んでた大人が今度はそこで
    宴会を始めた。


 それを聞いて西園寺は少し考えた。
「山の神への奉納だから儀式も山中で行うのか……KP(キーパー)、三人の後をつけられるか?」
「出来なくはねえが、かなり厳しいぜ」
「また『追跡』の半分か?」
 中嶋の問い掛けに丹羽は首を横に振った。
「今回は更に『忍び歩き』の半分も同時に成功させねえと無理だな。ただでさえ暗くて慣れない山道な上、坂井は誰かつけて来ねえか常に警戒してるからな」
「それでは殆ど不可能ですね」
 七条が残念そうに西園寺に言った。
「旧支配者が封印されているのだから儀式の場所を知られたくないのだろう。だが、これでは動きようがない」
「……あの」
 少し躊躇いながら、啓太が口を開いた。
「俺、『追跡』も『忍び歩き』も持ってないけど、振ってみましょうか?」
「伊藤君の運頼みですか。確かにそれなら成功するかもしれませんね」
「いや、そこまでしなくて良いよ、啓太」
 黙って話を聞いていた和希が啓太を止めた。封印されているとはいえ、神話生物に何の対策もなしに近づくのは危険過ぎる。
「でも、それじゃあ何のためにここに来たのか……」
「今回は地味に難易度が高いから焦らずにやろう。ねっ?」
「……うん」
 啓太は小さく頷いた。和希は丹羽に視線を向けた。
「KP(キーパー)、坂井達はどのくらいで戻りますか?」
「年によって微妙に変わるが、長くて二時間くらいだ」
 その答えに西園寺と中嶋は同時に眉をひそめた。
「遠藤、お前はここで二時間も村人の宴会を眺めているつもりか?」
「時間の無駄だな」
「俺もそう思いますが、戻った坂井から何か情報を得られるかもしれません」
「でも、先刻の坂井さんはかなり疲れてたから山から戻ったら真っ直ぐ家に帰るんじゃないかな」
 啓太の指摘に和希は言った。
「なら、また二手に分かれよう」
「それが良い。私は家に帰る」
 即座に答える西園寺に七条も……
「僕も帰ります。夜になり、気温が下がってきたはずですから風邪を引きたくありません」
「俺は残ります。火垂祭の観察が任務ですから。啓太はどうする?」
「俺も残るよ。二人で旅行してるんだから当たり前だろう」
「わかった」
(当たり前、か。一緒に来て良かった……!)
 感動に浸る和希に代わって丹羽は中嶋に尋ねた。
「お前はどうする?」
「俺も帰宅する」
(技能的には広場に『聞き耳』要員が欲しいが、それは『幸運』での代用も可能だろう。なら、坂井の留守中に家探しすることも考え、探索人数は多い方が良い)

丹羽 :了解。郁ちゃん達は三十分ほど宴会を眺めてたが、特に変わったこともないので坂井の
    家に帰ることにした。任務のある遠藤と啓太、須藤は広場に残った。須藤はもう村人達に混
    じって楽しく飲んでる。これから先は部屋分けしねえが、啓太と遠藤は暫く口チャックだ。郁
    ちゃん達を先に進めるぜ。
伊藤 :はい、王様。
遠藤 :わかりました。
丹羽 :郁ちゃん達は坂井の家へ向かって歩き始めた。田畑の間を縫う暗い夜道は先刻までいた
    広場の喧騒とはほど遠く、しんと静まり返ってる。だからだろうか。遠くで誰かが叫んでる様
    な声が聞こえた。
西園寺:何だ、と私は急いでそこへ向かう。
七条 :ここからでは良く聞こえませんね。そう言って僕も向かいます。
中嶋 :俺は辺りに注意しながら、声の方へと行く。
丹羽 :三人が声を辿って土手の近くまで来ると、小柄な老婦人が道の真ん中で取り乱してるのを
    見つけた。その言葉は支離滅裂で周囲に村人はいるが、皆、おろおろしてる。どうしたら良
    いかわからねえって感じだ。
七条 :その老婦人に『目星』を振ります。
丹羽 :必要ねえ。中嶋にはそれがヨシだと直ぐにわかった。
西園寺:ヨシとは誰だ?
丹羽 :智子の祖母だ。中嶋はもう何度か会ってるが、郁ちゃんと七条は初めてだな。
中嶋 :ヨシを落ち着かせることは出来るか?
丹羽 :中嶋は顔見知りだから『精神分析』×2か『アイデア』のどちらかで良いぜ。
中嶋 :『アイデア』だ。


中嶋 :アイデア(70)→61 成功


丹羽 :中嶋は品の良いヨシがこんなに取り乱すのは智子に何かあったんじゃねえかと思った。こ
    れ以上は『精神分析』できちんと落ち着かせねえとわからねえ。
中嶋 :なら、一先ずヨシを連れて細川の家へと向かう。
西園寺:待て。その前に周囲の村人に『心理学』を振りたい。同じ村に住む者が取り乱しているの
    に何もしないのは腑に落ちない。
七条 :そうですね。誰か一人くらいは家に連れて行こうとしても良いはずです。僕も振ります。
中嶋 :(祟りの噂で村人は躊躇っているだけだろうが、西園寺達には話していなかったな)
    俺も振る。


 和希、と啓太が不思議そうに囁いた。
「初期値の『心理学』を振る意味ってあるのか?」
「ああ、『心理学』は基本的にクローズドだから成否がわからないだろう。でも、初期値ならほぼ確実に失敗するから、それと比べれば二人の結果を判断し易くなる。それにKP(キーパー)の結果の出し方や傾向もはっきりする」
「つまり、基準ってことか。でも、西園寺さんがクリティカルを出してたらどうするんだ?」
「勿論、その可能性はある。それは今までの展開から判断するしかないな」
「わかった。有難う」
 ふわりと啓太は微笑んだ。それじゃあ、と丹羽が言った。
「三人の『心理学』を振るぜ」

西園寺:心理学(5)→??
七条 :心理学(75)→??
中嶋 :心理学(85)→??


丹羽 :(郁ちゃんと七条は智子と接触がなかったから少し情報を出しておくか)
    郁ちゃんは村人達がただならぬヨシの状態に怯えてる様に見えた。中嶋と七条は村人は何
    かを恐れてるが、その正体に自分自身でも気づいてねえと思った。
西園寺:……成程。
    (無意識に智子に憑いた神話生物の存在を感じ取っているのか)
丹羽 :三人がヨシに駆け寄ると、彼女は何かを訴える様に中嶋の胸倉を掴んだ。その必死な形
    相に中嶋は嫌な予感がした。ヨシがここまで取り乱す理由は一つしか思い浮かばねえから
    だ。中嶋は郁ちゃん達と一緒にヨシを連れて細川の家へと急いだ。街灯も殆どねえ暗い道
    を通って村外れまで来ると、窓から煌々と明かりが漏れてる古い大きな一軒家が見えてき
    た。あそこだ、と中嶋がその家を指差したとき、ヨシの足が縺れて膝から崩れた。
七条 :大丈夫ですか、細川さん。そう言って僕は細川さんに手を貸します。
丹羽 :すると、ヨシはそれを振り払って乱れた息で途切れ途切れに呟いた。
細川 :ああっ、どうか……っ……助け、て……早く……
中嶋 :それを聞いた俺は先に家へと駆け込む。
西園寺:臣、彼女を頼む。そう言って私も中嶋の後を追う。
七条 :わかりました、と僕は頷いてヨシさんを助け起こしてから家へと急ぎます。
丹羽 :中嶋が玄関の引き戸を開けると、廊下の奥から少女の呻き声が聞こえた。直ぐに郁ちゃん
    も来て二人は一緒に声のする方へと向かう。すると、襖が半開きになった和室で智子が両
    手で右目を押さえて倒れてるのを見つけた。額には脂汗がびっしりと浮かび、痛みに身体
    を小さく丸めてる。呼吸もかなり苦しそうだ。ここでは『応急手当』か『医学』を成功するまで
    挑戦出来るぜ。但し、七条は合流するのに1D6R(ラウンド)掛かる。今回は……2R(ラウ
    ンド)だ。
七条 :わかりました。
西園寺:ならば、私は『応急手当』を振る。
中嶋 :俺も初期値だが、『応急手当』を振る。


西園寺:応急手当(70)→83 失敗
中嶋 :応急手当(30)→47 失敗


「……」
 丹羽は手元を隠してダイスを振った。失敗か。まあ、この確率で成功する訳ねえか……
「このR(ラウンド)が終わったら七条は合流して良いぜ。それじゃあ、二回目だ」

西園寺:応急手当(70)→44 成功
中嶋 :応急手当(30)→21 成功


丹羽 :成功か。なら、郁ちゃんと中嶋は智子が激しいショック状態に陥って痙攣を起こしてるとわ
    かった。このままでは生命に係わると、二人はすぐさま気道の確保など適切な処置を施し
    た。その甲斐あって落ち着きを取り戻した智子はやがて眠る様に意識を失った。少し遅れて
    七条がヨシと部屋に入って来た。七条は二人より専門的な知識があるから直ぐに智子の傍
    に跪いて容体を確かめた。七条は『医学』を振ってくれ。成功したら、『知識』もだ。
七条 :ふふっ、これはSAN(正気度)チェックの予感がしますね。
西園寺:それは喜ぶことか、臣。


七条 :医学(65)→88 失敗


七条 :失敗してしまいました。残念です。
丹羽 :なら、七条は智子は疲れて眠っただけだと思った。右目に巻かれた包帯に薄らと黒い染み
    が滲んでるが、それは単なる汚れだろう気にも留めず、静かにヨシを振り返った。
七条 :二人が適切な応急処置を施してくれたので大丈夫ですよ。今は眠っているだけです。
細川 :ああ、良かった……皆さん、有難うございます……有難う、ございます……
丹羽 :ヨシは瞳に大きな涙を浮かべて何度も頭を下げた。ここで一旦、場面を切るぜ。以降、三
    人は啓太達と合流するまで口出し厳禁だ。
西園寺:わかっている。
中嶋 :ああ。
七条 :わかりました。
丹羽 :三人が細川の家で一騒動してる頃、相変わらず、啓太と遠藤は広場で坂井達の帰りをじっ
    と待ってた。村人達の宴会はまだ続いてるから酔ってる奴も多いが、ここで啓太は『聞き耳』
    だ。初期値の遠藤は任せるぜ。
遠藤 :……振ります。


伊藤 :聞き耳(60)→36 成功
遠藤 :聞き耳(25)→9 成功


伊藤 :あっ、二人とも成功だ。良かったな、和希。
遠藤 :有難う、啓太。
丹羽 :(さすがに連続ファンブルにはならねえか)
    なら、ぼんやり宴会を眺めてた二人の耳に坂井達の帰りが遅いと呟く誰かの声が聞こえ
    た。遠藤が時計を見ると、そろそろ一時間が経とうとしてる。
伊藤 :何かあったのかな。
遠藤 :わからない。今年の緒締役の一人は女の子だから足が遅いのかもしれない。もう少し様子
    を見よう、啓太。
伊藤 :そうだな。
丹羽 :二人はそんな話をして更に一時間ほど待った。だが、やっぱり坂井達は帰って来なかっ
    た。さすがに村人達も少し騒ぎ始めた。あちこちで十二年前の一件や山神の祟りといった
    言葉が飛び交ってるぜ。
伊藤 :えっ!? 探しに行かないんですか?
丹羽 :ああ、村人が広場から動く様子はねえな。儀式の場所は坂井しか知らねえから、ただ途方
    に暮れてる。
伊藤 :そんな……子供が二人も帰って来ないのに何もしないなんて……
遠藤 :……
    (先刻のヨシの描写といい、村人は無意識に神話生物に近づくのを避けているのか)
伊藤 :変だよ、和希、この村の人達……こういう場合、普通は直ぐ探しに行くだろう?
遠藤 :そうだな……KP(キーパー)、西園寺さん達と連絡を取れますか?
丹羽 :それじゃあ、啓太に協力すると話し合ったとき、互いの電話番号とメアドを交換したことに
    して良いぜ。今、郁ちゃん達は智子を部屋に運んで寝かせたところだ。
遠藤 :西園寺さんに電話して坂井達がまだ帰らないので広場に戻って欲しいと言います。
西園寺:それを聞いた私は二人にそのことを話し、ヨシに挨拶をして急ぎ広場に向かう。
中嶋 :俺はその後に続く。
七条 :僕は自分の連絡先を書いたメモを細川さんに渡し、何かあったら直ぐ電話して下さい、と
    言って家を出ます。
丹羽 :なら、全員が広場で合流したところまで時間を進めるぜ。坂井と緒締役の二人が奉納の儀
    式に行って数時間……漸く村人達が重い腰を持ち上げた。村の役員らしき者が非常用の
    懐中電灯を配り、皆で山へ捜索に行くぜ。行くか?


「勿論、行きます!」
 啓太が勢い込んで言った。しかし、西園寺はそれに反対した。
「駄目だ。坂井達が未だ戻らないのは恐らく封印の儀式で何らかのトラブルがあったからだ。そんな場所に備えもなく踏み入るのはあまりに危険過ぎる」
 すると、和希が小さく手を上げた。
「俺は啓太に賛成です」
「理由は? 先刻、お前は坂井の後をつけることに反対だったはずだ」
「もし、儀式が失敗して封印が解けたのなら、西園寺さん達が無事に広場に着くことは出来なかったはずです。なら、三人を探すのは今しかありません。差し迫った危険がまだない内に急いで山を探索するべきです」
「……」
 西園寺は小さく腕を組んだ。やがて、わかった、と頷く。有難うございます、と啓太は嬉しそうに微笑んだ。
「中嶋さんと七条さんはどうしますか?」
「捜索に行く。ここにいても情報はなさそうだからな」
「僕も坂井さんから秀人君を託されているので探しに行きます。晩秋の山は冷えるので子供は凍死する危険があります」
「なら、全員で『幸運』を振ってくれ」
 シナリオを進めるべく、丹羽がロールを促した。

伊藤 :幸運(70)→33 成功
遠藤 :幸運(60)→46 成功
西園寺:幸運(85)→75 成功
中嶋 :幸運(65)→25 成功
七条 :幸運(75)→94 失敗


「先刻からずっと出目が高いな、七条」
 ダイスの目を記録しながら、丹羽が独り言の様に呟いた。ふふっ、と七条は嬉しそうに笑った。
「今回は発狂したら殺人癖を引けそうな気がします。フラグを立ててみましょうか」
「やめて下さい、七条さん」
 さっと啓太は蒼ざめた。殺人癖って……そんなのもあるんだ……
「臣、お前は……」
 西園寺がため息をついた。おっ、と丹羽が陽気な声を上げた。
「七条もフラグ建築士を目指すのか。だが、啓太の様に巧く回収出来るか、お手並み拝見だな」
「ちょっ……俺、そんなの目指してませんから!」

丹羽 :ははっ、話を進めるぜ。懐中電灯を借りて捜索隊と一緒に山へ入った郁ちゃん達は三人
    の名前を呼びながら、提灯が所々ぶら下がってるだけの道なき道を何十分も歩き回った。
    七条以外の四人は暗闇から何かにじっと見つめられてる様な不快感を覚えて一刻も早く山
    から出たいが、それを理性で辛うじて抑えてる。七条は小説のネタ探しでオカルト関連の場
    所によく行くせいか、特に気にはならなかった。そうして五人で暫く坂井達を探してると、ふ
    と中嶋が何かを指差した。見ると、低木の枝に赤い提灯が一つ掛かってる。
伊藤 :こんな処に赤い提灯が……! そう言って俺はその木に駆け寄ります。
遠藤 :KP(キーパー)、他に赤い提灯はありませんか?
丹羽 :あるぜ。その奥にも、また一つぶら下がってる。
中嶋 :赤い提灯を付けたのは坂井だ……これは道しるべか。
西園寺:啓太が正しかったな。赤に意味はないが、赤い提灯には意味がある。道しるべなら赤に
    拘る必要はないから、恐らく毎回、違う色を使っていたのだろう。万が一にも、誰かに提灯の
    意味を気づかれないために。
伊藤 :そんな意味があったんですね。なら、これを辿って行ったら坂井さん達がいるかも……!
七条 :危険ですが、三人を見つけるには行くしかありませんね。
丹羽 :郁ちゃん達は赤い提灯を辿って山の奥へと進んだ。すると、こんもりとした藪の傍に純子
    がポツンと立ってるのを見つけた。全員で『目星』を振ってくれ。
伊藤 :何で純子ちゃんだけ……


西園寺:目星(85)→85 成功
七条 :目星(50)→34 成功
中嶋 :目星(79)→19 成功
遠藤 :目星(85)→58 成功
伊藤 :目星(65)→30 成功


丹羽 :郁ちゃん達は急いで純子に駆け寄った。純子は両手で御緒鍵(おおかぎ)をきつく抱き締
    め、惚けた様に口を半ば開いて身体を震わせてた。儀式用の白い着物は木の枝に引っ掛
    けたのかボロボロで裾や袖は土に塗れてる。途中で何度も転んだらしく、手足は擦り傷だら
    けだった。
伊藤 :酷い……一体、何が……
七条 :可哀相に……そう呟いて僕は自分のコートを脱いで彼女の肩に掛けます。
中嶋 :KP(キーパー)、他の二人は近くにいるか?
丹羽 :いや、坂井と秀人の姿はどこにもねえな。
遠藤 :何があったか純子に訊くことは出来ますか?
丹羽 :訊いても純子は何も答えねえ。ただ、虚ろに宙を見つめてるだけだ。
伊藤 :あっ、じゃあ、『精神分析』します。


伊藤 :精神分析(88)→89 失敗


伊藤 :そんな……こんな大事なところで……
丹羽 :惜しかったな、啓太。妖怪1足りない、1多いはクトゥルフ(CoC)では良く出るからな。な
    ら、啓太は鬱蒼とした森の雰囲気に呑まれて純子の状態がきちんと把握出来なかった。
伊藤 :すいません……
西園寺:気にするな。取り敢えず、純子だけでも村へ連れて帰ろう。
七条 :そうですね、と言って僕は純子さんの手を取って歩きます。
丹羽 :純子は動かねえから七条は歩けねえな。
七条 :怯えているんでしょうか。なら、僕は純子さんに優しく声を掛けます。村へ帰りましょう。ご
    両親もきっと心配していますよ。
丹羽 :その言葉にも純子は反応しねえ。まるで石の様にその場に立ち尽くしてる。
中嶋 :これは発狂しているな。
伊藤 :先刻、俺が『精神分析』に成功してれば……
七条 :まあ、ダイスの女神は気紛れですから。では、僕は純子さんを抱き上げます。対抗ロール
    は必要ですか?
丹羽 :いや、子供だし要らねえ。だが、抱き上げるとなったら懐中電灯は持てねえよな?
伊藤 :あっ、それなら俺が二つ持ちます。
七条 :(これは……)
    大丈夫ですよ、伊藤君、懐中電灯を持って子供を抱き上げるくらいは出来ます。
西園寺:(SAN(正気度)チェックか)
    全く……啓太、ここは臣の好きにさせれば良い。私は臣から少し離れて純子を発見したと村
    に連絡する。
中嶋 :俺は念のため再度、周囲を見回して二人を探す。
    (こんな処で態々する必要はない)
遠藤 :(啓太は俺が護る……!)
    啓太、俺達は七条さんより前に立って道を照らそう。その方がついて来易いだろう。
伊藤 :うん、そうだな。
丹羽 :皆、用心深いな。それじゃあ、七条は動かない純子を抱き上げようと少し腰を屈めた。手
    に持ってた懐中電灯が二人の足元を照らす。すると、純子の靴の下がざわざわと蠢き、ま
    るで蜘蛛の子を散らす様に小さな黒い何かが逃げ出した。気持ちの悪いものを見てしまっ
    た七条は0/1で待望のSAN(正気度)チェックだ。
七条 :それだけですか……


七条 :SAN(76)→14 成功


七条 :はあ……成功です。
丹羽 :そこで残念がるな。その黒い何かは明かりの届かねえ処まで逃げると、七条と純子の様
    子を窺う様に動きを止めたのが気配でわかった。
七条 :適当にその辺りに懐中電灯を向けます。
丹羽 :光で照らされると、それは素早く石の影や木の根の隙間に隠れた。だが、あちこちでカサ
    カサと草の動く乾いた音や石を擦り合わせた様な耳障りな奴らの鳴き声が聞こえた。囲ま
    れてる、と思った七条は純子をしっかり抱き上げた。他の四人にそれを話すか?
七条 :いいえ、襲ってくる訳ではないので今は話しません。
丹羽 :なら、七条は皆と一緒に再び赤い提灯を辿って村へと戻った。その後も村人達によって坂
    井と秀人の捜索は夜通し行われた……が、結局、二人は見つからなかった。


2015.3.27
漸く事件が起こりました。
正直、こんなに長くなるとは思いませんでした。
前半で寄り道し過ぎたかな。

r  n

Café Grace
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