「やっと事件が起きたけど、何か王様にしては控えめですね」
 意外そうに啓太は丹羽を見やった。確かに、と七条は頷いた。
「丹羽会長なら序盤から派手に神話生物を出現させて僕達を絶望の淵に叩き込むかと思っていました」
 すると、丹羽の口の端が小さく上がった。
「七条も案外、甘いな。本当に絶望するのはこれからだぜ」
「ふふっ、それは楽しみです」

丹羽 :それじゃあ、話を進めるぜ。翌朝、郁ちゃん達が目を醒ましたのは八時を大きく過ぎた頃
    だった。昨夜は山の捜索で疲れたので、いつになく深く眠ってしまったらしい。それぞれ身支
    度を整えると、部屋を仕切る襖を開けて布団を押入れの中にしまった。そこへ須藤がやって
    来た。
須藤 :皆さん、起きたのなら丁度良かった。暫く留守をお願いします。家主が行方不明なのに勝
    手に家の物を食べる訳にはいかないので、買い出しに行って来ます。小さな村ですが、生
    鮮食品や生活雑貨を扱う店くらいはあるでしょう。
伊藤 :あっ、それなら俺も行きます。一人で持つのは大変ですよ、須藤さん。
須藤 :いえ、大丈夫です。私は野外調査(フィールドワーク)で山歩きには馴れていますが、皆さ
    んはそうではないので今日はゆっくり休んで下さい。では……
丹羽 :そう言って、須藤はさっさと部屋から出て行った。
遠藤 :KP(キーパー)、須藤が立ち去る前に『心理学』を振れますか?
丹羽 :観察出来るほど部屋にいなかったから、最初から須藤に注意してた中嶋だけなら良いぜ。
中嶋 :『心理学』を振る。
丹羽 :了解。


中嶋 :心理学(85)→??


丹羽 :中嶋には須藤が何かを引け目に感じてる様に見えた。そして、昨夜、須藤が酷くうなされ
    てたことを思い出した。ここで火垂祭に行ってからの情報を共有するぜ。今のと昨日の広場
    で中嶋が見た須藤の不審な行動、郁ちゃん達が広場からの帰り道でヨシに会って智子の異
    変に駆けつけたことだ。RP(ロール・プレイ)は省略で行動を決めてくれ。


 丹羽がPL(プレイヤー)会議を促した。すかさず和希が言った。
「俺は今の内に坂井の家を調べたいです。やはりクトゥルフ(CoC)で家の探索は必須です」
 ああ、と西園寺も同意した。
「これまでの情報から推測すると、須藤に入れ知恵された秀人が儀式で何かをした結果、封印に綻びが生じたに違いない。だが、私達はまだ儀式の概要すら知らない。ここは家の探索を優先すべきだ」
「でも、それじゃあ、坂井さんと秀人君のことはどうするんですか? あの……また二手に分かれませんか? 家の探索に五人は多い気がするし、急がないと秀人君が……」
 二人を心配する啓太が別の意見を出した。しかし、中嶋がそれに反論した。
「俺達が二手に分かれたとしても、山の捜索に数人が加わった程度で見つかるとは思えない。仮に見つけたとしても、その後、神話生物にやられてしまっては意味がない。余計な枝葉が多いが、シナリオの目的を忘れるな」
「余計なって……」
 啓太は傷ついたのか、小さく顔を伏せた。和希が怒りを含んだ瞳で中嶋を睨みつけた。ものには言い様があるのに、この男は……!
「啓太、気持ちはわかるけれど、焦っても良い結果は出ないよ。二人の件はもう暫く村の人達に任せよう。ねっ? それに、須藤が何か新しい情報を持って帰るかもしれないだろう。それまで待ってみよう」
 七条も優しく啓太を慰める。
「大丈夫ですよ、伊藤君。人の生命を何とも思わない者もいますが、秀人君のことは坂井さんが必ず守っていると思います。だから、また山へ行くときに備えて今は情報収集をしましょう」
「……」
 二人の言葉に啓太は不安を堪えて無言で頷いた。丹羽がチラッと中嶋を見やった。
(本当、中嶋はこういうところで損をしてるよな。急がば回れって言えば、啓太も少しは安心して納得するのによ)

丹羽 :なら、郁ちゃん達は坂井の家を探索することにした……って言っても、前に描写した様に廊
    下の左右にある大部屋以外は台所と風呂とトイレしかねえが、どこを探すんだ?
中嶋 :普段、坂井が寝る部屋はどこだ?
丹羽 :特に決まってねえな。坂井の家は今でも村の集会場的な場所として人の出入りが多いか
    らな。箪笥なんかも人目につかねえよう左右の押入れの中に入ってるぜ。
西園寺:右の押入れは私達が布団の出し入れをしているから何かあったら直ぐ気がつくだろう。
七条 :そうですね。『目星』は左の押入れだけで良いと思います。ただ、そこは昨日、須藤さんが
    漁っていたので何か持ち去っているかもしれませんが。
丹羽 :なら、全員で『目星』を振ってくれ。
    (上段と下段に分けなくても良いか。どうせ成功するだろう)


西園寺:目星(85)→60 成功
七条 :目星(50)→83 失敗
中嶋 :目星(79)→73 成功
遠藤 :目星(85)→20 成功
伊藤 :目星(65)→49 成功


伊藤 :本当に出目が高いですね、七条さん。
七条 :ふふっ、少し不安になってきました。
伊藤 :……
    (なのに、どうして嬉しそうなんだろう)
丹羽 :須藤が買い物に行ったので郁ちゃん達は押入れを調べることにした。左の大部屋に行く
    と、七条が奥にある押入れの襖を開けた。上段には綺麗に畳まれた布団と枕、下段には小
    さな箪笥と幾つもの段ボール箱が置いてあった。そこは七条には極普通の押入れにしか見
    えなかったが、上段を丹念に見ていた郁ちゃんと中嶋は天井付近の板が僅かにずれてるこ
    とに気づいた。中嶋がその板をどかして天井裏に手を伸ばすと、古い桐の箱があった。取り
    出して慎重に蓋を開ける。すると、中には和紙を綴じた一冊の古文書――相賀祀典(あい
    がしてん)――が入ってた。この内容を理解するには六時間ほど読んだ後、『日本語』の半
    分でロールだ。一方、啓太と遠藤は下段に幾つもある段ボール箱の一つを引っ張り出した。
    そこには古い大学ノートが大量に入ってた。どうやら坂井の数十年に及ぶ日記らしい。全
    部、読むなら三日は掛かるな。
七条 :古文書と日記ですか。これは両方とも読みたいですね。
伊藤 :でも、古文書はロールが厳しいし、日記は量が多いですよ。
遠藤 :日記を全部、読む必要はないよ、啓太。
中嶋 :ああ、十二年前の火垂祭の頃と最近の部分だけで良い。
西園寺:ならば、二手に分かれて読むことにしよう。古文書が三人、日記は二人だ。私は古文書を
    読む。
七条 :僕も当然、古文書です。
伊藤 :俺は日記にします。十二年前、本当は何があったか知りたいです。
中嶋 :俺も日記だ。
遠藤 :俺は古文書にします。
丹羽 :組分けしてるが、ここでの情報は直ぐ共有したことにして良いぜ。六時間後まで場面を進
    める。古文書組は『日本語』の半分、郁ちゃんは更に『歴史』を振ってくれ。日記の二人は
    『目星』だ。
七条 :このロールは是非、成功させたいですね。今後の展開に大きく関わってきます。
西園寺:ああ、ここで時間を無駄にしたくはない。
遠藤 :再挑戦は避けたいですね。
伊藤 :俺達は大丈夫ですよね、中嶋さん。
中嶋 :ああ。


七条 :日本語(86/2)→17 成功
西園寺:日本語(85/2)→55 失敗
    :歴史(55)→43 成功
遠藤 :日本語(80/2)→33 成功
伊藤 :目星(65)→20 成功
中嶋 :目星(79)→60 成功


丹羽 :(七条と遠藤は成功か……俺の予想通りになってきたな)
    情報が多いから順番に処理するぜ。古文書を見た郁ちゃんは紙の質や文体からこの本は
    百五十年ほど経ってると気づいたが、方言混じりの古い文体で書かれた内容は良くわから
    なかった。七条と遠藤は仕事柄、馴れてたこともあって何とか理解出来た。概要をざ~っと
    説明すると、約二百年前、相賀村の鉱夫が山に眠る荒神を掘り起こしてしまった。怒った荒
    神は闇の風で瞬く間に村人の半数以上を殺した。このままでは村は為す術もなく滅ぶしか
    ないと思われたとき、強い力を持った旅の法師が災いの元凶である荒神の洞窟を封じた。
    だが、荒神の力は凄まじく、その封印は三年しか持たなかった。以降、相賀村の者は定期
    的に荒神を鎮める祭をしなければならなくなった。御緒鍵(おおかぎ)とは荒神を洞窟に縛り
    付けておくための鍵で、祭りとは洞窟の奥にある扉の鍵を取り替える儀式だ。そして、これ
    ら総てを行うのは荒神の力に惑わされ難い幼子にすべきと書いてあった。
西園寺:自我や認識力の未熟な子供ならば、近づいても発狂し難いということか。
丹羽 :まあ、そんなところだ。それから、相賀祀典(あいがしてん)を読破した七条と遠藤はINT
    (知力)×3に成功すれば御緒鍵(おおかぎ)に旧き印の力を付与する呪文を覚えられる。
七条 :ふふっ、漸く呪文が出て来ました。勿論、僕は挑戦します。
遠藤 :俺も振ります、一人では確率が厳しいので。


七条 :INT(36)→57 失敗
遠藤 :INT(45)→21 成功


七条 :はあ……今回、僕は女神に嫌われている様です。残念です、本当に……
丹羽 :(いや、女神に嫌われてるのは遠藤だろう。これは前回、好き勝手やった報いだな、絶対)
    それじゃあ、遠藤は呪文を覚えた。使い方は朝日の下でこれを唱えながら、正しい形状に
    造られた御緒鍵(おおかぎ)の模様を指で三度なぞれば良い。だが、この呪文はその者の
    生命を削るから祭りごとに交代して行うよう但し書きがしてある。具体的に言うと、POW(精
    神力)とSAN(正気度)が5減少する。また、これで一時的狂気にはならねえ。
遠藤 :SAN(正気度)はまだしも、POW(精神力)の減少は痛いですね。
七条 :遠藤君のPOW(精神力)は12。使うとしても一回が限度でしょうね。
西園寺:KP(キーパー)、御緒鍵(おおかぎ)の寸法はわかるか?
丹羽 :いや、相賀祀典(あいがしてん)には荒神の伝承と火垂祭の由来があるだけで、儀式の詳
    細や御緒鍵(おおかぎ)の寸法などはどこにも書いてねえ。
西園寺:そうか……
丹羽 :次は日記に行くぜ。中嶋と啓太は手分けして日記を調べた。最近の日記はノートが丁度
    終わったばかりで箱の一番上に置いてあったので直ぐに見つかった。それを開くと、色々な
    ことが書かれてた。自分の孫を緒締役にしなければならない苦悩と相賀村に生きる者として
    の使命感、秀人を連れて来た郁ちゃん達への感謝……そして、火垂祭の前日のページに
    は御緒鍵(おおかぎ)に力を与える儀式を行ったこと、そのせいか何となく身体がだるい気
    がするなどだ。
伊藤 :だから、祭りの当日、坂井さんが凄く疲れてる様に見えたんですね。
中嶋 :この呪文を使うと、確実にマイナス補正が入るな。
丹羽 :十二年前の日記は探すのに少し時間が掛かった。ノートを適当に箱詰めしたらしく、順番
    になってねえからだ。二人は手分けして箱の中を調べ、漸く目当ての日記を見つけた。中尾
    伸康と細川智子が緒締役に選ばれたことや祭りの準備を順調に行ってる様子が丁寧に記
    されてる。だが、火垂祭の当日……まだ半分近くのページを残して日記はぷっつり途絶えて
    しまった。それ以降、そのノートは使われることなく、次の日記は新しいものになってた。日
    付は祭りから約三ヶ月後だ。内容は極普通の日常生活を綴ったもので、特に注意を引くこと
    は書いてなかった。
中嶋 :十二年前の日記に『目星』を振る。不自然に途切れているのが気になる。
伊藤 :あっ、俺も振ります。
丹羽 :ロールしてくれ。


中嶋 :目星(79)→40 成功
伊藤 :目星(65)→52 成功


丹羽 :十二年前の日記を慎重に調べた二人は火垂祭の当日と思われる部分でページを破った
    痕跡を見つけた。そして、次のページに薄らと文字の跡が残ってた。
中嶋 :筆記具の中から鉛筆を取り出し、その部分を軽くなぞる。
伊藤 :あっ、ドラマとかでありますよね、そういうシーン。
丹羽 :(他の奴なら幸運判定だが、中嶋ならこういう場合に備えて鉛筆は持ってるか)
    なら、もう一度、『目星』だ。


中嶋 :目星(79)→69 成功
伊藤 :目星(65)→30 成功


丹羽 :中嶋が慎重にページを塗り潰すと、断片的に言葉が浮かび上がってきた。そこから二人は
    何とか四つの文章を読み取った。嘘をついた。荒神の伝承は本当。細川智子の目には。中
    尾伸康は、もう戻らない。


「呪文以外は俺達の推測を裏打ちした程度か」
 中嶋は小さく腕を組んだ。すると、啓太が嬉しそうに言った。
「でも、これでちゃんとした封印の仕方がわかりました。それを使えば、智子ちゃんの右目に憑いた神話生物を取り除けるかもしれませんね」
「……いや、そう簡単にはいかないだろう」
 少し考え込みながら、西園寺が呟いた。どうしてですか、と啓太は首を傾げた。
「このシナリオのクリア条件は火垂祭を無事に終わらせる……つまり、封印の交換だ。発見された純子は御緒鍵(おおかぎ)を持っていたから、私達がそれを代わりに行わなければならない。だが、あの御緒鍵(おおかぎ)はどこか損傷している可能性が高い。純子が逃げる途中で何度も転んだり御緒鍵(おおかぎ)を落としたからだ。それはあの状態をみれば容易に想像がつく」
 その先を七条が続けた。
「相賀祀典(あいがしてん)に態々正しい形状に造られた御緒鍵(おおかぎ)と書いてある以上、一部でも欠損していたら恐らく封印は出来ません。状態を確かめようにも、今、見つけた古文書と日記には御緒鍵(おおかぎ)の詳細が記されていませんでした。その確認をせずに交換に行けば、最悪、全滅エンドです」
「そんな……」
(神話生物を封印出来ないと智子ちゃんが……あと少しなのに……)
 啓太の表情が曇った……が、ふとあることを思いついた。
「和希、新しい御緒鍵(おおかぎ)を造ってそれに呪文を掛けたらどうかな?」
「それが最も確実だけど、御緒鍵(おおかぎ)の製造方法がわからないだろう、啓太」
「でも、坂井さんはちゃんと用意してたよ。あれは綺麗じゃなかったけど、溶接とかしてたから普通の人には造れないだろう。だから、きっと専門の人に頼んだと思うんだ。西園寺さん達がこの村に着いたとき、何でも鋳造しますって看板のある小さな金物店があっただろう。そういうお店なら、きっと造れるんじゃないかな」
「そうか……!」
 思わず、和希は声を上げた。
 楽しみにしていたブラウニーのRP(ロール・プレイ)を却下された直後だったので、丹羽がそんな描写をしていたのを今の今まで完全に忘れていた。成程、と西園寺が頷いた。
「毎回、坂井があの店に発注していたなら、御緒鍵(おおかぎ)の製造方法や詳細な寸法を記した図面を店主に渡している可能性が高い。良い考えだ、啓太」
「はい」
 啓太は嬉しそうに頷いた。
「なら、金物屋へ行くところから再開して良いか?」
 丹羽は確認する様に全員を見回した。中嶋が一つ付け足した。
「ついでに、広場で二人の捜索状況も聞きたい」

丹羽 :それじゃあ、時刻は午後三時過ぎ……日記の入った箱を押入れの下段に戻し終わったと
    き、玄関のドアが開く音がした。帰宅した須藤が慌ただしく左の部屋へ入って来る。
須藤 :皆さん、遅くなってすいません。買い物に行ったら開店が十一時で帰ろうとしたら、戸田さ
    んに会って……
伊藤 :戸田さん……?
七条 :純子さんの家の方ですね。苗字は戸田でした。
須藤 :そうです。今は家を空けられないので私を見て声を掛けたそうです。暫く戸田さんの家にお
    邪魔して……これを、預かってきました。
丹羽 :須藤は手に持ってた風呂敷包みを開いて御緒鍵(おおかぎ)を見せた。
須藤 :坂井さんはまだ行方不明ですが、純子さんはもう緒締役を出来ないので御緒鍵(おおか
    ぎ)はこちらにお返しするそうです。ここに置いておきますね。
丹羽 :そう言って須藤は御緒鍵(おおかぎ)を静かに神棚に戻した。
中嶋 :純子に会ったのか?
須藤 :いえ、それは無理でした。今、あの子は熱を出して寝込んでいます。精神的にかなり不安
    定な状態らしく、熱が下がったら暫く街の病院で療養するそうです。もしかしたら、そのまま、
    この村には戻らないかもしれない、と。
中嶋 :……
    (不定の狂気か。このシナリオ中に純子から話しを聞くのは無理だな)
須藤 :さて、急いで食事を作りますね……と言っても、今からでは夕食になりそうですが。
西園寺:構わない。私達は暫く外出する。
須藤 :わかりました。
丹羽 :そして、須藤は台所へ行ってしまった。先に言っておくが、御緒鍵(おおかぎ)に『目星』を
    振っても新しい情報は出て来ねえ。多少、汚れてるってだけだから場面を進めるぜ。郁ちゃ
    ん達は村の入口にある金物店へ行く前に二人の捜索状況を聞くために広場へ向かうことに
    した。しんと静まり返った村には人っ子一人いねえ。祭りの翌日の侘しさを差し引いても妙
    に重い空気が漂ってた。村人は何かに怯える様に家に閉じ籠り、火垂祭のために帰郷して
    た者達は足早にここから去って行く。そんな状況だから当然、広場も後片付けすらされずに
    放置されてた。ただ、中央の机に昨日はなかったダンボール箱がポツンと一つ置いてあっ
    た。中を見ると、懐中電灯が幾つも入ってる。郁ちゃん達は話を聞ける者はいねえかと周囲
    を見回した。すると、そこへ見るからに疲れた村人が数人やって来た。彼らは手に持ってる
    懐中電灯を次々と箱に入れた。
遠藤 :彼らに話し掛けます。こんにちは。今日の探索はどうですか?
丹羽 :その声に村人達は困惑した様に目を逸らしたが、やがて誰かがぼそぼそと言った。
村人 :……捜索はもう終わりだ。
伊藤 :えっ!? でも、まだ二人は見つかってないんですよね? 探さないんですか?
村人 :ああ、昨夜からの捜索で皆、疲れてるからな。
七条 :では、今後は警察に任せるんですか?
村人 :……いや、警察には通報してない。直ぐ見つかるかもしれないから……
伊藤 :そんな……KP(キーパー)、村人に『心理学』を振ります。こんなの絶対、変です。行方不
    明になってるから探してるのに見つかるかもしれないなんて……!
遠藤 :啓太、村人は無意識に神話的恐怖を感じているんだよ。あっ、俺も振ります。
丹羽 :ここは二人で充分だろう。ロールしてくれ。


伊藤 :心理学(85)→??
遠藤 :心理学(80)→??


丹羽 :啓太と遠藤は村人達は火垂祭のことで外の人間に首を突っ込まれるのを嫌ってるらしいと
    思った。
遠藤 :それは警察も含めてですか?
丹羽 :ああ、警察も外部には変わりねえからな。
中嶋 :閉鎖的な村の典型的な反応だな。
丹羽 :村人達は気まずそうに郁ちゃん達に会釈すると、そそくさとそこから去って行った。
七条 :僕は遠藤君に尋ねます。一応、ここに警察はいますが、改めて僕達から通報した方が良
    いですか?
遠藤 :いえ、この件は俺から上司に連絡して対応を取って貰います。地元警察の捜索で儀式の
    場所を荒らされたくありません。今は金物店へ行きましょう。
丹羽 :その言葉に郁ちゃん達は村の入口にある金物店へと向かった。そこは国道に繋がる唯一
    の道の傍にあり、錆びた看板を掲げた小さな店だった。ドアに吉沢金物店と書いてある。外
    から中を覗くと、左右の棚には色々な金物が所狭しと置いてあり、一番奥に主人らしい中年
    の男が座って新聞を読んでた。
七条 :全員で入るのは無理ですか?
丹羽 :ああ、精々二人だ。誰が入るか決めてくれ。
中嶋 :俺が行く。
西園寺:中嶋は交渉系のスキルが高いから適任だろう。他に持っている者は啓太と遠藤か。二人
    とも数値は似た様なものだが、ここ啓太か。
伊藤 :俺ですか!? でも、俺は情報を引き出す自信がないので和希の方が良いと思います。
遠藤 :いや、啓太だよ。啓太は『信用』が高いだろう。場合によっては少し無理な交渉をしなけれ
    ばならないから、信用の置けそうな人が中嶋さんの傍にいた方が印象が良くなる。
    (なぜ、俺が中嶋さんに塩を送る様な真似を……もっと振っておけば良かった)
伊藤 :そっか……わかった。
丹羽 :中嶋と啓太は店の中に入ると、真っ直ぐ店主の処へ行った。何かご用ですか、と店主の男
    が言った。ここからはRP(ロール・プレイ)で交渉してくれ。
中嶋 :なら、俺は丁寧な口調で男に尋ねる。坂井さんから火垂祭で使う御緒鍵(おおかぎ)はここ
    で造って貰っていると聞いたのですが、本当ですか?
丹羽 :(中嶋の奴、いきなり鎌を掛けてきたか)
    店主は小さく頷いた。
店主 :はい、そうです。あの御緒鍵(おおかぎ)は戦前から内で造ってます。
伊藤 :やっぱり……!
中嶋 :そうですか。実は私も御緒鍵(おおかぎ)の作成を依頼したいのですが、宜しいですか?
丹羽 :(中嶋一人なら渋るんだが、啓太が傍にいるしな……『信用』85の影響は大きいよな、
    やっぱり)
    それを聞いた店主は探る様に中嶋と啓太を見た。都会の人間は変わった物を欲しがるな、
    と顔に浮かんでる。
店主 :構いませんが、今直ぐという訳にはいきません。三日ほどお時間を頂けますか?
伊藤 :えっ!? そんなに掛かるんですか?
    (三日もなんて待てないよ。その間に秀人君が……)
中嶋 :(時間を引き伸ばしてその間に何か起こすつもりか……?)
    いえ、私達は三日後まではいないので出来るだけ早急にお願いします。そう言って店主に
    『言いくるめ』を振る。
伊藤 :なら、俺は『説得』にします。
丹羽 :啓太は信用補正で+5だ。
伊藤 :有難うございます、王様。


中嶋 :言いくるめ(75)→77 失敗
伊藤 :説得(40+5)→80 失敗


伊藤 :どうしよう。二人とも失敗なんて……
中嶋 :KP(キーパー)、『説得』を振る。
丹羽 :今、『言いくるめ』に失敗してるから技能値20%減だ。
中嶋 :構わない。


中嶋 :説得(75-20)→17 成功


伊藤 :良かったですね、中嶋さん。
中嶋 :ああ。
丹羽 :なら、最初は無理だと断った店主だったが、暫く中嶋が交渉すると五万で御緒鍵(おおか
    ぎ)を造ることに同意した。明日の今頃にまた来る様にと言って中嶋に領収書を渡すぜ。店
    の外に出た二人は待ってた郁ちゃん達にそのことを話した。


 そこで丹羽は少し喉を湿らそうと、マグカップに手を伸ばした。しかし、中はもう空になっていた。今からコーヒーを淹れるのも面倒だな、と丹羽はぼんやり思った。シナリオが止まったので、七条が今後のことを提案した。
「これで封印の鍵は手に入りましたが、僕達は実際に交換するところを見てはいません。だから、一応、前回の緒締役の子供や智子さんから具体的な話を聞いてみませんか?」
「……!」
 ハッと啓太が息を呑むのと同時に中嶋の声が響いた。
「智子から話を聞くのは無理だ」
「……どういうことですか?」
 七条は冷たく中嶋を見やった。
「智子も過去の火垂祭で不定の狂気に陥り、当時の記憶は殆どない」
「それは郁と僕は初耳です。この期に及んで、まだ情報を隠ぺいしていたとは呆れてものが言えません」
「隠ぺいではない。今、話した」
「情報交換の場で話さなければPC(プレイヤー・キャラクター)が知っていることになりません。隠ぺいと捉えられて当然です」
「ふっ、この程度で隠ぺいと騒ぐのは自分の推理力に自信のない証拠だ」
 中嶋の口の端が嘲る様に上がった。七条からすうっと表情が消えた。
「違うんです、七条さん!」
 突然、啓太が話に割り込んだ。
「伊藤君……?」
「西園寺さんと七条さんが会計室に行ってるとき、『心理学』で智子ちゃんから先刻の結果を引き出したのは俺なんです。だから、もっと早く俺が言わなければいけなかったのに今まですっかり忘れて……」
 ごめんなさい、と啓太は頭を下げた。西園寺が少し怒りを含んだ瞳で中嶋と七条を見やった。
「いい加減にしないか、二人とも……啓太、気にすることはない。これは単に臣が事を荒だてているだけだ。それを知りながら、中嶋、お前は臣を挑発するな」
「郁、それでは、まるで僕が悪い様に聞こえます」
「俺は挑発した覚えはない」
 二人は口々に反論したが、それ以上、何も言わなかった。互いに顔を背けて飲み物へと手を伸ばす。和希が優しく啓太の頭を撫でた。
「気に病むことはないよ、啓太、これは新情報という訳ではないから。西園寺さんと七条さんなら先刻の須藤の言葉で智子の状態は充分に推測出来たはず。七条さんは一応、確認したかっただけだと思うよ」
「啓太、遠藤の言う通りだ。これは二人のいつもの言い争いだ。だから、私達を気にする必要は全くない」
「……有難う、和希。有難うございます、西園寺さん」
 二人とも知っていたとわかって啓太は少し気を取り直した。丹羽は自分が止めなくても言い争いが収まったことに安堵して腕時計に目を落とした。
(げっ、もうこんな時間かよ。そういえば、少し腹が減ってきたな)
 開始から既に五時間近くが経ち、いつの間にか、外は陽が落ちてすっかり暗くなっていた。残りのシナリオの時間配分を頭の中で考える。この分だと、あと数時間は掛かりそうだな……
(適当に場面を省略すればもう少し早くなるかもしれねえが、折角、ここまで丁寧に描写してきたのにそれは勿体ねえ……やっぱり時間が足りねえか)
 丹羽が密かに困っていると、軽いノックの音と共に生徒会室のドアが開いた。
「失礼します」
「あっ、石塚さん、こんにちは」
 振り返った啓太が嬉しそうに挨拶した。石塚は柔らかく微笑み、手に持った白い紙袋を軽く持ち上げた。
「こんにちは、伊藤君、皆さん……遅くなりましたが、差し入れをお持ちしました。今日は学食のブラウニーです。温めてあるので冷めない内にどうぞ。アイスクリームもあります」
「わあ、いつも有難うございます。少しお腹が空いてたので嬉しいです」
 思わず、啓太の声が弾んだ。すると、これを渡りに船とばかりに丹羽が口を開いた。
「切りが良いから今日のセッションはここで切ろうぜ。最後までやると夕食に間に合いそうにねえ」
「もうそんな時間か……ならば、仕方がない」
 西園寺は少し残念そうに同意した。ふふっ、と七条が笑った。
「郁はこのシナリオを結構、楽しんでいますからね」
「臣、余計なことを言うな。丹羽が調子に乗る」
「おっ、良いことを聞いたぜ。なら、その期待に応えねえとな。今までクトゥルフ(CoC)らしい要素が少なかったが、明日は一気に畳み掛けるから覚悟しろよ」
 清々しい顔で丹羽は恐ろしい宣言した。中嶋が低く喉を鳴らした。
「遠藤の様にシナリオを逸脱して殺しにくるか」
「中嶋さん、あれは殆どシナリオ通りです……多少、改変はしましたが」
 和希は気まずそうに頬を掻いた。それを見て啓太は楽しそうに笑った。

 その後、石塚を含めた全員で冷たいアイスクリームを添えた温かいブラウニーで小腹を満たした。窓の外で小さな星が一つ輝いていた。続きはまた明日……


2015.4.24
話が長くなったので、
ここで分けることにしました。
和希が私用を頼むから石塚さんが甘味処になっています。
だから、啓太の中で石塚さんの株が上がるのかも。

r    m

Café Grace
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