智子 :……先生、山へ行くの?
丹羽 :智子が不安そうに啓太の服の端をそっと掴んだ。RP(ロール・プレイ)をしてくれ。
伊藤 :あっ、どうしよう……言っても良いですか?
七条 :伊藤君が話すと決めたなら僕に反対する理由はありません。
西園寺:智子には総て話したのだろう。ならば、もう隠す必要はない。
中嶋 :お前に任せる。
遠藤 :啓太の思う通りで良いよ。
伊藤 :なら、俺は身支度の手を止めて優しく智子ちゃんに言います。そうだよ。これ以上、被害を
    大きくしないために火垂祭を終わらせてくる。
智子 :本当に出来るの、そんなこと……?
伊藤 :(ここは、あまり心配させない方が良いよな)
    大丈夫。必要な物は全部、揃えたから。きっと上手くいくよ。
丹羽 :すると、智子は少し視線を逸らして更に啓太の服を強く掴んだ。
智子 :なら、態々先生が行かなくても……坂井さんみたいにすれば良い。
伊藤 :どういう意味?
智子 :……坂井さんは、祭りと称して封印を交換してたでしょう。何も知らない、子供の私達を
    使って……
伊藤 :智子ちゃん、坂井さんは好きで子供を使ってた訳じゃないよ。この村に住む人達を守るた
    めにはそれしか方法がなかったんだ。俺達が見つけた坂井さんの日記にはその苦悩が一
    杯、書かれてた。だから、心配してくれるのは嬉しいけど、そんな言い方はしないで。ねっ?
智子 :……っ……
丹羽 :智子は何か言いたそうに啓太を見上げたが、直ぐにまた顔を背けた。
伊藤 :『心理学』を振ります。
遠藤 :KP(キーパー)、俺達も振れますか?
丹羽 :いや、智子の顔は包帯で半分しか見えねえから傍にいる啓太以外は無理だ。啓太の分だ
    け振るぜ。


伊藤 :心理学(85)→??


丹羽 :(げっ、ファンブルかよ。これで情報を出すつもりだったのに……)
    智子の顔を窺おうとした啓太は右目の包帯に黒い染みがあることに気がついた。まるで傷
    口に貼ってある絆創膏の様に包帯の奥から何か得体の知れねえ体液がじわじわと滲んで
    る。一瞬、啓太は本能的な恐怖を覚えて背筋がぞっとするぜ。0/1D3のSAN(正気度)
    チェックだ。
伊藤 :そんな……


伊藤 :SAN(58)→95 失敗 1D3→2
    :SAN(58)→56


「ううっ、俺のSAN値が……」
 ガックリと肩を落とす啓太に和希が言った。
「啓太、封印の間に行ったら更にSAN値を削られるからもう少しここで時間を潰そう」
「えっ!? でも、急がないと危ないだろう?」
「啓太はあと10減ったら不定の狂気になるから念のためだよ。それに、智子はまだ情報を持っていそうだ」
「そっか……うん、わかった」
 素直に啓太が頷くと、横から七条と中嶋が口を挟んできた。
「伊藤君なら、いざとなったら僕が『精神分析(物理)』をしてあげますよ」
「ああ、お前の『精神分析』よりずっと良く効くだろう」
「(物理)? それって何ですか?」
「ふふっ、映画やドラマでよくあるでしょう。取り乱した人を落ち着かせるために――……」
「七条さん!」
 嫌な予感に和希が強引に話を遮った。ポンッと啓太は小さく手を打った。
「気をしっかり持て、とか言ってパンッと頬を叩くんですね」
「TRPGの中とはいえ俺が啓太にそんな真似を許すはずがないだろう」
 和希は眉をひそめた。それに……と言い淀む。
(顔を叩くならまだしも、また啓太にキスをするかもしれない。そんなことは絶対に許さない……!)
 前回を思い出して再び怒りに燃える和希に丹羽は大きなため息をついた。
「おい、二人ともそのくらいにしろよ。郁ちゃんも適当に止めてくれ」
「なぜ、止める必要がある? 私も啓太にならば『精神分析(物理)』をすることはやぶさかではない。荒れるのが嫌ならば、さっさと続きを始めれば良い」
 そう言うと、西園寺は優雅に紅茶を口に運んだ。険しい表情の和希の隣で啓太は密かに感心して丹羽を見つめていた。
(そっか。技能に頼るんじゃなくて総ては考え方次第なんだ。王様がRP(ロール・プレイ)重視って言うのがやっとわかった気がする)

丹羽 :(あ~あ、肝心の啓太が全く意味わかってねえ)
    はいはい……それじゃあ、智子は啓太の言ってることはわかるが、右目がこうなったのは坂
    井のせいでもあるから何か釈然としねえでぐずってるぜ。ここで智子を振り切って山へ行くと
    三十分後には封印の場所に着く。不定回避ならもう少しRP(ロール・プレイ)だな。
中嶋 :なら、二人の話を傍で聞いていた俺は智子に尋ねる。坂井を恨んでいるのか?
丹羽 :すると、智子は緩く首を振った。
智子 :……わかりません。だって、あのとき、私もノブ君を見捨てたから……
伊藤 :智子ちゃん……
智子 :ねえ、先生……どうして先生達は私やこの村を助けようとしてくれるの? 先生達はただ
    の観光客で、この村に住んでる訳じゃない。なら、警察に総て話して任せれば良いって、どう
    して考えないの?
伊藤 :それは……
    (朋子と同じ名前だからってのは違うよな。確かに切っ掛けはそうだけど、PC(プレイヤー・
    キャラクター)の俺が智子ちゃんを助ける理由は……)
中嶋 :警察がこんな話を信じると思うか? 単に正気を疑われるだけだ。
智子 :でも、証拠があれば警察だってきっと……
中嶋 :なら、その右目を人に見せるか? そうでもしなければ、とてもではないが警察は神話生
    物の存在など信じないだろう。お前にそれだけの覚悟はあるのか?
智子 :……っ……
伊藤 :中嶋さん、それはちょっと酷かと……
    (警察はもう神話生物のことを知ってるのに……ノブ君のことをずっと後悔してる智子ちゃん
    に、そんなことまでさせられないよ)
遠藤 :(啓太の中で中嶋さんのポイントが下がってる。この機に乗じて……!)
    見兼ねた俺も話に加わります。中嶋さん、今はそんな悠長に警察を説得している時間はあ
    りません。封印が完全に解けたら、被害はこの村の外にまで及びます。事実を知っている
    俺達だけで早急に御緒鍵(おおかぎ)を交換するべきです。
中嶋 :わかっている。俺はまだ死ぬつもりはない。
丹羽 :死ぬという言葉に智子はさっと蒼ざめた。
伊藤 :KP(キーパー)、俺は改めて智子ちゃんに話し掛けます。智子ちゃん、俺は右目を治すっ
    て約束しただろう。それは理由にならないかな?
智子 :約束……
伊藤 :そう……約束。俺、あの約束は絶対に守るから。こんなこと言うと変に聞こえるかもしれな
    いけど、智子ちゃんは何だか妹みたいな気がして放っておけないんだ。だから、皆と同じ様
    に包帯のない顔で元気に笑って欲しい。そのためなら俺はどんなことでもするよ。
智子 :先生……
丹羽 :智子はその真意を探る様にじっと啓太を見つめた。神話生物の恐ろしさを嫌と言うほど
    知ってるだけに完全に信じることにまだ微かな躊躇いがあったが、一片の迷いもねえ啓太
    の瞳にそれは杞憂だったと漸く悟った。なら……と智子は密かに覚悟を決めた。
智子 :私も……私も、連れて行って下さい。私なら子供のときに行ったことがあるから、きっと直ぐ
    封印の場所を見つけられます。
伊藤 :えっ!? あ……気持ちは嬉しいけど……
中嶋 :駄目だ。大人しくここにいろ。
遠藤 :今は当時より遥かに危険な状態だから封印のことは俺達に任せて欲しい、と言って智子を
    止めます。
丹羽 :だが、智子は一歩も引かなかった。
智子 :私、ずっと闇に怯えて生きてきました。寝るときも家中の電気を消せないほど……このまま
    では駄目だって思ってたけど、怖くて……何も出来なかった。でも、思い出したの。私、ノブ
    君と一緒に緒締役に選ばれたとき、最後まで二人でやろうって約束した。ノブ君はもういな
    いけど、せめてこの約束だけは守りたい……守りたいの! そうしなければ、私の火垂祭は
    永遠に終わらない。だから、お願い。私も連れて行って!
中嶋 :智子に『心理学』を振る。
伊藤 :あっ、俺も振ります。
遠藤 :俺もお願いします。
丹羽 :了解。
    (遠藤の『心理学』はそのままで良いか。こいつがだるいくらいで判断が鈍る訳ねえからな)


中嶋 :心理学(85)→??
伊藤 :心理学(85)→??
遠藤 :心理学(80)→??


丹羽 :(危ねえ。もう少しでクリティカルだぜ)
    中嶋は智子は断られたら一人でも山へ行きそうだと思った。啓太は智子が初めて会ったと
    きより積極的になったと感じた。遠藤は智子が昔の約束に少し拘り過ぎてる気がした。
遠藤 :全員、成功ですね。なら、KP(キーパー)、俺は智子に言います。智子ちゃん、そこまで約
    束に拘るのはまだ何か隠していることがあるのかな。今朝、また夢でも見た?
丹羽 :智子は曖昧に首を振るぜ。
智子 :隠してるって訳ではないけど……その……私、今までもぼんやりしてると、たまに変な光景
    が見えたんです。そこはとても暗くて明かりは全くない闇の中なのに、なぜか見えるんです。
    闇に照らされると言うか、闇が見せてくれるみたいな……ちょっと言葉では巧く説明出来な
    いけど……
伊藤 :それがまた見えたの?
智子 :はい、今朝はかなりはっきり見えました。運動場の様な広い場所……平らな床の上に、子
    供が寝てるんです。顔や服装とかはわかりません。本当に真っ暗なんです。でも、そこにあ
    の子がいるのは間違いありません。感じるんです。だけど、近づこうとしても身体は自由に
    動かないし、私が意識するとその光景は直ぐに消えて……ごめんなさい。こんな話、変です
    よね。封印とも全く関係ないし……
伊藤 :もしかして、秀人君かな。なら、まだ生きてるかもしれない。
中嶋 :いや、それでは時間が合わない。
    (智子の右目は落とし子と繋がっている。それはシアエガの化身か、あるいは……)
智子 :あそこに誰かいるなら、多分、私以外には見つけられないと思うんです。私、絶対に無茶
    なことはしないと約束します。だから、お願いします。私も一緒に連れて行って下さい……!
丹羽 :これ以上、渋ってると智子は家を飛び出して山へ向かうぜ。どうする?


 和希が全員を見回して言った。
「シナリオ的には智子を連れて行くのが正解らしいですね」
 ああ、と中嶋は頷いた。コーヒーに手を伸ばす。
「啓太、智子のことはお前に任せる。智子が昔を思い出して発作を起こしたら直ぐに『精神分析』をしろ」
「わかりました」
 啓太は気合を込めて掌をキュッと握り締めた。西園寺が指示を出す。
「投光器と御緒鍵(おおかぎ)は智子につく啓太とマイナス補正の掛かっている遠藤以外で持つ。STR(力)の高い順に臣と私が投光器、中嶋は御緒鍵(おおかぎ)だ」
「わかりました」
「ああ」
 珍しく中嶋と七条が言い争うことなく、すんなり分担が決まった。丹羽は二人が余計なことを口にしない内に急いでシナリオを再開した。

丹羽 :それじゃあ、智子を入れた六人で山へ向かうぜ。郁ちゃん達は数日前にも来たが、そのと
    きより山中の空気は淀み、随所にあるねっとりとした闇に悪寒が止まらなかった。それを堪
    えて黙々と赤い提灯を辿って三十分ほど歩いてると、濃い木々の向こうに苔むした岩肌が
    見えてきた。そこにぽっかりと黒い大穴が空いてる。それを覆い隠す様に周囲にはシダが
    生い茂ってるが、枝葉は不気味に捻じ曲がり、所々黒ずんだ斑が浮かんでた。しかも、風も
    ねえのになぜかザワザワと揺れ動いてる様な気さえする。全員で『目星』だ。郁ちゃんは『歴
    史』も頼む。遠藤は技能値30%減を忘れるなよ。
遠藤 :はい。
西園寺:やはり洞窟があったか。


西園寺:目星(85)→53 成功
    :歴史(55)→31 成功
七条 :目星(50)→21 成功
中嶋 :目星(79)→22 成功
遠藤 :目星(85-30)→67 失敗
伊藤 :目星(65)→95 失敗


丹羽 :慎重に大穴に近づいた郁ちゃん達はまずは外から中を覗き込んだ。それはほぼ水平に延
    びてるらしく高さは二メートル弱、奥行は十メートルほどだが、先の方は暗い上に緩くカーブ
    してるから見通すことは出来なかった。郁ちゃんはこれは自然に出来た洞窟ではなく、二百
    年くらい前に放棄された廃坑だと気づいた。そして、『目星』に成功した三人は洞窟の奥か
    ら微かに生臭い風が吹き出してるのを感じた。
七条 :この風……嫌な感じがしますね。
中嶋 :一応、『聞き耳』をする。
丹羽 :何も聞こえねえな。
西園寺:では、投光器を点けて中へ入る。
七条 :僕も投光器のスイッチを入れます。出来るだけ全員、纏まって行動しましょう。
伊藤 :はい、俺は智子ちゃんと離れないよう注意します。
遠藤 :俺も二人の傍にいます。
丹羽 :郁ちゃん達は意を決して中へ足を踏み入れた。すると、途端に闇が全身に纏わりついてき
    た。それは、まるで人肌に温めた蛭が何万匹もゆっくりと這いずり回ってる様なおぞましい
    感触だった。息を吸う度にその闇は空気と一緒に各自の肺へと流れ込み、身体の内部から
    も感覚を犯して吐き気を催す。最早、どんな鈍い人間でもこの名状し難い異様な雰囲気を
    感じ取ることが出来るぜ。さあ、お待ちかねのSAN(正気度)チェックだ。失敗したら、この
    冒涜的な闇に堪え切れずに洞窟の外へ飛び出す。無理に堪えるなら、1D3のSAN値を消
    失する。好きな方を選んで良いが、この期に及んで逃げる奴はいねえだろう。遠藤、SAN
    (正気度)チェックは普通にやってくれ。使命感に燃えてるってことでマイナス補正は免除
    だ。
遠藤 :有難うございます。
七条 :いよいよですね。


西園寺:SAN(84)→10 成功
七条 :SAN(76)→98 ファンブル 1D3→3
    :SAN(76)→73
中嶋 :SAN(56)→79 失敗 1D3→3
    :SAN(56)→53
遠藤 :SAN(53)→68 失敗 1D3→1
    :SAN(53)→52
伊藤 :SAN(56)→71 失敗 1D3→2
    :SAN(56)→54


西園寺:洞窟に入っただけでこれか。先が思いやられる。
中嶋 :やはり大物がいるな。
七条 :KP(キーパー)、智子さんは大丈夫ですか?
丹羽 :ああ、智子は怯えてはいるが、この闇とずっと一緒だったからチェックは入らねえ。
伊藤 :こんなのとずっと……本当に辛かっただろうな。
丹羽 :それじゃあ、今度はCON(体力)×5でダイス・ロールだ。失敗すると意識が混濁して総て
    の判定に10%のペナルティが付く。遠藤は五倍の値から30を引いてくれ。


西園寺:CON(45)→68 失敗
七条 :CON(55)→18 成功
中嶋 :CON(75)→02 クリティカル
遠藤 :CON(90-30)→91 失敗
伊藤 :CON(45)→98 ファンブル


伊藤 :が~ん、またファンブル……
遠藤 :俺はもう生還出来ない気がしてきたよ、啓太。
七条 :ふふっ、ダイスの女神はよほど遠藤君がお嫌いな様です。
丹羽 :おい、こんなところでクリティカル出されても何もねえぞ……中嶋、啓太のファンブルと相殺
    しても良いか?
中嶋 :ああ。
伊藤 :有難うございます、中嶋さん。
丹羽 :なら、中嶋と七条以外は総ての技能値が10%減だ。遠藤は合計で40%減になる……進
    めるぜ。郁ちゃん達は崩れ掛けた岩に注意しながら、慎重に奥へと向かった。やがて突き
    当りに石で出来た両開きの古い扉が見えてくる。それは大きく開け放たれ、その奥には少し
    だけ空間が広がってた。だが、奥行は一メートルもなく、行き止まりの直前に態々扉をつけ
    てる奇妙な構造だ。『目星』を振るなら場所を指定してくれ。テンポが悪くなるから一人一回
    だ。情報は即共有で良いぜ。
西園寺:では、私は扉に『目星』を振る。
七条 :僕は奥の空間にします。
中嶋 :周囲に振る。
遠藤 :俺は奥の空間です。
伊藤 :俺は周囲かな。


西園寺:目星(85-10)→30 成功
七条 :目星(50)→41 成功
中嶋 :目星(79)→34 成功
遠藤 :目星(85-40)→51 失敗
伊藤 :目星(65-10)→83 失敗


丹羽 :石の扉を調べた郁ちゃんは表面に溝の様なものが四ヶ所あることに気がついた。その縁
    にはそれぞれ三匹ずつ干支が浮き彫りされ、どうやらここに御緒鍵(おおかぎ)を取りつける
    と推測出来たが、今は一本も嵌ってなかった。周囲を見回した中嶋は古くなって交換したと
    思われる御緒鍵(おおかぎ)が無造作に幾つも転がってることに気づいた。足元にはまだ新
    しそうな三本の御緒鍵(おおかぎ)とひしゃげて使い物になりそうもねえのが一本ある。七条
    と遠藤は扉の向こうに目を凝らしたが、ただの行き止まりにしか見えなかった。啓太は智子
    が心配で周囲に目を配るどころじゃなかった。
七条 :KP(キーパー)、僕は成功したのに遠藤君と同じ結果なんですか?
丹羽 :ああ。
    (この先はシアエガの領域。人の瞳には何も見えねえ)
伊藤 :なら、俺は皆に言います。早く扉を閉めて御緒鍵(おおかぎ)で封印しましょう。
遠藤 :啓太、焦っては駄目だ。ここは慎重に行動しよう。
丹羽 :すると、それまで黙ってた智子が啓太の服を軽く引っ張った。
智子 :……その先に、まだ大きな洞窟がある。目を閉じると……見えるの……
丹羽 :そう呟くと、智子は静かに前へ進み出て奥の空間にすっと手を伸ばした。智子の指先が突
    き当りの岩壁に触れた瞬間、黒い埃の様なものがもわっと吹き出して辺りを包み込んだ。一
    瞬、それに視界を奪われた郁ちゃん達の耳に智子の短い悲鳴が聞こえる。
智子 :きゃあ!
伊藤 :智子ちゃん!
西園寺:咄嗟に声のする方へ投光器を向ける。
七条 :僕もです。
丹羽 :光に照らされると、闇はすぐさま霧散した。そして、その向こうから行方不明になってた坂
    井が現れた。坂井は火垂祭で最後に見たときと同じ着物姿だったが、瞳は暗く濁って殆ど
    意識はねえ。そんな坂井に怯えて智子が少し後ずさった。すると、不意に坂井の身体が揺
    らいで智子の方へ倒れ掛かってきた。
伊藤 :智子ちゃん、と叫んで咄嗟に腕を引っ張ります。
遠藤 :俺は即座に啓太と智子を自分の身体で庇います。
中嶋 :横から腕を伸ばして坂井を受け止める。
丹羽 :(中嶋のSTR(力)なら対抗ロールを振らせたいが……まあ、良いか。失敗しても坂井が傷
    つくだけだしな)
    中嶋が受け止めると、急に坂井の瞳に光が戻った。骨ばった指が中嶋の腕を強く掴む。
坂井 :……秀人、は……どこに……
丹羽 :それは酷く苦しげな声だった。中嶋は一先ず坂井を岩壁の傍に座らせた。すると、大きく
    着崩れた坂井の胸元に幅二十センチほどの帯状の青黒い痣が幾つも浮き出てるのが見え
    た。この痣には『応急手当』か『医学』×5を振れるぜ。
西園寺:臣ならば自動成功か。
七条 :では、僕は坂井さんを手当てしようと投光器を置いて傍に跪きます。
丹羽 :痣を調べた七条はこれは相当、強い力で締め上げられて出来たものだとわかった。それ
    に沿って肋骨の至る処が骨折してる。内臓もかなり傷ついてるだろう……致命傷だ。
伊藤 :そんな……
丹羽 :坂井は浅く早い呼吸を繰り返しながら、秀人を探す様に朧に視線を彷徨わせた。
七条 :KP(キーパー)、僕は坂井さんの手をそっと握ります。
丹羽 :それに気づいた坂井が七条を見て苦しそうに呟いた。
坂井 :早く、祭りを……っ……終わら、せ……ない、と……秀人……御緒鍵(おおかぎ)、を……
七条 :大丈夫です、坂井さん、僕達はそのためにここへ来ました。必ず祭りを終わらせます。
丹羽 :その言葉に坂井は微かに安堵の色彩(いろ)を浮かべた。そして、村人を守るために周囲
    を欺き続けてきた男は漸く重責から解放され……死んだ。


2015.8.28
女神の和希への殺意をひしひしと感じました。
まさか40%減とは……
きっと王様も後悔している……かもしれません。

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Café Grace
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