丹羽 :怯えた様な幼い声に全員の視線が智子へ向いた。智子は伸康を抱き締めて俯いてるので
    表情は良く見えないが、右目の包帯から不気味な黒い染みが滲み出てた。それは瞬く間に
    大きく膨れ上がったかと思うと、突然、包帯から弾け飛んだ。同時に数本の細い触手が溢
    れ、傍にいた郁ちゃんの首に巻きつこうとする。
西園寺:……っ……回避する。


西園寺:回避(56-10)→19 成功


丹羽 :郁ちゃんにかわされた触手はそのまま、智子の右目からするすると抜け出した。やがてそ
    れは空中で不気味な闇の塊となった。智子が本体に近づいたので、取り憑いてた暗黒の落
    とし子が力を増して新しい獲物を狙い始めた。最後の戦闘だ……が、その前に0/1D3で
    SAN(正気度)チェックだ。
西園寺:遠藤、失敗したらまた不定になるぞ。
遠藤 :わかっています。
丹羽 :……
    (それ、フラグだろう)


西園寺:SAN(77)→33 成功
七条 :SAN(72)→22 成功
中嶋 :SAN(47)→10 成功
遠藤 :SAN(43)→97 ファンブル 1D3→3
    :SAN(43)→40 不定の狂気


遠藤 :失敗……しかも、ファンブル。
丹羽 :見事にフラグ回収したな。それじゃあ、郁ちゃん、七条、中嶋の三人は落とし子に驚きはし
    たものの、つい先刻も見たばかりなので冷静さを保つことが出来た。だが、遠藤は啓太の死
    という考えが頭に浮かび、再び激しい恐怖に囚われてしまった。
遠藤 :錯乱した俺は周囲の状況も忘れて啓太をきつく抱き締めます。駄目だ、啓太……っ……逝
    くな……頼むから……逝かないで、くれ……啓太……
七条 :遠藤さん、気をしっかり持って下さい!
丹羽 :おい、来るぞ!
西園寺:くっ……!
丹羽 :先刻のと同じ奴か! また逃げるか、中嶋?
中嶋 :いや、扉を封印した今、こいつにはもう還る場所がない。ここで倒さなければ、再び誰かに
    取り憑く。
丹羽 :マジかよ……なら、そいつは任せた。事情を知らねえ俺が下手に手を出すのは危険だか
    らな。俺は子供と怪我人を保護する。その代わり、後でしっかり説明して貰うからな。
中嶋 :ああ。
丹羽 :よし! 戦闘に入る。行動はDEX(敏捷)順に中嶋、落とし子、郁ちゃん、七条だ。発狂中
    の遠藤と俺は戦闘には参加しねえ。この落とし子には光の他に通常の攻撃でもダメージを
    与えられる。だが、投光器を取るには1R(ラウンド)掛かるからな。
中嶋 :『マーシャルアーツ』+『キック』で落とし子に攻撃する。


中嶋 :マーシャルアーツ(75)+キック(69)→72 失敗


中嶋 :ちっ……
丹羽 :中嶋は息を詰めて強烈なキックを放った。だが、岩だらけの不安定な足場に軸足がぶれて
    巧くダメージを与えられなかった。落とし子の攻撃だ。対象は……遠藤だ。
    (貰った!)
遠藤 :これは……!
七条 :やはり女神の遠藤君に対する殺意が高いですね。


落とし子:触手(??)→89 失敗


丹羽 :くう~、ここで俺のダイス運が……!
遠藤 :……助かった。
丹羽 :触手は遠藤を狙って攻撃したが、何かに気を取られて大きく逸れて壁を抉ってしまった。次
    は郁ちゃんだ。
西園寺:(光を嫌ったのか? だが、秀人を抱えた状態で投光器を取るのは難しい)
    KP(キーパー)、ひしゃげた御緒鍵(おおかぎ)で攻撃は可能か?
丹羽 :出来るぜ。封印には使えねえが、力は残ってるからな。但し、拾うのに1R(ラウンド)だ。
西園寺:ならば、私はひしゃげた御緒鍵(おおかぎ)を拾う。
丹羽 :それを見た丹羽が七条に尋ねた。おい、あんな物が役に立つのか?
七条 :(これは何か情報を貰えそうですね)
    はい、あれには闇を封じる力が籠められています。
丹羽 :なら、そこらにあるのも使えるんじゃねえか? そう言って丹羽は周囲に転がってる古い御
    緒鍵(おおかぎ)を顎で指した。使えそうな物を見つけるなら『目星』だ。
七条 :足を怪我した僕が殴るより武器を見つけた方が良さそうですね。『目星』をします。


七条 :目星(50-20)→18 成功


丹羽 :丹羽の言葉に辺りを見回した七条は壁際に立て掛けられた御緒鍵(おおかぎ)の中から比
    較的、新しそうな物を見つけて拾い上げた。中嶋の番だ。
中嶋 :『マーシャルアーツ』+『キック』だ。


中嶋 :マーシャルアーツ(75)+キック(69)→67 成功


丹羽 :落とし子は避けねえ。ダメージ判定してくれ。
    (やられたか!?)
中嶋 :これで仕留める……!


2D6+1D4→10
落とし子:HP(??)→??


丹羽 :(お~、1耐えたぜ!)
    中嶋の強烈な蹴りが炸裂して落とし子の輪郭が不安定に揺れ始めた。形を維持するのが
    難しくなった落とし子は逃げ場を求めて再び誰かに取り憑こうとした。


落とし子:取り憑く(??)→46 成功


丹羽 :対象は……智子だ。落とし子は不意に細い蛇の様な形になると、しゅるしゅると智子の首
    に巻きついた。
智子 :きゃあ!
伸康 :お姉ちゃん!
丹羽 :智子は落とし子を取ろうと慌てて首に手を伸ばした。だが、その前に落とし子は半物質化
    して人の瞳にはもう見えなくなってしまった。智子は首筋に何かが巻きつく感覚があるもの
    の、特に痛みも息苦しさもないらしく、不思議そうに首を傾げた。
智子 :あ、あれ……?
伸康 :大丈夫、お姉ちゃん? 苦しくない……?
智子 :うん……でも、何か変な感じ。首筋が凄くひんやりするの。
丹羽 :そう言って智子は首筋を温めようと掌で擦り始めた。この落とし子は智子と同化し掛けて
    いるから、もう通常攻撃は効かねえ。引き剥がすには何らかの魔術的手段か光だ。
西園寺:ひしゃげた御緒鍵(おおかぎ)は魔術的手段に入るのか?
丹羽 :ああ……だが、智子に押し当てるには『こぶし』で判定する。郁ちゃんは秀人を抱えてるか
    ら洞窟に入ったことによるマイナス補正と合わせて20%減だ。
西園寺:構わない。智子にひしゃげた御緒鍵(おおかぎ)を押し当てる。


西園寺:こぶし(55-20)→85 失敗


丹羽 :郁ちゃんはひしゃげた御緒鍵(おおかぎ)を持って智子にそっと近づいたが、秀人が動いて
    落ちそうになり、慌てて抱え直した。次は七条だ。
七条 :僕も御緒鍵(おおかぎ)使います。丹羽さん、また肩を貸して下さい。
丹羽 :わかった、と丹羽は頷いて七条の左手を自分の肩に回した。七条、ロールしてくれ。


七条 :こぶし(50-20)→92 失敗


七条 :はあ、掠りもしませんでした。
丹羽 :七条が御緒鍵(おおかぎ)を押し当てようとしたとき、偶然、伸康が間に割って入って智子
    にしがみついた。伸康は心配そうに智子を見上げた。
伸康 :お姉ちゃん、本当に大丈夫?
智子 :わから、ない……ただ、先刻より冷気が沁み込んでる気がする……
丹羽 :そう言って智子は小さく身体を震わせた。また中嶋の番だ。
中嶋 :(時間制限がありそうだな)
    投光器を拾う。
丹羽 :中嶋は足元の投光器を再び両手に持った。落とし子は何もしねえから郁ちゃんの行動だ。
西園寺:再度、ひしゃげた御緒鍵(おおかぎ)を使う。この子から離れろ!


西園寺:こぶし(55-20)→25 成功


丹羽 :郁ちゃんが智子にひしゃげた御緒鍵(おおかぎ)を押し当てた瞬間、再び落とし子が実体
    化した。逃げる様に智子から離れるが、酷く不安定で形を保つ力はもうなさそうだ。宙でゆ
    らゆらしてるぜ。
七条 :一気に畳み掛けましょう。御緒鍵(おおかぎ)で攻撃します。


七条 :こぶし(50-20)→48 失敗


丹羽 :七条の御緒鍵(おおかぎ)は落とし子を捉えられなかった。
中嶋 :なら、投光器を使う。またDEX(敏捷)対抗か?
丹羽 :いや、これは攻撃だから『こぶし』で判定する。
中嶋 :消えろ……!


中嶋 :こぶし(50)→45 成功


丹羽 :(残りHPは1だし、ダメージ判定は省略だな)
    中嶋は落とし子をしっかり見据えて投光器を向けた。強い光に照らされた暗黒の落とし子は
    人には聞こえねえ悲鳴を上げて激しく揺らいだ。輪郭が零れる様にゆっくりと崩壊してく。や
    がて総ての力を失った落とし子は霧散して消えた。戦闘終了だ。
西園寺:はあ、と私は大きく息を吐く。今度こそ、本当に終わったな。
丹羽 :なら、早く外に出ようぜ。何かここは嫌な感じがする。長居しねえ方が良い。
中嶋 :ああ、治療が必要な奴もいるからな。
七条 :遠藤さん、伊藤君を早く病院へ連れて行きましょう。そのままでは危険です。
丹羽 :だが、その言葉は恐怖と絶望に陥ってる遠藤には届かなかった。啓太を抱き締めてうわ言
    の様に名前を呼んでる。
遠藤 :啓太……啓太……っ……啓太……
丹羽 :……仕方ねえ。そう言って丹羽は拳を握り締めた。


「えっ!? 待って下さい、王様!」
 その言葉に慌てて和希が口を挟んだ。丹羽は楽しそうに肩を回した。
「遠藤、これはRP(ロール・プレイ)だ。最後に一発、俺にも殴らせろ」
「そのRP(ロール・プレイ)は必要な――……」
 しかし、最後までそれを言うことは出来なかった。ダイスの無情な音が響き渡る。

丹羽 :マーシャル・アーツ(81)+こぶし(85)→24 成功 2D3→6
遠藤 :HP(15)→9
    :APP(13)→12


「よし! 最大値! ダメージ・ボーナスは勘弁してやる」
「その代わりに何ですか、そのAPP(容姿)のマイナスは!?」
 満足げな丹羽に、すかさず和希が指摘した。丹羽は小さく肩を竦めた。
「先刻から何度、殴られたと思うんだ、遠藤?」
「これで二度目です」
「なら、多少は腫れてるはずだろう。まあ、数日で自動回復して良いぜ」
「ふっ、丹羽の拳を食らってその程度で済めばまだましだろう」
 中嶋が何かを思い出した様に口の端を上げた。途端に西園寺と七条が顔を顰めたのに気づいて丹羽は素早くシナリオを再開した。

丹羽 :丹羽は七条を壁に寄り掛からせて遠藤に歩み寄ると、容赦なく頬を殴り飛ばした。しっかり
    しろっ……!
遠藤 :くっ……っ……!
丹羽 :直ぐにここから出るぞ。
遠藤 :……わか、り……ました。有難う、ございます。頬の痛みを堪えて俺は礼を言い、啓太を抱
    き上げます。
西園寺:遠藤、帰ったら医者に診て貰え。自分でも気づいているだろうが、こと啓太に関して、先刻
    からお前は酷く不安定になる。
遠藤 :……はい。
丹羽 :郁ちゃん達は急いで洞窟の入口へ向かった。外へ出ると、煌々とした陽の光に眩しそうに
    目を細める。帰って来た……誰もが心からそう思い、安堵した。智子は顔に纏わりつくボロ
    ボロの包帯を煩わしそうに払い、鈍く疼く右目を掌で押さえた。
伸康 :お姉、ちゃん……
智子 :大、丈夫……だから……
伸康 :うん……
丹羽 :智子はあまり伸康を心配させまいと右目からそっと手を離した。おずおずと瞼を開けて軽く
    瞬きをすると、透明な涙が頬を伝う。
智子 :あれ……?
丹羽 :智子は驚いた様子で自分の掌を見つめた。
中嶋 :どうした?
智子 :見える……今まで何も見えなかった右目に光が……光が、見える。どうして……?
中嶋 :右目に憑いていたものが消えたからだろう。先刻、倒したあれだ。
智子 :なら、私はもう祟られてないの?
中嶋 :ああ、お前の火垂祭はこれで完全に終わった。
智子 :……っ……!
丹羽 :その言葉に、智子は小さく息を呑んだ。だが、まだ実感が湧かねえのか、戸惑った様に郁
    ちゃん達を見回した。すると、伸康が不思議そうに呟いた。
伸康 :お姉ちゃん……もしかして、トモちゃん?
智子 :……!
丹羽 :智子の動きがピタッと止まった。静かに膝をついて目線を合わせると、伸康は智子の顔を
    穴の開くほどじっと凝視した。
伸康 :……やっぱりそうだ。トモちゃんだ!
丹羽 :伸康は嬉しそうに笑った。智子の姿形は大きく変わってしまったが、光を湛えた瞳の色彩
    (いろ)だけは伸康の知ってる幼い頃と同じだった。智子は嬉しい様な泣きたい様な表情で
    何度も小さく頷いた。
智子 :そうよ。私よ……おかえりなさい、ノブ君。
丹羽 :そうして智子はまた伸康を強く抱き締めた。その瞬間、心にずっと背負い続けてきた重荷
    から漸く智子は解放された。全員、生還だ。おめでとう。


 丹羽は祝福する様にパチパチと手を叩いた。西園寺が短く息を吐いた。
「ふう……辛うじて及第点と言ったところか」
 ええ、と七条は頷いた。
「僕達が生還出来たのはKP(キーパー)の温情によるところが大きかったですね」
「扉の向こうは旧支配者の領域にも関わらず、結局、攻撃らしい攻撃は一度もなかったからな」
「……確かにそうですが」
 和希は渋い顔で丹羽を見やった。
「KP(キーパー)の殺意はかなり高かったですよ」
「それは俺ではなくダイスの女神の方だろう。完全に遠藤を殺しに掛かってたからな」
 うっ……と和希は言葉に詰まった。すると、それまで沈黙していた啓太がポツリと呟いた。
「俺、最後の方は気絶して殆ど何も出来なかった……」
 小さく肩を落とした啓太を見て丹羽は気まずそうに頭を掻いた。
「その点は俺も反省してる。まさかあんな展開になるとは思わなくてよ。だが、もう起こしてる時間がなかったんだ」
 その言葉に、中嶋が静かに腕を組んだ。
「シアエガが出る時点で難易度が高くなるのはわかっていたはずだ。見通しが甘かったな、丹羽」
「だから、メタ推理はかなり大目にみてただろう。俺が拒否したのは啓太が智子の右目を見ようとしたときの遠藤の反応と、山にロープを持って行くことだけだ。智子の右目を見ねえとPC(プレイヤー・キャラクター)が落とし子の存在に気づくのが遅くなるし、山にロープを持ち込まれると俺の出番がなくなる」
「ロープ不可はそんな理由だったんですか」
 あまりの理由に和希が驚きの声を発した。西園寺が呆れた様に首を横に振る……が、そんな二人の反応を丹羽は全く気にしなかった。
「粗探しをしたら切りがねえから、もう良いだろう。今回、俺は誰か一人は不定で病院送りにするつもりだった。その目標は達成し、更には架空の世界の中とはいえ、遠藤を思い切り殴ることも出来た。俺は充分、満足したぜ」
 小さく胸を張る丹羽に啓太は曖昧に微笑み掛けた。
「良かったですね、王様」
 おう、と丹羽は親指を立てた。
「残るはシナリオの補足だが、取り零した情報は主に二つだ。一つは火垂祭の真相は代々口伝でのみ継承するってことだ。宴会の様な夕食のとき、誰かから坂井がいつから祭祀をしてるかを聞いて当時の日記を読めばそのことが書いてあった。あとは洞窟の中は時間の流れが違うってことだな。火垂祭の直後に致命傷を負ってる坂井が郁ちゃん達が到着するまで生きてたのはそのためだ。だが、これはメタな考えで普通のPC(プレイヤー・キャラクター)は坂井が負傷したのは自分達が到着する直前と思うはずだ。だから、中嶋と七条にロールさせて救済しようとしたが、ことごとく失敗した。まあ、詳細を知りたければ、公開されてるシナリオを読んでくれ。多少、改変してるが、筋は同じだ。それじゃあ、ラスト……PC(プレイヤー・キャラクター)達のその後をさくっとやるぜ」
 丹羽は最後の描写をするために残り僅かのコーヒーで喉を湿らせた。

丹羽 :火垂祭から数週間後……重傷を負った啓太は入院中だ。たまに熱を出すときがあるが、
    回復は順調だ。ただ、肩に傷跡くらいは残るだろうがな。
遠藤 :なっ……王様、啓太の身体に傷を作らないで下さい。
丹羽 :銃創だから仕方ねえだろう。
伊藤 :和希、俺、傷跡くらい平気だよ。
中嶋 :丹羽、俺のものに勝手なことをするな。
七条 :伊藤君は貴方のものではありません。そんなことを言われたら迷惑ですよね、伊藤君?
伊藤 :えっ!? あ、あの……
西園寺:KP(キーパー)、不毛な争いは無視して早く先に進めろ。
丹羽 :……だな。不定に陥った遠藤は火垂祭の真相を上司に報告した後、啓太と同じ病院で精
    神的な治療を受けてる。職場復帰にはもう少し時間が掛かりそうだ。足を骨折した七条は
    自宅で新作『其は何を映す瞳』を執筆中だ。秀人を心配して村まで駆けつけた坂井に事情
    を説明したら、後日、自分の雑誌でその体験を元にした小説を書いて欲しいと頼まれた。実
    在の人間が多く関わるだけに最初は断ったが、坂井に父の守り通したものを少しでも世に
    出したいと懇願された。それはきっと死ぬまで秘密を抱き続けた父への弔いになる、と。そ
    の言葉に、七条は人物が特定されない程度に脚色することを条件に了承した。中嶋と郁
    ちゃんは新たな祭祀となった智子に火垂祭の行い方を伝授するためにまだ相賀村にいる。
    三人掛かりで坂井の膨大な日記を読み返し、儀式に関することを纏めてるぜ。
七条 :智子さんが祭祀になることに村人は誰も反対しなかったんですか?
丹羽 :ああ、山神の祟りを退けて死んだはずの伸康を連れ戻した智子は今やちょっとしたカリス
    マだからな。
七条 :随分と現金ですね。
西園寺:人とはそういうものだ。
丹羽 :村人が智子を恐れたのは仕方ねえだろう。右目に神話生物が憑いてたんだからな。本能
    的に感じる恐怖はどうにもならねえ。あと残ってるのは誰だ……あ~、十二年振りに親元へ
    戻った伸康は最初こそ周囲の変化に戸惑ったものの、直ぐに順応して元気に暮らしてる。
    相変わらず、智子とは仲が良いぜ。これから一生、祭祀を務める智子の支えになろうと子供
    ながらに頑張ってる。智子も伸康を結構、頼りにしてるしな。ヨシはそんな二人の微笑ましい
    淡い恋を静かに見守ってる。三年後、封印の力が弱まり、再び火垂祭が行われるそのとき
    まで……


「以上でシナリオ『其は何を映す瞳』は終了だ。二日に渡るセッションだったが、楽しかったぜ。サンキュー」
 一気に話し終えた丹羽はニカッと笑った。啓太は小さく胸を撫で下ろした。
「色々あったけど、智子ちゃんが幸せになれそうな最後で良かったです。伸康君とは一回り年が離れてしまったけど、智子ちゃんならきっと待ってそうだし」
「俺もそう思うよ、啓太」
 和希は大人びた瞳で啓太を見つめた。すると、中嶋が言った。
「だが、これは一歩、間違えれば犯罪だ」
「これは純情ですよ、中嶋さん。そうだろう、啓太?」
「えっ!? あっ、うん」
 話を振られた啓太は曖昧に頷いた。心なし、和希がほっとした表情を浮かべる。中嶋の口唇が僅かに歪んだ。
「逆に考えろ、啓太。十七歳の男と五・六歳の少女でもお前は同じことが言えるか?」
「それは……」
 一瞬、想像して啓太は言葉を濁した。
(確かに……ちょっと危ない感じがするかも。でも、智子ちゃんと伸康くんなら……う~ん……)
 啓太が真剣に悩み始めたのを見た和希が焦った様に言った。
「啓太、これは精神的恋愛(プラトニック・ラヴ)だから。薄幸の少女と運命に翻弄された少年の、時間を超えた強く美しい絆の物語なんだ。そこに妙な邪推を持ち込むのは良くないよ」
「切っ掛けはそうだが、成長を見守る内に別の欲望が芽生えてくるのは止められない」
「別の欲望って何ですか?」
 コクンと啓太は首を傾げた。しかし、中嶋が声を発する前に和希は素早く啓太の耳を塞いだ。
「中嶋さん、啓太に余計なことを吹き込まないで下さい」
「こいつはもう子供ではないぞ、遠藤」
「勿論です。でも、それとこれは話が別です」
 その光景を眺めながら、七条が面白そうに呟いた。
「必死ですね、遠藤君」
 西園寺は呆れた眼差しを和希に向けた。
「……嘆かわしい。あれで啓太に聞こえないと遠藤は本気で思っているのか?」
「まさか……気分の問題ですよ、郁」
「私には全く理解出来ない」
「郁ちゃん、そろそろ移動しようぜ」
 二人の会話に丹羽が口を挟んだ。七条が腕時計に目を落とす。
「ああ、もうそんな時間でしたか。伊藤君、美味しいブラウニーを用意してあるので、一緒に会計室へ行きましょう」
「わあ、有難うございます」
 ブラウニーと聞いて啓太の顔がパッと明るくなった。丹羽が自慢げに口の端を上げた。
「今回は俺と中嶋が用意した。中嶋から店の場所を聞いて俺が買って来たんだが、きっと美味いと思うぜ。中嶋の奴、甘いものは殆ど食わねえのに意外と詳しいからな」
「そうなんですか?」
「偶然、口にする機会があって印象に残っていただけだ」
「有難うございます、王様、中嶋さん」
 啓太はペコリと頭を下げた。そして、チラッと和希を見やった。
「今回は石塚さんに頼まなかったんだな」
「ああ、二人から話を聞いていたからね。これからはセッション後のお茶菓子はKP(キーパー)が用意することにしたんだ。場所は主に会計室になるかな」
「どうして?」
 その質問には西園寺がきっぱりと答えた。
「こんな雑然とした部屋で美味しい紅茶が飲めると思うか、啓太……行くぞ」
 そうして西園寺は立ち上がった。七条もそれに続く。丹羽は、今まで飲んでたのによ、という言葉を呑み込んで代わりに軽く肩を竦めた。
「それじゃあ、今度は皆で会計室へ行くか」
 ああ、と中嶋は頷いた。啓太が嬉しそうに言った。
「王様達が用意したブラウニー、俺、凄く楽しみです」

 数時間後、無人の生徒会室に静かな振動音が響き渡った。発生源は啓太の忘れた携帯電話……メールらしく、音は直ぐに消えて室内は再び静寂に包まれた。翌日、携帯電話を取りに来た啓太はそれを読んで不思議そうに首を傾げた。そこにはこう書いてあった。

次のセッションまでに沼男(スワンプ・マン)について調べておけば役に立つだろう。


2016.1.8
漸く完結しました。
啓太の肩に傷跡が残ってしまいましたが、
無事に生還出来て良かったです。

r  m

Café Grace
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