Ⅰ


「これから私のKP(キーパー)によるセッションを始める。今回は新しいPC(プレイヤー・キャラクター)を作成して貰った。前回と同じPC(プレイヤー・キャラクター)を使用した所謂、キャンペーンではないので、技能値の成長は次にそれを使用するときに行う。まずは自己紹介からだ」
 そう言って西園寺は全員を見回した。
 放課後の生徒会室にはいつもと同じ面々が揃っていた。机の正面に当たるKP(キーパー)席には西園寺、そこから時計周りに丹羽と中嶋、啓太と和希、七条が三面を囲んで座っている。それぞれの前には飲み物と前回から使用しているタブレット型パソコンが置いてあった。西園寺はKP(キーパー)用のノート・パソコンのキーを叩いて全員にデータを送付した。
「作成前に告げたが、シナリオの舞台は現代日本だ。能力値の振り直しと入れ替えはなし。必須技能は『回避』、推奨技能は交渉系だ。違法行為に手を染めている者がいると探索が捗る。また、過去二回のセッションで得た『クトゥルフ神話』技能を引き継ぐ。以上を確認しつつ……お前から始めろ、丹羽」
 西園寺に促され、丹羽は大きなため息を一つ零した。

探索者名 丹羽哲也(32)

母国語:日本語 職業:ドライバー HP(耐久力):12 MP(マジック・ポイント):10
STR(力):10 CON(体力):10 POW(精神力):10 DEX(敏捷):12 APP(容姿):12
SIZ(体格):14 INT(知力):13 EDU(教育):12 SAN(正気度)50 アイデア:65
幸運:50 知識:60

技能

回避:80% こぶし:60% 聞き耳:70% 目星:70% 運転:80% 機械修理:35%
ナビゲート:70% 信用:35% 値切り:30% 心理学:39%


「はあ……またSTR(力)10だぜ。今度こそ脳筋にしたかったのによ……ってことで、今回はドライバーにした。車の運転が三度の飯より好きで、高校を卒業すると、直ぐ免許を取ってタクシー会社に就職した。人好きのする性格で客の愚痴を聞くことも多いから『心理学』が少し身に着いてる」
「相変わらずのSAN値だな」
 西園寺の言葉に丹羽が不満そうに唸った。
「郁ちゃんが入れ替えも不可にするからだろう。せめて一度くらいは認めても良いのによ」
「男ならば潔く決めろ」
 きっぱりと西園寺は言い切った。啓太が尋ねる。
「王様、どうして探偵とか警官にしなかったんですか? そういうの好きそうなのに」
「ああ、今回は確実に犯罪者がいるだろう。展開によっては情報共有が面倒になるからやめた。それに、そんな奴は常に警戒してるから導入が作り難い。だが、タクシー運転手なら客として乗せれば簡単に巻き込むことが出来る。KP(キーパー)の負担軽減にもなって一石二鳥と思ったんだ」
「へえ~、色々考えてるんですね」
 そこまで思い至らなかった啓太は素直に感心した。ふっ、と西園寺が小さく口の端を上げた。
「お前にしては殊勝な心掛けだ。では、好きに使わせて貰おう」
「おう、任せろ!」
 ドンッと丹羽は胸を叩いた。西園寺が軽く中嶋の方を向いた。
「次はお前だ」
 ああ、と中嶋は静かに頷いた。

探索者名 中嶋英明(22)

母国語:日本語 職業:狂信者 HP(耐久力):14 MP(マジック・ポイント):10
STR(力):9 CON(体力):14 POW(精神力):10 DEX(敏捷):8 APP(容姿):11
SIZ(体格):14 INT(知力):14 EDU(教育):7 SAN(正気度)50 アイデア:70
幸運:50 知識:35

技能

回避:60% 隠す:80% 図書館:70% 目星:70% 薬学:82% クトゥルフ神話:8%


「お~、きたか、狂信者」
 データを見るや否や、丹羽から歓声が上がった。中嶋が設定を説明する。
「俺はアザトースを信奉する狂信者だ」
「アザトースって何ですか、中嶋さん?」
 初めて聞く名前に啓太は首を傾げた。
「アザトースは万物の王である盲目にして白痴の神だ。今までのセッションに出て来た旧支配者とは違い、外なる神と呼ばれている。宇宙の中心に座する原初の混沌でこの世は総てアザトースの見ている夢に過ぎず、その姿を見た者は存在の根底を破壊されると言われている。だから、俺は幼い頃から学校には殆ど行かずに独学で死よりも深い眠りに至る方法を探している。INT(知力)は高いが、EDU(教育)が低いのはそのためだ。他人には関心がなく、籠りがちな生活のため交渉技能は取っていない」
「子供のときから狂信者ってことか。親の顔が見てみたいぜ、全く」
 ポツリと丹羽が呟いた。すると、中嶋の口唇が僅かに歪んだ。
「両親は既に死んでいる。俺が作った睡眠薬を最初に試したからな」
「こ、怖いです、中嶋さん」
 啓太は微かに身を震わせた。良かった。俺は普通の探索者で……

探索者名 伊藤啓太(26)

母国語:日本語 職業:宗教家 HP(耐久力):10 MP(マジック・ポイント):13
STR(力):16 CON(体力):8 POW(精神力):13 DEX(敏捷):15 APP(容姿):12
SIZ(体格):12 INT(知力):12 EDU(教育):9 SAN(正気度)65 アイデア:60
幸運:65 知識:45 ダメージ・ボーナス:1D4

技能

回避:70% 聞き耳:60% 目星:60% 信用:80% 説得:30% 心理学:75%
その他言語(英語):41% クトルゥル神話:3%


「俺は宗教家にしました。一応、神父をイメージしてます」
「随分と『信用』が高いな」
 西園寺の指摘に啓太は恥ずかしそうに答えた。
「交渉技能は俺にはRP(ロール・プレイ)が難しそうで……でも、『信用』が高ければ、また色々補正が付くかなと思って」
「成程……これまでの経験か」
(信用補正に頼り過ぎるのもどうかと思うが、それは徐々に慣れるしかないか)
 西園寺は手で先を促した。啓太は小さく頷いた。
「俺はスポーツ選手を目指してましたが、事故に遭って断念しました。そのとき、失意の俺を励ましてくれた人が神父で同じ道に進むことにしました」
 すると、突然、中嶋が横から口を挟んだ。
「それではつまらん。実はその事故はお前の才能に嫉妬した者が仕組んだものだった。それを知ったお前は人に絶望し、総てを無に帰すアザトースを密かに崇拝する様になった。そして、今は教会を隠れ蓑にして俺に実験体を提供している」
「何でいきなりそんな話になるんですか!?」
「面白いじゃねえか、それ。啓太の悪人面なんて絶対、見れねえからな。採用しようぜ」
 即座に丹羽が賛成した。ふふっ、と七条が笑った。
「設定は生えるものですよ、伊藤君」
 そんな~、と啓太は情けない声を発した。そのとき、それまで黙っていた和希がすっと右手を上げた。一瞬、啓太の瞳が期待に輝いた。和希ならこの状況を何とかしてくれるかもしれない、と。しかし――……
「俺もそれに乗りたいです、俺は正真正銘の犯罪者なので」
 和希は居た堪れなそうに頬を掻いた。

探索者名 遠藤和希(25)

母国語:日本語 職業:犯罪者 HP(耐久力):14 MP(マジック・ポイント):5
STR(力):10 CON(体力):13 POW(精神力):5 DEX(敏捷):11 APP(容姿):9
SIZ(体格):15 INT(知力):13 EDU(教育):11 SAN(正気度)25 アイデア:65
幸運:25 知識:55 ダメージ・ボーナス:1D4

技能

回避:77% こぶし:70% 拳銃:40% 隠れる:50% 聞き耳:70% 忍び歩き:75% 
目星:75% 言いくるめ:35% 芸術(園芸):30% クトゥルフ神話:13%


「これは……」
 データを見るや否や、西園寺は言葉を失った。丹羽も僅かに眉をひそめた。
「酷いな……SAN値25かよ」
「POW(精神力)がほぼ最低値なので、もう犯罪に走ることにしました。快楽殺人者にするつもりでしたが、啓太に合わせて少し設定を変えます。そうですね……俺は自分の中に潜む残忍な殺人衝動に苦しみ、啓太の教会へ救いを求めに行きました。いつか犯してしまうだろう罪に怯える俺に、しかし、啓太はこう説きます。それは偉大(おおい)なる神に逆らう薄汚い愚か者どもと戦うために授けられた力だと。罪を恐れず、両手を血に塗れさすことを厭わない心強き者のみが真に神の聖なる騎士となり得るだろう。その言葉に俺は漸く自分の居場所を見つけ、そこへ導いてくれた啓太に忠誠を誓いました」
「俺にそんなカリスマ性みたいなのはないよ、和希」
 即座に啓太が否定した。しかし――……
「いや、『信用』が80%もある神父に言われたら、それは充分な説得力がある」
 中嶋の追い打ちに啓太は顔を顰めた。和希は説明を続けた。
「今、俺は啓太の教会で住み込みの下働きをしながら、中嶋さんと連絡を取ったり、教会や啓太を訝しんで探ろうとする者を始末しています。それから、庭弄りが趣味なので教会の庭にある薔薇の手入れもしています」
「それなら庭師にすれば良かったじゃないか、和希」
「あ~、でも、俺はSAN値が低いからな」
 なぜか和希は言葉を濁した。コクンと啓太は首を傾げた。すると、中嶋が低く喉を鳴らした。
「啓太、これがただの趣味と思うか? 薔薇を綺麗に咲かすには大量の肥料が要る。遠藤が最も入手し易いものは何だ?」
「う~ん、腐葉土とかですか?」
 自宅の庭を思い浮かべながら、啓太は答えた。七条が小さなガレット・クッキーを盛った菓子皿を啓太の前にそっと置いた。
「昔からよく言うでしょう、伊藤君……桜の木の下には死体が埋まっている、と」
「……!」
「なら、綺麗な薔薇の下には何があるんでしょうね」
 そう言って七条は柔らかく微笑むと、他の者にも菓子皿を渡した。漸く啓太は和希が何を肥料にしているのか思い至った。力なく肩を落とす。
「……何か俺、神父と言うよりマフィアのボスみたい」
「たまには自分の枠からはみ出たPC(プレイヤー・キャラクター)も面白いよ、啓太」
 和希が優しく慰めた。しかし、啓太は微かに首を振った。
「だけど……俺、こういう役はやったことないから……」
「巧く演じようと気負う必要はないよ。美味しいお菓子を食べながら、辛い過去を背負って人に絶望したもう一人の自分を楽しめば良い。これはゲームなんだから。啓太は元演劇部だから演技をするのは好きだろう?」
 うん……と啓太は頷いた。本当は皆と一つのものを作り上げる過程が楽しそうで演劇部に入ったが、その後、演技自体も嫌いではないと気づいた。
「わかった。俺なりにこの神父を演じてみるよ、和希」
「あっ、一つ補足させてくれ」
 突然、丹羽が口を挟んだ。全員の視線が集まる。
「前回のセッションで遠藤に『クトゥルフ神話』を8%やったが、初発狂の5%分が抜けてた。だから、正確には『クトゥルフ神話』は13%になる。データは既に修正してあるから安心してくれ、遠藤」
「安心しろと言われても、その分だけ最大SAN値が削られますから……素直に喜べません」
「僕からしたら羨ましい限りです」
 そう言って七条はタブレット型パソコンに視線を落とした。

探索者名 七条 臣(30)

母国語:日本語 職業:医者 HP(耐久力):14 MP(マジック・ポイント):9
STR(力):10 CON(体力):15 POW(精神力):9 DEX(敏捷):14 APP(容姿):12
SIZ(体格):12 INT(知力):14 EDU(教育):16 SAN(正気度)45 アイデア:70
幸運:45 知識:80

技能

回避:80% 聞き耳:65% 精神分析:81% 目星:70% 信用:30% 医学:80%
心理学:70% 生物学:61% 薬学:29% クトゥルフ神話:5%


「僕は闇医者にする予定でしたが、犯罪者が三人もいるので普通の精神科医にします。皆との接点は特になく、日々善良に働いて過ごしています」
「善良、ね」
 丹羽が小さく零した。普段から七条はそう言っているが、善良と感じたことは一度もなかった。だから、TRPGの中では本当にそう……なのかもしれない。
(いや、絶対にないな)
 自分でその考えを虚しく否定していると、西園寺の声が聞こえた。
「遠藤のSAN値を見た後では45でも高く感じるな」
「職業柄、心を病んだ人との接触が多いですから」
「ほう?」
 それを聞いた中嶋が小さく鼻で笑った。要らぬ横槍が入る前に西園寺は急いで全体を纏めた。この二人は、全く……油断をすると、直ぐこれか。
「丹羽と臣が一般人、中嶋、啓太、遠藤が犯罪者だな。私の予想以上にSAN値が低かったが、皆、覚悟は出来ているだろう。では、シナリオを始める」
 そうして西園寺は手元を隠してダイスを振った。

丹羽 :??(??)→??
中嶋 :??(??)→??
伊藤 :??(??)→??
遠藤 :??(??)→??
七条 :??(??)→??


「いきなり秘匿ロールかよ、郁ちゃん」
 丹羽が怪訝そうに呟いた。ブラフか……?
「大したことではない。気にするな」
 西園寺は優雅に紅茶で喉を湿らせた。そして、静かな声で話し始めた。
「その日、啓太が祭壇の前で朝の祈りを捧げていると、背後で教会の重厚な扉が低い音を立てて開いた。初冬の凛とした空気が静謐な場に流れ込み、やがて灰色のロング・コートを着たとても美しい女性が入って来る……」


2016.1.15
新しい探索者を作成しましたが、
既に不穏な空気が漂っています。
偶然か。それとも、単なる女神の気まぐれか……
シナリオは『ゆっくり×ぷよキャラで冒涜的なTRPG実況』よりお借りしました。

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Café Grace
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