西園寺:中嶋、啓太、遠藤の三人は屋敷を探索するために二階へと上がった。玄関ホールが吹き
    抜けになっているので、踊り場で左右に分かれている階段を三人はまず右へ進んだ。不便
    な造りのせいか、二階は殆ど使われてない様で一階よりも薄暗くて埃っぽい。だが、あの悪
    臭はここにも満ちていた。部屋の配置は一階と同じで、廊下に面して三つの扉がある。『目
    星』できちんと調べるならば、一つの部屋につき三十分ほど掛かる。但し、悪臭で集中力が
    欠けているので、技能値は10%減だ。
中嶋 :総て調べるとなると三時間か……長過ぎるな。
遠藤 :ここは使っている形跡がないので、ざっと見るだけにしませんか? ドアを開けて室内を確
    認する程度なら、そう時間は掛からないはずです。
中嶋 :ああ、後小路か沙耶の私室があったら調べる程度で良いだろう。いつ、丹羽達が二階に
    来るかわからない。まずは俺達の情報共有を優先する。
西園寺:では、三人は端から順番に各部屋を覗いて回った。どこも北欧の立派な家具が置いてあ
    り、それぞれに浴室が整備されているが、がらんとして使った形跡はなく、掃除も全くされて
    いなかった。一旦、踊り場へ戻って今度は左側の廊下へ移動するも、そこも同じでうず高く
    埃が積もっているだけだった……最後の一部屋を除いて。
中嶋 :ほう? その部屋に入って『目星』を振る。
遠藤 :便乗します。
伊藤 :俺もお願いします。


中嶋 :目星(70-10)→30 成功
遠藤 :目星(75-10)→11 成功
伊藤 :目星(60-10)→88 失敗


西園寺:その部屋のドアを開けた瞬間、偶然、風が吹き込んで室内に埃が舞った。それに咳込ん
    だ啓太は部屋を見るどころではなかったが、素早く口元を覆った中嶋と遠藤は床の上に三
    種類の足跡を見つけた。大きさから一つは女性、もう一つは男性、残る一つは子供と思わ
    れる。男女の足跡は室内で争う様に乱れた後、出て行っていた。子供のものは部屋に入っ
    たものの、ドアの正面にある窓の傍でぷっつりと消えている。
中嶋 :足跡の大きさから子供の年齢は推測可能か?
西園寺:はっきりとはわからないが、十歳前後のものに見える。
伊藤 :それくらいならまだ抱っこ出来るかな。後小路さん達、子供の前で喧嘩でもしたのかも。
西園寺:再度、足跡に『目星』を振ってみろ。
伊藤 :あっ、はい。


中嶋 :目星(70-10)→11 成功
遠藤 :目星(75-10)→79 失敗
伊藤 :目星(60-10)→52 失敗


西園寺:もう一度、お前達は足跡をしっかり観察した。しかし、啓太と遠藤は埃が目に入ってわか
    らなかった。中嶋は男女の足跡には薄っすらと埃が積もっているのに、子供の方は殆どな
    いことに気づいた。


 ほう、と中嶋は呟いた。
「やはり後小路と沙耶の子供ではないな」
「どうしてわかるんですか?」
 コクンと啓太は首を傾げた。
「出て行く足跡がないからだ。三人が一緒に部屋に入ったのなら、どちらかが子供を抱えて出たとも考えられる。だが、実際は子供は男女よりかなり後に室内に入り、窓の傍で消えている。埃の上に足跡を残さずに出て行くには窓から飛び降りるしかないだろう。二人の子供なら態々そんなことはしない」
「そっか……二階から飛び降りたら怪我をするかもしれないですよね」
「……それに」
 和希が補足する。
「年齢的にも不自然だろう。二十代前半の沙耶が十歳前後の子供を持つには十三・四歳で産まなければならない。絶対にないとは言い切れないけれど、可能性はかなり低いと思う」
「なら、この子供は誰なんだ?」
「まだわからないけれど、確実にNPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)がもう一人いるな」

中嶋 :今はこれ以上、子供に関しては出ないだろう。俺達の情報を共有する。
遠藤 :そうですね。なら、俺はドアをしっかり閉めて啓太に尋ねます。神父様、後小路の要件は本
    当は何だったのですか?
伊藤 :(えっと、二人に話しておいた方が良いことは……)
    氏の目的は私を生贄にすることでした。
遠藤 :なっ……!
中嶋 :それはどういう意味だ?
伊藤 :これです、と言って俺は左手の甲を見せます。何らかの理由で猟犬につけ狙われることに
    なった氏は私を身代わりにするためにここへ呼び出しました。氏が去った後、あの異様な部
    屋で私は不浄な獣に襲われて漸くそのことに気がつきました。幸い、攻撃は外れましたが、
    沙耶さんの話が本当なら今後もあれは私を狙ってくるはずです。
遠藤 :神父様に何ということを……後小路の手元には買った人間がいるはずなのに。
伊藤 :恐らく動揺していたのでしょう。私しか思い浮かばなかったそうです。
遠藤 :……あるいは、もう総て死んでいるのかもしれません。この屋敷の状態を見る限り……
中嶋 :ほう? 奴も人を買っていたのか。殺しが趣味なのか?
遠藤 :趣味かはわかりませんが、以前、ブローカーから後小路という者が大勢の人間を買ってい
    る話を聞いたことがあります。幸哉と同一人物と考えてまず間違いないと思います。
中嶋 :神父、後小路はそれについて何か言ってなかったか?
伊藤 :(う~ん、買った人間をどうしたかなんて聞いてないよな)
    氏は殆ど正気を失っている感じでしたから特に何も……ただ、死を超える方法を探していた
    様です。そのためには数がいる、と。買った人間はそれに使っていたのかもしれません。
中嶋 :成程……もしかしたら、奴は妻を溺愛するあまりに死を恐れて沙耶を作り始めたのかもし
    れない。それなら沙耶が二人いる説明がつく。
    (恐らく本物の沙耶は既に死んでいる……車に轢かれて)
遠藤 :……確かに。
    (本物の沙耶は死んでいる可能性が高いが、啓太からそこまで引き出すのは無理か)
中嶋 :今後も後小路がその研究を続けるつもりなら、また人を買うかもしれない。遠藤、ブロー
    カーから何か聞き出せないか?
遠藤 :そう簡単に顧客情報を流すとは思えませんが……KP(キーパー)、人身売買の組織の者
    と連絡を取ることは出来ますか?
西園寺:可能だ。だが、相手は用心深いので遠藤の携帯からしか連絡は出来ない。屋敷へ持って
    来ていないので、一度、教会へ戻る必要がある。
遠藤 :なら、そのことを二人に話して今夜にでも連絡を取ることにします。
西園寺:では、ここで三人の場面を切り、お前達が分かれた頃まで時間を戻して丹羽と臣の描写
    に移る。一階を探索する二人はどちらから始めるつもりだ?
丹羽 :俺達は右の廊下にいるから、まずはそこからだな。残る二つのドアを開けて順番に中を見
    てくぜ。
七条 :後小路さんか沙耶さんの私室か書斎でないなら、探索時間を短縮するためにざっと見る
    感じにします。
西園寺:では、隣の部屋は単なる客間で特に変わったところはなかったが、一番奥のドアには鍵
    が掛かっていた。
丹羽 :今回は誰も『鍵開け』を持ってねえんだよな。体当たりで開けられるか?
西園寺:二人ならば自動成功だ。
丹羽 :なら、俺は振り返ってこう言う。七条先生、この部屋は鍵が掛かってるが、二人で体当たり
    すれば開けられそうだ。後小路さんの書斎かもしれねえから、やってみねえか?
七条 :他人の私室に無断で入るのは気が引けますが、今は仕方ないですね。わかりました。協
    力します。沙耶さんは下がっていて下さい。
後小路:……うん。
西園寺:二人が体当たりすると、ドアは簡単に開いた。しかし、その瞬間、吐き気を催すほど濃厚
    な悪臭が二人を襲った。それは廊下や他の部屋の比ではなく、思わず、お前達は後ずさっ
    た。
丹羽 :俺は小さく呻いて口元を押さえる。ぐっ……酷い、臭いだ……
七条 :これは、一体……っ……何の臭い、でしょうか……
後小路:……
西園寺:その部屋は家具も窓もなかった。ただ、中央に地下へ続く石造りの階段だけがある。
七条 :では、悪臭の元を確かめに行きます。丹羽さん、臭いはこの下から漂ってくる様です……
    下りてみませんか?
丹羽 :その言葉に俺は嫌な予感を堪えて頷くぜ。身の危険までは感じてねえからな。そう、だな
    ……神父様達は上だし……取り敢えず、俺達で先に確かめてみるか。
西園寺:二人は慎重に階段を下り始めた。しかし、一段ごとに臭いは強くなり、お前達の中に不安
    が澱の様に積もってゆく。やがて地下室へ通じる錆びついた鉄製の扉が見えて来た。
丹羽 :ドアの前で『聞き耳』をする。
七条 :僕もお願いします。
西園寺:『目星』と同じく10%減で振れ。


丹羽 :聞き耳(70-10)→63 失敗
七条 :聞き耳(65-10)→62 失敗


七条 :惜しかったですね。マイナス補正がなかったら成功でした。
西園寺:二人は扉の近くで耳を澄ませて中の様子を窺ったが、不透明でくぐもった音しか聞き取れ
    なかった。扉に鍵は掛かっていない……開けてみるか?
七条 :(ふふっ、郁がとても良い顔をしています。この中は期待出来そうです)
    はい、慎重に扉を開けます。
丹羽 :(郁ちゃんは結構、表情に出るよな。まあ、そこが可愛いとこなんだが……って言ったら怒
    るだろうな)
    俺も七条の隣から、そっと中を覗き込むぜ。
西園寺:室内は真っ暗で何も見えなかった。だが、粘性を帯びた何かが地面を這いずる音が聞こ
    えた。臣は右の壁に手を伸ばして明かりのスイッチを探した。それは直ぐに見つかった。パ
    チッと点ける。すると……床一面に大量の赤黒い肉片が散らばっていた。
七条 :なっ……!
丹羽 :うわっ……!
西園寺:その光景に臣と丹羽は咄嗟に死を連想した……が、間違っていた。最初に言った様に、
    この悪臭は死臭ではないからだ。天蓋を染め、床を覆い、壁を這うあまねく肉塊達はどれも
    脈動していた。不気味に収縮して破れた血管から体液を零しながらも、自らを生かすべく鼓
    動を続けている。それが一個ではなく、一群の生命体であると気づくのに二人はそう時間は
    掛からなかった。なぜならば、肉塊達はそれぞれ衣服らしき布きれを纏っていたからだ。
丹羽 :ば、化け物……
    (後小路はこれを作るために人間を買ってたのか!)
七条 :これ、は……人間、でしょうか?
西園寺:やがて明かりに反応して肉塊の一つが産声の様に音を震わせ始めた。声帯を形成する
    ための人体改造による負担で生命を縮めることも厭わず、血反吐を零しながら、それは声
    を作る。すると、それは伝染して他の肉塊達も同じく声帯を象った器官を次々に生成した。
    どれもこれもおぞましい音域で無心に想い人の名を奏で始める。幸哉、幸哉、幸哉、幸哉、
    幸哉、幸哉、幸哉……
丹羽 :ぐっ……
    (後小路の研究がこれだとすると、もう完全に狂ってるな)
七条 :……っ……
    (猟犬だけでも厄介なのに……今回、郁は僕達を生存させる気はなさそうです)
西園寺:肉塊達の合唱に包まれながら、丹羽と臣、二人はSAN(正気度)チェックだ。1D3/1D6
    で振れ。


丹羽 :SAN(49)→38 成功 1D3→3
    :SAN(49)→46
七条 :SAN(43)→53 失敗 1D6→3
    :SAN(43)→40


丹羽 :3か……痛いな。この後、猟犬の判定もあることを考えると、あまりSAN値を減らしたくね
    えんだが。
七条 :ふふっ、僕は今度こそ発狂出来ると期待しています。
西園寺:辛うじて動揺を抑え込んだお前達の背後から静かな声が聞こえた。
後小路:気持ち悪いでしょう、そいつら。
丹羽 :……!
西園寺:慌てて二人が振り返ると、いつの間にか、そこには沙耶が立っていた。右手に灯油臭い
    赤いポリタンクを持っている。沙耶はお前達の間を抜けて室内へと入った。
後小路:こいつらは全部、沙耶の形にすらなれなかった出来損ないよ。オリジナルから抽出した記
    憶を基に培養した沙耶の人格だけを定着させた哀れなゴミ屑……汚らわし声であの人の名
    を呼ばないで!
西園寺:沙耶は癇癪を起して声を震わせる肉塊の一つを思い切り踏み潰した。しかし、そのダメー
    ジを全く意に介さず、それは想い人の名を呼ぶことをやめなかった。幸哉、幸哉、幸哉……
後小路:ちっ、不愉快ね……二人は上へ戻った方が良いよ、ここにいたら酸欠になるから。
七条 :……何をするつもりですか?
西園寺:それには答えず、沙耶は部屋の中心まで行くと、ポリタンクに入った灯油を辺りに撒き散
    らし始めた。
丹羽 :まずい! 逃げるぜ、七条先生!
七条 :はい、と頷いて僕は階段を駆け上がります。
後小路:沙耶は私一人で充分よ。皆、燃えちゃえ!
西園寺:次の瞬間、肉塊達の合唱が叫びへと変わった。背後から熱風が吹き荒れ、二人は沙耶
    があれに火を放ったと悟った。それでも想い人の名を呼ぶものはまだ残っていた。恋人の
    名で作る最後の詩……断末魔に交じって聞こえるその声は、まるで歌を歌っている様だっ
    た。階段を駆け上がる丹羽と臣は、場違いとは思いつつも、なぜかそこに穢れない純粋さを
    感じた。そして、沙耶は……
後小路:何よ。何よ……出来損ないのくせして……馬鹿じゃないの……
西園寺:部屋から出て腹立たしげにそう呟くと、綺麗な口唇を醜く歪ませた。


2016.3.4
今回のシナリオは色々な意味でSAN値が削られます。
西園寺さんはそれを見越して、
部屋を分割しないでやっているのかも。

r  n

Café Grace
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