「俺達の中に、沼男(スワンプ・マン)が……」
 恐々と皆を見回す啓太を西園寺が緩やかに遮った。
「PL(プレイヤー)会議中だが、もう少し場面を進める。遠藤は不定が再発しているから注意しろ。では、厳しい現実を突きつけられたお前達にどこからか子供の笑い声が聞こえてきた」

ナイア:ふっ、ふっ、ふっ……あいつもなかなか言うじゃねえか。
遠藤 :誰だ!? 俺は素早く立ち上がります。
西園寺:すると、窓の傍に傲慢な微笑を浮かべた十歳ほどの少年が立っていた。全身を黒ずくめ
    の服で覆い、胸元に大きな蒼い宝石のブローチを付けている。
丹羽 :まずは全員で『目星』だな。
中嶋 :APP(容姿)は見ればわかるだろう。幾つだ、KP(キーパー)?
西園寺:14だ。
七条 :おや? でも、必ずしも18とは限らないので、まだ油断は出来ませんね。
伊藤 :和希、APP(容姿)で何かわかるのか?
遠藤 :後小路が混沌に辿り着いて冒涜的な知識の数々を得たと言ったのを覚えているだろう。ク
    トゥルフ(CoC)にはニャルラトホテプという神がいるんだ。日本語に訳す際の表記の違いも
    あるけれど、ニャルラトテップ、ナイアーラトテップ、ナイアルラトホテプ、無貌の神、這い寄
    る混沌などと呼ばれている。
伊藤 :あっ、混沌……!
七条 :ニャル様はアザトースの息子であり、使者です。知性を持たない王に代わってその意思を
    具現化するべく時空を超えて暗躍し、狂気と混乱をもたらしています。クトゥルフ(CoC)で最
    も有名な神ですよ。
遠藤 :この神は顔がない故に千の貌を持つとされて様々な化身を取るんだ。人の姿になるときは
    APP(容姿)18の長身痩躯で浅黒い肌の男というのが多いけれど、シナリオによっては特
    徴のない普通の人と描かれる場合もある。だから、這い寄る混沌の可能性があるならAPP
    (容姿)の確認は必須なんだよ。
丹羽 :取り敢えず、振るぜ。


丹羽 :目星(70)→37 成功
中嶋 :目星(70)→81 失敗
七条 :目星(70)→69 成功
遠藤 :目星(75)→81 失敗
伊藤 :目星(60)→92 失敗


西園寺:では、丹羽と臣は少年は確かに外見は子供だが、何気ない仕草や表情に大人びたもの
    があり、とても奇妙に思った。中嶋は子供を一瞥しただけで直ぐにまたコーヒーを飲み始め
    た。遠藤は使命で頭が一杯で観察するどころではなかった。啓太はこの子が薫子の話して
    いた人外に違いないと思い、違和感などは全く気にしなかった。
遠藤 :そういえば、薫子の話を中嶋さんとまだ共有してなかったな。
伊藤 :うん、今回は部屋分けをしないから俺もすっかり忘れてた。
西園寺:少年は土足のまま、こちらへ近づいて来ると、床の穴を塞ぐベニヤ板をつま先で軽く蹴飛
    ばした。
ナイア:酷いな、全く……躾がなってねえよな。
七条 :子供……?
ナイア:おい、子供ってのは失礼だろう。僕のことはナイアとでも呼んでくれ。
遠藤 :……どこから入って来た? お前もまた神に逆らう薄汚い愚か者か……? 俺はポケット
    からナイフを取り出してナイアに向けます。
ナイア:はあ……今度は狂人か。神父、話が進まねえからそいつを何とかしてくれ。そのくらいの
    時間は待ってやるよ。
西園寺:少年は呆れた様に肩を竦めると、大仰に腕を組んだ。啓太、『信用』を振れ。成功したら、
    遠藤は1D3のSAN値を回復出来る。
伊藤 :あっ、はい。


伊藤 :信用(80)→58 成功 1D3→2
遠藤 :SAN(3)→5


西園寺:ナイフに気づいた啓太は遠藤の腕にふわりと手を掛けた。遠藤の、どこか焦点の合わな
    い瞳がゆっくり啓太へと動く。それを啓太は無言で見返した。すると、遠藤の身体が小さく震
    え始めた。畏敬の念に打たれて一切の力を失ってしまったかの様に腕が徐々に下がってゆ
    く。やがて完全に力の抜けた手からナイフがするりと床に滑り落ちた。遠藤は申し訳なさそ
    うに項垂れた。
遠藤 :神父様、私は……
伊藤 :落ち着いた様ですね……良かった。
西園寺:その様子を黙って眺めていたナイアが軽く手を叩いた。
ナイア:お見事。さすがは神父。そこらの医者よりずっと腕が確かだな。だが、ペットの管理は飼い
    主の責任だから手に余る様なら処理を考えた方が良いぜ。
伊藤 :俺はナイア君をきつく睨みつけます。
西園寺:その視線をナイアは涼しげな顔で受け流し、沙耶の座っていた椅子に勝手に腰を下ろし
    た。そして、丹羽と遠藤に向かって呆れた様に言った。
ナイア:お前達もさっさと座れよ。本題に入るぜ。
丹羽 :さっさとって……一体、何様だよ、お前。ナイアに反感を覚えた俺はまだ座らねえぜ。
遠藤 :俺もナイアを警戒して座りません。
中嶋 :俺は煙草に火を点けて不快そうに呟く。口の利き方を知らない子供だな。
ナイア:ふふっ、初対面の人間に警戒心を持つのは当たり前か。尤も、この僕が人間かどうかはま
    た別の話だけどね。
丹羽 :はあ? どう見たってただの子供だろう。
ナイア:おいおい、酷いな……まあ、良いか。僕は交渉しに来たんだ。お前達、沙耶の処分に困っ
    てるんだろう?
伊藤 :別に困ってはいません。
ナイア:ふっ、ふっ、ふっ、強がるなよ。先刻の会話を聞いてたけど、あれだけ言いたい放題言わ
    れたお前達があいつを御し切れてねえのは明白だ。そもそも、沙耶は他の沼男(スワンプ・
    マン)とは成り立ちが異なるから扱い難いだろう?
丹羽 :どういう意味だ……?
ナイア:元々沼男(スワンプ・マン)とは幸哉が作り出した神話生物のことなんだ。まあ、ノウハウは
    僕が吹き込んだんだけどな。
丹羽 :なっ……お前が原因か!?
中嶋 :少し興味をそそられた俺は黙って話の続きを待つ。
ナイア:沼男(スワンプ・マン)は取り込んだ人間から知識と知能を得る。但し、取り込んだ人間にし
    かなれねえ。その特性を利用して幸哉は死んだ女の身体を使って沙耶の知性を生き返らせ
    ようとしたんだ。だが、死体を材料にすると、成り代わりは巧くいかなくなった。姿形は同じで
    も記憶が伴わねえんだ。出来損ないさ。
西園寺:ナイアは最後の言葉を吐き捨てる様に言って嘲笑した。
七条 :出来損ない……
ナイア:あの沙耶は一番初めに作ったものなんだよ。出来は散々だったな。何せあいつは人の形
    すらしてなかった。あいつの最初の姿はグロテスクな肉塊さ。幸哉はかなり衝撃(ショック)を
    受けたらしく、直ぐにあいつを僕に押しつけた。
中嶋 :それでお前はどうした?
ナイア:暫くは興味本位で世話をしてたよ。だが、一週間もすると飽きてきてさ。あいつ、馬鹿みた
    いに幸哉としか鳴かねえんだもん。山に捨ててきたよ。
丹羽 :捨てるって物じゃねえんだぞ!
ナイア:貰ったものをどうしようと僕の勝手だろう? だが、その沙耶があんなふうに可愛らしく外
    見を繕って人里に下りて来てるのを見ると、何と言うか……感慨深いよ。あの状態から人型
    になるのは凄く大変だったろう。これが親心っていうものなのかな。
丹羽 :てめえ……
七条 :丹羽さん、落ち着いて下さい。
ナイフ:ふっ、ふっ、ふっ……まあ、そういう生い立ちのせいで、沙耶は化け物としての能力を自分
    の意思で行使出来るんだ。普通、沼男(スワンプ・マン)は元となった人間以上の力を発揮
    出来ねえのにな。
中嶋 :だから、他の沼男(スワンプ・マン)は誰も正体がばれないのか。
ナイア:そうさ。お陰で、最早、この辺りにいる人間の半数以上が沼男(スワンプ・マン)だ。
七条 :えっ!?
丹羽 :な、何だって!?
遠藤 :……!
ナイア:おや? もしかして、この話は聞いてなかったのか? 三ヶ月前に一匹逃がしただけで、こ
    の様だ。あと一年も経てば、沼男(スワンプ・マン)がこの星の生態系を支配地位ごとそっく
    り乗っ取ってしまうんじゃねえかな。
丹羽 :そんな……止める方法はねえのか?
西園寺:それを聞いたナイアは質問の意図がわからないのか、初めて隙のある表情を浮かべて
    丹羽を見やった。
ナイア:……何で止める必要があるんだ?
丹羽 :はあ? ふざけるんじゃねえ! 沼男(スワンプ・マン)はお前が後小路さんに吹き込んだ
    知識が元になってるんだろう! なら、その増殖を止める方法も知ってるはずだ!
ナイア:煩いな、お前……何でそんなに必死なのか全然、わかんねえよ。別に誰かが困るって訳
    でもねえだろう。
七条 :先刻、沙耶さんも同じことを言っていました。
ナイア:そうだろう。少し考えればわかることだ。人間と沼男(スワンプ・マン)に違いはねえのさ。
丹羽 :いや、全然、違うだろう! たとえ、沼男(スワンプ・マン)の中に記憶と知識は残っても、食
    われた人間は死ぬんだぞ! そいつの意思や心はどうなる!?
ナイア:何、言ってるんだ? お前達が意思や心と称するものも沼男(スワンプ・マン)の中でちゃん
    と生き続けるじゃねえか。
丹羽 :それは食われた人間とは別のものだ!
ナイア:なら、沼男(スワンプ・マン)の中に発生した意思や心はどこから来たって言うんだ?
丹羽 :そんなの俺が知るか! だが、人を殺して生まれた意思や心なんて俺は認めねえ! そ
    れじゃあ元になった人間があまりに憐れだろう!
ナイア:はあ……不毛な言い争いはつまんねえから教えてやるよ。そもそも、お前は意思や心なん
    て突拍子もねえものが存在するという前提で話してるが、そんなの初めからありはしねえの
    さ。お前が感じてるその不安も、怒りも、敵意ですら、僕達から見れば総て勘違いだ。脳内
    の電気信号や化学物質によってもたらされるただの生体反応なんだよ。言うなれば、アメー
    バの生理活動と同じさ。そんなものに違いも何もあるもんか。同じ機能を有するなら、それ
    は同じものと断じて全く問題ねえのさ。
西園寺:そこまで言うと、ナイアは腹を抱えて笑い出した。
丹羽 :何がおかしい?
ナイア:ふっ、ふふっ、ふふっ……いや、傑作だと思ってさ。偶然、宇宙の片隅に発生したゴミ屑ど
    もが、自分達は高尚だ、自分達はとても高度な精神活動をしてるんだって勘違いしてるのを
    見てるとおかしくて、おかして……ふっ、ふふっ……普段、お前達が見下してる雑菌と自分
    達が何ら変わらねえことに気づかず、本当に幸せな奴らだな、おい。腹が痛くて堪らねえ。
中嶋 :交渉したいなら、言葉遣いに気をつけろ。雑菌にも矜持(プライド)はある。
ナイア:ふふっ、そうだった。お前達と話してると面白くて、つい言い過ぎた。本題に戻そう。まあ、
    そう構えるほどのことじゃねえよ。単に沙耶を僕に引き渡して欲しいってだけのことさ。
丹羽 :お前……一度、沙耶さんを捨てたくせに何、勝手なこと言ってるんだ!
ナイア:そう怒るなよ。僕にも事情があるんだ。もう沙耶の遺体から沼男(スワンプ・マン)を作って
    も型崩れしたものしか出来なくてさ。鮮度が悪いのかな。だから、せめて外見だけでも整っ
    てるものを使って新しい沙耶を生み出すことにしたんだ。それにはあの沙耶が必要なんだ。
七条 :そんなことをしなくても、沙耶さんは後小路さんが認めてくれたら喜んで傍にいますよ。
ナイア:幸哉があいつを認めるだって? ふふっ、そんなこと出来る訳ねえだろう。幸哉はあいつ
    の正体を知ってるんだぞ。天地がひっくり返ったって絶対にあいつを沙耶とは認めねえよ。
丹羽 :矛盾してるぜ。沼男(スワンプ・マン)から新しい沙耶さんを作るなら同じことだろう。
ナイア:仕方ねえよ。幸哉はもう正気じゃねえからな。試せることは総てやってるんだ。今の幸哉に
    あるのは沙耶を作るって妄執だけさ。狂人の末路なんて大体、そんなもんだろう。
中嶋 :……
ナイア:勿論、只とは言わねえよ。代金は神父を狙う猟犬を剥がしてやるってのでどうかな。
遠藤 :そんなことが出来るのか!?
ナイア:当たり前だ。
遠藤 :なら、沙耶さんを引き渡して一刻も早く神父様を――……
丹羽 :待ってくれ、遠藤さん。沙耶さんを引き渡したら神父様は助かるかもしれねえが、街に溢れ
    た沼男(スワンプ・マン)はどうなる? こいつらに沼男(スワンプ・マン)を止める気はねえん
    だぞ。
遠藤 :苛立った俺はバンッと机を叩きます。なら、お前は神父様に手を切り落とせと言うのか!
丹羽 :そこまでは言ってねえ。だが、急いで結論を出すのは少し待ってくれ。
遠藤 :その時間が神父様にはないんだ! こうしている間にもあの犬が襲ってくるかもしれない。
    そうしたら、今度こそ神父様は……! そもそも、人間と沼男(スワンプ・マン)を見分けるこ
    とすら出来ない俺達はナイアの条件を呑むしかないだろう!
七条 :KP(キーパー)、今までのナイア君の話が本当かどうか『心理学』を使いたいです。
丹羽 :俺も振るぜ。
西園寺:良いだろう。啓太はどうする?
伊藤 :俺もお願いします。
西園寺:わかった。


七条 :心理学(70)→??
丹羽 :心理学(39)→??
伊藤 :心理学(75)→??


西園寺:臣はナイアの言葉遣いや表情を密かに窺っていたが、話の真偽を判断することは出来な
    かった。丹羽はナイアは嘘は言っていない気がした。啓太はナイアの話は総て本当だと確
    信した。
丹羽 :啓太が振って助かったな。七条は失敗の様に思うが、なら、俺が成功かと訊かれると数値
    的に迷うところだった。
七条 :そうですね。伊藤君の結果はかなり断定的な表現なので、クリティカルと考えて問題なさそ
    うです。取り敢えず、今はナイア君の話に齟齬はないので信じても良いと思います。僕は遠
    藤君を宥める様に言います。遠藤さんの気持ちはわかります。ですが、現状、沼男(スワン
    プ・マン)の存在は僕達しか知りません。世間に公表しても、多分、誰も信じてくれないでしょ
    う。だから、この問題は僕達だけで解決しなければなりません。それには後小路さんの協力
    が不可欠です。安易に結論を出して、その繋がりを絶ってしまうのは僕も賛成出来ません。
遠藤 :もし、それで神父様が襲われたら、俺はお前達を絶対に許さない……!
七条 :遠藤さん……
西園寺:すると、不意にナイアがポツリと呟いた。
ナイア:……お前達、沼男(スワンプ・マン)を止めたいのか?
丹羽 :おい、先刻もそう訊いただろう。
ナイア:止める方法があるかとは訊いたが、止めたいとは言ってねえよ。なら、沙耶を引き渡したら
    教えてやるよ……沼男(スワンプ・マン)を止める方法。
丹羽 :本当か!?
ナイア:僕は沙耶さえ手に入れば、沼男(スワンプ・マン)も人間もどうでも良いんだ。
遠藤 :待て。その場合、神父様はどうなる?
ナイア:さあね。猟犬に食われるか、嫌なら手を切り落とすしかねえな。
遠藤 :なっ……!
ナイア:これでもかなり譲歩してるんだ。さあ、沼男(スワンプ・マン)か猟犬、好きな方を選びな。
西園寺:ナイアは突き放す様にそう言って小さく口の端を上げた。どうする?


「えぐい選択だな、郁ちゃん」
 丹羽が少し顔を顰めた。西園寺は優雅に微笑んだ。
「私の回すシナリオが安易なハッピー・エンドに辿り着くと思うか?」
「それは知ってるけどよ……」
 ふふっ、と七条が笑った。
「PvPは避けたいですが、伊藤君の手を切り落としたら、遠藤君のSAN値は間違いなく0になりますね」
「もし、そうなったら、俺のPC(プレイヤー・キャラクター)は王様と七条さんを殺しますよ」
 当然のことの様に和希は言った。中嶋が軽く啓太を見やった。
「ずっと黙ったままだが、お前は言いたいことはないのか、啓太?」
「……えっ!?」
 急に話を振られた啓太は驚いて声を上げた。何かを考えていたのか、一瞬、反応が遅れる。
「あっ、その……言いたいことは特に何もないです。手を切るのは嫌だけど、俺のPC(プレイヤー・キャラクター)は多分、どうでも良いって思ってます。それより、中嶋さんと相談したいことがあるので二人で執務室に行きたいんですが、RP(ロール・プレイ)して良いですか?」
「……」
 中嶋は、じっと啓太を凝視した。啓太は自分が沼男(スワンプ・マン)だった場合を考えて予め訊いてきたのだろう。そうした配慮は啓太らしいと思うが、それはPL(プレイヤー)視点の考えだった。PC(プレイヤー・キャラクター)の行動としてきちんと説明出来るだろうか。
「沼男(スワンプ・マン)は隙のある人間を襲う。つまり、一人きり、もしくは沼男(スワンプ・マン)と二人になったときだ。お前か俺のどちらかが沼男(スワンプ・マン)だった場合、残る一方が襲われることになるが、お前のPC(プレイヤー・キャラクター)はそれでも良いのか?」
「はい、俺は沼男(スワンプ・マン)に関心はありません。ただ、自分の目的を遂行したいだけです」
「……良いだろう。俺も俺が俺自身であれば、その存在が人間でも沼男(スワンプ・マン)でも構わない。RP(ロール・プレイ)をしろ、啓太」

伊藤 :えっと……それじゃあ、黙って話を聞いてた俺は皆を見回して言います。悩む必要はあり
    ません。どちらを選ぶべきかは明らかです。沙耶さんを後小路さんに引き渡して沼男(スワ
    ンプ・マン)を止める方法を教えて貰いましょう。それが沙耶さんの望みでもありますから。
遠藤 :何を言われるのですか、神父様!
伊藤 :遠藤さん、以前にも言いましたが、私はこの手を切り落とすことに何の躊躇いもありませ
    ん。今、私が最も懸念しているのは時間を無駄にすることです。わかりますね?
遠藤 :俺はやり場のない感情を堪えて低く呟きます。くっ、私が不甲斐ないばかりに……
丹羽 :すまねえ、神父様。そう言って俺は頭を下げるぜ。
七条 :僕もです。本当に、申し訳ありません。
伊藤 :お気になさらず……では、これで問題は総て解決ですね。中嶋さん、明日以降の仕事の
    件で話があるので、執務室まで宜しいですか?
中嶋 :俺は黙って立ち上がり、ドアの前で振り返ってナイアに尋ねる。お前はまた新しい沙耶を
    作るそうだが、あの沙耶はどうなる?
ナイア:取り敢えず、細切れにしてあいつの中にある新鮮な沙耶の細胞を取り出すつもりさ。あい
    つ、再生能力が高いから生きてると面倒だしな。いや、待てよ。死んだら、また細胞が劣化
    するな。なら、生かさず、殺さずの方が良いのか? まあ、どうするかは幸哉に任せるか。
丹羽 :よくそんな酷いことが出来るな、お前。
ナイア:それはお互い様だろう。お前だって神父を犠牲にするじゃないか。結局、自分にとって何が
    一番大事かってことさ。そのためなら、人間は鬼にも悪魔にもなれる。本当に興味深いよ、
    全く。
丹羽 :くっ……
ナイア:そうそう、沙耶の引き渡し方法だが、ちょっと準備が必要なんだ。あいつ、馬鹿力だから暴
    れると厄介だろう。今夜、十時に後小路邸まで連れて来てくれ。あっ、余計なことは言うな
    よ。あんな化け物でも知能だけは高いからな。
中嶋 :なら、既に話を立ち聞きして逃げ出しているかもしれないな。
ナイア:そんなに抜けてねえよ。この部屋には外部に一切、音が漏れねえよう結界を張ってある。
    滅多なことじゃあ解けねえから、今後、内緒話がしたいならここを使えよ。今まで沙耶の面
    倒を見てくれた礼さ。それじゃあ、僕は帰る。今度は玄関から出るかな。少し腹が減ってき
    たから、またレトルトのカレーでも食べるか。人間の発明の中で、あれは凄く良いよな。その
    点だけは褒めてやるよ。
西園寺:そうしてナイアは啓太達に続いて部屋を出て行った。中嶋と啓太は教会の執務室へ移動
    するが、その間、他の三人どうする?
遠藤 :俺は暫く一人になりたいです。ナイアの靴の跡を掃除した後、少し薔薇の手入れをしてか
    ら昼食の準備をします。
七条 :ふふっ、もしかしたら、誰かの墓穴になるかもしれませんね。僕は遠藤君と一緒にいるの
    は気まずいので、居間に行きます。沙耶さんにそれとなく謝りたいです。
丹羽 :俺も暗に啓太を犠牲にしようとした上に、沙耶の行く末もろくなことにならねえと知って色々
    良心に苛まれてるだろうな。七条と一緒に居間に行くぜ。
七条 :良いんですか? 僕が沼男(スワンプ・マン)だったら、途中で襲われますよ。
丹羽 :多分、大丈夫だ。先刻、俺は七条を探しに部屋へ行って何もなかったからな。それに、俺
    のPC(プレイヤー・キャラクター)は最初から一緒だった七条と自分は間違いなく人間と思っ
    てる。だから、出来るだけ七条と一緒に行動したいはずだ。
七条 :そうですか。僕も丹羽会長は信頼しているので、一緒に行くことに問題はありません。
西園寺:ならば、まずは啓太達の描写から始める。


2016.7.1
綺麗ごとだけでは済まされない現実に、
対応が割れる啓太達……
最後まで無事に辿り着けるかな。

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Café Grace
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