西園寺:朝にもかかわらず、教会では既に熱心な信者が祈りを捧げていた。啓太は彼らに声を掛
    けたり、軽く挨拶を交わしながら、中嶋と祭壇の左奥にある執務室へと入った。では、RP
    (ロール・プレイ)だ。
中嶋 :(食われる描写はなしか)
    俺は後ろ手に閉めたドアに寄り掛かって静かにこいつの話を待つ。
伊藤 :俺は執務机の前で振り返って言います。先ほどのニュースを聞きましたか? 東雲さんが
    殺されました。
中嶋 :ああ、そのことか。仲介屋が死んで次の実験は暫く延期か?
伊藤 :いえ、予定通りに行います。後小路氏のくだらない妄執に付き合ってこれ以上、停滞する
    ことは我が神に対する冒涜です。今、ここにいる人間を使います。それなら足は付かないは
    ずです。
中嶋 :丹羽と七条か……確かにあいつらと俺達を直接、繋ぐ線はない。今回の件で浪費した時
    間の穴埋めにもなる。良いだろう……話はそれだけか?
伊藤 :いえ、貴方にも知らせておきたいことが一つ……寧ろ、これからが本題です。
中嶋 :ほう?
伊藤 :昨日、東雲さんが言っていました。後小路氏の傍にいる子供は人間ではない。人外の存
    在だ、と。
中嶋 :ナイアか……と俺は呟いて少し考え込む。KP(キーパー)、『クトゥルフ神話』を振る。
    (分の悪い賭けだが、ここで正体を抜れば大きい)
西園寺:許可する。


中嶋 :クトゥルフ神話(8)→8 成功


西園寺 :(くっ……もう暫く伏せておきたかったが、仕方ない)
    中嶋はナイアの言動を改めて思い返した。その知識は確かに人智を超え、言葉の端々に
    人外を匂わせていた。しかし、それが露骨過ぎて逆に人間臭く感じた。本物の神ならば、そ
    こにいるだけで矮小な人間を自ずと畏怖させる存在感を放つものだろう。ナイアにはそうし
    たものが全く感じられなかった。
中嶋 :(混沌の線は消えたな)
    俺は小さく首を振って言う。いや、奴は人外ではない。多少、魔術は使えるかもしれないが、
    俺達と同じ人間だ。
伊藤 :(良かった。それなら、上手くいくかもしれない)
    貴方がそう言うのなら、そうなのでしょう。私はナイアの正体に興味はありません。ただ、彼
    と取引をしたいのです……丹羽さん達には内密に。
中嶋 :極秘に沙耶を引き渡して猟犬を剥がすつもりか?
伊藤 :いいえ、無知で蒙昧な人間しかいないこの世界に今更、惜しむものなど何もありません。
    私が欲しいのはナイアの持つ漆黒の知識です。貴方の研究にそれが加われば、薬の完成
    をより早めることが出来ます。
中嶋 :成程……同じ取引なら、その方が俺達の利になる。だが、それをするなら、やはり今回の
    実験は延期するしかない。神父、十時までに丹羽と七条を遠藤に始末させろ。沙耶を引き
    渡すとき、あいつらがいたら邪魔だ。
伊藤 :そこは約束通りに行います。沙耶さんは沼男(スワンプ・マン)の増殖を止める方法と引き
    換えに渡します。邪魔なのは後小路氏です。
中嶋 :……!?
伊藤 :私はどうして神の眷属が後小路氏に協力しているのかわかりませんでした。でも、ナイア
    が人間なら、その理由は簡単です。生きるためです。空腹を満たすためにナイアは後小路
    氏の保護が必要だったのです。なら、氏さえいなくなれば、ナイアは新たな保護者を探し始
    めます。私がそれを提供しましょう。
中嶋 :(一応、筋は通っている……が、なぜ、沼男(スワンプ・マン)の増殖を止める方法を知りた
    がる?)
    一つ確認したいことがある。お前は沼男(スワンプ・マン)をどう考えている?
伊藤 :どう、とは?
中嶋 :沙耶やナイアの様に沼男(スワンプ・マン)がいても世界は何も変わらないと考える肯定派
    か? それとも、丹羽の様な否定派か?
伊藤 :……中嶋さんはどちらですか?
中嶋 :俺は沼男(スワンプ・マン)に興味はない。たとえ、昨日の俺と今日の俺が違っても、今まで
    の研究をきちんと引き継いでいるなら何の問題もない。
伊藤 :貴方らしいですね。基本的には私も貴方と殆ど同じ考えです。ただ、万が一に備えて沼男
    (スワンプ・マン)の増殖を止める方法だけは知っておきたいと思っています。
中嶋 :(これ以上、追及するのは俺の性格的に不自然か。『心理学』を取っておくべきだったな)
    ……今夜の取引が終わったら、俺は丹羽と七条を適当に言いくるめて先にここへ戻る。後
    小路の始末とナイアとの交渉はお前に任せる。
伊藤 :わかりました。必ず吉報を持って帰りましょう。
中嶋 :俺はドアを開こうとして思い出した様に尋ねる。この話、遠藤は知っているのか?
伊藤 :話していません。遠藤さんは、まだ私の手を諦めてはいませんから。この場にいたら、きっ
    と猛反対したでしょう。
中嶋 :ああ、そうだな。
    (遠藤が暴走して取引前に丹羽達を始末させないためか)
伊藤 :いつも良く働いてくれますが、その点だけが……困ったものです。そうして俺はふわっと微
    笑みます。
西園寺:では、ここで二人の場面は切って丹羽と臣の描写に移る。沙耶は居間のソファに座ってテ
    レビの料理番組を見ていた。お前達が入って来たのに気づくと、視線はそのままに言った。
後小路:このスモーク・サーモンのマリネ、美味しそうよね。私は酸味の角を和らげるのにはちみつ
    を入れてたんだけど、これはきび砂糖を使うの。サーモンにはその方が合うのかな。幸哉は
    サーモンが好きだから、これを作ったら喜んでくれるかな。
七条 :沙耶さん……
    (地味に心を抉ってきますね)
丹羽 :(あ~、俺はもう何やかんやで土下座したい気分だろうな)
    居た堪れなくなった俺は大きく頭を下げる。すまねえ、沙耶さん……その……とにかく、すま
    ねえ!
七条 :僕も同じく頭を下げます。力になれず、申し訳ありません。
西園寺:すると、沙耶はゆっくり二人を振り返り、責めるふうでもなく言った。
後小路:……何で謝るの? 人間の立場なら、沼男(スワンプ・マン)を認められないのは私にだっ
    てわかる。丹羽さんの言う通りよ。このまま、誰も何もしなかったら、いつか人間は本当に滅
    んでしまう。貴方は間違ってない。でも、私は沙耶だから……この中には、本当に沙耶の記
    憶と心がある。聖書の神の被造物とは違うけど、私は……沼男(スワンプ・マン)は、確かに
    ここにいる。それを認めて欲しいって思うのはそんなにいけないことなの?
丹羽 :……お嬢さん、あんたはちょっと強引で思い込みの激しいとこがあるが、根は悪くねえ人
    だと思う。それでも、俺は……やっぱり沼男(スワンプ・マン)を認めることは出来ねえ。自覚
    はなくても、沼男(スワンプ・マン)である以上、そいつは確実に一人殺してる。そして、隙を
    見てまた別の奴を襲うだろう。人間として、それはどうしても許せねえんだ。
後小路:私は誰も襲ってない。沼男(スワンプ・マン)としての能力をちゃんと制御出来る。
丹羽 :だが、他の奴らは違うだろう? そうでなければ、金曜血の池事件は起こらねえはずだ。
後小路:……っ……!
丹羽 :お嬢さんには酷だが、事実を知ってしまった以上、俺達は沼男(スワンプ・マン)を止めなけ
    ればならねえ……たとえ、どんな犠牲を払っても。
七条 :沙耶さん、僕達は一度は貴方に協力すると言いながら、こんな形で裏切ってしまいました。
    それをわかって下さいとは言いません。許してくれなくても構いません。ですが、何も知らな
    い人々が犠牲になるのを黙って見ている訳にはいかないんです。
西園寺:二人の言葉から強い覚悟を感じて、沙耶は表情を隠す様に顔を背けた。ここで『聞き耳』
    を振れ。臣は沙耶に対してなので、技能値は半減だ。
七条 :ダイス・ロールですか。僕は今回、出目が悪いので、RP(ロール・プレイ)で押し切りたかっ
    たんですが……


丹羽 :聞き耳(70)→19 成功
七条 :聞き耳(65/2)→00 ファンブル


七条 :はあ……
丹羽 :おいおい、これで何回目のファンブルだよ、七条。
七条 :秘匿ロールの分を合わせると、多分、四回目です。
西園寺:(ここでダメージを受ける処理をしたら、折角の雰囲気に水を差すか)
    臣は次のロールは自動失敗だ。丹羽は沙耶が小さな声でこう呟いたのが聞こえた。
後小路:母体の声さえなければ……
丹羽 :母体……? 何のことだ?
    (情報はほぼ出揃ったと思ったが、まだあるのか)
後小路:母体とは幸哉が一番初めに作った沼男(スワンプ・マン)よ。総ての沼男(スワンプ・マン)
    は無意識下で母体と繋がってる。だから、あいつらは人間を襲うの。
丹羽 :悪い。もう少し詳しく説明してくれねえか? どうして母体と意識が繋がってると人を襲うん
    だ? 母体から人間を食えとでも言われるのか?
後小路:そうよ。沼男(スワンプ・マン)は母体を核とした一つの複合生命体なの。だから、根幹を
    司る母体の意思には絶対に逆らえない。私がそのリンクから外れられたのは、あの頃はま
    だ母体の力が弱かったからよ。
七条 :なぜ、母体はそんな指示を出すんですか? 人間を敵とみなして排除するためですか?
後小路:違う。あいつらが人を食べるのは増えるためよ。沼男(スワンプ・マン)には生殖能力がな
    いから、個体を増やすには外部から新たな遺伝情報を取り込む必要があるの。
七条 :それが人間ってことですか。でも、それだけなら対象を一つに絞る必要はありません。母
    体が人間を狙う理由は他にあるはずです。何か心当たりはありませんか?
後小路:多分、それは幸哉が人間を餌として与えてたからよ。最初、幸哉は母体に死んだ沙耶の
    肉片を取り込ませて新しい沙耶を作ろうとした。でも、巧くいかなかった。その沙耶は……人
    の形すらしてなかった。
丹羽 :……
後小路:衝撃(ショック)を受けた幸哉は直ぐ方法を変えたわ。まず母体に人間の女を与えて基本
    的な構造を備えた沼男(スワンプ・マン)を生み出し、それを使って新しい沙耶を作る二段構
    えにしたの。そのせいで、母体は人間を新たな遺伝情報を取り込むための餌と思ってる。
丹羽 :つまり、今の状況は何から何まで後小路さんのせいってことか。
後小路:幸哉は、それだけ深く沙耶を愛してたのよ。
丹羽 :愛してたら何をしても良いって訳じゃねえ。今までに食われて死んだ人間や、これから食わ
    れて死ぬ人達にそんな理屈は通じねえ。
後小路:人は、誰も死んでない。沼男(スワンプ・マン)の中で生き続ける。
丹羽 :それはオリジナルとは違う人だ。
七条 :二人とも、その話はやめましょう。いつまで経っても平行線のままです。それより、今はもっ
    と考えるべきことがあります。もし、沙耶さんの推測が正しかったら……沼男(スワンプ・マ
    ン)と人間は共存出来るかもしれません。
丹羽 :本当か、七条先生!?
後小路:教えて! どうすれば良いの?
七条 :人間以外のものを食べるよう母体が沼男(スワンプ・マン)に指示するんです。ただ、それ
    には幾つか問題があります。教えて下さい、沙耶さん、母体に僕達の言葉は通じますか?
後小路:わからない。あの頃のことは良く覚えてないから、母体がどんな形だったかすら……
七条 :なら、通じないと仮定しましょう。でも、沼男(スワンプ・マン)同士なら意思の疎通が可能な
    はずです。沙耶さん、母体を説得出来ますか?
後小路:ここからじゃ無理。私は母体とのリンクから外れてるから。でも、直接、会って話せば出来
    るかもしれない。
七条 :母体はどこにいるんですか?
後小路:わからない。でも、多分、幸哉の屋敷のどこかだと思う。
七条 :あの屋敷は皆で手分けして調べたんですが……隠し部屋でもあったんでしょうか。
丹羽 :だが、そこまでわかれば問題ねえ。七条先生、もう一度、神父様達と相談しようぜ。三人を
    食堂へ呼び出……あ~、しまった。携帯の番号を交換してねえ。
西園寺:その程度ならば、昨夜の内に済ませたことにして良い。
丹羽 :サンキュー、郁ちゃん。なら、俺は三人に電話して食堂へ呼び出すぜ。
七条 :その間に僕は沙耶さんに言います。またここで待っていて貰えますか?
西園寺:(先手を取られたな)
    沙耶は素直に頷いた。では、場面を移すが……遠藤、何かしたいことはあるか?
遠藤 :いえ、特にないです。俺は庭で薔薇の世話をした後は自室でずっと銃の手入れをして、適
    当な時間になったら昼食を作りに行きます。その間、誰にも会いません。
西園寺:ならば、時刻を午前十時半まで進める。沙耶以外の全員は再び食堂で合流し、朝食のと
    きと同じ席に座っている。誰から話を切り出す?
丹羽 :俺がやる。全員を見回してこう言うぜ……沼男(スワンプ・マン)を止める方法がわかった。


2016.8.26
漸く事件の背景が総て明らかになりました。
啓太は同情しそうですが、
今はRP(ロール・プレイ)に必死なので、
そんな余裕はなさそうです。

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Café Grace
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