リクエストして書いて頂きました。
甘く艶めいた話に微笑が溢れてきました。
いつでも、どこでもやはり二人はラヴラヴです。


言葉のシャワーとキスのシャワー

「凄かったよな最後のピッチャーの三振! 俺思わず拳握っちゃったよ」
 興奮気味に語る恋人は今、先ほどまで観戦していた野球の試合話に花を咲かせている。慧はそんな恋人、明日叶を愛おしげに見つめながら、彼の話に相槌を打っていた。
 たまたま買い物に行った店の抽選くじを引いたら、日曜のデーゲームのペアチケットが当たった。その時も子供のように喜んでいた明日叶であったが、試合中になるとさらに無邪気になって応援していた。試合後、これからどうしようかと歩きながら相談しているうちに、先ほどの試合の話になり、明日叶の感想は止まらなくなってしまっていた。よほど楽しかったのだろう。
 こんなにおしゃべりな明日叶を他のグリフのメンバーは見たことがあるだろうか。きっと自分だけだと慧が少しだけ優越感に浸っていると、ふと明日叶は慧の顔を見て、何かに気づいた顔をして恥ずかしそうにそっぽを向いてしまった。
「何だか俺だけ喜んでいるみたいだ」
「そんなことない。明日叶が喜んでいる姿を見ると俺も嬉しい」
 思ったことを口にすると今度は頬を赤らめて手にしていたさっき球場で記念に買ったチームタオルを弄んでいる。こうやってすぐ照れてしまうところが可愛い。だけど可愛いなんて言うと怒られてしまうから、あまり言えないが。
 しかし頬が赤いのは照れているからだけじゃないようだ。そっと慧は明日叶の前髪をかき分ける。
「ん? 何?」
「明日叶、日焼けしてるな」
 額も少し赤い。まだ春だと言うのに、今日は暑かったこともあってか、どうやら日焼けしてしまったようだ。頬に触れるといつもよりも熱く感じた。そう、まるでベッドの中で乱れた時のような温度。思わずすっと撫でてしまう。
「ば、ばか! こんな街中でそんなことするなっ」
 すぐに明日叶は顔を引いて慧の指から逃げた。もう日焼けをしているのか、照れているのか見分けがつかないくらい真っ赤だ。
「別にいいだろ。このくらい」
「このくらいって……人に見られる」
 唇を尖らせてそっぽを向く恋人を見て、思わず慧は笑ってしまった。するとすぐに明日叶は顔を上げて喰いかかってきた。
「笑うなって!」
「じゃあ人に見られなければいいんだな」
「え?」
 キョトンとする明日叶の手を引いて、路地裏へと入りこむ。しばらく歩いて街の喧騒が遠ざかったその瞬間、唇を奪ってみせた。
「んんっ……は……け、けい……おい!」
 突然のことで抵抗する隙も与えられず、明日叶は口内を侵されていた。くちゅりと舌と舌が絡まる音がして、恥ずかしさのあまり耳を塞ぎたくなるが、両手はしっかりと慧に押さえつけられていて、それもままならない。そのままなだれ込むようにコンクリートの壁に押し付けられると、さっきまで試合で興奮していた身体が適度に冷やされて何だか心地よいくらいだ。
 名残り惜しげに糸を引いて唇が解放されると、明日叶は崩れ落ちてしまいそうな身体を慧に抱きつくことで必死に耐えた。それを慧はしっかりと抱き締める。そして、いたって真面目に告げた。
「人に見られなければ良かったんだろ?」
「ばか……」
 潤んだ瞳でそんな言葉を吐いても、煽るだけだとこの恋人はわかっているのだろうか。
 もう一度キスがしたくなって顔を近づけると、今度は目を閉じてそれを受け入れてくれた。愛しさが込み上げてきて、どんどんと深く舌を絡めてしまう。
「明日叶」
「ん……」
 蕩けたように目を細める明日叶の瞼にキスを落とす。くすぐったそうに笑うその姿に、壊してしまうほど愛したい気持ちが溢れて止まらない。
 遠くで車のクラクションが聞こえた。先ほどまで歓声で溢れ返る場にいたはずなのに、何てここは静かなのだろう。まるで、世界が切り取られたみたいだ。
 そっと明日叶のTシャツの裾をたくし上げようとした手を、慌てて止められてしまう。
「そ、それ以上はダメだ」
「こんなところ、そう簡単に人は来ない」
 しかし明日叶の熱い掌は慧の腕を掴んだまま、離さなかった。いやいやと首を振って俯くと、消え入りそうな声で呟く。
「……な……じゃ……だ……」
「え?」
 聞き取れなくて、屈んで明日叶と視線を絡ませる。火照った顔をした明日叶は何かを言いたげに口をむずむずさせてじっと見つめるばかりだ。
「今、なんて言った?」
「~~~~~っ!」
 意を決したような瞳と目が合った瞬間、明日叶が首に両腕を絡めて抱きついてきた。少しだけ背伸びをした彼は、そっと耳元でこう囁く。
「こんなとこじゃ、やだ……」
 それを聞いた慧は優しく笑うと、彼を強く強く抱き締めるのであった。
 続きは、寮でゆっくりとすることにしよう。誰にも邪魔されない、二人だけの空間で。



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Café Grace
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