丹羽 :宴会の様な夕食が終わって漸く家の中が静かになったのは時計の針が十時を大きく過ぎ
た頃だった。ほろ酔いの郁ちゃん達も坂井に挨拶をして部屋へ引き上げるぜ。この後、何も
しねえなら場面を進めるが、どうする?
西園寺:私は特にすることはない。
七条 :僕も後は寝るだけです。
中嶋 :俺は風呂に入る。それほど飲んでいないしな。
伊藤 :あっ、俺もまだなのでお風呂に入りたいです。
遠藤 :なら、一緒に入ろう、啓太。その方が楽し……いや、時間の節約になるから。
中嶋 :では、三人で入れば良い。田舎の家なら、そのくらいの広さはある。ついでにこいつの身体
をじっくり堪能させて貰おう。
遠藤 :中嶋さん、啓太をそんな邪な瞳で見ないで下さい!
中嶋 :ふっ、お前も目的は同じだろう。
遠藤 :俺は見たとしても啓太が怪我をしていないか確かめるだけです。
伊藤 :何だか入りたくなくなってきた……
(俺、もう大浴場へ行けないかも)
西園寺:……
(散歩先で啓太が怪我をしそうな状況があったのか)
丹羽 :おい、過激なRP(ロール・プレイ)は禁止って言っただろう。三人とも順番に風呂に入って
寝た。それで場面を移すぜ。
伊藤 :有難うございます、王様。
中嶋 :……つまらん。
遠藤 :横暴なKP(キーパー)ですね。
丹羽 :お前がそれを言うか、遠藤!
西園寺:丹羽、話が逸れている。さっさと進めろ。
丹羽 :ああ、悪い。なら、火垂祭の朝まで場面を進めるぜ。前夜、少し飲んだこともあって郁ちゃ
ん達が起きたのは八時近くだった。全員が身支度を整えて部屋を出ると、廊下の奥からエ
プロン姿の須藤が朝食の味噌汁を盆に乗せて運んで来た。明らかにウキウキした様子で
郁ちゃん達に声を掛けるぜ。
須藤 :おはようございます。皆さん、ゆっくりですね。私は今日が楽しみでなかなか寝つけなくて、
折角の休暇なのに六時には起きてしまいましたよ。だから、てっきり私が一番かと思ってい
たら坂井さんの方が更に早起きでした。田舎の人には敵いませんね、ははっ。あっ、すいま
せんが、その襖を開けてくれませんか?
丹羽 :そうして須藤は左の部屋を顎で指した。啓太が襖を開けると、中からふわりと旨そうな匂い
が漂ってきた。中央に置いた机の上に一汁三菜の和食が用意され、おかわり用のお櫃まで
ある。坂井は既に右の端に座ってた。郁ちゃん達も適当に座るぜ。須藤は皆に味噌汁を配
ると、エプロンを外して坂井の左隣に座った。すると、坂井が小さく頭を下げた。
坂井 :須藤さん、有難うございます。お陰で、助かりました。
須藤 :いえいえ、泊めさせて貰ったのだから料理は任せて下さい。坂井さんは祭りの準備で今ま
で忙しかったから、きっと疲れが出たんですよ。あまり無理をしてはいけません。それにこう
見えて私は結構、料理は得意なんです。独り身が長いもので、ははっ。
丹羽 :須藤がそう軽口を叩くと、坂井は申し訳なさそうな微笑を浮かべた。その顔は確かに少し
疲れてる様に見えた。やがて、いただきます、と言って皆で須藤の作った料理を食べ始め
た。自分で得意と言うだけあって、それはなかなかの味だった。特に味噌汁は丁寧に出汁
を取り、具は控えめで風味豊かに仕上げてある。あまり食欲がなさそうな坂井もそれには頬
を綻ばせ、少し元気を取り戻した。
丹羽 :これで仕事も片づいて一石二鳥だな。それじゃあ、さくさく続きを始めるぜ。現在、時間は
午前十時だ。坂井も中嶋達も外出して家の中には郁ちゃんと七条、須藤だけしかいねえ。
どうする……って訊くだけ無駄か。神棚の御緒鍵(おおかぎ)を調べるんだよな。
西園寺:ああ、私は神棚に近づいて御緒鍵(おおかぎ)を手に取る。
七条 :僕も神棚へ行きます。
丹羽 :なら、それに気づいた須藤も近寄って来た。昨夜は興味がなさそうだったが、間近で見る
機会は逃さないつもりらしい。郁ちゃんの隣からそっと御緒鍵(おおかぎ)を覗き込んだ。
西園寺:改めて御緒鍵(おおかぎ)に『目星』を振る。
七条 :僕もです。
丹羽 :ついでに郁ちゃんは『歴史』、七条は『クトゥルフ神話』を振ってくれ。
七条 :やはり神話生物絡みですか。でも、僕の『クトゥルフ神話』は5%しかありません。代わりに
『オカルト』では駄目ですか?
丹羽 :『オカルト』では何もわからねえな。
七条 :わかりました。5%に賭けます。
丹羽 :それから郁ちゃんが頼めば、須藤も『目星』と『歴史』を振るぜ。
西園寺:ならば、私は須藤にも意見を求める。
七条 :一応、民俗学者ですからね。
丹羽 :了解。
西園寺:目星(85)→65 成功
:歴史(55)→60 失敗
七条 :目星(50)→95 失敗
:クトゥルフ神話(5)→78 失敗
須藤 :目星(40)→65 失敗
:歴史(70)→65 成功
丹羽 :何か65ばっかりだな。
(失敗が多い割に情報の取り零しはねえ。運は郁ちゃん達にあるってことか)
七条 :5%は駄目でしたか。残念です。
西園寺:それは仕方がない。寧ろ、臣の『目星』がファンブルにならなくて良かった。
丹羽 :それじゃあ、結果を纏めて処理するぜ。昨夜は遠目で良くわからなかったが、御緒鍵(おお
かぎ)を手に取った郁ちゃんはそこに不思議な力が満ちてるのを感じた。生命力や活力み
たいなものだ。円盤に彫られてた模様は五枚の花びらを持つ花の様で、七条はそれが何か
に似てる気がしたものの、どこで見たのか思い出せなかった。そして、郁ちゃんに意見を聞
かれた須藤は不思議そうにこう言った。
須藤 :これは奇妙な模様ですね。最初は家紋かと思いましたが……
西園寺:違うのか?
須藤 :……断言は出来ませんが、これは何かを意匠化したものですね。
西園寺:それならば、蛍袋の花だろう。昨夜、その花が火垂祭の名前の由来になっていると村の
者から聞いた。
須藤 :ああ、成程……言われてみれば、これは花に見えますね。
七条 :(おや、これは花ではないんでしょうか?)
坂井さんはこの模様について何か言っていましたか?
須藤 :いえ、特には……火垂祭と同様、この模様も古くから村に伝わっているとしか……ただ、
坂井さんはこれを火を垂らす五弁の花の印と呼んでいました。さて、皆さん、私はそろそろ
昼食を作ることにします。夕方からが本番なので、食べないと身が持たないですからね。
丹羽 :そうして須藤は元気に部屋を出て行った。郁ちゃんは御緒鍵(おおかぎ)を神棚に戻すぜ。
丹羽 :郁ちゃん達と違ってこっちは描写が多いから手早く進めるぜ。ああ、それから二人とも、サ
ンキューな。お陰で、助かったぜ。
伊藤 :いえ、俺達も丁度良い時間潰しになりました。
遠藤 :でも、これからは気をつけて下さいね、王様。
丹羽 :わかってるって。
中嶋 :西園寺の機嫌が直っていたから向こうはそれなりに進展があった様だな。
丹羽 :まあな。その内、情報交換するだろう。それじゃあ、始めるぜ。十時になって坂井は提灯の
飾り付けをするために広場へと向かった。三人もそれに合わせて外出したが、まずはどこ
へ行くか決めてくれ。
中嶋 :その前に、細川の家はどこにある?
丹羽 :昨日の土手の近くだが、その辺りにいる村人に訊けば直ぐにわかる。ロール不要で知って
ることにして良いぜ。
伊藤 :中嶋さん、先に細川さんの家へ行くんですか?
中嶋 :いや、坂井の後について広場へ行く。
遠藤 :啓太、提灯が山に飾られたらもう調べられないからまずは広場へ行こう。
伊藤 :あっ、そっか。赤い提灯のこともあるんだった。
丹羽 :なら、三人が坂井に少し遅れて広場へ着くと、そこには既に村中の男達が集まってた。幾
つかの班に分かれ、それぞれ手に何枚かの地図と白や黄色、青やピンクなどの提灯を持っ
てる。坂井は班ごとに最後の確認をしてるぜ。ここからはRP(ロール・プレイ)で情報を引き
出してくれ。だが、もたついてると坂井達は山へ出発するからな。
中嶋 :時間制限か……お前がやれ、啓太。
伊藤 :えっ!? 俺ですか? そんな急に言われても……俺、どうしたら良いか……
遠藤 :大丈夫。難しく考えなくて良いよ。こういう場合、啓太ならどう行動する?
伊藤 :えっと……じゃあ、まずは誰かに声を掛けるかな。坂井さんは忙しそうだから近くの人に。
あの……これから山へ提灯を飾りに行くんですか?
丹羽 :話し掛けられた男は啓太を怪訝そうに見て無言で頷いた。
伊藤 :(何か警戒されてる。小さな村だから閉鎖的なのかもしれない)
大変ですね。俺達は昨日、この村に来たんです。今は坂井さんにお世話になってるので何
かお手伝い出来ることはありませか?
村人 :坂井さん? なら、秀人君を連れて来たのはあんた達かい?
伊藤 :あっ、それは……はい。
(中嶋さんがいるから嘘じゃないよな)
村人 :そうかい。お陰で、助かったよ。緒締役がいないと祭りにならないって坂井さんがずっと心
配してたからね。その気持ちだけで充分だよ。昔からこの仕事は村の男全員でやる決まり
なんだ。
伊藤 :そうなんですか。でも、山で迷ったりしないんですか?
村人 :何回もやって自分達が担当してる場所は覚えてるし、一応、地図もあるから大丈夫だよ。
丹羽 :そう言って男は啓太に山の地図を見せた。
伊藤 :ここは『目星』かな。
遠藤 :そうだな。俺も啓太の隣から興味深そうに地図を覗き込みます。
中嶋 :俺も『目星』を振る。
伊藤 :目星(65)→16 成功
遠藤 :目星(85)→64 成功
中嶋 :目星(79)→27 成功
丹羽 :(まあ、ここは普通に成功だよな)
三人が見た地図は土地勘のある村人しかわからねえ酷くいい加減な代物だったが、その
割りには取りつける提灯の色や場所が事細かに指定されてた。
遠藤 :KP(キーパー)、そこに赤はありますか?
丹羽 :いや、赤い提灯を付ける場所はどこにも書いてねえ。
伊藤 :なら、俺はそのことを村人に尋ねます。この地図には赤い提灯の場所がありませんが、ど
こに飾るんですか?
丹羽 :すると、村人は少し驚いた顔をして地図に視線を落とした。今まで気づかなかったらしく、
不思議そうに首を傾げるぜ。
中嶋 :広場の村人に『目星』を振る。赤い提灯を持っている者がいるかどうか知りたい。
丹羽 :それなら要らねえ。坂井が持ってるのが見える。
中嶋 :他に赤い提灯を持っている奴はいるか?
丹羽 :いや、坂井だけだ。
中嶋 :赤い提灯の意味を知っているのは坂井だけか。
遠藤 :……
(地図に赤い提灯を飾る場所はない。なら、坂井はそれをどうする気だ?)
伊藤 :どうしよう。坂井さんに訊いてみるべきかな。でも、昨夜の感じだと適当にはぐらかされる
だけな気がするし……う~ん、どうしよう……
丹羽 :(啓太には悪いが、これで切り上げるか……時間ねえしな)
啓太が地図を見てると、急に周囲が動き始めた。班ごとに山裾から道なき道へと入って行く
ぜ。啓太が話し掛けた村人も軽く会釈してその後に続いた。坂井も赤い提灯を持って一人
山へと向かった。
2015.1.30
シナリオの目的を西園寺さんに読まれたけれど、
それで生存出来るほど甘くないのがクトゥルフ(CoC)です。
KP(キーパー)の王様が仄暗い歓びを感じていそう。
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