丹羽 :……次は待機組だ。郁ちゃん達が山道付近に着いた頃まで時間を戻すぜ。時折、あの轟
音が聞こえるが、智子はやや落ち着きを取り戻した。まだ涙ぐんでるものの、ゆっくり起き上
がる。すると、大丈夫かい、とヨシが尋ねた。智子に何か訊きたいことがあるならRP(ロー
ル・プレイ)をしてくれ。
七条 :では、僕から……智子さん、漸く落ち着いたところ申し訳ないのですが、昨夜の夢について
少し教えて貰えませんか?
丹羽 :智子は拒絶する様に強く首を振るぜ。
七条 :思い出すのは辛いかもしれません。でも、僕はただの興味本位で訊いているのはありませ
ん。今、この村で起きている様々な出来事を解明するために必要だと考えているからです。
だから、協力して貰えませんか?
丹羽 :七条の言葉に智子はなおも頑なに首を横に振った。智子は坂井と秀人が行方不明になっ
たことは知ってるが、それと自分の見た夢は関係ねえと思ってるからその程度じゃ口を割ら
ねえな。
伊藤 :えっ!? 智子ちゃんは須藤さんの一件を知らないんですか?
丹羽 :ああ、ヨシも智子も昨夜からそれどころじゃなかったからな。
七条 :説得(15+10)→38 失敗
伊藤 :説得(40+25)→83 失敗
伊藤 :まただ。どうして今回は失敗ばっかり……
七条 :女神が少しお昼寝をしていたんですよ。あまり気にしないことです。気紛れな方ですから。
伊藤 :はい……それじゃあ、俺は智子ちゃんとヨシさんに知ってることを話しました。かくかくしか
じか。
七条 :いあ いあ くとぅるふ
伊藤 :……?
西園寺:臣、呪文で遊ぶな。
七条 :ふふっ、すみません。
丹羽 :(啓太のダイス運の反転が怖えな。その前に、せめて遠藤だけでも仕留める……!)
二人から火垂祭に秘められた意味を聞いた智子はあまりにも常識とかけ離れた内容に複
雑な表情を浮かべた。
智子 :あの……先生が嘘を言ってると思ってる訳じゃないけど……でも、私の右目にそんなもの
がいるとは……ねえ、お祖母ちゃんはどう思う?
細川 :そう、ね……
丹羽 :振られたヨシも曖昧に言葉を濁した。やはり簡単には信じられない内容なだけにヨシも返
答に困ってるらしい。そのとき、玄関のドアが開いて郁ちゃん達が戻って来た。三人は智子
の部屋へ真っ直ぐ入って来る。ここで全員、合流だ。情報を共有してくれ。
伊藤 :あっ、おかえりなさい
七条 :おかえりなさい。あの音の原因はわかりましたか?
西園寺:ああ、あれは車の音だった。そう言って私は智子とヨシの前でこれ以上のことは話せな
いと口を噤む。
七条 :それに気づいた僕はこう言います。大丈夫です。智子さんとヨシさんには僕達の知ってい
ることを総て話しました。まだ信じられない様ですが、頭ごなしに否定することはないと思い
ます。
西園寺:そうか……二人には確かに信じ難い話だろうが、信じて貰うしかない。状況は更に悪化し
た。何か強大な力が、この村から外へ出ようとする車を一つ残らず捻り潰している。村の入
口は車の残骸で一杯だ。
遠藤 :あれは恐らく火垂祭で封印している神話生物の落とし子の仕業です。封印が弱まって一部
が外に漏れ出したに違いありません。
丹羽 :それを聞いた智子がさっと蒼ざめた。呆然と呟く。
智子 :そん、な……なら、私が見たものは……私は、走ってる車を一台ずつ握り潰してた。中の
人ごと……あれが夢じゃなかったなんて……なら、まさか昨夜のあれも……そんな……
伊藤 :智子ちゃん、落ち着いて。ゆっくりで良いから、それはどんな夢だったか教えてくれる? そ
う言って俺は智子ちゃんの手をしっかりと握ります。
丹羽 :智子はまだ躊躇ってたが、胸に抱えた重みに堪えかねて途切れ途切れに言った。
智子 :昨日の晩、夢の中で……私は、知らない男の人を……殺し、ました……
細川 :ああ、智子や……
丹羽 :それを聞いたヨシが悲痛な声を上げた。智子は怯えた様に身を強張らせ、小さく俯いた。
伊藤 :(あっ、また黙り込まないよう智子ちゃんを励まさないと!)
KP(キーパー)、俺は智子ちゃんの手を更に強く握り締めます。
丹羽 :(う~ん、情報を引き出すにはちょっと甘いが……まあ、善しとするか。初心者だしな)
なら、啓太に励まされた智子は閉じ掛けた口をまた開いて話し始めた。
智子 :……その人は私の前に跪いて、何か必死に謝ってました。私は一歩ずつ、ゆっくりと近づ
いて……両手を、伸ばしました。でも、それは私のじゃなくて……まるで子供の様に小さな
手でした。私はその人の頬を優しく撫ぜました。すると、あの人は少しほっとした様に笑い
ました。その瞬間、私はあの人の両目に指を突き立てたんです……!
丹羽 :智子はそのときのおぞましい感覚を思い出したのか、自分をきつく抱き締めた。それでも、
わななく口唇からは堪え切れない鳴咽が零れて身体が小さく震えた。
中嶋 :その男はどんな姿をしていた? 年齢や背格好は?
智子 :……よく、覚えてません。だって、私は……あの人の身体に、闇を注ぎ込んでたんです。あ
の人は目から黒い何か……闇の色をした何か、を溢れさせて……その内、目以外のところ
からも……口や、鼻や、耳や……身体中のあちこちから、それがどんどん溢れ出して……
闇が、あの人の身体を破って溢れても……それでも、私は闇を注ぎ込み続けた。そうして、
いつの間にか……私の腕もその闇に包まれて……気がついたら、私は自分の布団の中に
いました。皆さんの話を聞くまで、ずっと夢だと思ってたのに……あれが夢じゃなかったなん
て! 私は、人を殺してしまったっ……!
丹羽 :終に智子は再び両手で顔を覆って激しく泣き始めた。ヨシも憐れな孫娘を抱き締めて涙を
流してる。もう何を訊いても、二人からまともな答えは返ってこねえ。さて、これからどうす
る? 何もねえなら場面を移すぜ。
七条 :二人は暫くそっとしておいた方が良さそうですね。
西園寺:ああ、時間を進めよう。
伊藤 :あっ、その前に中嶋さんの傷の手当をしたいです。俺は智子ちゃんから離れて、ふと中嶋
さんの傷に気がつきます。あれ? 中嶋さん、その腕はどうしたんですか?
中嶋 :掠り傷だ。問題ない。
伊藤 :一応、手当てさせて下さい。化膿したら大変ですから。
中嶋 :……好きにしろ。
伊藤 :はい。
伊藤 :応急手当(75)→7 成功
中嶋 :HP(14)→15
遠藤 :幸運(60)→19 成功
丹羽 :村の状況からもう時間がねえと判断した郁ちゃん達は明日、御緒鍵(おおかぎ)を交換す
るために封印の場所へ向かうことにした。村の灯光器は火垂祭で使用したまま、広場に放
置されてる。遠藤のは車のトランクだ。今はその二つを回収して分かれ道に来たところだ。
時刻は午後六時。辺りはかなり薄暗くなってるが、雨は殆ど上がってるぜ。右は坂井、左は
細川の家の方へと続いてる。どっちに行く?
伊藤 :俺は智子ちゃんをこのままにしておきたくないです。また変な夢を見るかもしれないし……
中嶋 :あれは夢ではない。恐らく智子の意識は落とし子と繋がっている。
西園寺:ああ、私もそう思う。可能ならば、今夜は全員で細川の家に泊まりたい。彼女を通して落と
し子の動向が掴めるかもしれない。
遠藤 :今や明日が無事にくるかもわからない状況ですからね。俺もその案に賛成です。
七条 :では、僕からヨシさんに頼んでみます。KP(キーパー)、電話を掛けます。
丹羽 :ヨシは五人が泊まることは二つ返事で了承するぜ。正直、自分一人ではもう智子をどうし
たら良いかわからねえから、願ってもねえ話にほっと胸を撫で下ろしてる。智子も啓太達が
いると心強いと言って歓迎するぜ。
伊藤 :良かった……あっ、着替えとかはどうしますか? 一度、坂井さんの家に戻りますか?
西園寺:いや、一晩ならば我慢しよう。
七条 :あまり夜は出歩かない方が良いですね。特に今は。
中嶋 :明日に備えて今夜は早めに休むべきだろう。
遠藤 :そうですね。睡眠不足でマイナス補正は付きたくないです。
丹羽 :なら、郁ちゃん達は細川の家で夕食を済ませると、回収した灯光器を充電して早々床に就
いた。翌朝、五人は夜明け前にきっちりと目を醒ました。窓から外を見ると、酷かった昨日
の雨は綺麗に上がり、東の空が仄かに白み始めてた。遠藤は御緒鍵(おおかぎ)を持って
急いで庭へ向かった。他の四人はその少し後ろを静かについて行く。遠藤は庭の中央に
立って東の空を見つめた。徐々に昇ってくる太陽に空が茜色に染まり、夜明けの近いことが
わかる。やがて山の輪郭が強く光ったかと思うと、眩しいほどの朝陽が一気に瞳に飛び込
んできた。夜明けだ。その光を全身に浴びながら、遠藤は清涼な空気を深く吸い込んだ。そ
して、落ち着いた声で覚えた呪文を詠唱し、円盤に彫られた火を垂らす五弁の花の印を右
手の指で三度……ゆっくりとなぞった。その瞬間、遠藤は身体の奥から何かが抜き取られ
る様な眩暈にも似た奇妙な感覚に襲われた。これで儀式は終了だ。以降、遠藤のステータ
スはこうなる。
遠藤 :POW(12)→7
:SAN(58)→53
:幸運(60)→35
2015.7.19
いよいよ封印することにした啓太達です。
王様の殺意も上がって準備は整いました。
皆、無事に帰って来れます様に……
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