えっ、と啓太は小さく声を上げた。
「暗黒ってどういうことですか? 秀人君じゃないんですか?」
 しかし、それを丹羽は片手で遮った。
「啓太、細かい解説は後だ。ここから一気に行くぜ」

丹羽 :暗黒という意味不明な言葉に戸惑う郁ちゃん達の前で秀人の周囲の闇が凝縮し始めた。
    何か黒い触手の様なものがざわざわとその背後に浮かび上がってくる。完全に顕現する前
    に逃げることを勧めるぜ。
伊藤 :逃げるって言っても、出口は秀人君の後ろですよね。それに秀人君も助けないと……
中嶋 :光で蹴散らす……西園寺。
西園寺:わかった。KP(キーパー)、投光器を秀人に向ける。
丹羽 :二つの強い光を浴びた秀人は苦しそうに身体を抱き締めた。すると、全身から煙の様に闇
    が滲み出できた。それは光の弱い天井付近で巨大な渦を巻きながら、徐々に粘性を帯びて
    固まり、ビチャビチャと気味の悪い音を立てて床へと滴り落ちる。足元に広がる黒いタール
    状の闇……やがてその表面がにわかに泡立ったかと思うと、鋭い触手となって郁ちゃん達
    に襲い掛かってきた。戦闘に入る前に、まずは0/1D6でSAN(正気度)チェックだ。
中嶋 :……
    (思ったより少ない……他にもまだ戦闘があるのか)


西園寺:SAN(84)→67 成功
七条 :SAN(73)→08 成功
中嶋 :SAN(53)→54 失敗 1D6→5
    :SAN(53)→48
    :アイデア(70)→31 成功 一時的狂気
遠藤 :SAN(52)→30 成功
伊藤 :SAN(54)→35 成功


(よし! 一人発狂した!)
 丹羽はグッと拳を握り締めた。はあ、と西園寺はため息をついた。
「またお前か……前回も最後で発狂したな」
「ええ、丹羽会長と壮絶なPvPをしてくれました。意外と豆腐メンタルなんですね。ああ、だから、それを隠そうと必死に虚勢を張っているんですか」
 漸く納得しました、と七条はしたり顔で頷いた。すると、中嶋は小さく口の端を上げた。
「ふっ、やっかみか。発狂はクトゥルフ(CoC)の華だからな。やはり貴様は主人について行くしか能のない犬ということだ」
「そこまでにしろ、二人とも。このままでは丹羽の思う壺だ」
 最初に話を振ってしまった西園寺は責任を感じて二人を窘めた。全く……互いに傷を抉り合うより協力すれば良いものを……

丹羽 :まあ、総ては女神の思し召しだからな。処理するぜ。一時的狂気の内容を決めるから中嶋
    は1D10を振ってくれ。それと、初発狂だから『クトゥルフ神話』を5%やるぜ。
中嶋 :……4だ。
丹羽 :意味不明な会話、あるいは多弁症だ。それじゃあ、戦闘に入る。いつもの様にDEX(敏
    捷)順に行動するが、今回は幾つか注意点がある。中嶋と七条以外は10%のペナルティ
    があるからDEX(敏捷)が1減少する。投光器を持ってる中嶋と郁ちゃんは更に1、足を怪
    我した七条は自動的に最後、支えてる啓太はその直前だ。最初から30%減の遠藤は基本
    12として、そこから10%分の1を引くと郁ちゃんと同じDEX(敏捷)11になるから、どっちが
    先にいくか話し合いかダイスで決めてくれ。それと、中嶋は戦闘を放棄してINT(知力)×5
    より高い数値、つまりロールに失敗したら、狂人の洞察力ってことで追加情報を出すぜ。
伊藤 :情報が貰えるなんて何かついてますね、中嶋さん。
遠藤 :KP(キーパー)、中嶋さんの結果を見てから順番を決めることは出来ますか?
西園寺:いや、お前が先で良い。中嶋が発狂した今、私は秀人が再び取り憑かれないよう投光器
    を動かす訳にはいかない。
遠藤 :わかりました。
丹羽 :なら、順番は中嶋、遠藤、郁ちゃん、闇の落とし子、啓太、七条だな。中嶋から行動を決め
    てくれ。あっ、智子と伸康は戦闘には参加しねえが、攻撃対象には入るから気をつけろよ。
中嶋 :戦闘を放棄して洞察力を発揮する。
丹羽 :振ってくれ。


中嶋 :INT(70)→14 成功


中嶋 :70%を失敗するのは難しかったか。
丹羽 :秀人から溢れ出た落とし子を見た中嶋は、冒涜的な闇にずっと精神を蝕まれてたせいで
    正気を失ってしまった。それじゃあ、発狂ロールだ。
    (持続時間は1D10+4だったな。今回は……7R(ラウンド)か。この戦闘中に復帰は無理
    だな)
中嶋 :はあ……一番嫌なやつだが仕方がない。では、俺は投光器を持ったまま、呆然と立ち尽く
    して独り言の様にぶつぶつと呟き始める。何だ、あれは……あの、総ての悪意を闇に込め
    て凝縮した様なおぞましいものは? 瞳に映すことすら冒涜的で、今にも地獄の業火に魂ま
    で焼かれそうになる。だが、同時に……ああ、俺はどうしようもなくあの闇に惹かれている。
    目を離すことが出来ない。あれは人知を超えた存在……世の理そのものだ。それを貧弱で
    矮小な取るに足らないただの人間が理解しようとするなどあまりに傲慢で、吐き気がするほ
    どおこがましい。そうか……これが、神か。
西園寺:しっかりしろ、中嶋!
伊藤 :中嶋さん、気をしっかり持って下さい!
    (うわっ、中嶋さんがこんなに話すなんて……しかも、何か意味が良くわからないところが凄
    い)
遠藤 :KP(キーパー)、御緒鍵(おおかぎ)で攻撃は出来ますか? 扉を封印する御緒鍵(おおか
    ぎ)なら少なくとも落とし子を退けられるはずです。
丹羽 :『アイデア』に成功したら、それを思いついたことにして良いぜ。
    (中嶋に喋らすつもりだったから判定なしでも良いが、やっぱり殺せるときに殺したいしな)
遠藤 :有難うございます。


遠藤 :アイデア(75-10)→88 失敗


丹羽 :残念だが、思いつかなかった。
遠藤 :なら、銃で攻撃します。ここに神話生物がいるとわかっていたのだから当然、俺は携帯して
    いるはずです。
丹羽 :(出発前に確認しなかったのはミスったな。まあ、銃は通じねえんだが)
    幸運判定なしで攻撃して良いぜ。但し、技能値は40%減だ。
遠藤 :撃ちます。


遠藤 :拳銃(80-40)→33 成功 1D10→2
    :拳銃(80-40)→59 失敗
    :拳銃(80-40)→36 成功 1D10→10
闇の落とし子:HP(??)→??


丹羽 :空洞に遠藤の銃声が響き渡った。二発当たったが、落とし子には殆どダメージを与えらな
    かった様に見える。具体的にはHP2減少だ。
遠藤 :装甲8ですか。中嶋さんが発狂している今、俺達だけで倒すのは不可能ですね。
    (やはり御緒鍵(おおかぎ)を使うことを思いつかないと無理か)
西園寺:私は秀人に投光器を向けたまま、その場で待機する。
丹羽 :次は落とし子の番だ。攻撃する。対象は……郁ちゃんだ。
    (ぐっ、ここで郁ちゃんを引くとは……)


闇の落とし子:触手(??)→23 成功


「くっ、回避する」
 西園寺は掌を握り締めた。すると、丹羽が言った。
「郁ちゃんは通常の『回避』の他に投光器を使った特殊な受け流し『ライト受け』が出来るぜ」
「何だ、それは?」
「『こぶし』かDEX(敏捷)×5の高い方で判定し、成功したらその攻撃に対して4D8の装甲を得て落とし子を撃退する優れものだ」
「装甲ということはダメージ判定があるのか」
「ああ、装甲を上回ったらダメージが入る。ちなみに、落とし子の攻撃は1D6+4D4だから強制はしねえ。普通に回避しても良いぜ」
 それを聞いた七条は僅かに眉をひそめた。
「ダメージ・ボーナス4D4は大きいですね、郁」
「確かに……出目が悪いとロストする危険がある。だが、落とし子を撃退出来なければ、私達はここで終わりだ。KP(キーパー)、『ライト受け』をする」
「DEX(敏捷)×5でロールしてくれ」
 丹羽は片手で西園寺を促した。

西園寺:DEX(55)→19 成功 4D8→21
1D6+4D4→21
西園寺:HP(12)→12


丹羽 :ほぼ最大値でダメージ0かよ。
西園寺:ふっ、まだ運は私達にあるらしいな。
丹羽 :なら、結果はこうなる。闇の落とし子は投光器を持つ郁ちゃんを狙って鋭い触手を放った。
    だが、それに気づいた郁ちゃんは咄嗟に光を触手の方へと向けた。その瞬間、触手は煮
    立った油の中に水滴を落とした様にボンッと爆発した。爆風に飛ばされねえよう足を踏ん張
    る郁ちゃんの前で、形を失った闇が力なくゆらゆらと天井へ昇ってく。倒したのか、と半ば呆
    然としてると、不意に秀人がくたりとへたり込んだ。
伊藤 :あっ、秀人君が……!
七条 :秀人君!
丹羽 :二人がそう叫んだ瞬間、今度は激しい地震が襲ってきた。それは立ってられねえほど凄ま
    じい揺れで、まるで生き物の様に黒い床が大きく波打った。全員は本能的に身を寄せ、互
    いに声を掛け合うぜ。
中嶋 :……っ……大きい!
伊藤 :う、うわっ……!
遠藤 :啓太っ……!
西園寺:皆、落ち着け!
智子 :きゃあ!
伸康 :お姉ちゃん!
七条 :気をつけて下さい!
丹羽 :為す術もねえ郁ちゃん達の足元で更に床が変化し始めた。全体が淡い銀を帯びた虹色に
    光って黒から徐々に乳白色へと変わってく。だが、少しも明るさを感じなかった。それどころ
    か、逆に空洞を満たす闇が濃くなり、全身の細胞が萎縮して頭の芯が凍りついた様に冷た
    くなってく気がする。そうして漸く地震が収まったとき、床は中央にある直径五メートルくらい
    の黒い円以外は総て白くなってた。
中嶋 :丹羽、俺はまだ発狂しているのか?
丹羽 :いや、もう回復してるぜ。
中嶋 :なら、我に返った俺は直ぐ投光器で周囲を照らして警戒する。
西園寺:私は秀人に投光器を向ける。
遠藤 :俺は全員の無事を確認してから啓太に話しかけます。大丈夫か、啓太?
伊藤 :う、うん……少し怖かったけど……あっ、智子ちゃんと伸康君は大丈夫?
智子 :はい、先生……
伸康 :あっ、僕も大丈夫です。
七条 :僕は床を見回して呟きます。これは、一体……
丹羽 :すると、中央の円が音もなく、すうっとこちらへ向かって来た。それは、まるで平らに磨かれ
    た氷の下を巨大な魚が泳ぐ様に滑らかで郁ちゃん達の足元でピタッと止まった。全員で『ア
    イデア』だ。
西園寺:……これは成功しても良いことはなさそうだな。


西園寺:アイデア(75-10)→72 失敗
七条 :アイデア(60-20)→09 成功
中嶋 :アイデア(70)→73 失敗
遠藤 :アイデア(75-10)→70 失敗
伊藤 :アイデア(75-10)→06 成功


七条 :ああ、終に成功しました。
伊藤 :……
    (七条さんが喜ぶってことは……ううっ、何か嫌な予感が……)
丹羽 :(う~ん、二人だけか)
    成功した七条と啓太は自分達が立ってるのは信じ難いほど巨大な眼球の上で、足元の黒
    い円はそいつの黒目だと気づいてしまった。
伊藤 :えっ!? 目なんですか、これ! なら、本体はどれだけ大きいんだろう。
丹羽 :おっ、そう思うか?
七条 :KP(キーパー)、今のはPL(プレイヤー)発言です。伊藤君、PC(プレイヤー・キャラクタ
    ー)がそれを口にしたら駄目ですよ。
伊藤 :あっ、つい……気をつけます。
遠藤 :自分の性格に準じていると、境界が曖昧になり易いからな。啓太はまだ二回目だから仕方
    ないよ。
中嶋 :本体は直葬レベルだ。お前は余計なものを見るな。
丹羽 :初心者相手にそこまでしねえよ……って、話が逸れたが、七条と啓太は0/1D4でSAN
    (正気度)チェックしてくれ。


七条 :SAN(73)→71 成功
伊藤 :SAN(54)→36 成功


 良かった、と啓太は胸を撫で下ろした。一方、七条は大きく肩を落とした。
「はあ……どうして僕のSAN値は削れないんでしょう。これでは、いつまで経っても発狂出来ません」
「その方が良いじゃないですか。その分、怖い目に遭わなくて済むんですよ」
「啓太、臣は『クトゥルフ神話』が欲しいだけだ」
 西園寺が呆れた様に言った。丹羽が二人に尋ねた。
「このことを皆に話すか?」
「話したらSAN(正気度)チェックがありそうなのでしません」
 啓太は小さく首を振った。七条が中嶋を見やってそれに同意する。
「その方が良いですね。一人、不定に陥りそうな人がいますから」
「……」
 中嶋は無言で煙草に火を点けた。

丹羽 :それじゃあ、再開する。足元の黒い円を訝しむ間もなく、今度は直径三メートルはありそう
    な黒い柱が上から生えてくる様にドスン、ドスンと幾つも降りてきた。何か探してるのか、そ
    こから更に触手を伸ばして空洞内を縦横無尽にまさぐり、盲目的に暴れ回ってる。上を見る
    なら止めはしねえが、中嶋はあと5減ったら不定の狂気だからな。
西園寺:つまり、SAN(正気度)チェックがあるということか。だが、私ならば見るだろうな。
七条 :僕も痛む足を堪えて何とか上を確認します。
伊藤 :俺は気になるけど、七条さんを支えてるし、智子ちゃんや伸康君もいるからそんな余裕は
    ないです。
遠藤 :俺はそんな啓太を庇いながら、天井を見ます。
    (これが最後のチェックとは思えないが、啓太の前で情けないRP(ロール・プレイ)は出来な
    い)
中嶋 :……俺も見る。見ないという選択肢はない。
丹羽 :おっ、中嶋はSAN値を投げ捨てるか。なら、上を見た四人はこの黒い柱は天井にびっしり
    生えてた鍾乳石らしい氷柱が急に伸びたものだとわかった。総て動き始めたら自分達など
    一瞬で吹っ飛んでしまうだろう圧倒的な力の差に愕然としながら、SAN(正気度)チェック
    だ。今シナリオ最大の1/1D10だぜ。
伊藤 :うわっ、大きい。
    (俺、見なくて良かったけど、誰か発狂しそう……)


西園寺:SAN(84)→92 失敗 1D10→7
    :SAN(84)→77
    :アイデア(75-10)→08 成功 一時的狂気
七条 :SAN(73)→20 成功
    :SAN(73)→72
遠藤 :SAN(52)→57 失敗 1D10→9
    :SAN(52)→43
    :アイデア(75-10)→73 失敗
中嶋 :SAN(48)→34 成功
    :SAN(48)→47


伊藤 :西園寺さんが……!
西園寺:ふっ、私も終に発狂か。
遠藤 :危なかった……
丹羽 :ごっそり逝ったな、二人とも。それじゃあ、初発狂の郁ちゃんには『クトゥルフ神話』をもれな
    く5%プレゼントするぜ。更に一時的狂気の内容を決めるから1D10でロールしてくれ。
西園寺:……6だ。
丹羽 :やったな、郁ちゃん! 一時的狂気の中でも最高の華……殺人癖、もしくは自殺癖だ。
西園寺:くっ……ここまで来て……
七条 :郁……
丹羽 :これがくると、クトゥルフ(CoC)って気がするよな。出発前に武器のチェックはしなかった
    が、郁ちゃんはナイフを持ってたから遠藤と同じく使用を許可する。好きにRP(ロール・プレ
    イ)してくれ。
    (郁ちゃんの狂気は13R(ラウンド)か……長いな)
西園寺:……では、天井を見た私はその光景に絶望し、おもむろに投光器を下に置く。
七条 :それに気づいた僕は郁に声を掛けます。どうかしましたか、郁?
西園寺:……あんなものに、どう対処すれば良い。私達が幾ら抗ったところで一瞬で踏み潰される
    だけだ。そんな無様で醜い死を迎えるくらいならば……そう言って私は上着のポケットから
    ナイフを取り出す。
七条 :郁!?
伊藤 :さ、西園寺さん!
丹羽 :よし! ここから触手との戦闘に入るぜ。順番は先刻と同じだ。頑張って生き残ってくれ。



2015.10.2
鉄壁の西園寺さんが終に崩れました。
ダイスの女神が望むのは生か死か……
王様が怖いです。

r  n

Café Grace
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