西園寺:では、これより戦闘に入る。今回はナイアが先制攻撃をするので、ハウス・ルールを含め
    た主な戦闘ルールを提示しておく。行動はDEX(敏捷)の高い順に、啓太、臣、丹羽、遠
    藤、中嶋の順に行う。但し、ナイアは有する特殊技能の効果により必ずR(ラウンド)の最初
    に行動する。回避は行動とは別に1R(ラウンド)につき一回、クリティカルはダメージのみ二
    倍、ファンブルは場面に相応しいものを適宜、KP(キーパー)が判断する。拳銃についてだ
    が、今回はR(ラウンド)の冒頭に一発、自分の手番で二発まで撃てるものとする。但し、撃
    ち尽くすと装填に1R(ラウンド)掛かる。また、拳銃にのみスペシャルを適応する。
遠藤 :先刻のナイアの攻撃は今のR(ラウンド)に入りますか?
西園寺:ああ、一周すれば再びナイアから攻撃する。それはお前の『拳銃』より先だ。
遠藤 :なら、何とかこのR(ラウンド)で決着をつけたいですね。ナイアに向けて発砲します。
西園寺:悪臭のため10%減だ。


遠藤 :拳銃(40-10)→23 成功 1D10→3
ナイア:HP(??)→??


西園寺:突然、銃声が響き渡り、ナイアの小さな身体が大きくよろめいた。肩に被弾し、顔が苦痛
    に歪む。
ナイア:あっ、ぐっ……!
丹羽 :本物か、と俺は驚いて遠藤を振り返るぜ。
七条 :咄嗟に耳を塞ぎます。
西園寺:次は啓太だ。
伊藤 :待機します。ただ、じっと和希を見てます。
七条 :なら、僕の番ですね。自分に『医学』を使います。このままでは次の攻撃で気絶です。


七条 :医学(80-10)→24 成功 1D3→1
    :HP(8)→9


七条 :背中の傷は自分では難しかった様です。
西園寺:初めて聞いた銃声に動揺したのかもしれないな。
丹羽 :次は俺だな。ナイアに『こぶし』でノックアウト攻撃をする。


 待て、と中嶋が口を挟んだ。
「その行動は矛盾している。お前のPC(プレイヤー・キャラクター)は力尽くには反対だったはずだ」
「これは暴力じゃねえ。普通のタクシー運転手なら、先刻の攻撃は魔術ではなく危険な悪戯と思う方が自然だ。なら、それを止めようと手ぐらい出るだろう」
 すかさず丹羽は反論した。しかし、中嶋は引かなかった。
「親ならまだしも、他人が叩いて叱るとは考え難い」
「いや、そんなの普通だろう。俺は子供の頃、近所の友達と一緒になって悪戯してたら、何度も二人仲良く親父の拳骨を食らったぜ」
「子供にそんなことをするのはお前の親くらいだ」
「なら、お前の親はどうだったんだよ、中嶋?」
「俺は親に怒られる様なことはしなかった」
「それは答えになってねえ」
 徐々に話の論点がずれてきたので西園寺が素早く修正した。
「躾けと暴力の線引きは難しい問題だが、今は置いておけ。丹羽の行動を許可する。ダイスを振れ」
「サンキュー、郁ちゃん、話のわかるKP(キーパー)だぜ」

丹羽 :こぶし(60-10)→09 成功 1D3→1
ナイア:HP(??)→??


西園寺:最小値か。ナイアは回避しないので、こうなる。ナイアが危険な悪戯をしていると思った丹
    羽は急いで階段を駆け上がった。もうやめろ、とナイアの頭を拳で軽く叩く。すると、銃創で
    半ば意識が朦朧としていたナイアはあっさり気絶してしまった。戦闘終了だ。
丹羽 :うわっ、と驚いてナイアを抱えて慌ててホールに戻る。取り敢えず、沙耶から少し離れた場
    所に横たえて七条を呼ぶ。おい、しっかりしろ……七条先生、こっちも頼む!
七条 :わかりました、と僕は急いでナイア君の傍へ行って『医学』で傷を手当します。


七条 :医学(80-10)→91 失敗


西園寺:この描写をする前にホールでの立ち位置を確認したい。目安としては階段の傍にナイア、
    沙耶は玄関近くに横たわっている。各自、申告しろ。
七条 :僕は手当のためナイア君の直ぐ傍にいます。
丹羽 :俺はその様子を見てるから二人の近くにいるぜ。
中嶋 :玄関寄りにいる。沙耶の横辺りだ。
伊藤 :俺も玄関の方が近いです。沙耶さんの少し前くらいにいます。
遠藤 :俺はナイアと沙耶の中間ほどに立っています。
西園寺:成程……では、ナイアの傷を診た臣は銃創は初めてで巧く手当は出来なかったものの、
    弾は肩を浅く貫通しているので生命に別状はないと判断した。また、ナイアに近い丹羽と臣
    は例の悪臭が傷口から強く漂ってくるのを感じた。
丹羽 :おい、まさか……
    (こいつもかよ)
西園寺:それ以上は『アイデア』だ。
丹羽 :振るぜ。
七条 :僕も振ります。
西園寺:10%減でロールしろ。


丹羽 :アイデア(65-10)→67 失敗
七条 :アイデア(70-10)→95 失敗


七条 :二人とも失敗ですか。
丹羽 :この取り損ないは痛いな……くそっ。
西園寺:ある意味、屋敷の悪臭に慣れてしまった丹羽と臣は特に何も気づかなかった。
七条 :仕方ありません。なら、僕は振り返って皆に言います。取り敢えず、止血しました。後は病
    院できちんと手当てすれば大丈夫と思います。
丹羽 :良かった。一時はどうなることかと思ったぜ。
遠藤 :それを聞いた俺は無言でナイアに近づきます。
丹羽 :ナイアと七条には近づかせねえ。その間に割って入る。警戒しながら、遠藤に尋ねるぜ。
    何をする気だ?
遠藤 :……そいつを起こす。
丹羽 :駄目だ。子供を平気で撃つなんてとても正気とは思えねえ。今度は拷問でもする気か。
遠藤 :邪魔をするな。神父様にはもう時間がない。そう言って王様を押しのけます。
丹羽 :遠藤の腕を掴んで止める。必要なら『組みつき』を振るぜ。
中嶋 :その必要はない。俺は遠藤に声を掛ける。遠藤、これを使え。そうして小さなドリンク剤を
    ポケットから取り出す。
遠藤 :それは……?
中嶋 :中に自白剤が入っている。拷問より確実だろう。
丹羽 :おい、自白剤って……
遠藤 :有難うございます。助かります。俺は王様の手を振り払って中嶋さんからドリンク剤を受け
    取ると、上着のポケットから包帯を出します。
西園寺:銃はどうする?
遠藤 :まだナイアを警戒しているので、手に持っています。
西園寺:その状態でナイアを縛るつもりならば、何らかの判定が必要になるぞ。
遠藤 :なら、脅す様に銃を見せながら、王様に包帯を渡して言います。これでそいつを縛れ。
丹羽 :内心、俺は遠藤に対してかなり不満だが、それには素直に従う。逃げられたら困るから
    な。ただ、銃はあまり見ない様にする。
七条 :僕は邪魔にならないよう立ち上がってナイア君から少し離れます。
西園寺:では、丹羽はナイアを包帯で後ろ手に縛り始めた。すると、その振動でナイアが意識を取
    り戻した。
ナイア:……人間ども、拘束を解け……大変なことになるぞ。
遠藤 :早く縛れ。
丹羽 :……悪いが、少し大人しくしててくれ。
ナイア:……っ……僕にこんなことして……ただで済むと、思ってるのか。
遠藤 :ナイアの意識がはっきりする前に傍に跪いてドリンク剤を飲ませます。
西園寺:では、その際、遠藤もナイアから例の悪臭を嗅ぎ取った。10%減で『アイデア』を振れ。


遠藤 :アイデア(65-10)→69 失敗


西園寺:啓太のことで頭が一杯だったお前は悪臭など気にもせず、ナイアの口に無理やりドリンク
    剤を流し込んだ。
ナイア:うっ……ぐっ……ごほっ、ごほっ……一体、何を――……
西園寺:その言葉が言い終わらない内に、ナイアの意識は朦朧としてきた。身体から力が抜けて
    虚ろな瞳で遠藤を見上げる。今なら質問に素直に答えるだろう。
遠藤 :なら、ナイアの顎を捉えて言います。神父様の印を剥がせ。
ナイア:……嫌、だ。
遠藤 :なぜだ?
ナイア:剥がせば……幸哉が、襲われて……僕が困る……
伊藤 :(皆がいるけど、ナイア君を誘うには良いタイミングかも)
    KP(キーパー)、俺はナイア君に近づいて優しく声を掛けます。心配は要りません、ナイア、
    今後は私が貴方を保護します。貴方と私なら、きっと友好的な関係を築けます。共に我が神
    の下へ参りましょう。
中嶋 :(少し露骨だな)
    神父、お前は子供の面倒まで見るつもりか。そんな奴は放っておけば良い。
伊藤 :えっ……?
中嶋 :態々お前が手を出さなくとも、子供は勝手に生きていく。
伊藤 :(ナイア君を仲間にするって先に伝えておいたのに、どうして逆のことを……)
    中嶋さん、ナイアはまだ子供です。子供には保護者が必要です。
中嶋 :後小路がいる。
伊藤 :残念ながら、今の氏はそれを務められる精神状態にありません。遅かれ早かれ、ナイアは
    行き場をなくしてしまうでしょう。私の前で子供を路頭に迷わす訳にはいきません。だから、
    私は後小路氏からナイアを引き取ろうと思います。我が神も、きっとそれを望んでいるはず
    です。
七条 :さすが神父様……何と慈悲深い。
    (伊藤君達を少し不審に思っていても、子供を前面に出されると、僕のPC(プレイヤー・キャ
    ラクター)は流されてしまいますね)
丹羽 :(中嶋の茶番に乗りたくはねえが、啓太の真意を疑うにはまだ情報が足りねえ。こんなとき
    でなかったら、『心理学』を振れるんだが)
    俺は焦れて横から話に割り込むぜ。ナイアの身の振り方なんて俺のPC(プレイヤー・キャラ
    クター)には興味ねえからな。ナイアを問い詰める。おい、母体の居場所を教えてくれ。
西園寺:ナイアは朧な瞳を啓太から丹羽へと向けた。
ナイア:……地下、室……山梨、の……別荘……
丹羽 :それだけじゃわからねえ。どうやって行くんだ?
西園寺:すると、ナイアは身を捩って立ち上がろうとした。しかし、後ろ手に縛られているため肩の
    傷を床にぶつけてしまった。
ナイア:ううっ……!
丹羽 :やめろ。無理するな。立ちたいのか?
西園寺:ナイアは傷の痛みが酷いらしく、暫く呻いていたが、やがて微かに頷いた。
丹羽 :ほら、手を貸してやるから……ゆっくり立て。
西園寺:丹羽に起こして貰うと、すぐさまナイアは口の中で何かもごもごと呟いた。次の瞬間、ナイ
    アを後ろ手に拘束していた包帯が風の刃で切り刻まれた。丹羽の手を振り払って不敵な微
    笑を浮かべる。
ナイア:……ふん、あんな薬程度で僕を封じたつもりだったのか。片腹痛え。
中嶋 :痛みで正気に戻ったか。
遠藤 :ナイアに銃口を向けます。
ナイア:や、やめろよ、そういうのは……
西園寺:ナイアは怯えた様に小さく身を震わせた。異能の術を操りながらも、原始的な力に対して
    はやはり何かしらの恐怖を覚えるらしい。
丹羽 :おい、やめろ! 相手はまだ子供だぞ!
遠藤 :黙れ。先刻も言ったはずだ。神父様にはもう時間がない。そいつが印を剥がすまで、俺は
    容赦しない!
丹羽 :あんた……正気じゃねえ。
伊藤 :遠藤さん、銃を下して下さい。私の身を案じる貴方の気持ちは嬉しく思いますが、再びナイ
    アを撃つことは絶対に許しません。
遠藤 :ですが、神父様、私は貴方のためを思って――……
伊藤 :遠藤、私の声が聞こえませんでしたか?
遠藤 :……っ……わかり、ました。渋々銃を下します。
ナイア:……お前、今まで見てきた中で一番面白い人間だな。お前の言葉には力がある。
伊藤 :静かに微笑みます。
西園寺:そんな啓太をナイアはじっと凝視した。
ナイア:沙耶を連れて来た交換条件は母体の居場所だったな……良いぜ。気に入ったから教えて
    やる。先刻、山梨の別荘ってのは言っただろう。今、幸哉もあそこにいる。だが、あの別荘
    は辺鄙な山の中にあるから車がねえと行くのが大変なんだ。だから、僕は幸哉に内緒で次
    元を繋いで道を作った……あれがそうさ。
西園寺:そう言ってナイアは背後を顎で指した。ナイアの後ろには二階へ続く階段があり、それは
    吹き抜けの玄関ホールを中心に綺麗な対称を描くよう踊り場で左右に分かれていた。壁に
    は唐草模様の額縁に入った古い大きな鏡が掛かっている。お前達が怪訝な表情を浮かべ
    ていると、再びナイアが口の中で何かを呟いた。瞬間、鏡面が虹色に波打った。
丹羽 :な、何だ!?
ナイア:今、入口を開いた。あの奥を真っすぐ進めば、幸哉と母体のいる隠し部屋へと行ける。
丹羽 :鏡を抜けると、山梨って言うのか? そんなの信じられる訳ねえだろう。
ナイア:嘘だと思うなら、車で行けば良い。片道、半日は掛かる小旅行になるぜ。そして、自分で隠
    し部屋を探すんだな。まあ、お前じゃ見つけられねえがな。
丹羽 :本当、一々腹の立つ言い方をする子供だぜ。
七条 :……どうして急に協力的になったんですか?
ナイア:神父が気に入ったって言っただろう。それに……もう幸哉に協力する理由がなくなった。
七条 :理由……?
ナイア:ああ、僕が幸哉に協力してた理由は一つ……面白かったからさ。そもそも、今回の沙耶捕
    獲作戦は僕の単独行動なんだ。奴の案じゃねえ。
西園寺:ナイアは言葉を切ると、小さなため息をついた。
ナイア:幸哉はもう色々諦めてしまったんだ。そんなのつまんねえよ。沙耶を生き返らせようと叶わ
    ぬ希望に縋って馬鹿みたいに足掻くあいつの姿が僕は好きだったのに。新鮮な沙耶の細
    胞が手に入ったら、もう一度、それが見られると思った。あ~あ、完全な無駄足さ。まさに滑
    稽の極みだ。
丹羽 :俺達はそれに振り回されたって言うのか。大人を甘く見るんじゃねえ。思わず、俺は拳を振
    り上げる。
七条 :慌てて止めます。丹羽さん、相手は怪我人です。
丹羽 :おっと、そうだった……と俺は何とか怒りを呑み込む。だが、ナイアの顔を見てるとまた腹
    が立つから半信半疑で踊り場へ向かうぜ。
西園寺:すると、ナイアが呼び止めた。
ナイア:待ちなよ。行く前にこれを読んだ方が良い。前に幸哉が落としたのを僕が拾ったんだ。
西園寺:ナイアは上着のポケットから少し擦り切れた分厚い手帳を取り出した。それを丹羽に放
    る。受け取るか?
丹羽 :ああ。
中嶋 :恐らくこれが最後の情報だな。
遠藤 :KP(キーパー)、皆で王様の周りに集まって手帳を覗き込みます。
丹羽 :全員を見回してから俺はゆっくり手帳を開く。何が書いてある?
西園寺:最初のページには癖のある字で沼男(スワンプ・マン)の生態と書かれていた。次からは
    沼男(スワンプ・マン)に関する様々な情報が手書きでびっしり記されている。だが、その殆
    どはお前達が既に知っている情報か、完璧な沼男(スワンプ・マン)を製造するための試行
    錯誤の記録だった。丹羽は所々読み飛ばしながら、静かにページを繰った。そして、最後に
    興味深い記述を見つけた。


沼男(スワンプ・マン)となった以上、母体の声に抗うことは決して出来ない。それは本能そのものだ。裏を返せば、沼男(スワンプ・マン)を沼男(スワンプ・マン)たらしめるのは母体の存在ということになる。だが、一つの個体に全体が依存しているのは生命体としてはかなり脆弱だ。もし、母体が死ねば、沼男(スワンプ・マン)は沼男(スワンプ・マン)たる要素を失ってしまう。それは人に戻ることと同義だ。

……尤も、それを人と解するかは意見の分かれる話だが。


丹羽 :……つまり、あれか。母体を殺せば、沼男(スワンプ・マン)は人に戻る。
七条 :そんな……
ナイア:ふっ、ふっ、ふっ、読んで良かっただろう。これを知った上でお前達を行かせた方がずっと
    面白いことになりそうだからな。まあ、幸哉には気をつけな。最後の悪足掻きで何かしてる
    みたいだったからな。じゃあな、ゴミ屑ども。これからも精々僕を楽しませてくれよ。
西園寺:そう言うと、ナイアはまだ倒れている沙耶の横を通って玄関の扉に手を掛けた。一瞬、躊
    躇った後、僅かに視線を後ろへ流す。
ナイア:神父、もし、お前が生きて帰れたら……いや、何でもねえ。ただ、これだけは忘れるな。沼
    男(スワンプ・マン)は、どこまでいっても沼男(スワンプ・マン)だ。
西園寺:再び前を向いたナイアは今度は軽快な足取りで屋敷から出て行った。



2017.2.10
シナリオが終盤になり、
犯罪者組は容赦がなくなってきました。
啓太でなく、
王様と七条さんが良心です。

r  n

Café Grace
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