七条 :星の精の血を付けた弾を込めた銃を分配しながら、撃つ際の手順を確認した貴方達はい
    よいよ北の部屋へ向かうことにしました。その繊細な装飾の施された扉は明らかに他とは
    違う雰囲気を漂わせています。ここからはRP(ロール・プレイ)で一人ずつ自由に入って下さ
    い。
丹羽 :(自由に……?)
    なら、入る前に俺は中嶋と啓太を見て言う。二人はこの部屋は初めてだよな。中は正面の
    壁が鏡張りになってる。中嶋にはまだきついだろうが、覚悟しておいてくれ。
中嶋 :……ああ。
西園寺:最悪、中嶋は目を瞑っていれば良い。そうすれば、後は私達が何とかする。
伊藤 :大丈夫です、中嶋さん、俺が付いてますから。
遠藤 :万が一に備えて俺も傍にいるよ、啓太。
伊藤 :有難う、和希。
丹羽 :よし! それじゃあ、目隠しも兼ねて俺が先に行くぜ……と、言って俺は扉を開けて中に入
    る。
西園寺:私はその後に続く。丹羽ほどのSIZ(体格)はないが、中嶋の視界に入る鏡は出来る限り
    減らしたい。
中嶋 :俺は最後で良い。先に行け、啓太。
伊藤 :それなら……和希、先に行ってよ。俺は念のため中嶋さんの傍にいるから。
遠藤 :中嶋さんは鏡を見ない限り大丈夫。それよりも部屋の中に人の壁を作った方が良い。だか
    ら、啓太、俺、中嶋さんの順で入ろう。
    (操られている可能性の高い中嶋さんに啓太の背後は取らせたくない)
伊藤 :そっか……うん、わかった。
中嶋 :KP(キーパー)、俺はPOW(精神力)判定に失敗しているが、その描写はどうなる?
七条 :ああ、そうですね。では、鏡を目にした瞬間、貴方は軽い目眩を覚えて足を止めました。
    (ここでダミーで振って何か判定した様に見せかけましょう)
遠藤 :中嶋さんに『目星』をします。前にいる俺は中嶋さんの異変に直ぐ気づくはずです。
伊藤 :俺も中嶋さんを気にしてるので振りたいです。
七条 :遠藤君はそのまま、伊藤君はSIZ(体格)16の遠藤君に遮られているので30%減です。
伊藤 :えっ!? そんなに……


遠藤 :目星(88)→22 成功
伊藤 :目星(65-30)→41 失敗


伊藤 :補正がなかったら成功だったのに……和希、大き過ぎ。
遠藤 :ははっ、ごめん。
七条 :では、遠藤君は特に異変は感じませんでした。伊藤君は遠藤君が邪魔で良くわかりませ
    んでした。
遠藤 :(妙だな。中嶋さんは鏡に動揺しているはず。『目星』でわからないはずは……)
    『心理学』をお願いします。
七条 :クローズドで振ります。
中嶋 :待て。その前に俺は遠藤を見て言う。行動には気をつけた方が良い……お前が深淵を覗
    くとき、深淵もまたこちらを覗いている。
遠藤 :KP(キーパー)、今の『心理学』を取り消します。
    (先刻のHO(ハンドアウト)で敵対したか)
七条 :わかりました。
中嶋 :最後に部屋に入った俺は後ろ手に扉を閉めて寄り掛かる。必要以上に前へは出ない。
西園寺:……
    (まるで私達の退路を断っている様だな)
伊藤 :あの……中嶋さんはPOW(精神力)で再判定しないんですか?
七条 :ああ、それなら自動成功です。先ほどシークレットで判定しました。
伊藤 :あっ、そうなんですね。
    (先刻のダイスかな。でも、失敗したら入れないって言ったのに……)
七条 :描写を続けます。貴方達が中へ入ると、左の人形の山に座っていたクマさんが声を掛けて
    きました。
クマ :おかえり。意外と早かったね。
丹羽 :ああ、こんなのはさっさと終わらせる。いつまでもお前の趣味の悪いゲームに付き合う気は
    ねえ。
クマ :心外だな。これでも僕は結構、人気があるんだよ。それに寛大だから今の言葉は聞き流し
    てあげる。でも、いつまでも事実から目を逸らしてるのは良くないと思う。ここへ来る前の記
    憶の欠落が何を示してるか、もう気づいてるよね。
丹羽 :……やめろ。
クマ :君達の中に、裏切り者がいる。
丹羽 :てめえ……!
西園寺:落ち着け、丹羽、この程度で煽られるな。
クマ :ふふっ、ここで見つけたメモには二種類の文字が書かれてた。一つは僕が、もう一つはそ
    の裏切り者が書いたんだ。だから、ちゃんと水晶玉で確認しないと、仲間面した裏切り者に
    何をされるかわからないよ。
西園寺:私達を疑心暗鬼に陥らせようとしても無駄だ。確かに私達の中には一部、記憶の欠落が
    ある。だが、これまで裏切りと言うほどの悪意を感じたことはなかった。恐らくメモを書くため
    に一時的に操られたのだろう。それを今、お前が大袈裟に煽っているだけだ。
クマ :つまり、裏切りはないと……?
西園寺:ああ。
伊藤 :……
    (凄いな、西園寺さん。PL(プレイヤー)の思考を上手くPC(プレイヤー・キャラクター)に落
    とした)
クマ :あ~あ、互いに疑心暗鬼になるのも面白いかなって思ったのに、直ぐバレちゃった。やっぱ
    りちゃんと計画しないと駄目だね。なら、もう僕は観客に徹することにするよ。後は任せたか
    ら。君達が僕のゲームを正しく読み解くことを願ってる。Good Luck!
七条 :言いたいことだけ言うと、クマさんは普通のぬいぐるみの様に小さな両手を前に出した格
    好で動かなくなりました。さて、何かやりたいことのある人はいますか?


「クマの持っていた箱はどこにありますか?」
 和希が尋ねた。すると、七条は意味ありげに微笑んだ。
「非対称の黄色い箱なら『目星』を振れば見つかるかもしれません」
 すかさず丹羽が口を挟む。
「余計なことはするなよ、遠藤」
「わかっています、そこまでして探す気はないので」
 そうか、と丹羽は安堵した。クマの正体を示すあの箱の意味を正直、まだ決めかねていた。素直にKP(キーパー)のヒントと見るべきか。それとも、罠か……
(やっぱり露骨過ぎだよな。七条もメタ読みは考慮してるはず……あれは俺達を牽制するためとしか思えねえ)
 迷った末にそう判断した丹羽は、情報の取捨選択もクリアには欠かせないと、きっぱり考えるのをやめた。啓太が小さく手を上げる。
「KP(キーパー)、俺は持ってる水晶玉を使おうとします。でも、それを和希に止めて貰います」
「先刻、話していたことですね。なら、そこは少しRP(ロール・プレイ)をして貰いましょうか、面白そうですし」
「えっ!? そんな大したことは出来ないですよ」
 期待を感じて啓太は困惑の色彩(いろ)を浮かべた。ふふっ、と七条は笑った。
「難しく考える必要はありません。ただ、TRPGには茶番も必要というだけです」
「……? わかりました」

伊藤 :えっと……それじゃあ、クマちゃんの話を聞いてる内に不安になった俺はこっそり水晶玉を
    取り出します。
遠藤 :それに気づいた俺は声を潜めて尋ねます。どうした、啓太?
伊藤 :……クマちゃんの言う裏切り者って俺かもしれない。水晶玉を使ったとき、映った記憶が俺
    のだけ何か中途半端だっただろう。まるでまだ続きがある様な……
遠藤 :啓太は裏切り者ではないよ。
伊藤 :なら、操られてたのかも……
遠藤 :それもない。今は話せないけれど、俺はその人物に心当たりがある。だから、啓太は大丈
    夫と保証するよ。
伊藤 :……本当?
遠藤 :ああ。
伊藤 :良かった。和希がそう言うなら――……
中嶋 :お前はその言葉を信じるのか?
伊藤 :えっ!?
中嶋 :もし、遠藤が裏切り者なら、お前に水晶玉を使わせたくはないだろう。現時点でお前は、謂
    わばグレー……裏切り者としては、お前まで白となるのは避けたいはずだ。だから、お前を
    止めようとしている。そうは思わないか?
伊藤 :和希はそんな……
    (中嶋さん、どうして急にそんなことを……)
遠藤 :俺は裏切り者ではありません。ただ、啓太にはこれから為すべきことに集中して欲しいの
    で、余計な情報は必要ないと思っただけです。
中嶋 :自分の行動を知って安心するのは余計な情報ではないだろう。
遠藤 :総てを知ることが必ずしも良いとは限りません。
中嶋 :それを判断するのはお前ではない。
遠藤 :貴方こそ猜疑心を掻き立ててどうするつもりですか!?
丹羽 :KP(キーパー)、二人の間の空気に気づいて割り込むぜ。おい、こんなときに言い争いは
    やめろ。今、郁ちゃんが裏切り者はいねえと言ったばかりじゃねえか。
中嶋 :俺は遠藤の疑わしい行動を指摘しただけだ。
遠藤 :それは啓太を動揺させたくなかったからです。
中嶋 :ふっ、露骨な言い訳だな。
丹羽 :だから、やめろ。中嶋、お前の言うことは確かに尤もだが、今更、操られた奴を暴いたとこ
    ろで何も変わらねえ。遠藤さんの言う通り、余計な猜疑心を掻き立てるだけだ。
西園寺:中嶋、お前は操られている者を暴いてどうする気だ?
中嶋 :何も……単に疑問を提示しただけだ。
西園寺:お前にしては浅慮だな。その行動は場を乱しただけだ。
中嶋 :だが、人間とはそういうものだろう。静かな水面には小石を投げ込みたくなるものだ。
西園寺:……
    (何が目的だ? 恐らくHO(ハンドアウト)絡みとは思うが……)
丹羽 :とにかく、だ。この件は、これで終いだ。誰が操られていようがいまいが、俺達のすることは
    変わらねえ。先刻、渡した銃で鏡の向こうにいる奴を撃つ。皆、それに集中してくれ。
西園寺:わかった。
遠藤 :啓太、水晶玉は俺が預かっていようか? 持っていると、気になるだろう。
伊藤 :うん……有難う、和希。
七条 :(あまり疑心暗鬼を掻き立ててはシナリオの趣旨から外れてしまいます。このくらいにして
    おきましょうか)
    では、様々な思いを胸に貴方達は鏡の前へ移動しました。終に運命の時間です。



2021.10.31
中嶋さんが不穏です。
この辺りは改変しているので、
匙加減が難しいです。
でも、いつもと変わらない中嶋さんの様な気も……

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Café Grace
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