和希は後ろ手にドアに鍵を掛けると、ほっと息をついた。
「やっと二人きりになれたな」
「うん」
 啓太は恥ずかしそうに頷いた。
 今日は啓太の誕生日だった。和希は啓太と初めて迎えるこの日を最高のものにしようと密かに色々な計画を巡らしていた。しかし、もてる恋人を持った宿命だろうか。朝早くから来た成瀬のプレゼント攻勢を防いでいる間に、生徒会と会計部の合同主催による『伊藤啓太誕生日パーティ』なるものに啓太を攫われてしまった。漸く会がお開きになる頃には日もとっぷりと暮れ、跳ね橋は上がって外出出来なくなっていた。和希としてはかなり不本意な一日だったが、啓太が喜んでいたので仕方なく今回は大目に見ることにした。
(でも、来年は譲りませんよ、王様、西園寺さん)
 和希は心中、密かにそう宣言した。
 啓太は和希のベッドにポスンと腰を下した。自分の部屋ではいつ誰が来るかわからないので、今夜は和希の処で過ごすことにした。皆が祝ってくれるのは嬉しいものの、やはり和希と二人静かになりたい。人前では聞けない、恋人としての言葉が欲しかった。それは、どんな豪華な品物よりも心に響くだろう。啓太は高鳴る胸を抑え、そっと和希に目を向けた。すると、困った様に和希が言った。
「ごめん、啓太、プレゼントの用意はしていたけれど、ここにはないんだ。こんな時間になる前に出掛けるつもりだったから」
「……良いよ、プレゼントなんて」
 啓太は小さく俯いた。口にしなくとも、和希にはわかっていると思っていた。膨らんでいた期待が急速に萎んでゆくのを感じる……
「啓太」
「……!」
 突然、和希の顔が視界に現れた。和希は啓太の前に膝をつき、下から啓太を見上げた。
「わかっているから。啓太が一番欲しいもの」
「……和希」
「俺も啓太が物に惹かれるなんて考えていないよ。でも、これは俺のエゴかな。目に見える形で、少しでも啓太を縛っておきたいという」
「エゴじゃないよ。俺は和希がくれる物なら何だって嬉しいよ」
「でも、啓太が一番欲しいものは違うだろう?」
 うん、と啓太は素直に頷いた。和希はふわりと微笑み、おもむろに啓太の左手を取った。蒼穹の瞳をじっと見つめる。
「……長かった……一度は離してしまったこの手を取り戻すまで、本当に長かった。だから、啓太、俺は今日この日に懸けて誓う。たとえ、世界の終わりが来たとしても、もう二度と啓太の手は離さない。俺が還る場所はここ以外にはないから。永遠に愛している、啓太……愛している」
 和希は厳かに薬指に口づけた。啓太は胸が一杯で言葉が出なかった。ゆっくりと和希が顔を上げる。
”Happy Birthday,Keita.”
 恋人達の夜が深まってゆくのは……多分、これから……


2008.4.25
’08 啓太BD記念作品 和希ver.です。
和希はいつも精神的に啓太を見上げていますが、
たまには視覚的にと思って跪かせてみました。

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