「あっ……ふ、んっ……」
 菊は濃密な口づけを受け止めながら、アルフレッドが着ているシングル・ブレストの背広を脱がそうと必死になっていた。自分だけ肌を曝すのは嫌だった。しかし、向かい合った相手のボタンを外すのは意外と難しい。しかも、ずっと手首を拘束されていたので強張った指が巧く動いてくれなかった。
 いつまでも二人の間で足掻く菊の手に焦れて、一旦、アルフレッドは口唇を離した。すかさず菊が批難の音を発する。
「ちょっと待って」
 アルフレッドはそう言って身を起こすと、背広の上着を素早く脱ぎ捨てた。ついでに息苦しいネクタイを引き抜く。それから右手でシャツのボタンを外しながら、もう片方の手をそっと菊の頬に添えた。
「俺に触りたい、菊?」
「はい」
 素直に頷く菊にアルフレッドは満足げな微笑を浮かべた。舐める様に首筋へと掌を滑らせる。菊が肌をほんのり桜色に上気させてゆく姿はいつも目に美しかった……が、そこには自分が付けたものではない花が点々と散っていた。
「アルフレッドさん……?」
 空気の変化を敏感に感じた菊が不安そうに呼んだ。アルフレッドはそれに気づかない振りをして眼鏡を外すと、脱ぎ捨てた上着の上へ無造作に放り投げた。
「割れますよ、そんなことをしたら」
 菊が微かに眉をひそめた。
「大丈夫だよ。あれは俺を構成してる一部だからね。たとえ、踏みつけたって、割れはしないよ」
「それはそうですが、見ている方の心臓に悪いです」
「だって、邪魔だろう。こうするのに、さ」
 そう言うと、アルフレッドは菊の首筋に深く顔を埋めた。目障りな印を一つ自分の口唇で上書きする。
「あっ……っ……」
「余計なことは考えないで……ただ俺を感じて、菊……」
「ああっ……!」
 胸の飾りを痛いほど強く摘まれ、菊は大きく喘いだ。
 一度、達した身体は直ぐに熱を帯びて快感を拾い上げた。アルフレッドの舌が花から花へと移動する度に衣擦れに混じって足袋が畳を滑る乾いた音が響く。徐々に脚が開いてゆく……
「は、あっ……っ……ん、ああっ……」
 菊はアルフレッドの肩を掴んで艶めかしく身悶えた。時折、アルフレッドの腹部に中心を擦りつける様に腰が揺れる。肌の濡れるひやりとした感触にアルフレッドが小さく笑った。
「大胆だね、菊、どこでそんな誘い方を覚えたんだい?」
「誘うなんて、そんな……」
 羞恥に頬を染め、菊は顔を逸らした。すると、直ぐアルフレッドに呼び戻された。
「菊、ちゃんと俺を見て」
「はい……」
 菊は自分を組み敷く恋人を蕩けた表情で見上げた。
 アルフレッドに惹かれたのは、一体、いつからなのか……自分でも良くわからなかった。二人の間にあったのは決して甘い感情ばかりではなかったのに、気づいたら、この年若い国が自分にだけ向ける男の顔に堪らなく身体の芯が疼いていた。
 見つめ合う視線の先に互いに想いを乗せて募らせて……でも、もう見ているだけでは物足りない。私は貴方の温もりを知ってしまったから。もっと貴方が欲しい……
 菊は恋人の中心に指を伸ばし、服の上から緩々と撫でた。情欲を隠そうとしない菊にアルフレッドの背筋が甘く痺れる。
「今の菊、凄く良い顔してる。君と一つになりたいよ」
 菊のその手を捉え、アルフレッドは堪らないとばかりに掌に熱く口づけた。
「なら、早く……」
 いつもの貞淑さをかなぐり捨てて菊は強請った。アルフレッドが上目遣いに低く囁く。
”OK,darling.”
 菊の視界からアルフレッドが消えた。次の瞬間、菊は大きく背をしならせた。
「は、ああっ……!」
 自身を深く銜えられ、一気に肌が粟立った。反射的にアルフレッドの髪を強く掴む……が、温かい口腔が張り付く感触に直ぐに指から力が抜けてしまった。
「あっ……ああっ……」
「……っ……菊っ……」
 切なげに喘ぐ菊の声をアルフレッドの立てるぬめった水音がかき消してゆく。
「あ、あっ……もう駄目っ……やめ、て……」
 口の中に放つのは未だ抵抗のある菊が早々に限界を訴えた。
 普段のアルフレッドなら、今更だろう、と聞き流して更に菊を追い詰めた。過ぎた感覚に震える内腿を押さえ込み、張り詰めた菊を舌で嬲るのはアルフレッドの持つ支配欲を充分に満たした。しかも、快楽と羞恥のせめぎ合う菊の声は高過ぎず、低すぎず、丁度良く男を煽る。まさにアルフレッドに抱かれるための身体だった。しかし、今日は菊の求めに素直に口唇を離した。絶頂を促す様に何度か手で強く扱くと、菊は一際、高い嬌声を発して呆気なく達した。
「はっ……はっ……んっ……」
「……っ……」
 無意識にアルフレッドの喉が鳴った。
 しなやかな肢体を投げ出して快感の余韻に浸る菊がいつになく濃艶だった。なだらかな腹部に飛び散った白い欲望も卑猥というよりは、まるで大好きなドーナッツにコーティングされたグレーズの様に見える。アルフレッドは無性にそれを舐めてみたくなった。きっと凄く甘いに違いない。そうっと顔を近づけて舌を伸ばす……
「そ、そんなもの舐めないで下さい。恥ずかしいです……」
 意図に気づいた菊がアルフレッドの頭を押しやった。アルフレッドは小さく口の端を上げた。
「これから、もっと恥ずかしいことするのに?」
「……っ……!」
 その言葉に、ポンッと菊は沸騰した。
 クスッとアルフレッドは笑うと、おもむろに自分の指を口に含んだ。菊の瞳を捉えながら、ちゅくちゅくと態と音を立ててしゃぶってみせる。ここが寝室なら性の匂いを恥ずかしがる菊が用意してある香油を使えるが、今はこうして濡らすしかなかった……菊には後で別のものをたっぷり銜えて貰うから。
「んっ……力を抜いて、菊」
 頃合いを見計らってアルフレッドは菊の右足を大きく抱え上げた。表情を窺いながら、器となる部分にまずは指を一本……慎重に押し進めてみる。
「う、んっ……」
 一瞬、菊は苦しそうに呻いたものの、殆ど抵抗なく根元まで呑み込んだ。アルフレッドは浅く抜き差しすると、直ぐに数を増やした。きつく締めつける内壁を更に擦って突き上げる。
「あっ……っ……ああっ……」
 下肢の奥から湧く痺れにも似た痛みに菊は目頭が熱くなってきた。もう何度もそこに男を受け入れているのに、馴染むまではいつも苦しい。それでも、その中から菊は僅かな快感を捉えて必死にそれを手繰り寄せた。
「は、あっ……あっ……ああ、んっ……」
「……」
 快楽に溺れ始めた菊の嬌態にアルフレッドも徐々に昂ぶっていった。目に映る艶めかしい身体。耳に響く甘やかな声。指に伝わる熟れた内壁……鼻につく白い匂い。先刻、舐め損なった蜜の味まで口に広がり、アルフレッドは狂暴な男の欲を抑えられなくなってしまった。
「ごめん、菊……今日は俺、あまり余裕ない」
 アルフレッドは一気に指を引き抜くと、手早くベルトを外した。突然、消えた質量に菊が名残惜しそうに啼いた。入口が代わりを求めてヒクヒクと淫らに蠢く。
「痛かったら言って」
 前を寛げて取り出した欲望をそこに宛がい、アルフレッドは口早に告げた……尤も、途中でやめる気は全くなかったが。それを知りながら、菊はただ静かに頷いた。欲しいのは私も同じだから。貴方になら、何をされても構わない。
 I love you,Kiku.
 澄んだ空色の瞳から音のない声が降ってきた。それに応えて菊は花の綻ぶ様な綺麗な微笑を浮かべた。
 私も貴方を愛しています。
 そして、アルフレッドに総てを委ねた――……

 宵闇の迫る中、日本を抱え込む様にして布団に包まっているアメリカは困惑した様子で天井を眺めていた。
 精神的な消耗もあってか、一度、抱いたら気を失う様に眠ってしまった日本をアメリカは綺麗に拭いて寝室へと運んだ。適当に夜着を着せて布団に横たえると、アメリカもシャツだけ脱いで直ぐ隣へ潜り込んだ。時計はまだ昼前だが、それは日本での話で自国ではもう夜だった。久しぶりに味わった恋人の肌をもう少し堪能したい。意識のない者を抱く趣味はないけれど、こうして触るだけなら……
 それだけのつもりだったのに、心地良さそうな寝息を聞いていたら、いつしかアメリカも日本の後を追って夢の国へと旅立ってしまった。そうして目が醒めたら、辺りは既に薄暗くなっていた。
 はあ、とアメリカはため息をついた。
 先刻から胃が切々と空腹を訴えていた。昼に食べたクラブ・サンドイッチが最後なので、まずは食事がしたい……が、日本を起こしてしまいそうで動けなかった。う~、とアメリカは不満そうに唸った。
「誰かここまで運んでくれるなら、今の俺は何でも食べるんだぞ。たとえ、イギリスのスコーンだって――……」
「自棄を起こしてはいけませんよ、アメリカさん」
 やんわりとした声がそれを遮った。アメリカは腕の中の恋人に目を向けた。
「起きたのかい、日本?」
「はい、何だか随分と寝てしまいました。直ぐに夕食の用意をしますね」
 日本は起き上がって夜着の乱れを直しながら、子供を宥める様に言った。アメリカの表情がパッと輝いた。
「本当かい!? そうしてくれると助かるよ。もう二十時間近く何も食べてないから、お腹が減って死にそうなんだぞ」
「なら、急いで有り合わせで作りますね。メニューが重ならないと良いんですが」
「それなら大丈夫なんだぞ。今日の昼は、いつものバーガー・ショップで軽く済ませたからね。会議の準備で結構、忙しかったし。あっ、昨日になるのか。う~ん、何だかややこしいんだぞ」
「……?」
 何か時間軸が合わなかった。日本は密かに首を傾げた。
「アメリカさん、昨夜か今朝の便で来たのではないんですか?」
「あ~、それについては後で詳しく説明してあげるから。とにかく、今は食事が先なんだぞ!」
 早く、早く、とアメリカが急かした。その迫力に押し切られ、取り敢えず、日本はその話を保留にして台所へと向かった。

 二時間後、日本の作った料理を怒涛の勢いで食べ尽くしたアメリカは縁側に腰掛けて食後のコーヒーを待っていた。空には綺麗な上弦の月が浮かんでいる。今頃、自国では朝を迎えているだろう。今日が週末で本当に良かったんだぞ、とアメリカは思った。そうでなければ、戻って出勤しなければならなかった。日本は完全に落ち着いた様に見えるが、もう暫くは傍に付いていたい。
「お待たせしました」
 日本がマグカップを二つ盆に乗せて戻って来た。アメリカの隣に座ると、大きい方を差し出す。そこにはミルクと砂糖が二つ入っていた。日本のはミルクのみ。今では日本も食後のコーヒーは習慣になっていた。
 アメリカはコクリと一口、飲んで……うん、と嬉しそうに頷いた。
「やっぱり君の淹れたコーヒーは美味しいんだぞ」
「有難うございます」
「俺が執務室でいつも淹れるコーヒーは不味くはないんだけど、ただそれだけなんだ。同じ豆を使ってるのに、一体、どこがどう違うんだろう?」
「豆は気温や湿度で色々変化しますから、アメリカさん好みの味を根気よく探すしかありませんね」
「俺好みの味なら、もう知ってるんだぞ」
 アメリカは日本を見つめながら、マグカップにまた口を付けた。日本の頬がほんのり桜色に染まった。慌てて話題を変える。
「ところで、世界会議の準備は順調ですか? 開催は来週でしたよね」
「ああ、それならもう殆ど終わったよ。一応、基になった要望書にも再度、目を通した。ドイツのなんか環境問題に関する項目だけでも百以上あって読むのが大変だったんだぞ」
 げんなりとした顔でアメリカが零した。ふふっ、と日本は笑った。
「最近のドイツさんの一番の拘りですからね。私も読み返しましたが、今回の議題と関連して幾つか参考にさせて頂きました」
「そんなものあったかな。まあ、今回は俺から提案があるから、まずはそっちを優先させるよ」
「……」
 またですか、と日本は思った。
 世界会議の議題は年末に提出された要望書の中から既に選考されていた。それをこの土壇場で変えれば、紛糾することはまず間違いない。緊急の懸案ならしかたないが、アメリカの場合はその頻度が多過ぎた。
 日本はアメリカをやんわりと窘めた。
「でも、皆さん、そのために色々準備をしていらっしゃるのですから、直前で議題を変えるのは良くないかと……」
「大丈夫。これは俺達、国の化身の移動時間を大幅に短縮する画期的なことなんだぞ!」
 アメリカが大きく胸を張った。それを聞いて日本はピンときた。
「まさか今回の来日はその方法で?」
 ああ、とアメリカは頷いた。
「俺は夕方まで執務室でずっと仕事をしてたんだ。そうしたら、イギリスが来て……何か色々話してる内に夜になってさ。それから日本に来たんだ。ここまでの移動時間は約三十分ってところかな」
「三十分!?」
 確かにそれなら先刻の会話の微妙な祖語も納得がいった。日本とアメリカの時差は半日以上ある。夜までアメリカにいて日本に来れば朝になっている。そこから再び昼と夜を過ごせば……成程、お腹も空くはずですね。ですが……
「……」
 アメリカ秘蔵の最新鋭の戦闘機を使ったとしても、日米間を三十分で往復出来るとは考えられなかった。そんな技術はまだこの地球上のどこにも存在しない。もし、それを可能にするとしたら――……
 日本はアメリカと一緒に住む不思議な友人――通称・トニー――のことを思い出した。
(今まで彼は私達に干渉することはありませんでした。でも、彼から密かにアメリカへ技術供与が行われ、それを今度の世界会議で発表するとしたら……最悪、世界の軍事バランスが崩れて大変なことになってしまいます!)
 密かに日本は蒼ざめた。アメリカが話を続けた。
「俺がこれを君に言ったのは最大の難関になると思うからなんだぞ。嫌がる国はまだいるだろうけど、正直、君さえOKしてくれれば他はどうでも良いんだ。俺は君の嫌がることはするのも、させるのも嫌なんだ。だから、日本、Yesと言ってくれないかい?」
「……仮に私が承諾しても、ロシアさんが黙っているとは思えません。再び軍拡に走ったら、どうするんですか?」
「うん? 俺は単に早く移動出来る方法を皆に教えたいだけなんだぞ」
「貴方はそうかもしれませんが、それはトニーさんからの技術供与を結果的に認めることになり、まだ何か隠し持っていると疑う国がきっと現れます。そんな案に私は賛成出来ません」
 きっぱりと日本は告げた。少し間を置いて、ああ、とアメリカは呟いた。
「君は何か勘違いしてるんだぞ。俺がトニーから特殊な技術を教えて貰ったって思ってるんだろう? 確かに切っ掛けはトニーとの会話だったけど……じゃあ、まずはそこから説明してあげるよ」
「お願いします」
 居住まいを正して日本は小さく頭を下げた。
「ある日、トニーが俺に言ったんだ。この宇宙でも俺達の様な存在は非常に稀有なのに、それを生かしてないのが勿体ないって。俺達は首を切られても、一片の塵も残さずに焼き尽くされても、国がある限り、何度でも同じ記憶と姿を持って再生する。なのに、その特性が全くわかってないってさ。まあ、そんな内容だったけど、この説明でわかるかい?」
「はい……たとえば、川は止めようと手ですくった瞬間、ただの水になってしまいます。でも、それを戻せば、再び川となる。私達は、国という水が作った人の形をした川ということですね」
「うん、そういうことなんだぞ。さすが日本、話が早くて助かるよ」
 アメリカは少しほっとした顔をした。コーヒーで軽く喉を湿らす。
「君のたとえを借りるけど、すくった水を戻せば、また川になるだろう。それは上流でも下流でも変わらない。必ず同じ川になる。これを俺に当て嵌めると、ワシントンD.Cもニューヨークもアラスカもハワイも総てUSA……つまり俺になる。そして、俺はここ日本にもいる」
「大使館のことですね」
 国際法上、大使館は本国の領地と見なされていた。日本は話の先が読めてきた。もしかすると、これは……!
 うんうんとアメリカは頷いた。
「つまり、日本には既に俺がいるから後はこの意識だけを移せば良いんだ。そうすれば、そこで俺は実体化する。距離は全く関係ないんだ。俺は要望書に記載されてた大使館の住所でそれに気づいて、一応、トニーに訊いてみた。トニーは気づくのが遅いって笑ってたよ。
 意識の移動は確かにちょっとコツがいるけど、慣れれば簡単なんだぞ。最初はふわ~っとして、それからぱあ~っとなる感じかな。きっと皆、直ぐ出来る様になるよ」
「凄い発見です、アメリカさん!」
 興奮を抑えられず、日本の声が弾んだ。
 極東に位置するため他国より移動に時間の掛かる日本は、国際会議の度に上司と機内泊という弾丸ツアーも珍しくなかった。アメリカの言う様に、ふわ~っとして、ぱあ~っとなって移動出来るなら浮いた時間をもっと有効に利用出来る。何より身体が楽になる。
「その方法が広まれば、今後、私達の交流はもっと活発になります。国同士の在り方にも、きっと良い影響が出るでしょう」
「うん、そうなんだけど……」
 そこでアメリカが言葉を濁した。どうしました、と日本は瞳で先を促した。
「これには一つ……ちょっとした問題があるんだ」
「……と言うと?」
「実体化するのは自分を構成してる要素だけ。つまり、物質の転送は出来ない」
「……」
 日本は少し嫌な予感がしてきた。恐る恐る訊いてみる。
「あの……アメリカさんが大使館に着いたときは、どんな格好だったんですか?」
「いつものジャケットと銃とテキサスだけだぞ。それ以外の物は俺の執務室に落ちてたってさ。スーツやシャツ、靴下から下着まで全部」
「それでは殆ど裸じゃないですか! 無理です! 私にその方法は使えません!」
 激しく首を振る日本を見て、やっぱり、とアメリカは呟いた。
「日本は絶対に嫌がると思ったんだぞ。君を構成してる要素は刀だけど、今は封じられてるから間違いなく全裸だし。しかも、大使館の敷地のどこに実体化するかわからないから、下手したら外ということも――……」
「そんな目に遭ったら百年は鎖国しますっ……!」
 蒼ざめた顔で日本が叫んだ。アメリカが日本を強く抱き寄せた。
「俺だって君の裸を他人に見られるのは嫌なんだぞ。でも、これは凄い発見だって君も言ったじゃないか。この方法なら毎日だって来れるんだぞ。君は俺に逢いたくないかい?」
「そ、そういう訊き方はずるいです……」
 日本はアメリカの胸に顔を埋めた。でも、裸はやはり嫌です……
「うん、だから、今度の会議で皆に知恵を出して貰おうと思ってる。大勢で実際にやってみたら、もっと色々わかるかもしれないだろう?」
「……」
「だから、協力してくれないかい、日本? いつもの様にYesと言って」
 アメリカが耳元で囁いた。その声音が、どこか色を帯びている様に感じるのは気のせいだろうか。日本は先の行為を思い出して少し身体が熱くなった。
「……わかりました。でも、一つ条件があります」
「何だい?」
「室内でなかった場合に備えて、アメリカにある我が国の大使館周辺の道路を封鎖して下さい。裸で芝生にいるところを誰かに見られたら、私は本当に鎖国します」
”OK,darling.”
「……っ……」
 情事の最中と同じ言葉に日本は耳まで真っ赤になった。アメリカの楽しそうな瞳が見える気がする。絶対、今のは態と言いましたね……
「ねえ、日本」
 アメリカが吐息で囁いた。はい、と日本は答えた。
「お互いたっぷり寝たけど、これからどうする?」
「……そんなこと、私に訊かないで下さい」
「それは俺の好きにして良いってこと?」
「……はい」
 日本は微かに頷いた。その途端、アメリカは恋人を横抱きにして勢い良く立ち上がった。
「ア、アメリカさっ……んっ……」
「……っ……日本……」
 重なる二つの口唇は一つの影となり、やがて寝室の奥へと消えていった。後に残るのは夜と仄かな月の音のみ……



初出 2013.10.13
『Annexe Café』より転載。

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Café Grace
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