遠藤 :静寂を貫く恐ろしい悲鳴に眠っていた誰もが飛び起きました。王様がパジャマのまま、慌て
    てドアを開けると、隣の部屋から中嶋さん、向かいの部屋から西園寺さんと七条さんが出て
    来ました。三人もパジャマ姿です。少し遅れて金谷が先刻の服を着崩した格好で現れまし
    た。廊下の向こうからは啓太と奈緒美、綺羅子が駆け寄って来ます。啓太はパジャマ、奈緒
    美と綺羅子はまだ先刻と同じ服装です。奈緒美が不安そうに言います。
杉山 :今の悲鳴は、一体……
藤田 :あの……あれ、佐藤さんの声に似てませんでしたか?
金谷 :佐藤さん? そういえば、佐藤さんがいませんな。
丹羽 :まさか、と思った俺は急いで佐藤の部屋へ行くぜ。
中嶋 :俺も佐藤の部屋へ向かう。
西園寺:当然、臣と私もその後に続く。
伊藤 :俺も少し怖いけど、佐藤さんの様子が気になるから見に行くよ。
遠藤 :奈緒美と綺羅子、金谷も王様達の後からついて来ました。王様は佐藤の部屋につくと、名
    前を呼びながら、ドアを拳で何度も叩きました。しかし、全く反応がありません。隙間から中
    を覗くと、内側から留め金が下ろしてあるのが見えます。
丹羽 :仕方ねえ。ドアをぶち破る。
遠藤 :STR(力)16の対抗ロールに成功すれば、ドアを蹴破れます。あっ、対抗ロールとは能力
    値同士を競わせることだよ、啓太。成功率の計算は俺がするから。
伊藤 :わかった。
丹羽 :16か……結構、頑丈だな。
遠藤 :このロールは二人まで協力が可能です。
丹羽 :なら、俺と中嶋でやるか。
中嶋 :いや、お前のSTR(力)では心許ない。ここは俺と七条がやる。
七条 :そうですね。不本意ですが、その人選が最適だと思います。
遠藤 :王様と中嶋さんなら成功率80%、中嶋さんと七条さんなら自動成功で良いですよ。
中嶋 :決まったな。
丹羽 :仕方ねえ。頼むぜ、中嶋、七条。
遠藤 :中嶋さんと七条さんはドアに思い切り体当たりをしました。すると、蝶番が大きな音を立て
    て外れました。室内に踏み込んだ二人に破れた窓から大粒の雨が降り注ぎます……が、佐
    藤の姿はどこにもありません。
中嶋 :窓に『目星』だ。
七条 :僕も振ります。


中嶋 :目星(75)→05 クリティカル
七条 :目星(50)→70 失敗


遠藤 :中嶋さんは室内に落ちている硝子の破片が少ないことから窓は内側から壊されていると
    皆に言います。そして、それが出来るのは一人だけ――佐藤しかいない、と……
丹羽 :まさか窓から飛び降りたのか!?
遠藤 :『目星』の半分で三人まで窓から外を調べられますよ。
丹羽 :確か一人部屋に四人は入れたよな。なら、『目星』の高い俺と中嶋と郁ちゃんで窓の外を
    調べる。啓太は奈緒美達と入口で待機しててくれ。
伊藤 :わかりました。
遠藤 :では、二人に続いて部屋に入った王様と西園寺さん、中嶋さんは窓へと駆け寄りました。
    しかし、外は真っ暗で何も見えません。豪雨により水浸しになったススキの野原は今や大き
    な湖となり、この屋敷だけ孤島の様に取り残されています。それでも三人は必死に窓の外
    に目を凝らしました。西園寺さんは能力減から回復しているので、通常の値で判定します。


丹羽 :目星(75/2)→81 失敗
西園寺:目星(80/2)→76 失敗
中嶋 :目星(75/2)→51 失敗


丹羽 :駄目だ。何も見えねえ。
中嶋 :佐藤の捜索は明日にするしかなさそうだな。
遠藤 :(豪雨の中、何の理由もなしに外を探させるのは無理か)
    今の三人は再度、『幸運』でロールをお願いします。
丹羽 :おっ、救済措置か。
中嶋 :こいつがそんなに甘いとは思えないがな。
西園寺:ああ。


丹羽 :幸運(65)→11 成功
西園寺:幸運(85)→05 クリティカル
中嶋 :幸運(65)→10 成功


丹羽 :相変わらず、ダイス荒ぶってるな。
遠藤 :諦め切れずに外を見ていた三人は屋敷から少し離れた地面で何かが動いたことに気づき
    ました。西園寺さんはそれが佐藤だとわかります。
西園寺:あそこにいる! そう言って私は佐藤を指差す。
丹羽 :それを聞いた俺は部屋を飛び出すぜ。
中嶋 :俺も丹羽の後に続く。
西園寺:KP(キーパー)、私はペンライトを持っていないか?
遠藤 :『幸運』をどうぞ。


西園寺:幸運(85)→18 成功


遠藤 :西園寺さんは仕事用のペンライトがあったことを思い出しました。
西園寺:臣、私の上着にペンライトが入っている。
七条 :有難うございます、郁、お借りしますね。僕は部屋に寄って郁の上着のポケットからペンラ
    イトを取り出し、二人の後を追います。
遠藤 :三人は激しい風雨の中、玄関から外へ出ました。佐藤の部屋は屋敷の裏手です。七条さ
    んのペンライトの明かりを頼りに応接間の方から回り込むことにしました。佐藤の部屋の真
    下に来ると、二階の破れた窓から西園寺さんが少し離れた地面を指差します。七条さんが
    ペンライトを持ち上げると、一瞬、右手の奥に下へ続く階段が照らし出されました。
丹羽 :地下室か。
中嶋 :丹羽、今は佐藤が先だ。
丹羽 :ああ、わかってる。
遠藤 :七条さんが小さな明かりを西園寺さんの示した辺りに向けると、そこにはうつ伏せで倒れ
    ている佐藤がいました。
丹羽 :佐藤さん! 俺は佐藤を抱き起して声を掛ける。
遠藤 :すると、佐藤がうわ言の様に呟きます。
佐藤 :帰れるのか、あの日に……あの、輝いていた日に……いや、嘘だ! 皆、行ってしまっ
    た……私を置いて、行ってしまった! ああ、何で君はそんなにも美しい? 私はこんなに
    醜く老いさらばえたというのに。嘘だ……嘘だ……もう、帰れない……帰れない……帰り、
    たい……
中嶋 :錯乱しているな。
七条 :取り敢えず、部屋へ連れ帰って手当てをしましょう。
丹羽 :ああ。
遠藤 :三人が少しほっとした瞬間、佐藤が叫びました。
佐藤 :な、何だ、あれはっ!!
遠藤 :突然、佐藤は仰け反ると、口から噴水の様に大量の水を吐き出しました。その水は凡そ一
    分に渡って溢れ続けます。王様はどうすることも出来ず、腕の中でもがく男をただ呆然と見
    つめていました。そして、漸く水が止まったとき……佐藤は死亡していました。
伊藤 :佐藤さん……
遠藤 :佐藤の死に顔は凄まじいものでした。両目は眼球が飛び出さんばかりに大きく見開かれ、
    口は絶叫の形に固まっています。蘇生する可能性は全くありません。凄惨な死を間近で見
    てしまった三人は1/1D4+1でSAN(正気度)チェックです。


 うっ、と丹羽が呻いた。
「これはダイス次第では発狂するな」
「そうなんですか!?」
 啓太の声が不安げに揺れた。和希が優しく説明する。
「一度のSAN(正気度)チェックで5以上、更に『アイデア』に成功すると一時的狂気に陥るんだよ。狂気内容はロールで決めるけれど、殺人癖や自殺癖だと探索者が全滅する可能性もある」
「お、王様~」
「任せろ、啓太」
 グッと丹羽は親指を立てた。

丹羽 :SAN(64)→80 失敗 1D4+1→3
    :SAN(64)→61
中嶋 :SAN(65)→12 成功
    :SAN(65)→64
七条 :SAN(75)→32 成功
    :SAN(75)→74


「危なかったぜ」
 丹羽は額の冷や汗を拭った。ふっ、と中嶋が笑った。
「順当にSAN値が減っているな、丹羽」
「どうやら今回は丹羽会長が発狂要員になりそうですね」
「ならねえよ!」
 七条の言葉に丹羽はすぐさま反応した。しかし、内心は穏やかではなかった。
(まずいな。俺は戦闘系に振ってるだけに発狂したら全滅する可能性も……)

遠藤 :佐藤の死を悼む間も風雨はやむことなく三人の体温を奪ってゆきます。これ以上、ここに
    いるなら夏とはいえ寒さの対抗ロールが発生します。
丹羽 :なら、屋敷へ戻るか。中嶋、佐藤を運ぶのを手伝ってくれ。
中嶋 :ああ。
七条 :その前に死因を調べて良いですか?
遠藤 :『医学』をどうぞ。


七条 :医学(60)→16 成功


遠藤 :佐藤の傍に跪いた七条さんは持てる知識を総動員し、これが溺死であると気づきました。
    しかも、奇妙なことに佐藤の吐き出した水は海水です。七条さんはそれを王様と中嶋さんに
    話しますか?
七条 :話せば、またSAN(正気度)チェックがありそうですね。でも、傍にいる二人を誤魔化すこと
    は出来ないので話します。
遠藤 :では、こんな不可解なことに気づいてしまった七条さん、それを知ってしまった王様と中嶋
    さんは0/1D2でSAN(正気度)チェックです。
丹羽 :おう! やってやるぜ!


丹羽 :SAN(61)→62 失敗 1D2→2
    :SAN(61)→59
中嶋 :SAN(65)→89 失敗 1D2→2
    :SAN(64)→62
七条 :SAN(75)→93 失敗 1D2→1
    :SAN(74)→73


丹羽 :くっ……終に50代じゃねえか。どうなってるんだ、このダイス!
遠藤 :SAN値の収穫祭、有難うございます。
    (王様以外はあまり削れなかったな。このままでは少し厳しいか……)
西園寺:終に丹羽の発狂へのカウントダウンが始まったな。
丹羽 :俺は発狂しねえ!
伊藤 :王様……
遠藤 :では……王様と中嶋さんは力を合わせて佐藤を屋敷の部屋まで運ぶことにしました。
丹羽 :ちょっと待て。それだと佐藤の遺体を啓太や奈緒美達まで見ることになるだろう。余計な
    チェックはしたくねえ。
西園寺:ならば、それを二階の窓から見ていた私が啓太と奈緒美達を応接間へと促そう。皆、暫く
    眠れないだろうから奈緒美に全員分のコーヒーを頼む。
七条 :それが良いですね。
遠藤 :では、入口に立っている奈緒美が恐る恐る尋ねます。
杉山 :あの……何があったんですの? 佐藤さんは……?
西園寺:……亡くなりました。
杉山 :そんな……
遠藤 :西園寺さんは『聞き耳』をどうぞ。
西園寺:何かあるのか……?


西園寺:聞き耳(75)→10 成功


遠藤 :偶然、風の音が消えて西園寺さんの耳に奈緒美の小さな呟きが聞こえました。
杉山 :残念だわ……これで二人目……
西園寺:二人目……?
遠藤 :その意味を西園寺さんが訊こうとしたとき、王様と中嶋さんが佐藤を持ち上げて運び始め
    ました。
西園寺:私は奈緒美に急いで言う。今、丹羽達が佐藤さんをここへ運んで来ます。私達がいたら邪
    魔になる。応接間でコーヒーを淹れて貰えませんか?
杉山 :そうですわね。この雨ですもの。きっと身体も冷えていらっしゃるわね。直ぐに温かいコーヒ
    を淹れますわ。それにタオルも用意しないと……綺羅子さん、手伝って頂けるかしら?
藤田 :わかりました。
遠藤 :二人は慌ただしく部屋を後にしました。啓太と西園寺さん、金谷も廊下を戻って一階の応
    接間へと向かいます。嵐は、まだやみそうもありません……



2014.9.12
予想よりSAN値が削れませんでした。
ダイスの女神の微笑みは、
やはり啓太の方を向いているのかも。

r  n

Café Grace
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