遠藤 :では、俺達は三時半頃に村に到着しました。駐車場に車を停めて俺は助手席の啓太に話
    し掛けます。啓太、まずは公民館を探そう。火垂祭の期間中だけそこに宿泊出来るけれ
    ど、小さな村だから予約は駄目なんだ。折角、ここまで来たのに満室だったら困るからな。
伊藤 :わかった。あっ、荷物はどうする、和希? 全部、持って歩くと大変だよ。
遠藤 :今は貴重品だけで良いよ。他は後で取りに来よう。
伊藤 :そうだな、と俺は頷いて車を降ります。
丹羽 :(貴重品か……巧い言い方だな。ここでは必要ねえが、一応、チェック入れとくか)
    遠藤、その貴重品に銃は入ってるのか?
遠藤 :いえ、ダッシュボードの奥に隠してあります。今は村を見て回るだけなので必要ないかと。
丹羽 :そうか。邪魔して悪かったな。続けてくれ。
中嶋 :では、周囲に注意を払っていた俺は駐車場に現れた人影を見て呟く。あれは……
西園寺:その声に私も二人に気づく。ああ、啓太だな。もう一人は……初めて見る顔だな。
七条 :僕も地図から目を上げて二人を見つけます。伊藤君とそのお友達でしょうか?
丹羽 :三人の反応に須藤が不思議そうに尋ねた。
須藤 :おや、皆さんのお知り合いですか?
七条 :ええ、と僕は頷いて声を掛けます。伊藤君……!
伊藤 :それを聞いた俺は皆に気づいて嬉しそうに手を振ります。あっ、中嶋さん、西園寺さん、七
    条さん……!
遠藤 :……
    (啓太が最初に呼んだのは中嶋さんか)
西園寺:私達は駐車場の傍で合流して軽く挨拶を交わす。久しぶりだな、啓太。
七条 :こんな処で会うとは凄い偶然ですね。元気そうで何よりです。
伊藤 :健康だけが俺の取柄ですから。皆さんも観光ですか?
中嶋 :似た様なものだ。お前はそうなのか?
伊藤 :はい、この村で珍しいお祭りがあると聞いたのでそれを見て奥飛騨まで行く予定です。こ
    の辺りはさすがに寒いけど、紅葉が綺麗ですよね。
中嶋 :ふっ、お前の目当ては紅葉より飛騨牛だろう。
伊藤 :紅葉も見ますよ、中嶋さん……飛騨牛も楽しみだけど。
遠藤 :話が一息ついた頃を見計らって俺は啓太に尋ねます。啓太、知り合いか?
伊藤 :あっ、紹介するね、和希。こちらは俺の大学の先輩で中嶋さん。この二人は西園寺さんと
    七条さん。皆さん、俺の従兄の遠藤和希です。
遠藤 :はじめまして。啓太の従兄の遠藤和希です。そう言って、KP(キーパー)、俺は中嶋さんに
    『心理学』を振ります。
丹羽 :はあ? 何で探索者に振るんだよ。必要ねえだろう。
遠藤 :火垂祭に神話生物が関わっている可能性がある以上、今の俺はかなり警戒しているはず
    です。それに、こんな辺鄙な村で知人に会って偶然と考えるほど暢気ではありません。まず
    は一番目を引く人物を調べるのは当然です。
丹羽 :確かに中嶋のAPP(容姿)はカンストだけどよ……
    (完全に私情だろう、それ)
伊藤 :……
    (和希でも、やっぱり中嶋さんに目を引かれるんだ……)
中嶋 :KP(キーパー)、俺も遠藤に『心理学』だ。
丹羽 :おい、お前まで遠藤に煽られんなよ。
中嶋 :俺は単に初対面の奴を見定めているだけだ。それのどこに問題がある?
丹羽 :(須藤には振らなかったじゃねえか。だが、RP(ロール・プレイ)重視と言った手前、ここで
    話の腰を折るのもな……)
    わかった。なら、『心理学』を振るぞ。


遠藤 :心理学(80)→??
中嶋 :心理学(85)→??


丹羽 :(成功だが……何を言えば良いんだ、これ?)
    あ~、遠藤は中嶋が何かを警戒してる様に感じた。中嶋も遠藤が自分を探る様に見てるこ
    とに気づいた。
中嶋 :ほう、随分と胡散臭い奴だな。少なくとも観光客の態度ではないな。
遠藤 :それは俺の台詞です。俺は中嶋さんを要注意人物として密かに心に留めます。もしかした
    ら、火垂祭に神話生物が絡んでいると知って来た狂信者かもしれませんので。
丹羽 :探索者同士で疑心暗鬼になってどうするんだよ。
西園寺:いや、遠藤の立場からしたらそれはやむを得ないだろう。私も二人の間の張り詰めた空
    気を感じて遠藤に微かな不信感を抱く。
七条 :ふふっ、僕も遠藤君に『心理学』を振りたくなってきました。
丹羽 :おい、勘弁してくれ。
    (これじゃあ話が先に進まねえ)
伊藤 :えっと、俺は皆を知ってるので場の雰囲気を変えようと話を振ります。中嶋さん達はどこへ
    行くつもりだったんですか?
丹羽 :(良いぞ、啓太!)
    その質問に口を挟む機会を窺ってた須藤が素早く答えた。
須藤 :私達は広場へ向かうところです。そこに秀人君――この子です――の祖父がいると聞きま
    して……ああ、申し遅れました。私は須藤宗平です。
伊藤 :それを聞いて俺も慌てて自己紹介します。あっ、俺は伊藤啓太です。はじめまして。俺は
    てっきり秀人君は須藤さんのお子さんだと思ってました。
須藤 :私達は秀人君のお父さんの友人です。仕事で来られない彼の代わりに実家のあるこの村
    まで連れて行って欲しいと頼まれたので、祭り見物も兼ねて皆でここに来たという訳です。
伊藤 :そうだったんですか。
秀人 :僕、緒締役をやるんだ。
丹羽 :秀人が軽く胸を張った。
伊藤 :緒締役?
西園寺:詳しくは知らないが、祭りの主役の様なものらしい。
伊藤 :そういえば、和希が珍しいお祭りだって言ってました。凄いね、秀人君。
秀人 :うん、誰にでも出来るものじゃないってお祖父ちゃんが言ってた。
須藤 :火垂祭は子供だけで執り行う奇祭で、秀人君の祖父はその祭司なんですよ。興味がある
    なら一緒にどうですか? もしかしたら、広場で前夜祭をしているかもしれませんよ。
遠藤 :(露骨な誘導だが、これには乗るしかないな)
    行ってみるか、啓太?
伊藤 :うん、と頷いて俺は皆に軽く頭を下げます。じゃあ、宜しくお願いします。
須藤 :こちらこそ宜しく。
西園寺:(このまま、丹羽のシナリオ通りに動かされては面白くないな)
    KP(キーパー)、私は無言で遠藤を注視する。
七条 :(おや、郁が何かRP(ロール・プレイ)を始めそうですね)
    では、僕は声を潜めて郁に尋ねます。どうかしましたか、郁?
中嶋 :それに気づいた俺も西園寺に視線を向ける。
西園寺:私は二人にだけ聞こえる程度の声でこう話す。火垂祭は未だ学術的な研究もされていな
    い閉鎖的な祭りだ。だが、遠藤はその存在を知っていた。ただ、それが気になっただけだ。


 ふ~ん、と丹羽は心の中で呟いた。
(そうくるか。遠藤に秘密を与えたのは確かに俺だが、探索者同士で疑って助かると思ってるのか? 俺の選んだ神話生物はそんなに甘くねえぜ)
 そうして丹羽は小さく口の端を上げた。



2014.12.12
漸く合流しましたが、
不協和音が響いています。
これで本当に生還出来るのかな……

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Café Grace
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