丹羽 :沼男(スワンプ・マン)を止める方法がわかった。沙耶さんが言うには、沼男(スワンプ・マ
    ン)には母体と呼ばれる核の様な存在がいて、そいつが個体数を増やすために人間を襲え
    と指示してるらしい。だから、人間以外のものを対象にするよう母体を説得出来れば、沼男
    (スワンプ・マン)とは共存出来ると思う。
七条 :但し、それには幾つか問題があります。まず肝心の母体の居場所がわかりません。取引
    の内容を変更してナイア君から聞き出すことは可能しょうが、もし、母体があの屋敷で見た
    肉塊と同じ様なものだったら、沙耶さんでなければ意思の疎通は不可能です。だから、沙耶
    さんをナイア君に渡すことは出来ません。
丹羽 :だが、ナイアの奴が沙耶さん引き渡し以外の条件を呑むとは思えねえ……で、手詰まりに
    なってまた呼び出したんだ。神父様達、何か良い案はねえか?
伊藤 :母体ですか……と俺は言葉を濁らせます。
遠藤 :俺は無視してナイフを弄んでいます。啓太を見殺しにする王様達に協力する気はありませ
    んから。
中嶋 :なら、俺は遠藤を見やって言う。良い案も何もない。今の話でわかるのはナイアが本気で
    俺達と取引する気がないということだけだ。そんな奴と交渉するだけ時間の無駄だ。力尽く
    で口を割らせれば良い。
丹羽 :いや、幾ら気に入らねえ奴とはいえ、それはちょっとな……
七条 :そうですね。相手は子供なので、僕もそれは気が進みません。
丹羽 :悪い。もう少し穏便な方法を考えてくれ。
中嶋 :……勝手な奴らだ。そんな考えがナイアに通用すると思っているのか? 奴は子供とはい
    え、油断ならない相手だ。甘く見ていると、痛い目に遭う……それとも、自分の手は汚したく
    ないか?
丹羽 :おい、何もそんな言い方することはねえだろう!
七条 :相手が大人なら僕達も躊躇はしません。それくらいの覚悟は出来ています。
中嶋 :なら、覚悟が足りないな。
遠藤 :力なき正義に意味はない。
七条 :それは目的のために手段を正当化しているだけです。何かを強いるために子供に暴力を
    振るうのは人として最低です。
中嶋 :まだ現実が見えてないのか。沙耶からも言われただろう。今や人間が生き残るには沼男
     (スワンプ・マン)を総て殺すしかない。子供の一人や二人、どうにか出来なくてどうする。
七条 :母体を説得出来れば、人間と沼男(スワンプ・マン)は共存出来ます。
中嶋 :そのためなら他の種は滅んでも構わないのか……随分、立派な考えだな。
七条 :……っ……!
丹羽 :もう良い。行こうぜ、七条先生……あんた達に相談したのが間違いだった。そう言い捨て
    て俺は居間に戻る。
七条 :僕も憮然として丹羽会長の後に続きます。


「おい、中嶋」
 RP(ロール・プレイ)を中断して丹羽は不満げな声を上げた。中嶋がチラッと視線を投げる。
「何もあそこまで言うことはねえだろう。お前が煽るから分裂したじゃねえか。俺は頃合いを見て納得するつもりだったのによ」
「ナイアは相手を油断させるために子供の姿に見せかけているだけだ。それに引っ掛かって土壇場で仲間割れするくらいなら、今の内に立場の違いをはっきりさせた方が良い」
「それはそうだが、もう少し歩み寄る姿勢を見せろよ。これじゃあ、取りつく島もねえ」
「俺のPC(プレイヤー・キャラクター)はそういう性格だ」
「いや、殆ど地だろう、それ」
 その言葉を中嶋は綺麗に無視した。丹羽会長、と七条が穏やかに口を挟んだ。
「この人に他人との調和など最初から求めてはいません。考え方を変えましょう。この会話で僕達は犯罪者組に不信感を抱きました。今後はここや教会内を探索出来ます」
「ああ……まあ、それで良しとするか。事件が解決した後で実験台にされたくはねえからな」
「はい、それでは事実上のキャラ・ロストです」
 七条は小さく頷いた。
(そのときまでに誰が沼男(スワンプ・マン)かはっきりすれば良いですが……)

西園寺:ならば、分裂ということで順番に処理をする。まずは居間に戻った二人、何かしたいことは
    あるか?
丹羽 :俺はねえな。まだナイアを説得すれば何とかなると思ってるからな。夜まで沙耶と一緒にテ
    レビでも見てるぜ。
七条 :僕も準備は特にないです。ただ、沙耶さんの引き渡しを母体の説得後に出来ないかナイア
    君と交渉しようと考えています。
丹羽 :そうだ。居間の窓から庭が見えねえか? 『目星』を振りたい。
七条 :僕もお願いします。先刻のファンブルをこれで消費します。
西園寺:わかった。


丹羽 :目星(70)→04 クリティカル
七条 :目星(70)→   自動失敗


丹羽 :おっ、ここでクリティカルか。良い情報を頼むぜ、郁ちゃん。
西園寺:では、沙耶と一緒にテレビの前に座っていた丹羽はあまり興味のない番組が始まったの
    で、窓の外へ何気なく視線を移した。そこからは素人目にも見事な様々に美しい薔薇が一
    望出来た。その景色を眺めている内に、ふと丹羽は薔薇を綺麗に咲かすには大量の肥料
    が必要なことを思い出した。それはどこに保管しているのかと窓へ寄って見渡したものの、
    庭には小さな物置すらなかった。臣はそんな丹羽の様子をチラッと見たが、直ぐにまた自分
    の考えに戻ってしまった。
丹羽 :渋いな。それだけかよ。
西園寺:薔薇に関することは、本来ならば、『博物学』を振らなければ出ない情報だ。これでこの庭
    の異常さをPC(プレイヤー・キャラクター)情報とすることが出来るだろう。
    (ここでクリティカルを出されても情報がある訳ないだろう)
丹羽 :仕方ねえ。なら、俺は七条を手招きするぜ。
七条 :それに気づいた僕は傍に行って尋ねます。どうかしましたか?
丹羽 :七条先生、この庭、少し変だと思わねえか? 俺は花はあまり詳しくねえが、薔薇は肥料
    を食うって聞いたことがある。これだけ咲かすなら、大量に要るはずだろう。それはどこにし
    まってるんだ?
七条 :言われてみればそうですね。この家で土の匂いはしないので、どこかに地下室があるのか
    もしれません。
丹羽 :だが、ここから見る限り、そんな階段はねえ。それに地下室があるとしても、そこから肥料
    を運ぶのは結構な重労働だ。俺なら外に倉庫でも作るぜ。
七条 :もしかしたら、庭の美観を損ねたくないのかもしれませんね。資金面が厳しいという訳では
    なさそうですから。
丹羽 :美観ねえ……そういえば、俺のタクシーの貸し切り代も神父様が払ってくれるんだよな。教
    会ってそんなに儲かるのか?
七条 :さあ、そういうことは僕にはさっぱり……
丹羽 :……今更だが、俺達は互いの名前と職業くらいしか知らねえんだな。
七条 :あの……こんなことはあまり言いたくありませんが、僕達の中には根本的な考えが違う人
    もいるので、今後は少し用心した方が良いかもしれません。
丹羽 :そうだな。無防備に信じるには神父様達はちょっと得体の知れねえところがある。あっ、で
    も、俺は七条先生は信用してるぜ。最初に事故ったとき、先生は沙耶さんに付き添うと自分
    から言ってくれたんだ。間違いなく良い人だ。
七条 :有難うございます。僕も丹羽さんは信じています。僕達は最後まで協力していきましょう。
丹羽 :頼りにしてるぜ、七条先生。そう言って俺は七条に右手を差し出す。
七条 :僕はその手をしっかり握ります。僕の方こそ頼りにしています、丹羽さん。
西園寺:ならば、ここで二人の場面を終了する。次は食堂に残った三人だ。
中嶋 :まずは俺達の間で情報の共有をしたい。ナイアが人間であることを遠藤に伝える。後小路
    を始末することは伝えない。
伊藤 :ごめん、和希。
遠藤 :大丈夫。知らなければ動きようがないから良い考えだと思うよ。KP(キーパー)、ナイアが
    人間と知った俺は王様達には見られないよう注意して武器を隠し持ちます。S&W M39と
    折り畳み式のナイフです。それから、救急箱の中から包帯を二つほど持って行きます。
伊藤 :応急手当用なら、ガーゼもあった方が良いんじゃないか?
遠藤 :いや、これはナイアを縛るためだよ。ああ、でも、啓太が猟犬に襲われて怪我をする場合も
    あるか。医療用の滅菌ガーゼを三つ追加します。
中嶋 :俺は自白剤が欲しい。
西園寺:真実の薬か。お前の研究は睡眠薬が主だから、『薬学』と『幸運』の組み合わせロールに
    成功すれば入手出来る。


中嶋 :薬学(82)+幸運(50)→02 クリティカル


西園寺:では、中嶋は睡眠薬の研究中に偶然、即効性のある強力な自白剤を完成させていた。本
    来、自白剤とは映画や小説で描かれているほど万能ではないが、今回はクリティカル効果
    として、これを投与された者は意識が朦朧として質問者に完全に抗えなくなる。
中嶋 :充分だ。俺はそれと睡眠薬を持って行く。
西園寺:啓太はどうする?
伊藤 :……何も持って行きません。ロザリオだけ首に掛けていきます。
西園寺:わかった。準備を済ませた後はどうする?
中嶋 :俺は食堂で本か新聞でも読んでいる。
遠藤 :俺も特にすることはないので、昼食の食器を洗った後は食堂でテレビを見ています。六時
    頃になったら、皆の夕食を作ります。
伊藤 :俺は教会の執務室で日曜のミサの原稿を書くことにします。
遠藤 :啓太、単独行動は危険だ。それなら、食堂で書けば良い。
伊藤 :でも、俺は気にしないよ。
遠藤 :駄目だ。啓太はそうでも、俺が止める。絶対に啓太を一人にはしない。
伊藤 :わかった。なら、KP(キーパー)、俺は食堂で原稿を書きます。
西園寺:あくまで話し合いを続けようとする丹羽達と密かに後小路排除に動き始めた啓太達という
    構図か。それぞれ覚悟は出来たと思う。持ち物に関しては一先ず締め切るが、後小路の屋
    敷へ行く前ならば、追加で携帯を許可する場合もある。口頭なり、メールで伝えれば良い。
丹羽 :おっ、きな臭いことを言うな、郁ちゃん。ここで手の内を曝さず、RP(ロール・プレイ)で皆を
    驚かしても良いってことか。
西園寺:今回はPvPに近いものがあるからな。その方が面白いだろう。
丹羽 :確かに。


 そのとき、不意に七条が口を挟んだ。
「郁、滝君から連絡が入りました。これから会計室に届けるそうです」
「ああ、もうそんな時間か」
 西園寺は残念そうに息を吐いた。夕食までまだ時間はあるが、今日はあまり疲れる訳にはいかなかった。全員を見回して言う。
「切りが良いので、今日のセッションはここまでにする」
「何だ? やけに早いな」
 丹羽が時計を見て呟いた。もう疲れたのか、郁ちゃん?
「そうではない。だが、今日は早めに休まなければ、明日、身体が持たない」
「はは~ん、体育があるんだな」
「……そうだ。臣が出席しろと煩いからな」
 西園寺は不機嫌そうに七条を見やった。それを七条は微笑で受け流した。
「そろそろ出席しないと日数が足りなくなりますよ、郁」
「私の計算ではまだ充分に余裕がある」
「そう言って去年は出席日数が足りなくなりました。今年も同じことをするつもりですか?」
「そうなったら、来年またやり直せば良い」
「……郁」
「私は体育は嫌いだ」
 プイッと西園寺は顔を背けた。丹羽が面白そうに笑った。
「ははっ、その調子だと来年も単位が取れねえぜ、郁ちゃん」
 はい、と七条は神妙な顔で頷いた。
「僕もそれを心配しているんです……郁、体育で留年するつもりですか?」
「それは……私のせいではない。そもそも、体育を必須にした遠藤が悪い」
「俺のせいですか!?」
 急に矛先を向けられ、和希は僅かに目を瞠った。ふっ、と中嶋が口の端を上げた。
「女王様が発狂した。啓太、出番だ」
「えっ!? あっ、その……西園寺さん、少しは運動した方が良いですよ。健康が一番って言うじゃないですか」
 七条が更に追い討ちをかける。
「郁、伊藤君にまで心配を掛けるつもりですか?」
「……っ……! そんなことは言われなくとも、わかっている。少しごねてみただけだ。明日は……出席する」
「本当ですか、郁?」
「くどいぞ、臣」
 西園寺は頬を赤くして立ち上がった。七条は啓太に小さく頭を下げた。
「有難うございます、伊藤君、漸く郁がやる気になってくれました」
「いえ、俺は何もしてませんから」
「いいえ、郁相手に言質を取れた意味は大きいです」
「言質って……」
 ははっ、と啓太は力なく笑った。七条さんも意外と苦労してるんだな……
「何をしている。早く移動するぞ」
 西園寺が皆を急かす様に声を上げた。そうですね、と七条は頷いた。
「今日のお茶菓子はパンプキン・パイです。食堂の方にお願いして温めて貰ったものを滝君が会計室まで運んできます。冷えない内に頂きましょう。トッピングとしてアイスクリームとチョコレート・ソースを用意しました」
「おっ、良いねえ。なら、早く行こうぜ」
 丹羽の言葉に皆もそれぞれ席を立った。甘そうなパイに中嶋がため息をついて歩き始める。美味しそうと素直に喜ぶ啓太と七条がその後に続いた。最後に生徒会室を出ることになった和希は忘れ物がないか室内を軽く見回した。そして、小さな声でこう呟いた。
「続きは、また明日」



2016.11.2
終に仲間割れしてしまいました。
更に水面下ではPvPの予感が……
沼男(スワンプ・マン)より人間の方が恐ろしいかも。

r    m

Café Grace
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