丹羽 :なら、後日談、第一話……丹羽哲也の場合、始めるぜ。後小路邸での事件から三ヶ月ほ
ど経ったある日、俺は七条の心療内科を訪ねる。時間は十八時頃だ。落ち着いた雰囲気
のこぢんまりとした診察室に七条だけが座ってる。それを見た俺は軽く左手を上げて挨拶し
た。久しぶりだな、七条先生。
七条 :丹羽さん、お久しぶりです。予約患者に貴方の名前を見て少し驚きました。どうぞお掛け下
さい。
丹羽 :俺は曖昧に頷いて椅子に座る。
七条 :お元気でしたか? 貴方とは連絡を取ろうと思っていましたが、仕事に追われてなかなか
そうもいかず……申し訳ありません。
丹羽 :いや、それはお互い様だ。俺だって仕事をしてたら、こうして先生に会いに来れたかわから
ねえしな。
七条 :仕事をやめられたんですか。まあ、あんな経験をした後なので、暫く休養するのも良いかも
しれませんね。夜はきちんと眠れていますか?
丹羽 :さあ、どうだろうな……
七条 :不眠気味なら薬を出しましょうか? ああ、もしかして、今日はそれで……?
丹羽 :いや、そういう訳じゃ……なあ、七条先生、ニュース見てるか?
七条 :……はい、一応。
丹羽 :今、世界各国……って言っても主に日本だが、原因不明の奇病が流行ってるよな。身体
が徐々にえんじ色の肉塊に変わってくやつだ。
七条 :最近では報じられない日はないですね。未だに原因が掴めないので仕方ありませんが。
丹羽 :……俺達はそれを知ってる。そいつらは皆、沼男(スワンプ・マン)だ。
七条 :はい……母体の声が消えたので、擬態をやめたんでしょうね。
丹羽 :この先、もっと発症者が増える……絶対に助からねえとわかったら、凄いパニックになるだ
ろうな。
七条 :母体の言った通りなら、本来の姿では環境に適応出来ませんからね……
丹羽 :七条先生、俺達は本当に正しかったのか? いや、正しいのはわかってる。あのまま、沼
男(スワンプ・マン)を放置したら、もっと多くの人間が食われてた。俺達は人類を救った。そ
れは間違いねえ……が、ニュースを見る度に俺は思うんだ。母体を殺したのは本当に正し
かったのかって。何も知らずに死んでくしかねえ人を前にしてもなお胸を張ってそう言えるの
かって。
七条 :……迷っているんですね。
丹羽 :迷ってる。そう、なるのかな……と言って俺はおもむろに右袖を捲り、えんじ色の肉塊に変
わりつつある腕を見せる。
七条 :僕は息を呑みます。それはっ……!
丹羽 :ああ、俺も沼男(スワンプ・マン)だったんだ。先月、肘を怪我して治りが遅いなって思って
たら……こうなった。
七条 :丹羽さん……
丹羽 :やめてくれ! 俺は丹羽哲也じゃねえ! 本物の丹羽さんを殺して成り代わった沼男(スワ
ンプ・マン)だ!
七条 :……
丹羽 :俺は今までずっと自分が人間だと信じてた。なぜなら、俺には昔からの記憶があるから
だ。幼馴染の顔や名前、教習所で初めてハンドルを握ったときの感動、タクシーに乗せた酔
客の愚痴すらはっきり覚えてる。どこをどう見ても、俺が沼男(スワンプ・マン)であるはずが
ねえんだ! だが、現実……俺は沼男(スワンプ・マン)だった。それに気づいたとき、俺は
思った。ああ、これは自業自得だって。俺はただ自分が死にたくねえから、あのとき、深く考
えもせずに母体とそれに連なる四万五千の生命をさっさと切り捨てたんだ。正しいとか、正
しくねえとか、そんなんじゃねえ。全部、自分のためだった!
七条 :死にたくないのは誰でも同じです。僕達はあの限られた時間の中で出来る限りのことをし
ました。ただ、沼男(スワンプ・マン)と人間の共存はどう足掻いても叶わぬ夢……どちらか
が滅ぶしかなかった。初めから、そう決まっていたんです。
丹羽 :……やっぱり良い人だな、七条先生は。だが、昔から言うだろう、人を呪わば穴二つって。
沼男(スワンプ・マン)に死を押しつけた俺が沼男(スワンプ・マン)だったのは、まさにそれ
なんだ。俺はただ死にたくなかっただけなのに……結局、自分で自分の死刑執行書にサイ
ンしたんだ……
七条 :なら、貴方は神父様が母体を殺さなければ良かったと思っているんですか?
丹羽 :……さあな。もう何もわからねえんだ。寝ても醒めても、俺の頭に浮かぶのはえんじ色の
肉塊……後小路の屋敷や、あの不気味な地下の広間で見た沼男(スワンプ・マン)の成れ
の果てだけだ……俺は、あんなふうにはなりたくねえ……あんな姿で死ぬのは嫌だ……
七条 :丹羽さん……
丹羽 :だから、今日、ここへ来た。七条先生……俺を、殺してくれ。
七条 :……!
丹羽 :総てを知ってるあんたなら、俺の気持ちがわかるはずだ!
七条 :それは……
丹羽 :あんたにこんなことを頼むのは酷だとわかってる。だが、情けねえ話だが、怖くて自分じゃ
出来ねえんだ。話してるだけで、ほら……手が震えてる。だから、頼む、七条先生! 俺が
人の形をしてる間に殺してくれ! 俺は母体を殺すと決めたことを後悔する前に死にたいん
だ! これから先も生き続ける人達を妬んで恨んで、心まで化け物になる前に! その前に
……頼む、七条先生! 俺を、殺してくれっ!!
七条 :僕は暫く瞳を伏せてから無言で白衣のポケットから一包の薬を取り出します。
丹羽 :震える手で受け取って尋ねる。これは……?
七条 :……毒です。眠る前に服用すれば、もう二度と……朝は来ません。
丹羽 :そ、そうか……でも、何で先生がこんな物を……っ……まさかあんたも!?
七条 :はい……母体を失った沼男(スワンプ・マン)は傷を修復しても擬態しないので、僕は直ぐ
わかりました。
丹羽 :そういえば、あのとき、先生はナイアの攻撃で背中に傷を負ってたな。それでか……
七条 :丹羽さん、僕は後悔しています。こんなことになるなら自分で母体を殺せば良かった、と。
あのとき、自ら選ばなかった僕は知らずに生きることを放棄していました。たとえ、その先に
どんな結果が待っていようと、自分の未来はきちんと自分で選ぶべきでした。ただ流される
よりかはその方が遥かに納得出来ます。
丹羽 :ああ……俺も今になって漸く神父様の言った意味がわかった気がする。だから、せめて最
後は自分の手で掴み取ることにしたんだ。
七条 :それで良いかと……
丹羽 :七条先生……今日、あんたの処に来て良かった。お陰で、俺は救われた。あんたは丹羽
哲也じゃねえ俺の最初で最後の友人だ。
七条 :有難うございます。貴方も僕にとっては最初で最後の友人でした。
丹羽 :一度くらい一緒に飲みに行きたかったな。
七条 :そうですね。美味しい料理とワインのあるお店を知っていますよ。
丹羽 :俺も良い地酒を置いてる店を知ってるぜ……二人で朝まで梯子してみたかったな。
七条 :はい、きっと楽しい時間になったでしょうね。
丹羽 :ああ……それじゃあ、そろそろ俺は行くぜ。
七条 :はい……お互い、悔いのないよう……
丹羽 :じゃあな、七条先生……有難う。
七条 :では、後日談、第二話……七条 臣の場合です。場面はそのままで時間は二十時少し前
くらいにしましょうか。丹羽会長が帰ると、僕は傍に立て掛けておいた杖を掴んで立ち上が
ります。座っているとあまり目立ちませんが、背中は肉塊の凸凹で酷い猫背の様になってい
るので、杖がないと巧く歩けません。今日の診療を終えた僕は白衣を脱いで背もたれに掛
けると、ゆっくりコートを着て病院を後にします。近くの大通りでタクシーを拾い、自宅のマン
ションに着くまで運転手とずっと世間話をしています。そして、降りるときに丹羽会長と同じ
薬を彼に渡します。その後は自室で普通に食事と入浴をするので、少し時間を進めます。
同日、二十二時……僕は居間のソファに腰を下ろし、瓶に入った粉薬を小分けして薬包紙
で丁寧に包んでいます。その作業に集中しているので、傍らにつけたテレビには目も向けま
せん。しかし、緊急ニュースを告げるアナウンサーの声に不意に手を止めました。どうやら
原因不明の奇病に関してアメリカ疾病管理予防センター(CDC)から調査員が日本に派遣
されるそうです。僕はそれを食い入る様に見て虚ろにこう呟きます。無駄なことを……母体
亡き今、僕達に残された希望はこれしかないのに……
中嶋 :後日談、第三話……中嶋英明の場合を始める。場面は後小路の事件の一ヶ月後、時刻
は寒さが身に沁みてくる夕方とする。現在、俺は教会が引き取ったナイアから暗黒の知識
を得て死よりも深い眠りに至る薬の研究を続けている。自宅を出た俺は小さな紙袋を手に
啓太の教会へと向かった。以前より明らかに信者が増えた礼拝堂では、まだ十数人が熱心
に祈りを捧げている。それを横目に俺は祭壇の左奥にある執務室へ入った。後ろ手にドア
を閉めながら、無意識に呟く。全く……最近、人が多くて落ち着かなくなったな。
伊藤 :こんばんは、中嶋さん……申し訳ありません。謎の奇病が流行っているので、今は救いを
求める人が多いのです。暫く我慢して下さい。
中嶋 :祈ったところで意味はない。あれは病気ではない。沼男(スワンプ・マン)の成れの果てだと
言って追い出せば良い。
伊藤 :ふふっ、ここは教会ですよ。絶望に打ちひしがれて神の前に膝を折る人々を無下には出来
ません。
中嶋 :絶望は信仰の礎、か。
伊藤 :おや、珍しいですね。研究以外に興味のない貴方が私の言葉を覚えているとは。今回の
件で何か心境の変化でもありましたか?
中嶋 :いや……ただ、母体の間で丹羽達を見ていて一つ思い出しただけだ。
伊藤 :宜しければ、それを聞かせて貰えませんか?
中嶋 :……昔、俺の親もよくあんなふうに俺の世話を押しつけ合っていた。俺は望まれない子供
だったからな。
伊藤 :それはお気の毒に。
中嶋 :心にもないことを言うな。
伊藤 :ふふっ、失礼しました……成程、親の愛を得られなかった絶望が貴方を信仰へと導いたの
ですね。
中嶋 :俺にそんな自覚はないがな……まあ、今となってはどうでも良いことだ。時間は生まれて
から死ぬまでの間しかない。俺は研究以外の些事でそれを浪費する気はない。そう言って
紙袋を啓太に渡す。中には俺の作った死に至る薬が入っている。
伊藤 :笑顔で受け取ります。有難うございます、中嶋さん。
中嶋 :そんな失敗作をどうする?
伊藤 :明日、七条さんがここへ来るので差し上げようかと。
中嶋 :七条? ああ、怪我で実験に使えなかったあいつか。奴は別れ際、もう俺達とは関わりたく
ない様に見えたが、連絡があったのか。どういう心境の変化だ?
伊藤 :七条さんは沼男(スワンプ・マン)だったそうです。
中嶋 :ほう?
伊藤 :ナイアの知識に一縷の望みをかけていましたが、そのナイアも沼男(スワンプ・マン)と知っ
たら、とても落胆していました。だから、ここへ来るよう言いました。私なら七条さんに希望を
与えられるので。
中嶋 :お前が示すのは泡沫の夢へ惑わす幻だろう。
伊藤 :それは七条さんの捉え方次第……そこまで私は関知しません。でも、何の救いもないこの
世界で見る夢があるなら幸せでしょう。
中嶋 :ふっ……お前の、その憎悪を憎悪と見せないところには全く感心する。
伊藤 :憎悪?
中嶋 :何だ。自分で気づいてないのか。以前、俺がお前に沼男(スワンプ・マン)について尋ねた
ことがあっただろう。
伊藤 :……ああ、肯定派か否定派かというあれですね。
中嶋 :そうだ。あのとき、お前は肯定も否定もしなかった。それは肯定であり、否定でもあったか
らだ。お前は人が沼男(スワンプ・マン)に食われるのは構わなかったが、沼男(スワンプ・マ
ン)の存在は許せなかった。いや、正確には沼男(スワンプ・マン)に食われてもなおその中
に残る人間性が許せなかった。だから、お前は沼男(スワンプ・マン)の増殖を止める方法
を知りたかった。奴らの尋常でない生命力は良くわかっていたからだ。もし、沼男(スワンプ・
マン)を完全に殺せなかったら、幾ら人間を殺しても意味がない。それほどまでに、神父、お
前は人を憎んでいる。
伊藤 :一瞬、俺は目を瞠ったものの、すぐさま表情を消して中嶋さんを冷たく見据えます。貴方の
務めは私の分析ではなく、一刻も早く薬を完成させることです。
中嶋 :ああ、わかっている。互いに余計な干渉はしないこの関係を俺は結構、気に入っている。
それを自ら崩すことはしないから安心しろ。ナイアの知識を取り入れて研究は順調に進んで
いる。近い内にその成果を見せられるだろう。楽しみにしていろ。そう言って俺は低く笑って
執務室を出る。
遠藤 :後日談、第四話……遠藤和希の場合ですが、もう俺は狂信する啓太以外とは会話が成立
しないので、出来事を客観的に語ることにします。場面は沼男(スワンプ・マン)の事件から
半年後です。警察は薫子が幾つか使い分けていた携帯電話の通信履歴から頻繁に連絡を
取っていた何人かに容疑者を絞りました。当然、俺もその中に含まれ、刑事が任意で事情
聴取をしようと教会に来ました。俺はそれを妄信している啓太から自分を引き離そうとして
いると思い、ナイフを取り出して激しく抵抗したので逮捕されました。しかし、俺の精神状態
では取り調べもままならず、その数日後、留置場内で狂死します。
伊藤 :なら、後日談、第五話……伊藤啓太の場合を始めます。場面は和希が逮捕された日の深
夜です。俺は食堂で何をするでもなく庭を眺めています。すると、背後に人の気配がして二
つの声が聞こました。
中嶋 :……感傷か、神父?
伊藤 :そういう訳では……ただ、もうこの庭も見納めですから……
中嶋 :庭などまた作れば良い。遠藤が捕まった以上、朝には家宅捜索が入る。時間を無駄にす
るな。
ナイア:ふっ、ふっ、ふっ、薔薇の下にあるものを警察が見つけたときが見物だな。一体、幾つ埋
まってるんだか。
伊藤 :さあ……薄汚い愚か者は大勢いるので、一々数えてなどいられません。きっと遠藤さんも
覚えてないでしょうね。そうして振り返ると、ナイア君の傍に行って右手を出します。
遠藤 :その手を取ります。ナイアの右肩は肉塊と化して歪に変形しているので、啓太に掴まらな
いと小さな身体ではバランスが悪くて巧く歩けません。
伊藤 :優しく尋ねます。大丈夫ですか?
ナイア:全く……忌々しい沼男(スワンプ・マン)だ。落ち着いたら、奴らに食われる前までこの身の
時間を戻して片づけてやる……少し手間だがな。
中嶋 :ほう? そうんなことも出来るのか?
ナイア:当たり前だ。僕は無貌の神の化身だぞ。ただ、下手に時間に干渉すると、ティンダロスの
猟犬に目をつけられるのが面倒なだけだ。
中嶋 :後小路の二の舞になる、か。
ナイア:僕はそんなヘマはしない……前にもやったことあるしな。
中嶋 :成程……見た目通りの年齢ではないと思っていたが、そういうことか。
ナイア:子供の方が都合が良いんだ。人間は食わないと生きてけねえからな。子供なら食費は少
なくて済む。
中嶋 :ふっ、神の化身と称しているのに食費の心配か。
ナイア:し、仕方ねえだろう! 貨幣システムは人間が作り上げたものだ。僕達には馴染みがない
んだ!
伊藤 :ナイア、もうお金の心配をする必要はありません。好きなものを、好きなだけ食べて良いの
です。ああ、そうだ。ちゃんと身体を元に戻せたら、ケーキでお祝いしてあげましょう。
ナイア:本当か、神父!? なら、チョコレート・ケーキが良い! 大きなマジパンの人形も乗ってる
やつ! あれ、一度、食べてみたかったんだ!
伊藤 :わかりました。新しい家に着いたら、ケーキ屋さんを探してみますね。
ナイア:あっ、あとカレーも! 半熟卵とチーズも付けて!
伊藤 :ふふっ、ナイアは本当にカレーが好きですね。
ナイア:カレーのレトルトはどんなものでも大抵、美味しかったんだ。でも、作ったのはもっと美味し
くて驚いた。更にトッピングだろう……本当、カレーって奥が深いよな。
伊藤 :遠藤さんは料理が上手でしたからね。ああいう人が直ぐ見つかると良いのですが。それま
では私が作ってあげますね。
ナイア:……ちゃんと作れるのか、神父? 遠藤がお前は殆ど料理出来ないって言ってたぞ。
伊藤 :それは昔の話です。以前は栄養管理のために食事は専門の方が作ったものを食べてい
ましたが、神父になってからは時折、自分で料理をしていました。
ナイア:栄養管理? 何かスポーツでもしてたのか?
伊藤 :ええ、一応……事故で身体を壊して断念しましたが。
中嶋 :神父、お喋りはそのくらいにしろ。
伊藤 :そうでした、つい……ナイア、お願いします。
遠藤 :わかった、と頷いてナイアは口の中で不穏な音を転がします。すると、虹色に波打った窓
硝子に次元の道が開き、同時にキッチンのコンロから大きな火柱が上がりました。それはた
ちまち天井に燃え移って炎が辺りを舐める様に広がってゆきます。
伊藤 :それを見た俺は中嶋さんに、お先にどうぞ、と手で示します。
中嶋 :俺は無言で窓に手を伸ばす。一瞬、目眩の様な感覚がした後、俺の身体は窓硝子に吸い
込まれる。
伊藤 :さあ、私達も行きましょう。
ナイア:あっ、神父……その……僕なら、お前の時間を戻すことも可能だ。面倒だけど、手間はど
うせ同じだし……だから、もし、お前が望むなら……
伊藤 :ナイア、私はもう戻れません。たとえ、この身の時間は戻せても、胸に刻まれた記憶は永
遠に消えないからです。純粋に未来を信じて努力していた私を人は無残に踏み躙った。怠
惰を貪るだけの者より私は何倍も、何倍も、何倍も努力していたのに……!
ナイア:だから、人間が憎いのか?
伊藤 :……憎んでないと言えば嘘になります。人は私の痛みに無関心で、今、この瞬間ものうの
うと日々を生きている。出来ることなら、彼らに私と同じ苦しみを与えてやりたい。心底、そう
思います。ですが、所詮、この世は神の見る夢……過去も未来も最初から総てないので
す。なら、復讐しても意味がありません。だから、好き勝手に壊すことにしました。要らないで
しょう、こんな世界。違いますか?
ナイア:ふっ、ふっ、ふっ……ああ、その通りだ。これから世界は更なる混沌へと向かう。沼男(スワ
ンプ・マン)の崩壊に人間どもの正気はどんどん失われ、身勝手な欲望が吹き荒れる。こん
な世界、さっさと壊れてしまえば良いんだ! そのための力なら、僕が貸してやる!
伊藤 :その言葉に、ふわっと俺は微笑みます。そして、改めてナイア君の手を握り締め、二人一
緒に窓硝子の向こうへと消えます。無人になった家は火の手に包まれ、やがて遠くから消
防車のサイレンが聞こえてきました。
2018.7.1
啓太の後日談に苦戦して時間がかかってしまいました。
黒い啓太は難しかったです。
やはり啓太は素直が一番。
これからも、そのままでいて~
r m