「えっ!?」
 中嶋の言葉に啓太は驚いて目を瞠った。七条の導入から夢が鍵になるのはわかったが、何となく皆で夢を見るものと思っていた。どうして俺達だけ……
 明らかな動揺を浮かべる啓太を横目に中嶋は静かに話し始めた。

中嶋 :啓太と遠藤はそれぞれ見覚えのない部屋に一人、ポツンと立っていた。最初の内はぼや
    けて揺れていた視界が現状を夢と認識するにつれて定まり、やがて自分が古ぼけた鏡を前
    に何かを呟いていることに気づいた。鏡の先は、ただ無音の闇が広がるばかり。だが、その
    深淵を覗き込むと……目があった。それはとても情愛の籠もった大きな青い瞳で何かを期
    待する様な、今はじっと耐えている様な、そんな眼差しを遥か虚空に向けて放っていた。お
    前達がぼんやりその光景を眺めていると、いつの間にか、青い瞳はこちらに焦点を絞って
    瞳孔を細めていた。そして、次の瞬間、それは幾つもの細くしなやかな触手を出して鏡の中
    から飛び出して来た。二人は同時に目を醒ます。
伊藤 :わっ、と叫んで飛び起きます。
遠藤 :俺も飛び起きて自分や周囲に異常がないか確認します。
中嶋 :カーテンの隙間から零れる眩しい朝陽の中、二人は夢の内容は全く覚えていないものの、
    何かの影から逃れたことを本能的に悟った。だが、底知れぬ恐怖が未だお前達の肝を掴ん
    ている。1/1D6のSAN(正気度)チェックだ。
遠藤 :なっ……!
    (俺のSAN値が……!)
伊藤 :そんなに大きいんですか、あの夢!?


遠藤 :SAN(47)→86 失敗 1D6→6
    :SAN(47)→41
    :アイデア(75)→59 成功 一時的狂気
伊藤 :SAN(60)→93 失敗 1D6→4
    :SAN(60)→54


遠藤 :いきなり発狂とは……
伊藤 :和希……
中嶋 :やはり今回もお前に対する女神の殺意が高いな、遠藤。1D10で狂気内容を決めろ。6な
    ら……わかっているな?
遠藤 :5です……助かった。
    (はあ……危うく開幕ロストするところだった)
中嶋 :釘づけになるほどの恐怖か……つまらん。遠藤は周囲を見回して安全を確認したが、未
    だ身体の芯を凍りつかせる恐怖に暫く動けなくなってしまった。啓太は動揺を落ち着かせよ
    うと、洗面所へ駆け込んだ。嫌な記憶と汗を冷たい水で洗い流せば、少し気分がさっぱりし
    た気がする。だが、タオルで顔を拭き終えたお前がふと鏡を見ると、その遥か後ろに子供の
    頃の自分がいた。
伊藤 :えっ!?
中嶋 :幼いお前は遠くて表情は良く見えないが、頭をゆらゆら揺らしていた。慌てて振り返るも、
    そこには誰もいない。再び嫌な気配を感じてしまった啓太は0/1のSAN値を失う。
伊藤 :ま、また……


伊藤 :SAN(54)→25 成功


「良かった」
 啓太は、ほっと胸を撫で下ろした。丹羽が口を挟む。
「中嶋、作戦タイムだ」
「……だろうな」
 中嶋は少し机から離れると、静かに煙草に火を点けた。丹羽が小さく腕を組んだ。
「導入から情報が多いと思ってたが、こういうことだったんだな」
 七条が頷いた。
「どうやら夢が伝染していく様ですね。でも、ネットで読んだ僕は見なかったので、対面で聞かないと駄目みたいです」
「それって俺が夢の話をしたから……だから、和希も夢を見たってことですか!?」
 啓太は自分の浅はかな行動に少なからぬ衝撃(ショック)を受けた。すると、和希が大きく首を振った。
「違うよ、啓太、俺が自分から聞きたくてそういうRP(ロール・プレイ)をしたんだ。だから、啓太に責任はないよ」
「でも……!」
「いずれ夢の情報は共有することになるだろう。なら、俺は早めに聞けて良かったと思う。その方が対策を立て易いからな」
「……有難う、和希」
 和希に励まされ、啓太は少し気を取り直した。西園寺が言う。
「だが、安易な情報共有は危険だ。恐らくこの夢は続く、ドラマの様に。そして、夢を見た者は幻覚にも憑かれる。その度にSAN(正気度)チェックが入るから、SAN値の厳しい遠藤が見続けるのは危険だ」
「ああ、早めに誰かと代わるべきだな」
 丹羽もそれに同意した。
「ふふっ、ここは僕の出番ですね」
 七条が嬉しそうに微笑んだ。西園寺が呆れた瞳で七条を見やった。
「継続キャラで念願の発狂が出来そうだな、臣」
「はい、僕ならSAN値に問題はありませんから合流したら直ぐ夢の情報を貰います。そのときは宜しくお願いしますね、伊藤君」
「あの……俺だけじゃ駄目ですか?」
 申し訳なさそうに啓太が言うと、すぐさま丹羽が首を振った。
「セッションが始まったときの中嶋の言葉を覚えてるか、啓太? 自らの正気と狂気を秤に掛けるって言っただろう。それは、つまり、夢からしか出ねえ情報があるってことだ。多分、不定の狂気までは誰かのSAN(正気度)を削ることになる。だから、唯一の『精神分析』持ちである啓太を発狂させる訳にはいかねえんだ」
「そうなんですね」
 啓太は小さく息を吐いた。中嶋が煙草を消して全員を見回した。
「大体、纏まったな。再開する前に夢について補足しておく。夢の内容は『アイデア』に成功すれば思い出せるが、同時に再びSAN(正気度)チェックが発生する。RP(ロール・プレイ)の際は注意しろ。思い出してもないのに夢の内容を話せば、相応のペナルティを付ける」
「うわっ、下手に話すことも出来ねえのか」
 丹羽が顔を顰めた。
「また、今シナリオの発狂による『クトゥルフ神話』の獲得についてだが、初発狂で5、不定の狂気で8、夢を見る度に1の神話技能を獲得する。これにより啓太は1、遠藤は6の追加だ」
「俺、神話技能は要らないのに……」
 はあ、と啓太は息を吐いてステータスを変更した。和希も一つ、大きなため息をつく。
「俺は無事に生還出来るか心配になってきたよ、啓太」

伊藤 :クトゥルフ神話(3)→4
遠藤 :クトゥルフ神話(13)→19


中嶋 :では、啓太が幻覚を見た頃、遠藤は何とか恐怖を宥めて動ける様になった。
遠藤 :直ぐ啓太に電話します。俺は夢について調べようとしていた矢先だったので、昨日の啓太
    の話を思い出して急いで安否を確認します。
伊藤 :俺は電話に駆け寄ります。もしもし、和希っ……!
遠藤 :どうした、啓太、何かあったのか!?
伊藤 :和希、俺、何か変なんだ! 凄く怖い夢を見て……内容は覚えてないけど、でも、凄く怖く
    てっ……!
遠藤 :落ち着いて、啓太……多分、俺も啓太と同じ夢を見ている。だから、電話したんだ。啓太の
    ことが心配で。
伊藤 :それだけじゃない! 今、幻覚も見たんだ! 鏡の向こうに小さい頃の俺がいて……表情
    はわからなかったけど、頭を不気味にゆらゆら揺らしてるんだ……!
遠藤 :幻覚……
    (昨夜の追加情報……まさか目を潰したのはこれ以上、幻覚を見ないためにっ……!)
伊藤 :どうしよう、和希……また杉山邸の様なことが起こったら……! あのときも俺、何も出来
    なかった。今度もきっと……!
遠藤 :落ち着いて、啓太……幻覚の件は俺の方で急いで調べてみる。何かわかったら直ぐ啓太
    の処へ行くから、それまでは念のため知り合いの誰かに付いていて貰えるよう頼んでおく。
    だから、啓太は俺が行くまで絶対に部屋から出ないで、その人と一緒にいること。良い?
伊藤 :うん……わかった、和希……そう言って俺は電話を切ります。
遠藤 :身支度を整えながら、すぐさま王様に電話します。
中嶋 :なら、洗顔などをしに洗面所へ行ったお前もまた鏡の奥に不気味に頭を揺らしている幼い
    頃の自分の姿を見た。その邪悪な気配に0/1のSAN(正気度)チェックだ。


遠藤 :SAN(41)→14 成功


遠藤 :はあ……早く王様達と合流しないと、本当にSAN値が危険です。
中嶋 :遠藤は啓太から聞いて心構えが出来ていたのか、全く動揺しなかった。丹羽、電話が鳴っ
    ているぞ。
丹羽 :なら、スマホに表示された遠藤の名前に俺は欠伸を噛み殺して出る。おう、遠藤さん……
    おはようさん。こんな朝早くにどうしたんだ?
遠藤 :おはようございます、丹羽さん。実はお願いがあって今日一日……場合によっては暫く啓
    太の傍に付いていて貰えませんか?
丹羽 :啓太がどうかしたのか?
遠藤 :まだ詳しくは話せませんが、啓太の言動に注意して欲しいんです。最悪、自傷行為から自
    殺に至る危険があります。
丹羽 :何だって!?
遠藤 :俺は他の似た事例をもう少し調べてから啓太の処へ行きます。だから、その間、誰かに啓
    太を見ていて欲しいんです。
丹羽 :わかった……って言いたいところだが、今日、俺は郁ちゃんと七条さんに会うから、二人を
    代わりに啓太の処へ行かせるので良いか? 俺の方も何か雲行きが怪しくてよ……昨日か
    ら中嶋と全く連絡がつかねえんだ。
遠藤 :中嶋さんもですか!?
丹羽 :も、ってどういうことだ? 何か知ってるのか?
遠藤 :もしかしたら、それも啓太の件と関連があるのかもしれません。中嶋さんの住所を教えて
    下さい。
丹羽 :待て。中嶋の処なら俺も行く。昨日、珍しくあいつから電話が掛かってきたんだ……取り損
    ねたけどよ。もし、中嶋に何かあったとしたら、よっぽどのことに違いねえ。だから、俺も行く
    ぜ。
遠藤 :わかりました。
丹羽 :なら、俺は時間と場所を指定して電話を切る。午前中は郁ちゃん達と会うから午後だな。
    後はKP(キーパー)に任せる。動かし易い様にやってくれ。
中嶋 :わかった。遠藤の場面を先に続ける。身支度を整え、外に出ようとした遠藤はふと雨の匂
    いに気がついた。靴箱の横に置いてある傘を手にマンションのエレベーターを降りて玄関ホ
    ールに着くと、案の定、どんよりと重い空から冷たい雨が降っていた。足元には既に大きな
    水溜まりが出来ている。遠藤、DEX(敏捷)×5を振れ。
遠藤 :これは……
    (幻覚のトリガーは鏡面か……厄介だな)


遠藤 :DEX(75)→20 成功


中嶋 :雨空を見上げた遠藤は足元の水溜まりに意識を向けることはなかった。そのまま、傘を差
    して雨の中を駅へ向かって歩き出した。一時間後、自分のオフィスに着く。再度、『図書館』
    ロールをしろ。
遠藤 :今度こそ……!


遠藤 :図書館(65)→00 ファンブル


「また失敗……ダイスの女神に献金でもしようかな……」
 和希は大きく肩を落とした。すると、丹羽がマドレーヌを片手に言った。
「そういう邪な発想が駄目なんだ、遠藤」
 西園寺も頷く。
「女性ならば花だろう」
「案外、スイーツも良いかもしれませんよ」
 七条はマドレーヌにチョコレート・ソースを掛けて微笑んだ。ほら、美味しそうでしょう……?
「大丈夫だよ、和希、まだ序盤なんだからさ」
 ここぞとばかりに和希で遊び始めた丹羽達の間に慌てて啓太は割って入った。和希の表情が一気に明るくなる。
「ああ、啓太……! 俺のことを心配してくれるのは啓太だけだよ」
「そんなことないよ。ふざけてるけど、王様達もちゃんと和希のことは心配してるよ」
「そうかな……なら、もう少しそれを素直に表しても良いと思うけどな」
「描写を続けるぞ、遠藤」
 話が逸れてきたので、中嶋が冷たく会話を断ち切った。

中嶋 :遠藤はオフィスの片隅に設置してあるコーヒー・メーカーでコーヒーを入れ、それを片手に
    デスクで昨日の資料の続きを読み始めた。しかし、ふと見たコーヒーの水面に映る己が顔
    の後ろにまた幼い頃の自分がいた。それは先ほど洗面所の鏡で見たときよりも近く、その
    歪な表情がはっきりとわかった。幼い遠藤は無邪気とは程遠い邪悪な微笑を浮かべ、お前
    を見ると、ゆらゆら頭を揺らすのをやめて一歩……こちらへ歩み寄って来た。お前は小さく
    息を呑んで振り返った。だが、そこには誰もいなかった。本能的な恐怖を感じる存在に接し
    た遠藤はSAN(正気度)チェック、0/1D3だ。
遠藤 :もう成功する気がしません……


遠藤 :SAN(41)→52 失敗 1D3→2
    :SAN(41)→39


遠藤 :七条さん、早く代わって下さい。
七条 :ふふっ、もう少し頑張って下さい、遠藤君。
中嶋 :動揺したお前は資料に集中出来ないまま、午前中を過ごした。ここで遠藤の場面を切り、
    丹羽達の描写へ移る。雨の中、風窓のマンションの前で丹羽、西園寺、七条の三人が合流
    する。時刻は午前九時だ。
丹羽 :なら、傘を差して待ってた俺は郁ちゃんと七条を見て手を振るぜ。お~い、二人とも、こっち
    だ。
西園寺:丹羽、そんなに大声を出さなくとも姿は見えている。
七条 :おはようございます、丹羽さん。
丹羽 :時間通りだな、郁ちゃん。七条先生、来てくれて助かったぜ。
七条 :こちらこそ。オカルト研究家のコレクションなら僕にとっても興味がありますから。
丹羽 :まあ、それが失踪とどう関係するかはわからねえが、何か気になることがあったら、直ぐ教
    えてくれ……こっちだ。そう言って俺は二人と一緒に風窓の部屋へ向かう。
中嶋 :お前達はエレベーターで五階まで上がると、丹羽が優香から預かった鍵で部屋のドアを開
    けた。そこは大きなワン・ルームで風窓の失踪後はずっと放置されていたせいか、室内には
    少し埃が漂っていた。窓際に机が一つあり、壁には民族的な面が所狭しと飾られている。幾
    つもある棚には様々に奇妙な像やウィシャ・ボードの様な文字盤が置かれていた。生活感
    は全くなく、キッチンには大きなトーテム・ポールが鎮座している。
丹羽 :完全にコレクション・ルームだな。
西園寺:手分けして『目星』を振る。私は机だ。
七条 :僕は棚にします。硝子板がないか探したいです。
丹羽 :なら、俺は部屋全体にするぜ。


西園寺:目星(85)→81 成功
七条 :目星(50)→43 成功
丹羽 :目星(75)→06 成功


七条 :全員、成功しましたが、郁は出目が高いですね。
西園寺:成功したのだから問題ない。
丹羽 :俺はクリティカル手前だから良い情報を頼むぜ、中嶋。
中嶋 :では、お前達は手分けして部屋を探し始めた。真っ先に机へ寄った西園寺は引き出しの
    中から風窓の手記を見つけた。コレクションに関することを色々書き綴っていたらしい。読む
    のに技能は要らないが、一時間が経過する。
西園寺:勿論、読む。
中嶋 :なら、先に他の結果を出す。七条は棚をじっくり見たが、優香の言っていた硝子板は見つ
    けられなかった。丹羽は少し空気を入れ替えようと窓へ寄った。そのとき、ふと床のフローリ
    ングにチョークで何か描かれていることに気づいた。それは殆ど掠れて消えているが、五芒
    星の様な図柄だった。
丹羽 :もしかして、旧き印か? 『オカルト』か『クトゥルフ神話』を振ったら、何かわからねえか?
中嶋 :特に何も出ない。二人が探索に行き詰まっていると、西園寺が手記に興味深い書き込み
    があると声を掛けた。内容はこうだ。


No.79 レンの硝子
偶然、立ち寄った骨董店で褐色の肌をした店主から購入。
異世界を覗ける鏡らしいが、何年も売れずに困っているとのこと。
ただの古物を押しつけられた気がしなくもないが、面白そうなので買った。
呪文は忘れないようメモしておく。
鏡に向かって……


中嶋 :購入までの簡単な経緯の下に呪文が綴られた形跡があるが、なぜかそれはかき消されて
    いる。
七条 :褐色の肌ですか。
西園寺:そこは気にしなくて良いだろう。今回の件に関係があるとは思えない……切っ掛けは作っ
    たかもしれないがな。
丹羽 :あれは完全に愉快犯だからな。
    (それに、ニャルラトホテプは中嶋好みの神格じゃねえ……今回の黒幕はあれだろうな、多
    分)
西園寺:取り敢えず、今は情報共有をする。私は手記を見せ、二人にこう言う。風窓さんが私に鑑
    定を頼もうとしていたのは恐らくこのレンの硝子だと思う。だが、これを読む限り、私より臣
    の方が適任だったな。
丹羽 :床に描かれた図柄といい、風窓さんが呪文を使ったのは間違いねえな。そして、何かが起
    きた……
七条 :風窓さんがレンの硝子を入手したのが一ヶ月前、失踪したのは数週間前……
西園寺:どうかしたのか、臣?
七条 :いえ……ただ、失踪という言葉を良く聞くなと思いまして……これはオカルト界隈での噂な
    んですが、最近、失踪者や自殺者が急増しているそうです。風窓さんも何か関連があるの
    かと思って……
丹羽 :成程……遠藤さんはそのことを言ってたんだな。
西園寺:遠藤がどうした、丹羽?
丹羽 :多分、今、遠藤さんがその件を調べてるぜ。
西園寺:ならば、この失踪には神話生物が関わっているのか。
七条 :もしかしたら、風窓さんが最初の犠牲者かもしれませんね。時期的にも初期の失踪者です
    し、儀式に失敗して何かを呼び出してしまったのかもしれません。
西園寺:その可能性は大いにある。早々に遠藤に会って詳しく話を聞くべきだな。
丹羽 :なら、この後、郁ちゃん達は啓太の家へ行ってくれねえか? 遠藤さんの口振りだと啓太も
    この件と関係があるらしい。
西園寺:啓太の家へ行くのは構わないが、お前は来ないのか?
丹羽 :ああ、俺は遠藤さんと中嶋の家を調べに行く……昨日からずっと連絡が取れねえからな。
西園寺:まさか……中嶋も失踪したのか!?
丹羽 :わからねえ。だが、こんなことは今まで一度もなかった……何か嫌な予感がするんだ。
七条 :確かに……もし、あの人が本当に失踪したなら、ただ事ではありませんね。
丹羽 :風窓さんと中嶋、啓太を繋ぐ線はまだ見えねえが、万が一にも啓太まで失踪しねえよう俺
    達が行くまで二人は啓太の傍に付いててくれ。
西園寺:わかった。啓太は私達がしっかり見ておく。
七条 :では、後で伊藤君の家で合流しましょう。


「お前達の探索が終わったのは午前十一時を少し過ぎた頃だった。ここで描写を切る。時間を戻して啓太の場面を……いや、少し待て」
 中嶋は机の引き出しから三つ折りの小さな衝立を取り出した。啓太が興味深そうに尋ねた。
「和希、あれは?」
「ああ、あれはキーパー・スクリーンだよ。ダイスの出目を見られない様にあれで自分の前を囲って視線を遮るんだ」
「普段、僕達はあまり使いませんがね」
 七条が怪訝そうに中嶋を見やった。静かな生徒会室に中嶋のダイスを振る音が響き渡る。一回、二回、三回、四回、五回……
「おい、何回やる気だよ、中嶋!」
 いつまでも止まらないダイス音に丹羽が驚きの声を上げた。しかし、中嶋は何も答えなかった。ただ、黙々とダイスを振り、出目を記録し続け……十九回目にして漸く止まった。
(一体、何を考えてるんだ、中嶋の奴……まさか本気で……)
 丹羽は、じっと中嶋を見つめた。それに気づいて中嶋の口の端が小さく上がった。
「では、時間を朝まで遡って啓太の描写から再開する」



2018.12.31
中嶋さんの怒涛のダイス・ロール……
その意味を知ったら、
あまりの容赦のなさに、
皆、蒼ざめてしまいそう。

r  n

Café Grace
inserted by FC2 system