中嶋 :啓太は今日は大学の講義があったが、遠藤に言われて急遽、休むことになった。遠藤が
    誰かを寄越すと言っていたが、まだ当分は来ないだろう。その間、お前はどうする?
伊藤 :う~ん、取り敢えず、テレビでも見てます。特にすることが思いつかないので。
中嶋 :では、リビングのソファに座ってお前は暫くテレビを眺めていたものの、平日の午前中に面
    白い番組があるはずもなかった。あまりの退屈さにお前は欠伸を一つ噛み殺す。1D100を
    振れ。その数値がCON(体力)+POW(精神力)以上だった場合、お前は再び眠りに落ち
    る。
伊藤 :ね、寝ません様に……


伊藤 :CON(9)+POW(14)→84 失敗


中嶋 :睡眠の質が悪かったせいか、お前は眠気に逆らえなかった。徐々に瞼が重くなり、睡魔に
    囚われ……再び夢を見た。
伊藤 :ううっ、見たくないのに……
中嶋 :夢の中でお前は昨夜の悪夢を思い出した。目の前には、まるでその続きの様に無数の触
    手を生やしたあの青い瞳が迫っている。お前は部屋から外へ転がり出ると、泡を食って逃
    げ出した。だが、後ろを気にするあまり道端にあった赤いポストに思い切りぶつかってしまっ
    た。倒れたお前は立ち上がる間を惜しんで四つ這いになった。すると、直ぐ近くの丁字路を
    通り掛かった男が慌ててこちらに駆け寄って来た。男は、大丈夫ですか、と手を差し出した。
    お前は藁にも縋る思いでそれに腕を伸ばした……が、次の瞬間、目の前に落ちてきたのは
    その男の首だった。丁字路の上に掛かったカーブ・ミラーから何本もの触手が伸び、親切な
    男を無残に切り刻んでいる。このままでは自分も殺される。そう思ったお前は力の抜けた足
    を叱咤して再び立ち上がると、そこから必死に逃げ出した。そして、気がつくと……お前は
    テレビの音が虚しく響くリビングでソファから転げ落ちて呆然としていた。今朝と同様に夢の
    内容はやはり覚えていない。しかし、あの残酷な恐怖だけは記憶の底にこびり付いていた。
    お前は震えの止まらぬ手で小さく身体を抱き締めた。二度目の悪夢に啓太は1D3/1D8
    のSAN(正気度)を喪失し、1の『クトルゥフ神話』を獲得する。
伊藤 :怖過ぎます、そんな夢っ……!


伊藤 :SAN(54)→15 成功 1D3→1
    :SAN(54)→53
    :クトルゥフ神話(4)→5


中嶋 :ここで西園寺と七条が啓太の家のあるマンション前に到着する。時刻は午後十二時十五
    分だ。まだ雨はしとしと降っている。マンションの入口は二重のオートロックになっているか
    らRP(ロール・プレイ)で外せ。


(外す……?)
 中嶋の言い方に西園寺は僅かな引っ掛かりを感じた。しかし、その意味を深く考える前にそれ以上の疑問が口を衝いて出た。
「二重のオートロック……?」
 ああ、と七条は呟いた。
「郁はマンションに住んだことがないので知らないかもしれませんね。二重のオートロック式では、フロント・エントランスとグランド・エントランスのそれぞれで住人の許可がないとマンション内へ入れないんです」
「成程……セキュリティ重視ということか」
「今は三重ロックもありますよ。世の中、物騒ですからね」
「確かに安全は重要だが、住人も出入りをする度にロックを解除しなければならないのは面倒だな」
「それは大丈夫です。鍵を持っている住人は操作盤の前を通ると、自動でロックが解除されます」
「ほう? それは面白い。今度、建築関係の本を少し読んでみるか」
 西園寺は新しい玩具を見つけた猫の様に目を細めた。中嶋が口を挟む。
「マンション談義はそれくらいにして早くRP(ロール・プレイ)を始めろ」

西園寺:では、マンションに到着した私は玄関先で傘を畳む。臣、後は任せる。
七条 :わかりました。では、僕も傘を畳むと、フロント・エントランスのドア近くにある操作盤に伊藤
    君の部屋番号をいれて集合インターホンを鳴らします。ピンポ~ン。
伊藤 :(う~ん、俺もこういうマンションには住んだことないから良くわからないな……普通のイン
    ターホンと同じかな)
    俺は急に聞こえた音にビクッと飛び上がります。でも、一人は怖いのでインターホンに駆け
    寄り、モニターに映った二人を見て少し胸を撫で下ろします。さ、西園寺さん、七条さん……
七条 :こんにちは、伊藤君、遊びに来ました。美味しいケーキと紅茶を持って来たので、皆が揃っ
    たら一緒に食べましょう。
伊藤 :は、はい……と頷いてロックを外します。
七条 :グランド・エントランスでまた同じことをします。
伊藤 :直ぐロックを外します。
中嶋 :では、マンション内に入った西園寺と七条はエレベーターで啓太の部屋へと向かった。啓
    太、DEX(敏捷)×5を振れ。
伊藤 :あっ、はい。
    (何のロールだろう……?)


伊藤 :DEX(60)→68 失敗


中嶋 :オートロックを解除した啓太は、映像が消えた暗いモニターに映る己が顔の向こうに、また
    子供の自分がいることに気づいた。その表情は邪悪に歪み、お前を見ると頭を揺らすのを
    やめて一歩……こちらへ近づいて来た。
伊藤 :うわっ、と声を上げてインターホンから離れます。
中嶋 :お前は不安に駆られて慌てて背後を確かめた。だが、そこには誰もいなかった。0/1D3
    のSAN(正気度)チェックだ。
伊藤 :女神様っ……!


伊藤 :SAN(53)→93 失敗 1D3→1
    :SAN(53)→52


七条 :失敗しても最低値とはさすが伊藤君です。
    (このための二重ロックですか……本当に容赦のない人ですね)
伊藤 :俺、先刻から運だけで生きてる気がします。
中嶋 :お前は度重なる悪夢と幻覚に酷く動揺してしまった。暫くは身体の震えが止まらず、言葉
    が巧く出ない。また、何か切っ掛けがあれば夢のことを話したくなるRP(ロール・プレイ)をし
    ろ。その場合は最新の夢に関する判定だけで総て思い出せる。
伊藤 :わかりました。
    (思い出したくないけど、俺が話さないと駄目だよな。和希はSAN値が危ないから……)
中嶋 :玄関のチャイムに啓太はよろよろと二人を出迎えに行った。これで三人は合流する。西園
    寺と七条は啓太の状態を知りたいなら『目星』だ。
西園寺:当然、振る。
七条 :僕もです。


西園寺:目星(85)→62 成功
七条 :目星(50)→09 成功


中嶋 :二人は自分達を出迎えた啓太を見て驚いた。何とか表情を取り繕っているが、身体は小
    刻みに震え、二つの瞳には隠し切れない動揺がはっきりと見て取れた。
伊藤 :さ、西園、寺さ……七条、さん……あ……お、俺……っ……
西園寺:啓太、話は後だ。一先ず中へ入ろう……臣、啓太にお茶を。
    (啓太には可哀相だが、仕方がない。私達はまだ鏡面のことを知らないからな)
七条 :そうですね。さあ、伊藤君、中へ入りましょう。
西園寺:私は啓太をリビングのソファに座らせると、その隣に腰を下ろして啓太が落ち着くのを待
    つ。テレビは煩いから消す。
七条 :その間に僕はキッチンでお茶を淹れてきます。
中嶋 :なら、もう一度、DEX(敏捷)×5を振れ、啓太。
伊藤 :ま、またですか……


伊藤 :DEX(60)→78 失敗


中嶋 :七条が差し出した紅茶を受け取った啓太はそれを飲もうとして凍りついた。紅茶の水面に
    映る自分の後ろにまたもや幼いお前がいた。先刻よりも更に近く、少し成長した姿で。その
    顔は気味の悪い微笑を浮かべ、嬉しそうにお前を見ていた。恐ろしくなったお前は乱暴に紅
    茶をロー・テーブルに放り出して振り返った。しかし、そこにはやはり誰もいなかった。自分
    を狙う悪意が音もなくゆっくりと……だが、確実に近づいていると悟った啓太は1/1D6+1
    のSAN(正気度)チェックだ。
伊藤 :そんな……俺、もう駄目かも……


伊藤 :SAN(52)→70 失敗 1D6+1→7
    :SAN(52)→45
    :アイデア(75)→16 成功 一時的狂気


「うわっ、ここで最大値か」
 丹羽が声を上げた。啓太は大きく肩を落とした。
「今までの反動がこんなところで……」
「大丈夫だよ、啓太、まだSAN(正気度)に余裕はあるから」
 すかさず和希が優しく慰めた。中嶋が先を促す。
「啓太、1D10を振って狂気内容を決めろ」
「……はい」
 啓太は力なくダイスを振った。一瞬の後、周囲から静かな歓声が上がった。
「6って……」
 出目を見た啓太は蒼ざめた。他はわからないが、これだけは覚えていた。それはクトゥルフ最大の華、殺人癖か自殺癖を示していた。丹羽が感慨深そうに呟いた。
「終に啓太も本格的な発狂か……まあ、郁ちゃん達もいるし何とかなるだろう。頑張れ」
 その言葉に西園寺も同意した。真っ直ぐ啓太を見つめる。
「何が起こってもお前を止めるから心配するな、啓太」
「そうですよ、伊藤君、総て僕達に任せて安心して発狂して下さい」
 ふふっ、と七条は微笑んだ。和希が素早く二人を睨みつけた。
 こと啓太に関して和希は猫の額より心が狭かった。西園寺達のPC(プレイヤー・キャラクター)は鏡面の幻覚を知らないとわかってはいても、それは言い訳にすらならない。たとえ、ゲームであろうと、啓太を脅かすもの総てが許せなかった。ただ、以前と違い、今はそのことを口に出さない分別が辛うじて残っていた。
(やはり他の者には任せられない。啓太は、これからも俺がしっかり護らなければ……!)
 和希は密かに拳を握り締めた。それぞれの反応を一通り見た中嶋が最後に口を開いた。
「啓太、お前は今まで大した発狂がなかったから良い機会だろう。どちらにするか決めろ」
「……なら」
 少し考えて啓太は小さな声で言った。
「自殺癖にします。夢を見て人を殺すって想像出来ないし……自殺も良くわからないけど。俺は紅茶を投げ出してベランダから外へ逃げようとします。これなら結果的に自殺になりますよね?」
「ああ、それでRP(ロール・プレイ)をしろ」
「はい、それじゃあ……」
 啓太は諦めて一つため息をついた。

伊藤 :突然、俺は悲鳴を上げてティ・カップを乱暴にテーブルに投げ出すと、ベランダへ駆け寄り
    ます。うわあああっっっ……!!!
西園寺:咄嗟に啓太の腕を掴む。何をする気だ、啓太っ……!
七条 :僕も思い切り手を伸ばします。伊藤君っ……!
中嶋 :西園寺と七条はDEX(敏捷)×5だ。


西園寺:DEX(65)→65 成功
七条 :DEX(70)→42 成功


中嶋 :急に錯乱してベランダから飛び降りようとした啓太を西園寺と七条は慌てて捕まえた。だ
    が、その手を振り解こうと啓太は激しく暴れ出した。
伊藤 :は、離っ……助けてっ……! わあああっっっ……!!!
西園寺:啓太を押さえつける。しっかりしろ、啓太っ!!
七条 :伊藤君っ……!
中嶋 :暫くの間、西園寺と七条は力づくで啓太を押さえ続けた。STR(力)対抗ロールは自動成
    功だ。啓太、発狂中の今ならSAN(正気度)チェックなしで夢の内容を話しても良い。
    (予想外にSAN値が削れたからな。このままでは最後まで持たない)
伊藤 :有難うございます。なら……えっと……俺は夢中で叫びます。く、来る! 青い瞳がっ……
    殺される! あの人の様に、俺も殺されるっ……!
七条 :……!?
中嶋 :啓太は恐怖に満ちた表情で虚空を見上げた。次の瞬間、ふっと身体から力が抜けた。意
    識はあるが、半ば呆然としている啓太を西園寺と七条は急いでソファに座らせた。ここで三
    人の描写を止めて丹羽と遠藤の場面に移る。
伊藤 :はあ……飛び降りなくて良かった。有難うございます、西園寺さん、七条さん。
西園寺:ああ。
七条 :良かったですね、伊藤君。
中嶋 :少し時間を遡った午後十二時、冷たい雨が細く降りしきる中、丹羽と遠藤は中嶋の住むマ
    ンションの前にいた。そこも二重のオートロックだったが、丹羽が管理会社に連絡すると、身
    分証明だけで簡単に部屋へ入ることが出来た。あまりにセキュリティが緩いので理由を尋
    ねると、数日前、中嶋が丹羽哲也という男から連絡が来たら部屋へ通して欲しい旨を予め
    伝えていたとわかった。まるで自分が来るのを知っていたかの様な中嶋に丹羽の嫌な予感
    は更に深まった。室内を二人で丁寧に探索するなら各部屋ごとに一時間を消費する。
丹羽 :(消費か……残り時間がわからねえだけに不穏だな)
    中嶋、俺は何度もここへ来たことがあるはずだ。間取りくらいは知ってるだろう。
中嶋 :2LDKで玄関に近い方から順に、俺が調べた事件の記録や資料が置いてある保管庫、寝
    室、リビング・ダイニングとなっている。それ以上は自分で探索しろ。
遠藤 :王様、啓太の状態を考えると総て調べる余裕はなさそうなので、探索する部屋を絞りませ
    んか?
丹羽 :ああ、俺もそう思ってたところだ。生活の中心はリビングだ。まずはそこから調べようぜ。保
    管庫は多分、引っ掛けだ。今、調べてる事件の資料があるはずがねえ。問題は寝室をどう
    するかだが、それはリビングの結果次第で考えねえか?
遠藤 :わかりました。もし、寝室を調べるなら、俺は先に啓太の家へ行きます。
丹羽 :了解。
中嶋 :では、二人は『幸運』を振れ。


丹羽 :幸運(65)→84 失敗
遠藤 :幸運(35)→68 失敗


丹羽 :はあ……ついてねえ。
遠藤 :俺はもう慣れました。
中嶋 :玄関で靴を脱いだ丹羽と遠藤はまずリビングへ向かった。短い廊下を進み、仕切りドアを
    開けて中へ入る……が、次の瞬間、二人は足の裏に鋭い痛みを感じた。
丹羽 :痛っ、と声を上げて後ろへ下がる。床に『目星』だ。
遠藤 :俺も痛みにすかさず後ずさって床に『目星』を振ります。
中嶋 :『目星』は自動失敗だ。幾ら外が雨とはいえ、カーテンを閉め切った室内は日中にしては
    異様に暗く殆ど何も見えなかった。仕方なく丹羽は床に気をつけながら、右の壁に手を伸ば
    した。パチッと明かりのスイッチを入れる……すると、そこには信じられない光景が広がって
    いた。室内は激しく暴れたかの様に乱雑に散らかり、テレビや食器棚などの家具や硝子製
    品、鏡がことごとく割られていた。その欠片がフローリングの床の至る処に落ちてキラキラと
    光を反射している。これ以上は中に入ってから『目星』だ。
遠藤 :先刻、足の裏に走った痛みは硝子の欠片を踏んだせいですか。
丹羽 :素足で入るのは危険だな。中嶋、玄関に客用のスリッパがあるだろう。多分、啓太も来た
    ことあるから最低でも二足はあるはずだ。場所と個数を把握してるなら、戻って履いても時
    間は掛からねえよな。
中嶋 :……一旦、お前達は玄関に戻って靴箱の中にあった客用のスリッパを履いた。
丹羽 :よし! リビングで再度、『目星』だ。


丹羽 :目星(75)→21 成功
遠藤 :目星(85)→57 成功


中嶋 :最初に目についたのは、煙草で一杯の灰皿と共にロー・テーブルに放置された大量のコ
    ーヒーの空き缶だった。幾つかはテーブルから落ちて中身が零れ、下に敷かれた毛足の長
    い白い絨毯に茶色の染みを作っている。また、ソファの上には血塗られた果物ナイフが置い
    てあった。それに気づいた二人は0/1のSAN(正気度)チェックだ。更に果物ナイフには任
    意で『アイデア』を振ることが出来る。
丹羽 :『アイデア』を振る。血塗られたって時点で成功してもろくな結果が出そうにねえがな。
遠藤 :なら、俺はパスします。これ以上、SAN(正気度)チェックの危険を冒したくありません。


丹羽 :SAN(58)→92 失敗
    :SAN(58)→57
    :アイデア(75)→09 成功
遠藤 :SAN(39)→46 失敗
    :SAN(39)→38


中嶋 :血濡れたナイフを見た瞬間、二人は急に背筋が寒くなった。また、丹羽はナイフに付いて
    いるその血は中嶋のものだと直感した。
丹羽 :俺はナイフを見て無意識に呟く。あの中嶋が自傷行為……? 嘘だろ、おい。
遠藤 :……
中嶋 :呆然とする丹羽の横で、遠藤はロー・デーブルの上に空き缶に半ば埋もれている閉じたノ
    ートPCがあることに気づいた。お前は慎重にテーブルに近寄り、空き缶を除けて静かにノ
    ートPCを開いた。他の硝子製品と同様にそれも液晶が割られていたが、右上に青い付箋
    が貼ってあった。そこには中嶋とは思えない乱雑な字で、風窓鏡枝、と書かれていた。
遠藤 :付箋を取って王様に見せます。丹羽さん、これを見て下さい。
丹羽 :風窓さん!? 何でその名前が……!
遠藤 :この人を知っているんですか?
丹羽 :ああ、失踪してるから探して欲しいと娘から依頼を受けてる。中嶋はこの件を調べてたの
    か……
遠藤 :また失踪ですか。なら、このパソコンに詳しい情報が入っているかもしれません。持ち帰っ
    てデータを取り出してみます。


 それを聞いた丹羽はすかさず言った。
「待て、遠藤、それは時間の無駄だ。今回のPC(プレイヤー・キャラクター)は俺達の性格を色濃く反映してる。なら、自分の身に危険が迫ってるとわかってる中嶋がパソコンの様な直ぐ調べられる物に態々データを残したりはしねえ。既に修復不可能なレベルにまで消されてるはずだ。もし、あったとしたら、それは罠だ」
 ふっ、と中嶋が小さく口の端を上げた。
「良くわかっているな、哲ちゃん。今回は随分と効率重視だな」
「ああ、時間勝負だからな。無駄はとことん省かせて貰う。TRPGの中とはいえ、俺はお前を死なせる気はねえからな」

丹羽 :遠藤にこう言うぜ。その必要はねえよ、遠藤さん。多分、そのパソコンは空っぽだ。中嶋が
    俺に残したかったのはその付箋だけだ。
遠藤 :そうなんですか?
丹羽 :俺達は付き合い長いからな。中嶋の考えなんて手に取る様にわかる。これは……相当、
    やばい状況だ。そう言って俺は暗くなりそうな気持ちを誤魔化して窓を開けに行く。
中嶋 :では、丹羽は小さく顔を伏せると、静かに窓辺へ寄った。少し気が滅入ったので、外の風
    が欲しかった。雨が吹き込んでも構わない。文句なら中嶋を救出した後で幾らでも聞いてや
    る。そう思った。しかし、カーテンに手を掛けてお前は驚愕した。窓硝子には新聞紙が隙間
    なく幾重にもテープで張り付けられていた。荒んだ様子の室内といい、最早、中嶋が正気を
    失っているのは誰の目にも明らかだった。
丹羽 :……中嶋……
遠藤 :丹羽さん、急いで啓太の処へ行きましょう。恐らく啓太も中嶋さんと同じ状態になりつつあ
    るはずです。啓太が心配です……!
    (絶対に啓太をこんな目には遭わせない!)
丹羽 :……わかった。啓太の家には郁ちゃんと七条さんが行ってる。啓太の無事を確認したら、
    遠藤さんの知ってることを教えてくれ。
遠藤 :わかりました。俺も色々訊きたいことがあるので、ここはお互い協力していきましょう。
丹羽 :KP(キーパー)、玄関へ向かいがてら寝室を覗く。技能を振らねえ範囲でわかることを教
    えてくれ。
中嶋 :寝室はきちんと整えられ、特に異常な点は見当たらない。
丹羽 :なら、暫く使ってねえな。そのまま、部屋を出るぜ。最後にマンションの外から中嶋の部屋
    を見上げてこう呟く。俺が見つけるまで無事でいろよ、中嶋……!



2019.2.8
中嶋さんが大変なことになっていそうです。
啓太もSAN値が危ないし、
皆、無事に助かると良いな~

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Café Grace
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