「……」
 和希は無言で小さく腕を組んだ。この後、丹羽達と情報を共有するが、自分はまだ『図書館』に成功していなかった。序盤にKP(キーパー)が大量の情報を出している点からしても、警察の資料からしか出ないものがあるに違いない。既に啓太が夢に憑かれている今、情報の取り零しは出来るだけ避けたかった。
(もし、この情報が重要なものだったら、どれだけ時間を無駄にするかわからない。啓太に二晩の徹夜は出来ない。長引けば長引くだけ、こちらが不利になる)
 意を決して和希は中嶋に言った。
「KP(キーパー)、一つ提案があります」
「何だ?」
「俺は資料を自宅に持ち帰ったので、先刻の『図書館』は半分の経過時間で良い補正が付いていました。結果的には失敗しましたが、最初より読む量が減っているのは確かです。だから、それを持ち出して王様達にも『図書館』を振らせて下さい」
「警察の資料を外部に持ち出すなら、『隠す』でロールしろ。初期値は15だから、そう簡単に成功するとは思えないがな」
「昨日はロールなしで持ち出せましたよね」
「……」
 中嶋は不快そうに和希を見やった。
 確かにあれは甘い判断だった。あのときは同じロールを何度も繰り返すと飽きるので、さっさと情報を出してしまいたかった。その僅かな隙をつかれた。
「……良いだろう。お前は未読の資料を持って俺の家へ行ったことにする。これで丹羽達も『図書館』を振ることが出来る。だが、その場合は一時間が経過し、かつ二人以上が成功しなければ情報は出ない。更に啓太は資料を読んだら『アイデア』、場合によってはSAN(正気度)チェックが発生する」
「わかりました」
 和希は小さく頷いた。
(この辺りが互いに落としどころか。啓太には資料を読ませなければ良い)

中嶋 :では、午後一時、俺の部屋を出た丹羽と遠藤は啓太のマンションへと向かった。
丹羽 :その前に郁ちゃんに遠藤とこれから向かうとメールを送る。
遠藤 :王様、どこかで昼食を買って行きませんか? 俺達も合流したら、啓太の家の食料を食べ
    尽くしてしまいます。
丹羽 :そうだな。空腹で補正は付けられたくねえな。手早く買えそうなもの……ハンバーガーで良
    いか。
中嶋 :なら、買い物を済ませたお前達は午後一時四十分、啓太の部屋の前に到着した。入口の
    オートロックは同じマンションに住む遠藤が解除した。丹羽がインターホンを鳴らすと、ソファ
    に座っていた啓太は驚いて飛び上がった。先刻、モニターに映った幼い自分を思い出し、落
    ち着いていた身体が再び震え始める。迎えに出るか、啓太?
伊藤 :いいえ、俺は怖くてそれどころじゃありません。
    (どうして幻覚を見るかはわからないけど、もうモニターには近づかないっ……!)
七条 :なら、僕が出ましょう。モニターに映った丹羽会長と遠藤君を見てドアを開けに行きます。
    そして、僕は口唇に指を押し当てて二人に静かにするよう合図をします。
中嶋 :七条の仕草で異変を察した丹羽と遠藤は黙って室内に入った。これで全員が合流する。
遠藤 :すぐさま啓太に『目星』をします。
丹羽 :俺も振るぜ。
    (相変わらず、啓太のこととなると目の色が変わるな)


遠藤 :目星(85)→01 クリティカル
丹羽 :目星(75)→50 成功


丹羽 :おっ、クリティカルじゃねえか、遠藤。
遠藤 :当然です。
中嶋 :では、遠藤は啓太があの悪夢と幻覚で酷く精神を消耗し、今はとても話が出来る状態では
    ないと気づいた。クリティカル情報はないので、一度だけ任意のロールを自動成功とする。
    丹羽はソファに座る啓太がとても動揺しているとわかった。
遠藤 :直ぐ啓太に駆け寄って顔を覗き込みます。大丈夫か、啓太……?
伊藤 :か、和希……
丹羽 :取り敢えず、俺はロー・テーブルにハンバーガーとポテトを広げてこう言う。まずは冷めな
    い内に食おうぜ。皆、昼飯はまだだろう。飲み物はアイス・コーヒーとアイス・ティがあるから
    好きな方を取ってくれ。
    (冬にアイスはあれだが、ストローで飲めば液面が隠れるから幻覚を見なくて済む)
西園寺:お前にしては気が利くな。では、遠慮なく頂こう。そう言って私はハンバーガーを一つとア
    イス・ティを貰う。本当は温かい紅茶が良いが、先ほどの啓太の反応が気になるので新しく
    淹れるのは控える。
丹羽 :郁ちゃんには期間限定のをやるぜ。好きだろう、そういうの。
西園寺:勝手に判断するな。私は食べたいものを食べているだけだ。限定だから食べる訳ではな
    い。
丹羽 :だが、限定物の何かがよく会計室にあるだろう。やっぱり好きなんじゃねえか。
西園寺:違う。
七条 :郁の場合は限定だからではなく、もの珍しさからの興味で買ってしまうだけです。それと、
    伊藤君が喜びそうだからですね。
丹羽 :限定物は珍しいから買うんぜ。つまり――……
中嶋 :丹羽、いつまでそこに拘るつもりだ。さっさと進めろ。
丹羽 :へいへい……なら、大人しくハンバーガーを食うぜ。
    (中嶋も偶然、目についたとか言って態々買って来るのに郁ちゃんと同じで絶対、認めねえ
    んだよな)
遠藤 :(全く……油断も隙もない。啓太が餌づけされないよう気をつけないと……!)
    俺は啓太の傍に座ります。五人分の椅子はなさそうなので、床で構いません。そして、啓太
    にハンバーガーを渡して優しく言います。啓太、一緒に食べよう。そうしたら、きっと落ち着く
    から。
伊藤 :俺は小さく震えながら、無言で頷きます。
    (俺は普通に限定物、好きだけど……そういえば、あれ、とうとう食べれなかったな……)
七条 :僕はハンバーガーと一緒にポテトも貰います。
丹羽 :暫く食べたところで俺から話を振るぜ。さてと……遠藤さん、啓太の無事を確認したことだ
    し、まずはあんたの知ってることを教えてくれねえか?
    (PL(プレイヤー)情報が多いから、ここは整理を兼ねて少し丁寧にやるか)
遠藤 :わかりました……皆さんはここ最近、失踪者や自殺者が密かに増加していることを知って
    いますか?
西園寺:臣が言っていた噂だな。私はそんなニュースはどのメディアでも見ていないが。
丹羽 :まあ、毎日、一定数は出てるだろうが、報道されるには何かしら事件性がねえとな。
遠藤 :七条さん、いつ、どこでその噂を聞いたんですか?
七条 :聞いたというより、昨日、オカルト掲示板で読みました。皆、失踪直前に同じ悪夢とドッペ
    ルゲンガーを見るそうです。しかも、その話を聞いた人にも同じことが起こるらしいので、か
    なり盛り上がっていますよ。でも、僕自身は見なかったんですよね。
遠藤 :夢の内容は知っていますか?
七条 :(おや、遠藤君は全員、感染させる気ですか。まあ、その方が余計な手間が省けますね)
    断片的ですが……見知らぬ部屋で、大きな青い瞳の怪物が襲ってくるそうです。
遠藤 :成程……俺の持つ資料にも被害者が悪夢に悩まされていた記述がありました。そこで、俺
    は啓太にセラピーを受けに来た人が見た悪夢について尋ねました。啓太は個人情報保護
    の点から名前は出さなかったものの、昨日、聞いたばかりの悪夢の話をしてくれました。内
    容は七条さんのと同じです。そして、その晩、俺達は夢を見ました。
七条 :例の悪夢ですか?
遠藤 :わかりません。ですが、そうだろうと思います。目醒めたとき、冷たい手で肝を掴まれる様
    な恐怖がまだはっきりと残っていたので。
丹羽 :もし、そうなら、この悪夢は見た奴から直に聞くと感染するってことになるな。だから、七条
    さんは見なかったんだ。
七条 :ああ、失敗しました。先にそれがわかっていたら、僕は話さなかったのに……これでこの場
    にいる者、全員が感染してしまいました。
遠藤 :えっ!? それはどういうことですか? 七条さんは直接、夢の話を聞いていませんよね。
西園寺:この夢は音声を媒介にして感染する。つまり、必ずしも対面で聞く必要はない。実はまだ
    お前に話していなかったが、私達が来たとき、なぜか啓太は酷く動揺していた。だから、私
    は一先ず落ち着かせようと、臣にお茶を淹れるよう頼んだ。啓太はそれを飲もうとして突然
    ……ベランダから飛び降りようとした。
遠藤 :なっ……!
七条 :直ぐに僕達で取り押さえました。ですが、そのとき、恐怖に駆られた伊藤君が夢のことを口
    走ったんです。僕達をそれをはっきり聞きました。だから、郁と僕はまだ夢こそ見ていないも
    のの、既に感染していると思われます。
遠藤 :そんなことが……俺も迂闊でした。皆さんを巻き込んでしまい申し訳ありません。
西園寺:それは問題ない。私達はある程度の事情は承知の上でここへ来た。覚悟は出来ている。
七条 :そうですね。寧ろ、僕達がここへ来なかったら伊藤君がどうなっていたかと思うと、その方
    が恐ろしいです。
遠藤 :はい……啓太を止めてくれて有難うございました。啓太、無事で良かった……
伊藤 :う、ん……
丹羽 :何だ。ここにいる奴でまだ感染してなかったのは俺だけだったのか。なら、これで遠慮なく
    夢の話が出来るな。俺は何があっても絶対にこの悪夢の先へ行かなければならねえんだ。
    そこで、多分……中嶋が待ってる。
西園寺:やはり中嶋も失踪していたか。
丹羽 :ああ……部屋を見てきたが、酷い有様だった。真っ暗なリビングに立て籠もって煙草とコー
    ヒーで眠気を紛らわし、それでも駄目なときは暴れたり、ナイフで自分を傷つけてたらしい。
西園寺:妙だな。眠気を払うならば、部屋は明るくするはずだ。
遠藤 :それは恐らく幻覚を見ないためです。俺達は悪夢を見て以来、鏡や水面の奥に現れる幼
    い自分に狙われています。だから、中嶋さんは姿を映す鏡や硝子製品を壊して部屋を暗く
    したんだと思います。俺の持つ資料の中にも、暗い部屋に閉じ籠もった失踪者がいました。
七条 :ドッペルゲンガーとはその幻覚のことだったんですね。
丹羽 :中嶋が缶コーヒーを飲んでたのはそれが理由か。あいつらしくねえと思ってたんだ。
西園寺:眠れば悪夢、起きれば幻覚か……これでは悪夢に憑かれたら、そう長くは持たないな。
遠藤 :俺の情報はこれで総てです。今度は皆さんの知っていることを教えて下さい。風窓鏡枝と
    は何者ですか?
丹羽 :風窓さんは本名は風見京枝というオカルト研究家で、恐らく一連の事件の引き金となった
    人物だ。
西園寺:事の発端は今から一ヶ月前、風窓さんは偶然、立ち寄った骨董店でレンの硝子という古
    物を購入した。店主は異世界を覗ける鏡と言ったが、風窓さんはあまり信じていなかったの
    だろう。私に古鏡としての価値を知るために鑑定を依頼した。しかし、私は予定が合わず、
    直ぐには鑑定出来なかった。
七条 :だから、風窓さんは先にレンの硝子を使ってみることにしたんでしょう。まあ、オカルト研究
    家ですから、いずれは使ったと思いますが。風窓さんは部屋の床に魔法陣を描き、呪文を
    唱え、失踪しました。それが数週間前のことです。
中嶋 :遠藤は『アイデア』を振れ。ここまで聞けば、お前の記憶が揺さぶられるはずだ。啓太は先
    刻の発狂で既に思い出しているので、『アイデア』は省略する。


遠藤 :アイデア(75)→73 成功


遠藤 :問題はこの後ですね。
中嶋 :丹羽達の話を聞いている内に、遠藤は昨夜の夢をはっきり思い出した。1/1D6のSAN
    (正気度)チェックだ。啓太は正気になって改めて恐怖が込み上げ、1D3/1D8のSAN値
    を失う。遠藤、先刻のクリティカルを使うか?
遠藤 :……いえ、まだ温存します。


遠藤 :SAN(39)→78 失敗 1D6→6
    :SAN(39)→33
    :アイデア(75)→17 成功 一時的狂気
伊藤 :SAN(45)→62 失敗 1D8→2
    :SAN(45)→43


 出目を見て中嶋は小さく口の端を上げた。
「さっさと使うべきだったな、遠藤」
「大丈夫です、これは想定内なので」
「ほう?」
「ここには全員が揃っているので、発狂を止める方法は幾らでもあります。それよりも今は重要な情報の取り零しの方が痛いです」
「重要な情報って?」
 コクンと啓太は首を傾げた。和希が優しく教える。
「警察の資料に振る『図書館』だよ」
「あっ、忘れてた」
「俺のダイス運は信じられないからな。先刻のクリティカルは三度目の『図書館』まで温存しておく」
「そっか」
「なら、1D10で狂気内容を決めろ」
 中嶋は静かに先を促した。和希は十面ダイスを振った。
「……9です」
「異常食欲だ」
「……」
 その言葉に、思わず、和希は顔を顰めた。しかし、啓太は逆に胸を撫で下ろした。異常な食欲は狂気としては軽そうな気がした。
「良かったな、和希。目の前にハンバーガーが一杯あるから、それを食べれば良いよ」
「……啓太」
 少し間を置いて、和希は浮かない表情で言った。
「クトゥルフ(CoC)での異常食欲とは量を指すものではないんだ。普通は食べないものを食べたくなる、という意味だよ」
「そうなんだ」
「今、俺はハンバーガーを……肉を、食べている。ここで異常食欲を発症したら、一つしか思いつかない……」
「……何?」
 少し嫌な予感がしたが、啓太は平気な振りをして尋ねた。すると、中嶋が口を挟んだ。
「遠藤、その先はRP(ロール・プレイ)だ」

遠藤 :……では、風窓の話を聞いている内に俺は別の肉が食べたくなります。もっと新鮮で、血
    の滴る様な……人の肉を。
伊藤 :えっ!? えっ!?
    (何、言ってるんだ、和希!?)
遠藤 :(ああ、やはり混乱している。啓太を怖がらせないよう描写は軽くしないと……)
    いつしか俺はハンバーガーより、ハンバーガーを持つ自分の手に意識を向けていました。
    鳥の翼は手が進化したものです。なら、この手羽先も美味しいのかな、と。
伊藤 :て、手羽先……?
遠藤 :俺はハンバーガーの包み紙から零れたソースが付いた掌をゆっくり舌先で舐めると、堪ら
    ず、そこに噛みつきます……ガブッと。
伊藤 :うわっ、和希っ……!
丹羽 :力づくで遠藤の口から手を引き剥がす。
中嶋 :まずはダメージ判定1D3だ。


1D3→1
遠藤 :HP(17)→16


中嶋 :風窓の話を聞いていた遠藤は突然、狂気じみた食欲に駆られて自分の手に噛みついた。
    たちまち口内に広がる鉄さびにも似た濃厚な血の味。それを更に深く味わおうとしたとき、
    丹羽が遠藤の肩と手首を掴んで強引に引き離した。
丹羽 :何、やってるんだ、遠藤さん!
遠藤 :……っ……!
七条 :遠藤君に『医学』を振ります。


七条 :医学(65)→43 成功
遠藤 :HP(16)→17


中嶋 :丹羽を見上げて呆然とする遠藤を七条はすぐさま手当した。幸い、丹羽の制止が早かった
    ので、手の傷は大したことなかった。遠藤はその痛みで正気に戻る。
遠藤 :あ……俺、は……痛っ……!
丹羽 :どうしたんだ? しっかりしてくれ、遠藤さん。
七条 :暫く痛みますが、傷は深くないので大丈夫です。
中嶋 :その光景を間近で見ていた啓太は再び強い恐怖が込み上げてきた。今までの悪夢をはっ
    きり思い出した今、もう黙っていることは出来ない。夢の内容を話せ、啓太。
伊藤 :あっ、はい……なら、俺は頭を抱えて呟きます。こ、殺される……あの人、凄く親切だった
    のに……皆、青い瞳に殺されるんだっ……!
遠藤 :俺の見たものと少し違う……もしかして、啓太、また夢を見たのか!?
伊藤 :う、ん……俺、退屈で……少しうたた寝したら、昨夜の続きを……
丹羽 :待ってくれ。俺達はまだ夢を見てねえ。最初から詳しく聞かせてくれ。
遠藤 :なら、先に俺が見た昨夜の夢を話します。俺は見知らぬ部屋で古い鏡に向かって何かを
    呟いていました。その鏡には何も映っていませんでしたが、深淵を覗き込むと大きな青い瞳
    がありました。それをぼんやり眺めていると、俺に気づいた青い瞳は幾つもの触手を出して
    鏡から飛び出してきたんです。
伊藤 :先刻、俺が見たのはその続きです。外へ逃げた俺は赤いポストにぶつかって転びました。
    そうしたら、近くを通り掛かった人が助けようとしてくれて……でも、丁字路にあるカーブ・ミ
    ラーから、あの青い瞳の触手が伸びてきて……俺の目の前で、その人を……切り、刻んで
    ……だから、俺はまた必死に逃げて……そこで、目が醒めました……凄く、怖かった……
遠藤 :啓太……
丹羽 :成程……どうやらこの悪夢は風窓さんの行動を追体験してる様だな。風窓さんの家の傍
    には赤いポストがあるし、近くの丁字路には鎮魂の花が置いてあった。完全に啓太の見た
    夢と一致してる。
七条 :ええ、残念ながら、総て僕達の推測通りです。この事件はレンの硝子が元凶に間違いあり
    ません。
伊藤 :なら、レンの硝子を見つけて壊すかすれば、俺達はもう夢を見なくなるんですか?
七条 :その可能性は高いですね。こちらとあちらを繋ぐレンの硝子さえ壊せば、青い瞳の怪物は
    出て来れないはずです。急いで風窓さんを探しましょう。悪夢の続きを見れば、きっとわかる
    わかるはずです。
丹羽 :いや、この夢を見続けるのは危険だ。中嶋は夢に抗ってた。多分、最後まで見たら失踪す
    る。
西園寺:ならば、他の失踪者から風窓さんの足取りを追えば良い。彼らも悪夢を見て追体験してい
    るのだから、そこには必ず何か手掛かりがある。遠藤、警察には失踪者の資料があるだろ
    う。戻って調べてきて欲しい。
遠藤 :それなら、ここにあります。俺一人ではとても目を通せないので持って来ました。そう言って
    書類カバンから大量の資料を出します。
丹羽 :何か重そうなカバンを持ってると思ってたが、そんなものが入ってたのか。
西園寺:……警察の資料を外部に見せて良いのか?
遠藤 :勿論、駄目です……が、事は急を要します。なので、これは秘密にお願いします。
丹羽 :よし! 早速、皆で手分けしようぜ。それなら、一時間くらいで読み終わるだろう。
七条 :その前に、丹羽さん、僕を気絶させて下さい。僕はぎりぎりまで夢を追ってみます。
丹羽 :はあ? 本気か、七条さん?
    (まあ、それしか手はねえが、今までの流れからして俺は止めるだろうな)
七条 :はい、それが最も確実な方法です。
丹羽 :ああ……多分、中嶋もそう考えて一人で夢を追ったんだ。風窓さんが原因ということまで突
    き止めてるから、夢の話をしたら相手が感染するのも知ってたはずだ。なのに、失踪直前、
    あいつは俺に電話してきた。その意味がわかるか? 中嶋は他人を道連れにする様な奴
    じゃねえ。あれはあいつの精一杯のSOS……もうどうしようもなかったってことだ。そんな夢
    にあんたを送る手助けをすると思うか? それくらいなら、俺を気絶させろ! 俺が、夢を見
    る!
七条 :駄目です。この夢に憑かれると徐々に正気を失い、自傷行為に走る危険が高くなります。
    武術の心得のある貴方がそうなったら、僕達に止められると思いますか? 先刻の伊藤君
    でさえ、郁と僕の二人がかりでした……絶対に無理です。
丹羽 :それは、そうかもしれねえ……けど、俺は安全圏にいろって言われて素直に納得出来ねえ
    だろうが!
七条 :安全圏などありません。時間が経てば経つほど、僕達は睡魔に抗えなくなり、思考力が落
    ちてゆきます。だから、まだ余裕のある内に出来るだけ多く情報を集めなければなりませ
    ん。それにはこれが最も効率的な方法なんです。
西園寺:臣の言う通りだ、丹羽。私達に残された時間は少ない。お前は何があっても絶対にこの悪
    夢の先へ行かなければならないのだろう。ならば、つまらない矜持(プライド)は捨てろ。そ
    の程度の覚悟で中嶋は助けられない。
丹羽 :……っ……わかった。その方法でいこう……七条さん、恩に着る。
七条 :その必要はありません。僕はオカルト作家です。噂の悪夢を見る絶好の機会をみすみす
    逃す気がないだけです。
丹羽 :そうか……まあ、そういうことにしておくぜ。
七条 :では、僕は悪夢から風窓さんの足取りを辿ります。現在、夢が最も進行しているのは伊藤
    君ですが、先刻の状態を考えると、これ以上の夢見は危険です。伊藤君は、もう絶対に寝
    ないで下さいね。
伊藤 :ううっ……頑張り、ます……
遠藤 :啓太、一晩だけだから。一晩だけ我慢して。ねっ、啓太。
伊藤 :うん……
    (俺、まだ徹夜したことないのに……絶対、途中で寝落ちする……)
七条 :丹羽さん、僕が気絶して二十分したら起こして、また気絶させて下さい。それで三回、悪夢
    が見れます。
丹羽 :了解、と俺は頷いて……KP(キーパー)、二十分ごとに『組みつき』で七条を絞め落とす。
西園寺:その間に私達は『図書館』を振る。
遠藤 :俺はここで先刻のクリティカルを使います。啓太は自分に『精神分析』をしてSAN値を少し
    でも回復させて。
伊藤 :わかった。
中嶋 :ロールが多いので、描写は後にして先に処理をする。丹羽は『組みつき』に成功したらノッ
    クアウトとみなし、七条は1のダメージを受けて気絶する。失敗なら、一度目の窒息判定だ。
    三回分、続けて振れ。
丹羽 :了解。


丹羽 :組みつき(65)→14 成功
七条 :HP(14)→13
丹羽 :組みつき(65)→12 成功
七条 :HP(13)→12
丹羽 :組みつき(65)→78 失敗
七条 :CON(66)→12 成功


丹羽 :うおっ、危ねえ。
七条 :僕は抵抗しないので、再度、『組みつき』をお願いします。
中嶋 :丹羽はロールしろ。失敗したら、二度目の窒息判定だ。
丹羽 :女神様っ……!


丹羽 :組みつき(65)→23 成功
七条 :HP(12)→11


丹羽 :よし!
中嶋 :啓太と七条以外は『図書館』だ。これは二人以上が成功しないと情報は出ないが、遠藤は
    自動成功なので、あと一人で良い。
丹羽 :頼むぜ、郁ちゃん。俺は初期値だ。
西園寺:ふっ、問題ない。


丹羽 :図書館(25)→84 失敗
西園寺:図書館(85)→09 成功
遠藤 :図書館(65)→   自動成功


遠藤 :はあ……やっとこの情報が聞けます。
中嶋 :啓太、『精神分析』をしろ。本来、自分に『精神分析』は出来ないが、俺達の卓はハウス・ル
    ールで可能にしている。成功したら、1D3のSAN値が回復する。
伊藤 :わかりました。


伊藤 :精神分析(88)→47 成功 1D3→3
    :SAN(43)→46


「ふう、良かった」
 最大値を引いて啓太は少し胸を撫で下ろした。それを中嶋は視界の隅でじっと見つめた。
(情報さえ取り零さなければ、これは一本道のシナリオだ。総て順調に進んでいる……早く俺の処まで来い、啓太……)
 密かな企みを胸に、中嶋はゆっくりコーヒーに手を伸ばした。



2019.3.16
『図書館』が成功して本当に良かった。
ここで失敗したら、
もう間に合わないかもしれないと本当に焦りました。

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Café Grace
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